幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
ウェ!? ウソダコンナコトー!!
ごめんなさいでしたー!!
「ルウィーの女神候補生……じゃとお!?」
「エスト、あなた……」
大臣と、イオンを除いたお姉ちゃんを含めたみんなが驚く中、わたしはホワイトシスターとして女神化した。
流石に成長魔法は切れちゃったのか、見下ろした身体つきは見慣れたちんちくりんっぷり。
「ほら、
「え? で、でも、わたしは……」
「もうできる筈よ! だってわたしはルウィーの女神候補生になったんだから、そのわたしがイオンの信仰で変身できて、お姉ちゃんができないハズないでしょ!」
「……! 確かに、力が少しだけ……これなら……!」
イオン一人分でも信仰は信仰。それがお姉ちゃんにも伝わったみたいで、力を感じ取ったお姉ちゃんも続けて女神化する。
「できた……変身、できたぜ!」
「な、なんじゃとぅ!? ホワイトハートまで!?」
「エストちゃんってばぁ、大胆ねぇ」
「ほんとにねー、どこに隠し持ってたかしらないけど、この土壇場で女神メモリーを使って女神になるなんて」
プルルートさんとノワールさんがなんか言ってるけど気にしない。一人分でも力は力よ!
「は、ははは……ははははははは! これで一切遠慮なく、てめーをぶん殴れるぜ!」
「まったく、世話が焼けるんだから」
「さて、一人は候補生と名乗っているけれど、これでこっちは女神が五人ね?」
「ふふ、こっちのブランちゃんもかわいい……エストちゃんもいいわねぇ……」
……今なんか寒気がしたけど、とにかくこれで戦力は十分でしょ!
っと、その前に……
「イオン、ごめんね? メンドーなことになっちゃって」
「ううん、平気! っていうかもう女神だって聞かされてたから、新しい女神? になっても変わんないよ?」
「そっか、そうね。ほんとにありがと」
「? どういたしましてー?」
イオンの周りの幽霊からは嫌われそうな気もするけど、イオンがそう言ってくれるなら良い、かな。
……我ながら、だいぶ信頼しちゃってるなぁ、この子の事。
「ぐぬぅ……よもやこのような事態になろうとは……だが、これは逆に好機。女神五人をまとめて葬り去ってやれば、全ての国がわしの手中に……!」
「できもしねーこと口にしてんじゃねーぞ」
「それはどうかのう。わしには切り札がある……ルウィーの国家予算を横流しして作った、究極のパワードスーツがなあ!!」
「な、なんだと!?」
……えぇ。
横流しって、えぇー……。
「……あなた、国家予算まで使い込まれてたの?」
「流石に管理が杜撰すぎるわね」
「お姉ちゃん……」
「う、うるせーな! 今はんなこと、どーでもいーだろ!」
どうでもよくないと思うけどなぁ……まぁいいや、何はともあれパワードスーツっていうくらいだからなんか強そうな感じなのが出てくると
「ぐふふふふ……女神共め。わしの真の力、思い知るがいい!」
…………。
「だっさ」
「うわー。見てよふーちゃん、あのおっさん丸見えだよ。あそこに噛みついちゃえばそのまま倒せそう!」
「少しは慈悲というものが無いのか!? ゲーム的にもそんなのダメじゃダメじゃ!」
「「いや、これ小説だし」」
「そういう問題ではなああい!!」
はっ、あまりにもダサい上に操縦者の安全が皆無なデザインだったものだからイオンと一緒になってボケちゃったわ。
気を取り直して、と……
「はん。んなだっせースーツ、粉々に砕いてやんぜ! わたしを本気で怒らせたこと、あの世で後悔しやがれ!」
「殺してはダメよ? この男には、色々喋ってもらわないといけないのだから」
「そーね。わたしも個人的に色々聞きたいことがあるし、殺るとしても半殺しで!」
「……姉妹? 揃って物騒ね、ルウィーの女神は」
「やっと始まるのねぇ……それじゃネズミさん、カメラよろしくぅ」
「らじゃっちゅ!」
プルルートさんがネズミにカメラの指示飛ばして、戦闘開始。
さて、このダッサいパワードスーツだけど……ぶっちゃけやっぱむき出しの本体を死なない程度に痛めつけた方が早い気がするんだけど……カメラ映り的に残虐すぎるのはダメ? そっかぁ。
ならスーツの方をぶっ壊す感じになるわけだけど、わたしとお姉ちゃんは信仰力がイオン一人分しかないから他の女神と比べると大分弱い。
でも、それでもわたしとお姉ちゃんが頑張らないといけない。これはルウィーを取り戻すための戦いなんだから。
「むぅ。切り札を切ったとはいえ、流石に分が悪いか。であれば……者ども! であえ、であえい!」
と、流石に数の不利だと判断したのか、大臣が時代劇見たいなことを言い始める。
するとルウィーの兵士と思われる人達が何人かやってきて、こちらへと武器を構えてきた。
「んー、お姉ちゃんに迷いなく武器を向けるってことは……端からルウィー兵じゃなくてあいつの手下な連中かしら」
「でしょうね。……そうね、エストちゃん。雑魚は私達が請け負うわ」
「ちょっとネプテューヌ! 何勝手な事……」
「ノワール、忘れたの? この戦いはルウィーの女神があいつを倒さないと意味がないってこと」
「ぐっ、ああもう! だけどあなた達じゃ心もとないし、プルルート! あなたもルウィーの女神の方に行きなさいよ!」
「はぁい。ということだからぁ……ブランちゃん、エストちゃん、よろしくねぇ……♪」
「お、おう……」
ネプテューヌちゃんがノワールさんとルウィー兵の相手をするみたいで、わたしとお姉ちゃんはプルルートさんと大臣に集中する形になったみたい。別の意味で不安だけど。
「イオンは今回支援を頼むわね、ネプテューヌちゃん! イオンにケガさせないようにしてよ!」
「はーいっ。回復と支援はボクに任せて!」
「ええ、しっかり守るから安心して頂戴」
念のためにネプテューヌちゃんに釘を刺しておく。
イオンも戦えるとはいえ、この中だと一番の支援型なのは間違いないからね。
さて。
まぁ。
それじゃあ。
「ぶっ潰してやる!」
「壊れるまで遊んでよね!」
「たっぷり可愛がってあげる!」
「……あれ、わしこれ本当に死ぬやつではなかろうか」
左手の杖に氷の刃を纏わせ大剣に、右手には氷の剣を手にして飛翔する。
「オラァ!! 喰らいやがれ!」
「ぬおおっ! なんの、これしき……」
お姉ちゃんの戦斧が振るわれて、大臣がパワードスーツの腕で防ぐ。既に機械の軋む音が聞こえてくる。
「あっははは! ほらほらぁ!」
「おおおっ!? 鞭のような剣のどこにこれほどの威力がっ!?」
プルルートさんの蛇腹剣が鞭のようにしなり、パワードスーツを打ち据えるように切りつけていく。
一番軽そうに見える攻撃にも関わらず、スーツに傷がついていく。
「わたしとも遊んで、よッ!!」
「ああッ! わしのパワードスーツの頭が、叩き割られるっ!?」
大臣の頭、ではなくパワードスーツの頭部に氷の大剣を振り下ろす。
一撃目で既に変な顔が歪んだ。
「オラオラァ!!」
「ほらほらぁ!!」
「それそれぇ!!」
「ひいぃぃ!!!」
粉砕され、切り刻まれ、叩き斬られ。
みるみる内に大臣の装備したパワードスーツの形が歪んでいくそれは、後になって思い返せば"戦い"なんかでは到底無くて、一方的な"蹂躙"でしかなかった。
大臣は既に、泣いていた。
後でイオンに聞けば「ボクから見てもイジメだったよ」と苦笑いで答えられた。
ネプテューヌちゃんすら引いていた。
……あれ、これわたし、こっちのルウィー女神になる必要、あったかな?
「……えー、急なことで驚いた人が殆どだと思うわ。……わたしも冷静になってから驚いてるけど……ええと、はい、この度ルウィーにて新たに誕生した、女神候補生のホワイトシスターよ」
わたしは今、カメラに向かって自分の事を話している。
勢いで、かつ候補生とはいえこの国の新しい女神となった、その挨拶と軽い説明。
後がつかえてるからね。
「『候補生』とか『シスター』って何よ、って思う人が殆どだと思うけど、ようはお姉ちゃん……女神ホワイトハートの補佐とかそういう感じだと思ってくれればいいわ」
世間への周知としては今言った通りの認識で覚えてもらおうって魂胆なわけだけど、実際の所わたしじゃどうあっても『守護女神』にはなれないんだと思う。『女神候補生』のまま女神としての責務を投げだしたんだしね。レッドハードだの名乗ってた時期はあったけどそれはそれ。
「ホワイトハートがあんな姿晒したのに、って思う人は大勢いると思うわ。でも、そんなホワイトハートから皆に伝えることかあるの。……ただ」
戦ってた場面は映してて放送もしてたから今更こんな事するのもって気もあるけど、流石にアレを移す前に注意喚起はして起きたいし……
カメラからはわたしで隠れるようになっている背後をちらりと見つつ、カメラに向き直る。
カメラマンのネズミなんかは既に震えちゃってる。
「これから映す場面はちょっと刺激が強いものになるから、小さい子とかには見せないようにしてよね。注意はしたからあとは自己責任よ? それじゃ……カメラさん、あっち移して」
「わ、わかったっちゅ……」
一言注意するように告げて、わたしは横に退いてカメラに
そうしてカメラに映されたのは──
「すびばぜんでしたああああ! わしが悪うございましたあああ!」
「声が小せー! もう一回だ!」
「ひぃ! やめて! 大きい音立てないで!」
「あはははは! 生意気に人間の言葉なんて使ってぇ……豚は豚らしく鳴いてればいいのよぉ!」
「あっ、やめっ、つま先でちくちくつっつくのは……も、もう勘弁してくださあああい!」
こちらのカメラに向けて土下座をする大臣ことアクダイジーン。
そんな彼を横から罵倒し、追い打ちをかけるキレたお姉ちゃんとプルルートさん。
哀れね……いや、相手が悪かったというか……
「ええと……先程のバトル後の放送通り、この一連の騒動は七賢人って奴らの企みだったわけで……アレを見ると力ずくで言わせてるようにも見えるけど、事実であることはこちらの二人も証人となります」
「あー、はい。プラネテューヌの女神のネプテューヌだよー」
「ラステイションの女神ノワールです。えーと……はい。この情報は私達が事実であることを確認しております」
変身を解いたネプテューヌさんとノワールさんも解説として参加して、情報の信憑性を強いものであると証明する。
そうすればじわりじわりと身体に力が漲ってくる感覚……ルウィーの信仰が回復している証拠ね。
「……ねえ、今更だけどこれ、本当に流しちゃってよかったの?」
「どーだろーね……」
「ま、まぁ信仰は戻ってきてるから……」
「ブランさんこわい……プルルートさんこわい……」
カメラのマイクに音声を拾われないように小声で話しながら、アクダイジーン達を見守る。
「ね、ネズミ! もうカメラを止めてくれ! 武士の情けじゃああ!」
「そんなことをしたらどうなるか……うふふふ♪」
「ぢゅ! おいらはプルルート様の忠実なしもべっちゅ!」
ネズミはもう完全にプルルートさんの言いなりだ。哀れすぎる。
「はい、お利口さぁん。それに比べてこっちの豚はぁ……!」
「あああ! やめて! 髪の毛を一本一本抜くのはやめて! 地味に痛い!」
「ふん、これくらいにしといてやるか。ったく、こんなやろーにいいように踊らされてたなんて、我ながら情けねーぜ……」
「や、やっと終わるんですか? 助かった……」
漸く満足したのか、クールダウンした様子のお姉ちゃんがこっちにやってくる。
それを見て終わるんだと安堵するアクダイジーンだったけど……
「あらぁ、ブランちゃんはもういいの? それじゃ、あとはあたし一人でじっくりぃ……♪」
「ひいいいいいい!!」
「本当に哀れね……」
「ね、ねえエストちゃん、これもう強引にでも締めちゃった方がいいんじゃない?」
「そ、そうね。これ以上は放送的にもヤバそうよ」
「わ、わかったわ。ええと……」
今の時点で変身したプルルートさんが相当ヤバい奴ってのはわかるけど、わたしよりも彼女を知る二人からそんな風に言われれば従う他ない。
カメラの前にすっと立ち、締めの言葉に入る。
「……それでは緊急生放送! ルウィー女神候補誕生会見及び七賢人の謝罪会見を終了するわ!」
「おいテレビの前のてめーら! 二度とわたしへの信仰をやめようとか思うんじゃねーぞ! そん時はこいつと同じ目に遭わせてやるからな!!」
「おねええちゃぁぁん! 信者の人を脅すようなこと言わないでよ!? あー、今後ともルウィーをよろしくね!!」
物騒な事を言い出すお姉ちゃんを押しのけつつ、こうして生放送は終わりを告げた。
「そぉれ、そぉれ、そぉぉれ!!!」
「だ、誰か助けてええええ!!!」
背後から歓喜と悲鳴が聞こえてくるのはもう気にしないことにした。
それからはお姉ちゃんがノワールさん以外にお礼を言ったり、ノワールさんとまた喧嘩したり、プルルートさんにお姉ちゃんがデレたりして。
ネプテューヌさん達三人は自分の国へと帰っていった。
わたしとイオン……と言うより主にわたしは、勢いでとはいえルウィー国所属の女神候補生になっちゃった訳だから、お姉ちゃんと一緒にルウィーの立て直し。……なんだけど、その前に。
ルウィー城内のお姉ちゃんの部屋で、わたしはお姉ちゃんと向き合うように座っていた。イオンは別室で待機中。
と言うのも、諸々の説明をすべきだと思ったから。お姉ちゃんの方も聞きたいこと話したいことがある様子だったし。
「……なるほど。あなたはネプテューヌと同じ次元から、姉を探しに来ていた、と」
「うん。そうやって探してる内に七賢人が怪しいと思って色々探ってたんだけど、今のところはさっぱり。あのおっさんも知らなかったみたいだし」
「……そう」
結局、アクダイジーンからはわたしにとって有益な情報は得られなかった。
それでも奴らが怪しい事には変わりはないんだけどね。どうにも一枚岩じゃなさそうだし。
「それはわかったわ。けど、だとしたらどうして女神メモリーを……? 今回の件で完全に目を付けられてしまったでしょうに」
「それは……そうなんだろうけど」
更に痛いのはこれ。今回の騒動でよりにもよってこっちの次元の国所属の女神になってしまったことで、こそこそするのがかなり難しくなった。
こればっかりは自業自得としか言えないんだけど、だからといって、ねぇ?
「……お姉ちゃんからしたら迷惑だったかもしれないけど、別次元で、赤の他人だったとしても、お姉ちゃんはお姉ちゃんだから。……お姉ちゃんが傷ついたりするのを黙って見てられなかっただけ」
お姉ちゃんは、お姉ちゃん。
服装が違ったり、少し性格が違うように見えたり、お互いに面識がほとんど無かったとしても、お姉ちゃんはお姉ちゃんなんだ。
だから目の前であんな顔されたら、黙ってられるわけがなかった。
「……あなたは、優しいのね」
「そんなんじゃないわ。こんなの……ただの自己満足よ」
もう二度と目の前でお姉ちゃんがいなくなるのを見たくない。そんな。自分勝手な感情で助けたに過ぎない。
優しいわけじゃ、ない。
「確かに、いつかは居なくなる事とか、気にならない事がないと言えば嘘になるけれど……あなたの自己満足でも、わたしはそれに助けられたの。あなたが自分をどう思っていたとしても、わたしから見たら優しい子だって、ただそれだけよ」
「……女神の特権を利用するために取り入った可能性だってあるでしょ?」
「バカね、本当にそうする気ならそうやっていう必要が無いわ」
っく、さっきまで泣きそうだったりブチ切れてたりしてたくせに、冷静なお姉ちゃんみたいなことを……!
「そうまで言うのなら、いいわ。わたしが勝手にそう思うことにするから」
「……勝手にしたら!」
「ええ。……ふふ」
とまぁそんなわけで、わたしが
国乗っ取られかけてたのにちょっと緩すぎない?
「……いいわ、このエストちゃんがお姉ちゃんをしっかりサポートしてあげるし!」
女神から逃げ出したわたしが何の因果かまた女神に……それもホワイトシスターに戻るなんて。
まぁ、なっちゃったものはしょうがないよね。お姉ちゃんのサポートをしつつディーちゃんを探すくらい、やってやろうじゃん!!
「……ところで、あなた……なんだか縮んでない?」
「ああ、こっちがホントの姿よ。このままだと子供だからってやらせてもらえないこととかあるから、魔法でちょちょいって」
「ふ、ふーん……」
「……お姉ちゃんの為に言っておくけど、使ってもお姉ちゃんの望んだ姿にはきっとならないわよ」
「な、なにもいってねーだろうが!?」