幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「……ふぅぅ」
寒い…
ルウィーって、こんなに寒かったっけ…?
雪が降り始めた街の中を、一人で歩きながら思う。
…ううん、きっと、寒さはいつもと同じ。ただ、わたしの心が寒いだけ…
「……」
"そこ"に行ったって、いるはずがないのに。
それでもわたしは"そこ"を目指して歩いていく。
もしかしたら…そんな、根拠のない希望を抱いて。
「…くしゅん!」
雪の中、傘も差さないで歩き続けたからかな、
くしゃみが出て、ぶるりと身体が震える。
風邪なんて引いて、ロムちゃんとかミナちゃん、お姉ちゃんに怒られるのもイヤかな…なんて思いながら、たどり着いた公園にある、屋根のついたベンチへと小走りで向かう。
「……」
服と頭についた雪を払い落として、ベンチに座る。
今日の雪、結構強いなぁ。なんて、先が見えにくくなるくらいに降る雪を眺めている。
……傘、持ってくれば良かった。
殆ど何も考えずに出てきたことを少し後悔しながら、降り続ける雪をぼんやり眺める。
「……最初に見つけたときでも、ここまでひどくなかったかな」
あの日の事を思い返す。
もう少し緩い雪の日、ロムちゃんとふたりでおつかいに出て、その途中ここで休憩してたらロムちゃんが見つけたんだっけ。
ええと、確かあっちの方で……
「……?」
ロムちゃんがあの日見つけた方角を思い出しながら見ていると、ふと、誰かがいることに気が付いた。
大雪のせいでうっすらしか見えないけど…こんな雪の中に傘も差さないで誰かがいる?
……まさか幽霊とか? い、いや、まだそんな時間じゃないしっ!
ちょっと怖いと思いながらも、何となく気になってよく目を凝らしてその人影を見てみる。
うーんと…黒っぽい服で…子供? わたしと同じくらいかし、ら……?
「…ぇ…?」
まさか、と頭を振って、もう一度目を凝らす。
幻覚とかじゃない、確かにいる。
でも、あの格好は……え?
「っ…!」
そんなことあるはずがない、気のせいだ、と頭では否定しようとするけど、
"かもしれない"と思った瞬間、わたしは飛び出していた。
雪の勢いが弱くなる、人影に近づく。姿がはっきりとしてくる。
やっぱり、あの…
「──ディール、ちゃん?」
わたしがそう、名前を呼ぶと、
その人影は、ゆっくりとこっちに振り返る。
黒色の、でもわたし達とおんなじ服。
見慣れた、でも少しだけ違う、短い髪のそっくりな顔。
胸に抱えるように持つ、真っ白な本。
その顔を、姿を見て、わたしは飛びつくように抱き着いた。
「わああ!?」
「ディールちゃんっ!!」
暖か……くはない。そりゃとーぜんよ、あんな雪の中で突っ立ってたんだもん。むしろ冷たい。
でもそんなのどうだっていい、雪の冷たさよりも、大事なこと。
「ディールちゃん、ディール、ちゃん…!!」
「ら、ラムちゃん待って、ぼんやりしてたけどわたし怪我人…いた、いたたたた!?」
ぎゅううーっと、そこにいる事を確かに感じる為に強く抱きつく。
なんかじたばたもがいてるけど、知らないわ。約束破りのお願いなんて。ふんだっ
……でも、ほんとうに、よかった…!
いつの間にか雪も止んでいて、とりあえず満足したわたしはディールちゃんを解放する。
「ひぐ、ひぃぃ…中身出るぅ…」
「そ、そんなに強くしてないもん! …けど、帰って治してもらった方が良さそーね」
「うぐぅ…そうして…お説教はそれからでいいから…」
お腹を押さえてひーひー涙目のディールちゃん。
もう、しょうがないんだから。と、手を差し伸べる。
「じゃあ、ほら」
「……ん」
差し伸べた手を、ディールちゃんが取って手を繋ぐ。
やっぱりその手は冷たかったけど、不思議とあったかい、そんな気がした。
…あ、そうだ。
「…おかえりっ、ディールちゃん!」
「……うん、ただいま」
ラムちゃんに連れられて教会に戻ってくると、ちょっとした騒ぎになった。
怪我の治療をしてもらいながら、ブランさん、ミナ…ちゃん、エスちゃん……まぁとにかく色んな人にしかられた。当然だよね…
それでも、みんな叱った後には「おかえりなさい」と言ってくれて……わたしの帰る所は、ちゃんとあったんだなって、実感出来て…
怪我を治すために何日かおとなしくしていると、ある日ネプギアちゃんとユニちゃんがやってきた。
二人ともわたしの顔を見るなり、息ぴったりなくらいに安心のため息をついてて、仲良いなぁ、なんて思ったり。
「まったく、心配かけて…」
「で、でも、私はディールちゃんに助けられたようなものだから…ありがとう、ディールちゃん。戻ってきてくれて嬉しいよ」
「う、うん…無茶な事してごめんなさい」
正直、なんで帰って来れたのか、わたし自身イマイチ把握できてないけど…
…あの本が、みんなとわたしを繋げてくれた、ってことなのかな。
「ちょっと、聞いてるの!?」
「えっ、あっ、ごめんなさい!?」
「もうっ! アンタは妙に一人で突っ走ろうとする節があるから、もうちょっと周りを頼りなさいって言ってるのよ!」
「ま、まぁまぁユニちゃんそのくらいで…」
「この際だから言うけどネプギア! アンタもちょっと甘すぎなのよ!?」
「ひ、ひぃ! こっちに飛び火してきた!?」
何故かネプギアちゃんまで一緒に叱られて、というかユニちゃんの怒りがネプギアちゃんに向いちゃって、
そんな光景がどこかおかしくて、でも、嬉しかった。
「…あんたの仕業?」
部屋の入口で、ディールらを見守るように見つめながら、傍らに浮遊する少女に問いかけるエスト。
「まぁ、すこーし干渉はしちゃいましたけどぉ、半分以上は彼女自身の意思の力ですよー」
「ふぅん…? 意思ねぇ」
「私は、そうですねぇ…ディールちゃんの本心を聞いただけです。この世界に残りたいと、生きたいと強く願ったのは他でもない彼女ですよー」
「…そっか。ディーちゃん、やり切って満足して諦めたりするかも、なんてちょっと考えちゃったけど…それなら、よかったわ」
グリモからそう聞かされて、エストはどこか安心したような表情を浮かべる。
ただその眼差しは、少し遠くのものを見ているようで…
「はぁ。エストちゃん、行ってきたらどうですかぁ?」
「…わたしが入る余地、あんの? あれ」
「ありますよ、そりゃあ。何を気にしてるのかしりませんけど、素直に混ざったらどうなんですー」
「どうせヒロインはラムの方でしょー」
メタ視点で言い訳をするエストにグリモはため息をつく。
実質ひねくれさせたの、私ですかね? ああ、どこで間違えたんだか…と頭を抱えるグリモだった。
「もう! 良いから行きなさいー! あなただってカテゴライズでは候補生のままなんですから、ほらぁ!」
「わ、わかったわよ、もう」
半ば追いやるようにエストを送り出して、ディールと候補生達の所へ混ざるエストを見届けると、グリモはやれやれ、とため息をついた。
「ん、はぁ…ディールちゃんとエストちゃん、両方含めたら、封印から目を覚まして大分働きましたよねー私ぃ」
──だから暫くはのんびり過ごしつつ、諸々の記録の編纂でもしますかぁ。
一人呟いて、グリモは部屋を後に教会内の書庫へと戻っていった。
これは、ある結末から逃れた少女たちが、別次元で織り成す物語。
これにてひとつの区切りとなります。
ええ、勿論。彼女達の物語はまだ続くでしょう。
ですが今は、彼女達に一時の休息を……
ふふふ。いずれまた、どこかで会いましょう。
私は彼女達の歩む物語を記録する者。きっとまた相見えるでしょう。
それでは──
「っと、そうだ。わたしからはまだ言ってなかったよね」
「うん? なにを…?」
「ディーちゃん、おかえりなさい」
「ぁ…ただいま、エスちゃん!」
超次元ゲイム ネプテューヌG 蒼と紅の魔法姉妹 -Grimoire Sisters-
─Fin─
はい、そんなわけで、ディールの物語はここでひとつの区切りとなります。
数年に渡ってぐだぐだとやっておりましたが、どうにかこうにかここまでこぎ着けましたね…
あと暫くは後日談等を挟み完全完結、次シリーズ移行の流れになるかな、という感じですね。
では短いですが、ここまで読んでくださり本当にありがとうございました!!