幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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#10 プラネテューヌへ

 あれから、お姉ちゃんを手伝ったり、イオンを連れて一緒にクエストをこなしたりの生活を続けて、どうにかルウィーを復興させることができた。

 途中、お姉ちゃんが「ここは一発、逆転ハードを出すしかねえ!」とか言い出して赤いアレを発売し出した時は早くも女神辞めようかと思ったけどね。せっかく盛り返してきたのに爆死ハード出しちゃうんだもん……止められなかったわたしも悪いけどさ。

 

 そんなわけで国の状況がひと段落したところで、お姉ちゃんがまたプルルートさんに会いに行きたがってたもんだから、お姉ちゃんとわたしとイオンでプラネテューヌに来ていた。

 ちなみにわたしの姿はいつも通り魔法を使った姿。というか普段も基本的にこの姿のまま過ごしているわ。

 変身したらいつもの姿になるとはいえ、やっぱ幼女すぎると嘗められるからね、こういうのはちゃんとしとかないと。

 

 ……まぁ、イオンとかお姉ちゃんの視線が刺さるんだけどね。お姉ちゃんからは特に胸のあたりに。わたしだってお姉ちゃんよりちょっとある程度だっての。

 

「お姉ちゃんって、プルルートさんの事好きなの?」

「ぶッ!! い、いきなり何を言い出すのかしら……?」

「んや、なんとなく……うん? あそこにいるのって……」

 

 プラネテューヌ(こっち)に来てから妙に上機嫌なお姉ちゃんにそう聞いたりしながら歩いていると、道端で大声を出している見覚えのある顔が。

 お姉ちゃんも気付いたみたいで、すっといつものクールな顔に戻った。早業ね……

 

「……道の真ん中で大声出して、みっともないわね」

「エストちゃんエストちゃん、大声ってさっきブランさんも出してなかった?」

「しっ、イオン。そういうのは言わないのがお約束よ」

「おい」

 

 イオンの何気ない疑問に答えているとキラーンとお姉ちゃんの鋭い眼光が! 

 怖い怖い。

 

「あれ? ブランにエストちゃん、イオンちゃんまで。きぐーだね」

「……む。どうしてルウィーの女神様方がこんな所にいるのかしら」

 

 ネプテューヌさんはいつも通り友好的。ノワールさんは露骨に嫌そうな顔。そんな顔したいのはこっちの方だっての。

 ネプテューヌちゃんは同じ次元から来たってのもあるし、そこそこ仲良しだからいいんだけど、こっちのノワールさん苦手なのよね……

 

「……いい加減、名前で呼ぶようにしてくれないかしら。ラステイションの新米女神さん」

 

 メラメラ。

 バチバチ。

 

「おおお、火花だ。二人の間に火花が散っている……」

「火花? どこどこ?」

「比喩表現よイオン」

 

 一緒にいて結構経つけどイオンは本当に純粋ね……そのままでいてほしいものだわ。

 

「そ、それでどーしたの? プラネテューヌになんか用事?」

「ああうん、お姉ちゃんがプルルートさんに会いに来たいって言うから。今日はわたしとイオンも付き添いよ」

「あー。ブランってあれから本当にちょくちょく遊びに来てるもんね。はー、こっちの世界じゃノワールだけじゃなくってブランまでぷるるんにらぶらぶかー」

「べ、別にらぶらぶとかそういうのじゃ……」

 

 確かにネプテューヌちゃんの言う通り、お姉ちゃんは言わずもがなだし、ノワールさんも話によるとプルルートさんの事よく構ってるっぽいし。人気なのねぇ、プルルートさん。

 

「……あ! そうだ!」

「わっ! な、なによ急に」

「いやーエストちゃんに言っておこうって思ってたことがあったのを思い出してさー」

 

 お姉ちゃんとノワールさんがいつも通り口論し始めてるのを横目で見ながら、ネプテューヌさんがそんなことを言いだした。あっちにかかわるとわたしまでストレスになっちゃうからね、頑張れお姉ちゃん! 

 それはさておき、なんだろ。ネプテューヌさんにしては珍しく、ちょっと真面目っぽい雰囲気だけど。

 

「大分前になるんだけど、ラステイションで七賢人の一人と戦った時、ディールちゃんっぽい女の子がいたんだ」

「っ、ディーちゃん!?」

 

 その内容はわたしにとって聞き逃せないものだった。

 

「うん……ただ、喋り方とか雰囲気が違ったから、絶対そう! とは言い切れないんだけど……」

「……そっか」

 

 ただそれ以上の情報はなくて、ネプテューヌちゃんから伝えられたのは『ディーちゃんっぽい女の子』『雰囲気や話し方が違う』だけだった。

 それでも、ディーちゃん関連は七賢人(あいつら)がかかわってる可能性がかなり高くなった。

 

「ごめんね、微妙な情報だけで」

「ううん、いいのよ。ありがと、ネプテューヌちゃん」

 

 七賢人が重要ってのがほぼ確定しただけでも進歩だ。素直に感謝しかない。

 ……と、いつまでもこんなところで立ち話してるのもあれよね。

 

「お姉ちゃんー、そんなのの煽りなんかいちいち相手してたら日が暮れちゃうわよ、はやく行きましょ」

「うるせえ! ここまでコケにされて黙ってられるか!」

 

 あーあー、お姉ちゃんかなり頭に来ちゃってるよ。もー、めんどくさいなぁ……

 

「……()()()()っていうのは聞き捨てならないわね、お子様女神さん」

「そうやって見た目で判断してる時点でたかが知れてるのよ。そりゃ、国の経営、シェア競争じゃあんたのが上かもしれないけど、性格は最悪なの自覚してる?」

「……なんですって?」

「すぐ他人を見下してるようじゃ、いつか足元掬われるわよ」

「この、黙っていれば好き放題言ってくれるじゃない! いいわ、そこの女神より先に礼儀ってものを教えてあげる!」

 

 ……あ、悪いところ指摘してあげたつもりが火に油だった? 失敗失敗。てへぺろ。

 で、なんかあっちはやる気満々だけど、こっちが乗っかるとでも思ってるのかしら? 

なぁに? 斬っていいの? 

「なんであんたなんかにそんなこと教わんなきゃいけないのよ。そもそもここ町中だし、そんなのやるだけ時間の無駄よ」

「へぇ、逃げるのかしら?」

「あのねぇ──」

 

 ここまでくると逆にすごいわね、なんでここまで人を不快にさせられるのかしら。

 見た目だけは同じだからあんまりこういう態度取りたくないんだけど……

斬る? 斬る? 

「──自分を対等か格上だとでも思ってんの?」

「っ!?」

「あんたとは踏んで来た場数が圧倒的に違うのよ。一人でお姉ちゃんに挑んですらない癖に、調子に乗んないでよ」

 

 周りに人がいるから抑え気味に、けど()()()()()()()()()()()()という気持ちを乗せてぶつけてやる。

 流石にこんなんで治るとは思わないけど、毎度毎度ルウィーとかお姉ちゃんを貶されるのは流石のわたしだって腹が立つのよ? 

 

 

 ──ああ、痛い目見てないから調子に乗るのか。

 そうよね、生き物は痛くなきゃ覚えないものね。

 

それなら腕の一本くらい斬ってあげれば少しは弁えるかな? 

 

 

「もーっ! エストちゃんが余計にややこしくしてどーするの!」

「うぐっ」

 

 べしっ、と鋭い打撃が後頭部に。

 振り返ってみればイオンがぷんすかと怒った様子でこっちを見ていた。

 

「エストちゃんがあの黒い人の事嫌いなのは知ってるけど、エストちゃんまで怒っちゃダメ! 嫌いでも仲良くして!」

「そんな無茶言わないでよ……」

「言うもん! 黒い人もそういうのよくないよ! 友達できないよ!」

「ぐふっ!?」

「ああっ! イオンちゃんの純粋な一言がノワールに突き刺さったー!」

 

 ノワールさん相手でも遠慮なしにお叱りの言葉をぶつけるイオンを見て、大分頭が冷えてきた。

 

 ううん、ダメね。最近ムカっとするとすぐ斬りたくなるような気がするわ。

 ……そういえば、最近()()()が静かな気がするけど……

 

「まぁでもイオンちゃんの言う通りだよ。こんなとこでケンカしてたら、ぷるるんに見つかっちゃうよ? 知らないよー、ドSぷるるんに怒られても」

「びくっ!」「ぎくっ!」

「お、止まった。絶大なり、ぷるるん効果」

 

 わたしがイオンに叱られて反省している間に、ネプテューヌちゃんの言葉でお姉ちゃんとノワールさんも大人しくなる。

 プルルートさんねぇ、確かにあの苛烈さは相手したいとは思えないかもね。

 

「……ま、まぁ、今日のところは見逃してあげるわ。あなたと争いに来たわけじゃないし……」

「そ、そうね。あなたを倒すなんて、別にいつでもできるものね」

「むーっ。ちゃんとゴメンナサイしなきゃ、ボクがプルルートさんに言っちゃうから!」

「「ゴメンナサイ!」」

 

 おお、本当にすごいわねプルルートさん効果。

 

「あ、ほら、もうすぐ教会だし、イオンちゃんの言う通り仲良く。ね!」

 

 そう言ったネプテューヌちゃんの言葉にまだ微妙に不満そうな二人だったけど、イオンがにこーっと笑いかけるとこくこくと頷いて答えるのだった。

 

 

 


 

 

 

 で、プラネテューヌ教会にお邪魔しに来たわけだけど。

 なんか赤ん坊が三人程、プルルートさんの周りにいた。

 

 慌てる女神三人。呑気に「ふぉっ、かわいい~」とか言ってるイオン。

 うーん流石ネプテューヌちゃん、騒動には事欠かないわね。っていうかこの赤ん坊の内二人、なんか見覚えあるんだけど。

 

「まったく、女神がそろって何バカな事話してるんですか(・ω・;)」

「あ、いーすん! だってだって、これって大事件だよ!」

「そうよ! どうして事前に教えてくれなかったの!?」

「本来なら祝福するべきことだけど……素直には喜べないわ……」

「だからぁ、違うってばぁ~」

 

 ああ、ダメねこいつら。完全に思考が混乱してる。

 

「はぁ……ネプテューヌさんにはきちんと説明したはずなのですが? (゜Д゜lll)」

「っていうか三人ともプルルートさんっぽい要素ないしね。えーっと子供関連となると……確か子供の行方不明事件が起きてたわよね。それ関係?」

「はい、それです。ルウィー新人女神のエストさんはしっかり者ですね(^▽^)」

 

 ルウィーで女神のお仕事をしてた時に、なんかそんな感じの事件が最近起こってるってのを目にした覚えがあったけど、当たってたみたい。

 

「エストさんが仰った通り、以前から発生している子供の行方不明事件への対応として、教会を一時的に託児所にするという話ですね。ネプテューヌさんにはお伝えしたはずですよ?」

「え? ……そう言われれば聞いたことがあるような気が……それじゃこの子達はぷるるんの子じゃないってこと?」

「そぉだよ~。あたし、男の子と手をつないだこともないのにぃ~」

「ネプテューヌさんはまだしも、ノワールさんとブランさんまで勘違いをなさるなんて……(・.・;)」

「うっ。わ、私は最初から分かっていたわよ。ただネプテューヌに乗っかってあげただけで!」

「苦しい言い訳ね……」

 

 そんなわけでここにいるメンバーでプラネテューヌに託児された子供──内二人は思った通りの名前──こと、アイエフ、コンパ、ピーシェのお世話をすることになった。

 お姉ちゃんとノワールさんは乗り気じゃなかったけど、プルルートさんが子供の相手してるとたまにイラっとすると零したらすぐ手のひらを返した。

 まぁこの場合はプルルートさんの変身姿を子供に見せたくないって理由だろうけど。あんなの見せたらトラウマになりそう。

 

 さて、赤子三人のお世話だけど、案の定というかなんというか、ノワールさんとお姉ちゃんはあまり得意そうじゃなかった。わたしも人の事言えないけど。

 対照的に、イオンとプルルートさんは楽しそうに子供の相手をしていた。中でもネプテューヌさんは三人から大人気だったわね。

 うーん、主人公力? 

 

「ぜぇはぁ……つ、つかれた……」

「みんなぁ、おつかれさまぁ~」

「なんであなたは全然平気そうなのよ……」

 

 とまあそんなこんなでドタバタな子供のお世話は三人が疲れて眠ったことで終わりを告げた。

 

「くぅ……にぇぷこー……」

「にぇふにぇふぅー……すや……」

「ぐぅ……むにゃ……ねぷてぬー、ねぷてぬー……」

「大人気ねぇ、ネプテューヌちゃん」

「あはは……こーやって寝ててくれればかわいいんだけどねー……」

 

 ネプテューヌさんも疲労困憊。なんかこの人こっち来てから不憫キャラにでもなったのかしら? 

 

「みんなあなたの夢を見てるのね。どうしてネプテューヌだけやたらと懐かれてたのかしら」

「なんでだろねー? ネプテューヌちゃん話してて楽しいからじゃないかな?」

「「「(頭の中身が子供と同じ……?)」」」

「なんかすっごい失礼な事思われない? 気のせい?」

 

 ネプテューヌちゃんのジト目はスルーして、そういえばイオンのネプテューヌちゃんの呼び方変わったかしら? 一緒にお世話してて仲良くなったのかしら。

 

「ねぷちゃんいいなぁ~。あたしの方が先にお世話してたのに~……」

「はあ、わたしもすっかりHP0だよ。一晩寝て回復しないとー……」

 

 寝かしつけた子供達を起こさないようにと、遊んでいた部屋から出て別の部屋で休もう、という流れになった時だった。

 

「たた、大変です! ネプテューヌさん、大変です! Σ(゜Д゜lll)」

 

 イストワールさんが慌てた様子で飛んできた。

 そういえばさっきも思ったけど、こっちのイストワールさんなんか小さいのよね。台詞に顔文字もついてるし。

 とと、そうじゃなくて……何かあったのかしら。

 

「その慌てようだと本当に一大事みたいね。ネプテューヌ、真面目に聞きなさいよ」

「むー、分かったよ。一体どーしたの?」

「ええと……悪い報せと、もっと悪い報せの二つがあるのですが……( ̄□ ̄;)」

「うわぁひどい。悪い報せしかないわ」

 

 こういうのって普通は良い報せと悪い報せってパターンのなのにね。

 

「どっちも悪いならちょっと悪い方からの方がよさそー?」

「んー、そうだねぇ。じゃあ普通の悪い方からおねがい~」

「悪い方は、皆さんにも関係のある話です」

 

 イオンとプルルートさんによって選ばれた『悪い報せ』。それはネプテューヌちゃん以外にも関係がある話らしく、

 それを聞いたノワールさんとお姉ちゃんの表情も真剣なものになる。

 

「つい先程、この大陸の三つの国全てに対して宣戦布告のようなものが……(・ω・;)」

「宣戦布告……? 穏やかじゃないわね」

「何か困ったことになってるみたいね──」

「詳しく聞かせてもらえるかしら?」

「あなた達真面目に話聞く気ある?」

 

 お姉ちゃんがそれっぽい事言うからつい乗っかってたらノワールさんに怒られた。

 てへっ。

 

「厳密には違いまして、なんと言いますか……宣戦布告をしたいから、一度自分の国まで来てほしい、といった旨の連絡がありまして」

「自分の国、ね。一体どこから? この大陸に新しい国ができたなんて聞いてないから、当然……」

「はい。海を隔てた先にある国で、リーンボックスという名前だそうです」

「「ああー……」」

 

 話の途中からだんだんそんな気がしてたわ。ネプテューヌちゃんも同じみたい。

 じゃあやっぱあの時遭遇したあの槍使いはベールさんよね、多分。

 

「ねぷちゃん、エストちゃん、知ってるの~?」

「んー、知ってるけど知らないことにしとこっかな。ほら、名前知っててもこっちの次元とわたしの次元じゃ違ったりとかあるかもしれないし」

「おお、ネプテューヌちゃんなのになんかそれっぽい事を」

「まぁこれでも主人公ですから! ……あれ? 今バカにされてた?」

「それでイストワールさん、もっと悪い方っていうのは?」

「スルー!?」

 

 何度もボケてたらお話が進まないからね。仕方ない仕方ない。

 自分から振ったんでしょって? 知らない知らない。えへへへ。

 じゃなくて、一応真面目っぽい話だから切り替えて切り替えて。

 

「……向こうのわたしから連絡がありまして。今も保留状態でお待ちいただいてるんですけど──」

 

 

 そしてイストワールさんから告げられたのは、ネプテューヌちゃん的には確かに悪いかもしれない報せだった。

 

 

「──ネプテューヌさんが、向こうの世界に帰る手筈が整ったと……」


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