幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「せいっ」
襲いかかってくるモンスターを、炎魔法で討ち払って進む。
武器と道具はポーチにポシェットの整理やらでほとんどないし、唯一持ってた杖はディーちゃんが攫われた時に落としちゃったけど、無くても戦えるもんね。
まぁ、流石にただの素手はあれだから、いらない腕輪貰って魔道具用に弄ったのを使ってるけど。簡単なものならわたし一人でも作れるんだから。
「邪魔!」
そういうわけで新武器(?)の試しも兼ねてわたしはとある遺跡にやってきている。まぁ村長のお願いでもあるんだけど。えっと確か……
『最近耳にした事なのだが、ZECA一号遺跡という場所に女神メモリーがあると言う噂が出回っていてね。信憑性も薄いしガセだとは思うが、万が一本当だとして無謀な若者が化け物になるのは忍びない。戦える者が居ない訳では無いが……』
とか何とか長ったらしく相談されたもんだから、ならわたしが見に行ってもしあったら回収する、なんて言っちゃったわけね。
ま、本当にあったらくすねてわたしが使っちゃえば女神の力戻るかもだし? その時は無かったって言えば……無理があるかな? 間違っても使おうだなんて気は起こすんじゃないぞ。なんて言われたし。
「おりゃっ! っあぶな! こんのっ!」
火球を当てても倒しきれず、飛び掛ってきたのを避けながら連続で燃やす。
ふぅ、危ない。やっぱり
ちゃんと
なんて言ってたら結構な広さの空間に出る。
ここが最奥? 途中気になるものも見当たらなかったし、やっぱりガセネタ──うん?
「……ふーむ」
何かがある、と調べてみるとひし形の紫色した結晶? のようなものを見つけた。それも三つ。
……あれ? 村長の話じゃこれレアアイテムじゃなかったっけ、逆鱗とか宝玉くらいの。見つからないだけで割と密集して落ちてるって事なのかしら……
これだけあるならとりあえず一個はわたしが回収して、残りを村長に──
「ちょっと、あなた!」
残りも回収しようと手に取ったところで後ろから掛かった声に思わず舌打ちしそうになる。
噂になってる時点で他にも取りに来るだろう奴はいるだろうし、そしてほぼ間違いなく奪い合いになる。はぁ、ついてない。
……それとも先に見つけられたことを喜ぶべき?
「ちょっと、ノワールってば!」
そもそも声を掛けてきたのが見ず知らずの誰かなら適当に蹴散らしてハイ終わりだったものを、さっきから聞き覚えのある声がして頭が痛くなってきた。
片方名前もう出ちゃってるし……
「……何? 誰よ、あんた達」
顔に出ないようにしながら声のした方を向けば、そこに居たのは想像通りの人物。
黒髪ツインテールの気が強そうな人──ノワールさんに、
薄紫の髪のやかまし、ごほん! 元気はつらつそうな人──ネプテューヌさん。
それはそれは見知った顔がそこにはいた。
服装は見知らない装いだけど。
「誰だっていいわ。その手に持ってるモノ、こっちに寄越しなさい!」
びっ、とわたしを、と言うよりはわたしが手に持つ物を指さしながら横暴なことを言うノワールさん。
なるほど、そういう事。
「もーノワールってば! 一体全体どうしたのさ!」
「……あれが女神メモリーよ」
「へーあれが……ってなんですとー!?」
ノワールさん達の目的は案の定というか、
ああ、メンドーだな。そもそもなんでそんな敵意むき出しなのかしら。
「もう一度だけ言うわ。大人しくそれをこっちに渡しなさい! あなたみたいな子供が持つべきものじゃないわ!」
あ、ふーん……そう。へぇー。
「なんかノワールの方が悪役っぽい台詞だよねーこれ。でもここは今後の為にも乗っかっておくべき……って、あれ? よくよく見たら一見ただの幼女でもどこかシリアスな雰囲気もある幼女姿! もしかしてエストちゃんじゃあ!」
ええと、
だって今わたしの名前言ったよね。
「なによ、また知り合いだとか言うわけ?」
「またとは何さノワール! 私はホントの事しか言ってないもん! って、そうじゃなくて! エストちゃんなら安心だねー!」
わたしの事を知ってる風な口ぶりのネプテューヌちゃんは多分知り合いのネプテューヌちゃんで確定かしら。
ノワールさんは……この次元のノワールさん? まぁ、確証もないからただの予想だけど、言ってることからしてそれっぽい。
で、なんかネプテューヌちゃんの中では都合のいい展開になってるっぽいけど、わたしまだ協力的な態度取ってないよね。
「というわけでエストちゃん! その女神メモリーを──」
「悪いんだけど、渡す気は無いわね」
「私達に……って、えぇー!? なんで!?」
キッパリ断ってやると予想外だとでも言わんばかりのネプテューヌちゃん。
だって、ネプテューヌちゃんだったとしても確証もない今はまだ知り合い
「……知り合いなんじゃなかったの?」
「あ、あれー、エストちゃん……だよね?」
「まぁ、そうよ。わたしは自分をエストだとは言えるけど、でも証明するものはないわね。それと同じであなたがわたしの知ってるネプテューヌちゃんだって証拠もない」
「う、うわーん! こっち来てから皆して疑り深いー!」
……や、ネプテューヌちゃんは割と信用出来るかな、とは思ってるのよ? ただノワールさんがちょっと……さっきのセリフだって悪役みたいな感じだったし。
なにも「ルウィー以外の女神(予定)! なら敵よ!」とかそういうんじゃないよ、ただ同じ顔だからハイ信用ってならないだけで。
「ま、ダメだって言うのなら仕方ないわ。悪いけど力づくでも譲ってもらうから!」
「うわ、こわーい。わたしみたいなちびっ子から力づくで物をとりあげようだなんて、女神になりたい人って野蛮なのね!」
「な、なんと言われようが私にはそれが必要なのよ! そもそもただの子供がこんな所にいるわけないでしょ!」
「はっ。そりゃそーね」
ノワールさんが剣を構え、わたしも臨戦態勢。
ネプテューヌちゃんはおろおろしてるけど、ノワールさんとはこのまま戦闘に……っ!!
「っく!」
そう思った矢先、別方向からの殺気にその場から飛び退く。
突然の奇襲。直撃は免れたものの、衝撃から身を守った時に手に持っていた女神メモリー二つを落としてしまった。
「今っちゅ!!」
「あっ」
そしてわたしの落とした女神メモリーをすかさず回収する黒い小さな影。
あの喋り方、でもって見覚えのあるシルエットは……
「ほう? 今の一撃を躱すとはな」
「でも女神メモリーは頂いたっちゅよ、マヌケな奴で楽っちゅねー」
口調通りのちびっこい灰色ネズミと、今の攻撃主だろう血色の悪い魔女みたいな人が現れる。
ネズミは見覚えあるけどもう一人は見たことない、誰よ。
「ちょっとあなた達! いきなり出てきて何なのよ! それは私のよ!」
「お、おお? なんかよくわかんないけどこれなら遠慮は要らないね! こらそこのオバサン! 横取りはダメなんだよ!」
「誰がオバサンだ! 誰が!」
何故かもう自分のものだと言い出してるノワールさんと、持ち主がわたしじゃなくなったから遠慮が無くなったネプテューヌちゃんが二人組に食ってかかる。
わたしは……うーんどうしよう、逃げちゃおうかしら?
「……いや待て、もしや貴様がネプテューヌか?」
「えっ? なんで私の名前知ってるの? もしかして私ってばこっちでもちょー有名人だったり?」
「貴様なぞ知らん。だが何故だろうな、貴様を見ているととてつもなくイライラしてくる」
で、なんか魔女な人がネプテューヌちゃんの事すっごい睨んでる。理由はわたしもわかんないけど
「何よネプテューヌちゃん、恨まれることでもしたの?」
「してないよ!? ちょっとオバサン! いくら私が可愛くて主人公だからって嫉妬は見苦しいよ!」
「火に油って言葉知ってる……?」
「ほう、私に喧嘩を売るか。ますます気に食わん奴だ……おいネズミ! それを持って先に戻れ、コイツらの相手は私がする」
そう言って杖を構える魔女からは、かなり強い殺気が放たれる。
こいつ、今のわたしの力じゃ分が悪いかも……
「あなた一人で私達の相手をするって言うの?」
「ああそうだ。光栄に思うがいい……七賢人が一人、マジェコンヌ様が直々に貴様達をあの世へ送ってやると言うのだからな!」
「なんですって!?」
「しちけんじん!? しちけんじんって言った!?」
しかも噂の七賢人ときた、うわぁ。
現状一番怪しい集団だから色々気になるところはあるけど、タイミングってものがあるでしょ。
とにかく今は戦わない方がいい。勝てない戦いをする道理は無いものね。
「七でもなんでもいいけど。わたし今はそっちの方々とは無関係なので、失礼させてもらうわね」
「ちょっ! 待ってよ!? 色々話したいことがー!」
「フン。関係あろうが無かろうが、逃がすとでも思っているのか!」
ごく自然に抜け出そうとしたけどネプテューヌちゃんは騒ぐわマジェコンヌだかは攻撃してくるわでほっといてはくれないらしい。
ま、そんな相手の事情なんて知ったことじゃないけど!
「……何っ!?」
「バカ正直に敵っぽい奴に背中見せて逃げると思ったの? サヨナラおバカなオバサン!」
マジェコンヌの放った一撃は確かにわたしを捉えて貫いた。
尤も、それは魔法で作った幻。まんまと引っかかってる間にわたしはすたこらさっさと逃げ出していた。
……まぁ、ネプテューヌちゃんが心配だけど、主人公だって言ってるしきっと平気よね!
それよりも、だ。
「見つけた」
「げっ、さっきのガキンチョ! あのオバハンは何やってるっちゅか!」
さっき女神メモリーをわたしから奪って逃げたネズミ。
マジェコンヌとの戦闘を避けたのもあったけど、こっちが本命。
「人のものをとったら泥棒ッ!」
「ぢゅーっ!? や、やめろっちゅ! あいだぁぁっちゅ!?」
駆けながらネズミに風の刃を放ち、怯んだ隙に思いっきり蹴っ飛ばぁぁすッ!
「ぢゅぅぅううっ!?」
「捕まえたっ!」
壁に叩きつけられて落ちてきたネズミの近くまで行って、また逃げないように背中を踏みつけてやる。
こういうすばしっこそうなのは避ける体勢に入られる前に動きを止めれば万事オッケーってね。
「お、重いっちゅ! 足をどけろっちゅ!」
「ふん、ならわたしから盗んだ物を返しなさい!」
「誰が返すもんかっちゅ!」
「へぇ? まだ自分の立場が分かってないみたいね!」
「ぢゅああーっ!?」
ぐりっと踏みつけて痛みに悶えるネズミから女神メモリーを奪い取る。
手間取らせてくれたもんね、っと。さてどうしよう。
あのノワールさんの自己主張が激しかったけど、その横でネプテューヌちゃんもこれを欲しそうにしてたのよね。もしかしてネプテューヌちゃんも
うーんそれだとしたら……でも今更戻るのもなんか……
「あらぁ、子供がこんな所で遊んでいるなんて、いけない子ねぇ」
と、足元で騒ぐネズミを無視しながら考えていると視界外から別な声。
ネズミを逃がさないように気をつけながら声のした方へ振り返って見れば、そこに居たのは紫の髪の女の人。
いや、あの感じに装備……人じゃないわね。
「あんたは、女神?」
「ええ、そうよぉ。プラネテューヌの女神、アイリスハート」
女王みたいな雰囲気の女の人はアイリスハートと名乗った。
あ、そういえばプラネテューヌの女神はそんな名前だっけ、パープルハートじゃないんだよね。
「ところでなんだけどぉ、その女神メモリー、譲ってくれないかしらぁ?」
「ふーん。理由は? あんたはもう女神でしょ」
「あたしが必要としてるんじゃないの。あなたが見捨てたコ達の為よぉ」
「……あれ、さっきの場にいたの?」
見捨てた、と言われて思い当たるのはネプテューヌちゃん達二人の事。まぁ現状はまだ味方じゃないからそんな事言われてもって感じだけども。
……んー、なら丁度いいか。
「ま、いいわ。ほら」
ネズミから回収した女神メモリー二つをアイリスハートに投げて渡す。
「……随分あっさりと手放すのね?」
「わたしはあくまで回収しにきた訳で、使う気は今のところ無いもの。だったら知り合いに役立ててもらった方がマシでしょ?」
「ふぅん。やっぱりねぷちゃんと知り合いだったのねぇ」
「……あいつらに言わないでよ? 特にノワールさんとかなんかメンドーそうだし」
「うふふ……そうねぇ、すんなり譲って貰ったことだし、ここでの事はヒミツにしておいてあげるわぁ」
別に合流しても良いんだけどね、暫くはネプテューヌちゃん達とは別行動ってことで。
……あのノワールさんとは気が合わなそうだし、なんとなく。
「そうだ、こいつも持ってって、よっ!」
「ぢゅっ!!」
と、ふと足元のネズミの事を思い出し、どうせネプテューヌちゃん達の所に戻るならとネズミを蹴り渡す。
「あら」
「ぢゅーっ!! オイラの尻尾がちぎれるっちゅー!!」
するとアイリスハートは的確にネズミの尻尾を掴んだ。
わぁ、伸びてる伸びてる。ヨーヨーみたいにしたら面白そう。……大きすぎてダメね。
「ついでだし、あのオバサンにそれ返しといて」
「そうねぇ。玩具は元の場所に片付けないと、ねぇ? あなたはどうするのかしらぁ」
「非力なわたしは退散させてもらうわ。得体の知れない連中と女神サマの戦いには巻き込まれたくないし」
「非力、ねぇ?」
アイリスハートが舐め回すような視線で見つめてくる。気持ち悪いっ。
「じゃーね、女神サマ。あっちの女神サマにヨロシク」
「あらあら、ねぷちゃん達はまだ女神じゃないわよぉ?」
「これからなるんでしょ? なら女神候補ってとこかしら」
これ以上話してたらなんか身の危険を感じるし、アイリスハートを足止めしてたらネプテューヌちゃん達にもしもがあってもやだから、そこで会話を切り上げて撤退する。
あれがプラネテューヌの女神かぁ……変な国になってないといいけど。
「うふふ、面白いコねぇ……アナタもそう思うでしょ? ネズミさん……」
「ちゅ、ぢゅぅぅ──ー!!!」
後ろから聞こえてきたネズミの悲鳴は聞かなかったことにした。
「という事があって、結局回収は出来なかったわ」
「そうか……」
村に戻ってくると、早速村長からの呼び出し。
それに応じて村長宅にやってきたわたしは、嘘と本当を織り交ぜた結果を報告した。
分かりやすく纏めるなら、ネプテューヌちゃん達が狙っていたこと、女神メモリーはそいつらに取られて一つも確保できなかったこと。そして七賢人のメンバーまで出てきて戦いに巻き込まれそうだったから引き上げてきた……って感じかな。
そう。本当はひとつだけ回収してあるけど、それは隠してある。念の為にね。
「となると、最大でも二人女神が増える可能性がある、か」
「多分なるんじゃない? そんな感じがするやつらだったし」
むしろネプテューヌちゃんとノワールさんで女神不適合だったら笑うでしょ、元いた次元じゃ女神してるのに。
「で、なんだけど。その女神候補の内の一人、知り合いかも。……ううん、知り合いだったわ」
「む? 記憶喪失では……いや、戻ったのか」
「ええ、まあ、そういうこと」
ついでにこのままの勢いで記憶の一部が戻ったような発言をしておく。
そもそも記憶喪失ってのが嘘なわけだし、適当なタイミングで思い出したことにしといた方がいいでしょ。
「ま、あんまり人に言うような事でもないわよ」
「ふむ。では無理に聞くことはしないさ」
「ふうん。あっさりなのね」
「十分な程に村の為にしてくれているからね、例え何者であろうと村の一員だと思うくらいには」
う、うーん? ここまで信頼される程の事をしたかな?
確かにタダで置いてもらうのは悪いからって色々やりはしたけども。
……まぁ、いっか。悪いことじゃないし。
「これからこの世界はどうなっていくのだろうな……」
「さぁ。なんにしたって自分たちのことは自分たちでやるだけでしょ」
「……そうだな」
そうよ、わたしは、ディーちゃんを助ける為、ただそれだけの為に手を尽くすだけ。
……必ず、助け出すんだから。
村長への報告を終えて、帰りながら、再確認するように決意を新たにした。