幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
いつも通りコラボ興味無いよーって人はスルーしても本編読むに当たって不都合はないのですよ。
2022/4/27:人物名[コーフリ→フーリ]に変更しました。
またディールからの呼び方を[フーちゃん→フーリ]に変更しました。
「んぐ…」
「あ、起きた」
微睡みから目を覚ますと、視界に入ってきたのはエスちゃんの顔。
わたしを覗き込むようにして、ぽつりと彼女はそう呟いた。
「グリモー、ディーちゃん起きた」
「はい、はい。ちょこーっとのお寝坊ですねー、仕方ないといえば仕方ない事ですけど」
「ん…ふぁ……ふたりとも、どうしたの…?」
身体を起こし、くぁぁ…と腕を伸ばしながら欠伸をする。
時計を見てみれば、針は十時過ぎを指していて。確かにちょっぴり寝坊かなぁ。
まぁ、今日は特に何もないお休みの日なんだけど。
「わたしはよくわかんないけど、グリモがなんか感じたらしくって」
「はいー。単刀直入に聞きますけど、ディールちゃん、また別次元の人と会ってましたねー?」
「んぇ…? あぁ、うん……別にわたしから会いたくて会いに行ってるんじゃないけど…」
まだ少しぼーっとするけど、記憶の欠落とかはない。はず。
とりあえずあそこでの出来事は覚えてる。
今回はイリゼさん(別次元の人なのになんかもう何度も会ってる気がする…)以外にも沢山いたよね。
茜さん、ルナさんに、アイさん、カイトさんと、ワイトさん。……いや、多いなぁ。しかもこれ、みんなそれぞれ違う
一瞬全部夢だった可能性も想像したけど、グリモがああ言った時点でそれはない事は確定していた。
「まぁ、今回もこの子が原因だとは思いますけどー」
「この子? それってグリモの…」
「そうです、ディールちゃんに渡した方の、グリモワール写本ですねー」
そう言ってグリモが指さしたのは、わたしが普段持ち歩いてる白い本。
魔法を使うときの
グリモワール原本はグリモ自身であり、わたしとエスちゃんはそれぞれ一冊ずつこの写本を持たされてる訳だけど、いつだかイリゼさんと初遭遇した頃くらいからわたしのものだけ変な力が付与されているんだとか。
その力のおかげでイリゼさんと出会えた、ということにもなるけどもね。
「今朝辺りからなにやらまた妙な波動を感じたので、調べてたところです。案の定また別次元に意識を飛ばされていたようでー」
「ああ、うん……今回はすごかったね…」
「えーなになに。ディーちゃんばっかずるいー」
横でエスちゃんが仲間外れだーとぶーたれてるけどとりあえず放っといて、
グリモが言いたいのはそういうことじゃないんだろう。多分アレらのことに関してだ。
「グリモが感じたっていうのはやっぱり……」
「はい。前回の様な事例ならわざわざ見に来るまでもない程度のことですけど、今回は妙な感じがしましたからねー」
「妙な感じ…って何よ?」
「うーん、そればっかりは何とも。私だって全能って訳ではないんですよー」
グリモが言う妙な感じっていうのは多分、
……扱いがひどい? なんかいい感じで締められたけど、妙な事と危ない目に遭わされたのは事実だしね。友好的に見てと言われても難しい
「色んな人達と出会えたのも事実だけど、今回は誰かの掌で踊らされていた……らしいからね」
「ふぅん? そんな連中、ぶん殴って消し飛ばしてやればよかったのに」
「物騒な……黒幕はわたし達の前には出てこなかったし、唯一協力的…? だったのもぬいぐるみを通じてこっちに接触してきてたから、どのみちその手は無理。……出来てたら多分実行されてるだろうし」
「物騒って言っておいてやる気はあったのね…」
「あ、あはは…」
冗談で言ったつもりだったのか、わたしの答えにじとーっとした視線を向けてくるエスちゃん。
……うん、わたしが初っ端壁をドリルでこじ開けたのは言わないでおこう。
「しっかしうちのディーちゃんを拉致だなんてナメた真似する連中ね。きっと身も心も真っ黒な奴等よ!」
「うん…うん? なんか妙に具体的な気が…」
「え、そう?」
「ひとまず無事そうで安心はしましたけど、念のためチェックはしておきますよー?」
「はーい」
チェックと言われても何されるのかわかんないけど…とりあえず大人しくしとけばいいよね。
「で、どうだったの?」
「どう、って?」
「イリゼおねーさん以外の人達よ! なんか変な事されたりしなかった?」
その間何してようかな、と思った矢先、興味津々な様子でエスちゃんが聞いてきた。
なんで変な事された前提なのかはわかんないけど…うーん……
「変な事なんて……撫でられたり可愛がられたり、あ。裸見られたくらい?」
「よしグリモちょっと奴等の次元調べてぶっ飛ばしてくる」
「待ってぇ!?」
あったことをそのまま言っちゃったのがマズかった、にこやかにすっくと立ちあがるエスちゃんを慌てて止める。
「離してディーちゃん! ディーちゃんのすべすべボディを見たなんて万死に値するわ!」
「待ってよエスちゃん落ち着いて! 見られたって言っても同性だけだから! カイトさんとワイトさんは見てないから!」
「カイト…ワイト…? 男? ……ディーちゃんに集る悪い虫! 殲滅しなきゃ…!」
「無茶言わないで落ち着いてぇ!!」
失言でさらに暴走するエスちゃんを落ち着かせるため、咄嗟に近くにあったグリモワール写本で叩いた。
ゴスッ、て鈍い音と「ごぁっ!」なんておよそ女の子が出しちゃいけない悲鳴、「本は人を殴る鈍器じゃないですー!」なんて怒るグリモも合わせてちょっとしたカオス空間に……
咄嗟とは言えやりすぎた…と、とりあえずエスちゃんを回復しないと……
──治療中──
「うぐぅ、頭痛い…」
「ご、ごめんね…?」
「本を鈍器にするなと言うのもありますけども、本気で鈍器の如くそれで敵を殴るような頭のおかしな人がいる程度には凶器ですからねー?」
「はい…ごめんなさい…」
しゅん、と大人しくお説教を受ける。流石にわたしに非しかないし。
「……でも、やっぱりあの人達に打ち勝つのは難しいと思うよエスちゃん。皆相当に手練、って感じだったし」
「ふーーーん。まぁ実際に実力を見てきたディーちゃんが言うならそうなんだろうけど、元女神的には納得いかないー」
わたしが思ったことを口にすれば、半分は納得してくれた様子。
ただし女神としての性分っていうのかな、それが戦ってもいない相手より格下って言われたことに異を唱えているらしい。
うーん、でもなぁ。
「そもそもエスちゃん本来のスペックは純魔法型なんだから最初から近接振りの人には敵わないんじゃ」
「なにをー! そんなこと言う口はこいつかー!」
「ひゃ! いひゃいいい!」
そう思うに至った理由を告げれば、むすーっとしながら口をぐにぃ、と引っ張られて、
痛みに声を上げれば口を引っ張られてるせいで変な声になってしまう。
「そりゃ、真正面からじゃそうかもだけどさー。わたしだってちゃんと対策組めば近接戦タイプの人にだって勝てるもん! ネプテューヌちゃんとか!」
「ううぅ……そうなの?」
「そうよ。大剣術はともかく魔法、というか忍術なんて小手先も小手先でしょ」
うぅん、言われてみれば……そうかも?
対策すれば、かぁ。そう言われると、寝る間際の……恋バナ? の時に聞かされたあの人みたいな感じなのかな。
なんて、何度も引き合いに出てきた"すごい人"の話を思い出していたわたしは、思わずエスちゃんにこんな事を聞いていた。
「……エスちゃんのその戦い方って、自分で考えたの? それとも…別次元の誰かに教わったり?」
「んー?」
根拠も何もあったものじゃない。エスちゃんからしたら「何言ってるの」と思われてもしょうがないような質問。
自分でも何言ってるんだろ、と思っていると、エスちゃんは少し考えるような素振りを見せて、昔から変わってない悪戯っぽい笑みを浮かべた。
「さてねー。ご想像におまかせするわー」
「え、えぇっ、なにそれ……」
「ふっふっふー、忍びは秘密の多い存在なのよー」
う、ううん……まぁ文献から仕入れたのか人から聞いたのかは深く追求することでも無いか…。
「……でも、ま、別次元なんてそんなものよね。色々巡ってみたわたしが思うに、次元ごとになんか強さのレベル? みたいな物が違うような気がするし」
「レベル?」
「そうよ。スライヌ、及びそれに準じた強さのモンスターだって、次元ごとに強さとか特性が違ったりしたこともあるし。わたし達がよく見る奴は某RPGみたいな雑魚だけど、場所によってはスライムのぷるぷるで物理無効化したり、酸性の粘液の塊だったりもするし」
「さ、酸性……」
酸性って、触ったらじゅーって溶けるやつだよね。
……もしもこの次元のスライヌがそう言うタイプだったら、わたしの顔は……ひぃぃ…!
「ま、そういう事。別次元でわたしが勝てなさそうなのがいたって不思議じゃないってことよ」
「う、うぅん、そっか…」
もしもの想像に寒気を感じていると、エスちゃんはほんの少しだけ不満げにそう締めた。
うーん、頭ではそういう物だってわかってるけど心ではやっぱり嫌なのかな、上がいるっていうのは。
うぅん、強い人たちの次元はオプション設定がハードモードとかなのかな。ここはきっとノーマル……だろうし。
あ、でもわたしとエスちゃんは2週目みたいなものだよね、記憶だけ。
「とりあえず、個性的な奴らだったってことよね」
「否定はしないけどバッサリ纏めたね……う、うん、まぁ、いろんな人と一緒に色んなことをしたよ」
「ふーん?」
「抜けない剣の謎解きとか、すごろくとか、ぬるぬる坂とか、鬼ごっこ………あぁ、鬼ごっこかぁ」
あの空間での仲間……かな、一応。に続いて、試練だとかいうあれの事を話し始めて……思い出した。
「んん? なによ、なんかあったの?」
「あー、まぁ、なんかあったというかされたというか……本人呼んだ方が早いかな。フーリ、出てきて」
「──もう、なあに? 表に実体化するのって疲れるから嫌なのだけど」
首を傾げるエスちゃんを見ながらフーリを呼び出す。
するとすぅっとわたしの影から黒いわたし──コーフリことフーリが姿を現した。
「鬼ごっこはね。ただの鬼ごっこじゃなくて、自分達の影から逃げる、みたいな鬼ごっこだったの」
「影? って、ああ。もしかして」
「うん……本来ならあっちの仕組んだ中身のない、自分自身の影みたいなのだったんだろうけど……わたしの奴だけ、ね」
「なんだか面白いことをしていたものだから、ちょちょいっと
くすくすといつもの様に不敵に笑うフーリ。
ホントにもう、この子は……
「そんなことして、そのワンなんたらにバレなかったわけ?」
「えぇ、勿論。得体の知れなさではあんなぬいぐるみには負けないのだわ」
「威張ることじゃなくない…?」
何故かワンガルーを出し抜いた(実際どうなのかは分からないけど)ことを得意げにエスちゃんへと話すフーリにそうつっこむと、フーリはまたもくすくすと笑う。
「あら、"鬼を倒す"だなんて選択に至ったキッカケになれたと、ワタシは思っていたのだけれど?」
「むっ……」
そしてフーリの言葉に思わず何も言い返せなくなってしまった。
た、確かにそんなかからない内に撃破する方針になったのは、わたしがフーリを懲らしめようとしたからだったかもしれないけど……
「でも、なんでそんなこっそりしてたのよ。いっそ顔だししちゃえばよかったのに」
「「それは無理」」
「おおっ、ハモった。じゃなくて、何でよ?」
「だってフーリって正直女神的には限りなく黒に近いグレーみたいな存在だし」
「話せば理解してくれる人達だった可能性もあったけれど、余計な問答や疑心を増やす程、安全の保証ができた場所ではなかったものね」
下手したら女神組、イリゼさんすら警戒しそうな力だし、
「でも結局は何がしたかったのかしらね。ディーちゃん達を集めてそんなよくわかんない事させて」
「うーん……少なくともワンガルーから悪意は感じられなかったけど…」
何だかんだで帰してくれたし、最後の危ない時には少し助けてくれたし……
と、フーリはそう思ってないらしく、少し真面目な表情でわたしの言葉に反論してきた。
「どうかしら? 本当に悪意が無いのなら、
「う、ん……それは、そうだけど」
「救援に関しても、そもそもあちらの不手際でしょう? シェアエネルギーを霧散させる怪物に、そもそもあの空間にワタシ達が連れ込まれた元凶なのだから」
そう言われたら、そうなんだけど。
……ワンガルー側も一枚岩じゃなかったってことかな。
「ネガティブエネルギーでシェアエネルギー相殺して変身封じたアンタが言えたこと?」
「きゃあ、手厳しいのだわー」
「………」
エスちゃんとフーリがきゃっきゃとしているのを眺めながら、わたしは考える。
わたしは女神。正規のホワイトシスターではなくなってるけど、それでもグリモワールの力で女神としての力はある。だから当然
と言うより、それが普通、当たり前だと言うように力に頼って、力を過信している節があるかもしれない。女神なんだから当然とも言えるけど。
「……わたし達はわたし達で、シェアエネルギーに頼りきりにならない戦い方を身につけるべきなのかな」
「ん? どうしたのよ急に」
「フーリの時も、今回も。女神の力を無力化されてピンチになってた気がするから…」
「いやぁ、どっちも相手が特殊すぎでしょ。そんな気にすることでもないんじゃ」
「うーん……」
だとしてもひとつの力に頼りきりは…よくないと思うんだよね。
……ネガティブエネルギー、カオスエネルギーでの戦う練習したほうがいいかなぁ。
「ま、なんにせよディーちゃんが無事だったんだし、終わりよければなんとやらね」
「ワタシも次に彼らと逢う機会があったら直接お話してみたいのだわ」
んー……気になることはまだあるけど、あんまり考えても仕方ない、かな。
会う機会も案外直ぐに会えたりしてね。イリゼさんがそうだし。
……ううん、離れ離れになっても絆は繋がってるはずだから。
いつかまた、きっと──
「一通りチェック終わりましたー。異常なしですねー」
「「「あ、まだいたの」」」
「ひどくないですかねー!?」