幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
もう少し続きます
Act.???
『こうして、四人の守護女神と四人の女神候補生、そして異次元の女神(候補生?)二人…』
『彼女達の活躍によって犯罪神は討滅され、ゲイムギョウ界に平和が訪れたのでした』
『たった一人の犠牲を残して…』
『ふふふ、けれど、そんな結末は誰も望みませんよねぇ?』
『……ああ、いえー、もしかしたらあなた達の中にはこういう結末がお好きだったりする方がいたりするんでしょうけどもぉ』
『少なくとも、この次元の女神達は望んでいない結末です。勿論、私にとっても』
『──だから、もうしばしお付き合いを、お願いいますねー…?』
『ここは未来への分岐点。私達が辿るのは──』
『──
───Act.D ひとりぼっちの最終決戦───
……あ、れ…
ここ、は…?
わたしは…ええ、と…
「っ…痛、ぁ…」
状況を確認するために起き上がろうとして、身体を襲う激痛に身悶える。
そうだった…わたし、刺されてたっけ。
手をお腹に当てて確認すれば余計に痛い思いをした上、手が血まみれになる。
こんな状態でよく生きてるなぁ…なんて思いつつ回復魔法で応急処置を施して、辺りを確認する。
といっても、わたしの近くはシェアブレイドでちょっと明るいってだけで、ほぼ真っ暗なんだけど…
「いぅっ…上には戻れそうもないし…どうしよう」
見上げても真っ暗闇。
とにかくこのままじゃどうしようもないし、とりあえず魔法で光源を放って周りの状況を──
「ォォオオオッ!」
「!? きゃぁっ!」
パシュ、と光源の光を放っていざ確認、と思ったところで、雄たけびとともに何かが突っ込んできた。
反応しきれずに突き飛ばされて、地面に倒れる。衝撃で応急処置した傷が痛む。
「オノレ、オノレェェ!!」
「っ…お前、は…!」
そしてわたしを襲った存在の正体は…わたしと一緒に落ちてきた、犯罪神。
こいつ…しぶと過ぎ…!!
「…フン、マア、ヨイワ。マズハキサマヲコロシ、ソレカラチカラヲタクワエ、フタタビセカイニホロビヲモタラスマデ!」
「ぐ、く…っ」
ボロボロな体で何か言ってるけど、ボロボロなのはこっちも同じで、しかも起き上がるのすら痛みで辛い。
……あれ? かなりピンチ…
「……イヤ、ヤハリキサマハコロサナイデオイテヤル」
「……え?」
と思いきや剣をおろしての殺さない発言。どういうこと…?
なんて困惑していると、犯罪神は開いている方の手をこっちに翳して、
「キサマヲヨリシロトシ、ヤツラヲシマツシテヤルコトニシヨウ!」
「なっ、うあああっ!!?」
手から黒いもやを放ち、わたしをを包み込んできた。
真っ黒な何かがわたしに入り込んでくる。イヤだ、気持ち悪い…!
「ハハハ、ハハハハハハ!!」
高笑いする犯罪神。
そんな、このままじゃ、わたし…うぅぅぅ! そんなの嫌、でも、どうしたら…
ああ、ダメ、意識が薄れて…
だんだんと意識が黒く塗りつぶされそうになって……勝手に左腕が動いたと思えば、わたしは犯罪神に魔法弾を放っていた。
「グアッ!?」
「え…?」
あれ、今、身体が勝手に…
「……人の住処を土足で踏み荒らそうだなんて、いい度胸ね」
そして、口も勝手に動いて、そんなことを口走る。
……これって、もしかして…フーリ?
「ッ、キサマ…ヨモヤワレニキバヲムクカ!」
「ええ。そもそも、ワタシを勝手に使ったのはあなたでしょう? 半ば自由になった今、あなたに従う義理なんてないのだわ」
「ウツワノブンザイデェェェ!」
犯罪神が逆上して、今にも襲い掛かってきそう。
ってこれ危ないんじゃ、ちょ、まって…!
『落ち着きなさい、そして思い出しなさいな。わたしには女神とは別の、もう一つの力があるでしょう?』
と、今度はわたしの口からじゃなく、内側から聞こえるような不思議な声で、フーリが語り掛けてくる。
もう一つ…? ……あの暴走の時になってたっていうやつ…?
『そう。今のわたしになら、制御ができるはず。迷っている時間はないのよ』
そ、それはそうだけど、どうしたら…
『それは任せて。ふふ、初めての共同作業、という奴なのかしら?』
冗談はいいから…!
なんて、脳内漫才? をしていると、身体の内側から粗があふれ始める。
「ぐ、うううああああっ!!」
「ナニ!?」
わたしの内の黒い力が、溢れ出す。
でも、犯罪神の侵食のものとは違う、力が溢れてくる。
暴走するかもという心配は、フーリがいる今なら大丈夫だと感じて、無くなっていった。
「…」
「……ナ、ナンダ、ソレハ!」
狼狽する犯罪神の前に佇む、黒と青色カラーの露出度高めのプロセッサユニットを纏うディール。
いつかの日、プラネテューヌで見せたその姿は、けれどあの日のように暴走する予兆は見せていない、むしろ氷のように落ち着いた様子を見せている。
「…ふふ、教える必要がある?」
不敵に笑みを浮かべるその姿はどこかフーリのようでいて、真っ赤に染まった瞳で犯罪神を射抜いていた。
「ク、オオオオオッ!」
犯罪神がディールへと斬りかかる。
しかしその刃が彼女へと届くことはなかった。
どこからともなく現れた
「それ」
「グッ、チィ! コシャクナマネヲォォッ!」
全く気のこもってない掛け声と共に黒剣が意思でもあるかのように犯罪神へと襲い掛かった。
二つの剣を凌ぎながら、犯罪神はディールへと禍々しい魔弾を放ち反撃する。
「…正面から魔法攻撃は無駄だよ? 魔力はね…」
それでもディールは涼しい顔でふわり、落ちていたシェアブレイドを引き寄せ手に取り、
「斬れるものだから」
いつか暴走していた時のように、魔弾を切り落とした。
「オオオオオオ! コノ、シニゾコナイガァァアアア!」
「わぁ、激おこ? 怖い怖い…」
激昂しながら黒剣を薙ぎ払い、再びディールへと斬りかかる犯罪神に、余裕を崩さないディール。
シェアブレイドを傍らに浮遊させ、新たな黒剣を手にして受け止める。
「それに、
「グアァ!」
激しい剣撃をまともに受け流していたと思いきや、犯罪神の背後から別の黒剣を飛翔させ不意打ち。
怯んだ隙を逃さず、無数の黒剣が犯罪神の身体へと突き刺さっていく。
「ガッ、グ、アアアア!!」
「そう、あなたの出番はもう終わったんだよ…だから、ね」
「ガッアアアアア!!」
容赦など微塵もなく、ディールは再びシェアブレイドを手に犯罪神を斬りつけ、そして、
「さようなら」
別れの言葉と共に、その胸に剣を刺し、地面に倒して縫い付ける様に突き立てた。
「グ、オオオオオ! オノ、レ、オノレ……メガミイィィィィィィ!!」
憎悪に満ちた断末魔を上げて、犯罪神に突き刺さったシェアブレイドから浄化の光が放たれる。
辺りが眩い光で覆われて……光が収まると犯罪神の姿は消え、残ったのは光を失ったシェアブレイドだけだった。
「…っ、はぁ…」
犯罪神の最後を見届けて、気が抜けたとおもったら変身も解けて、その場にへたり込む。
終わっ、た…? これで、全部…
「ふぅ、ふぅ…や、やった…」
ネプギアちゃんが作った剣は…ダメになっちゃったかな。
謝らなきゃ、だけど…できそうもないかなぁ…
「あは、は、は……」
流石に変身する力ももうない。
今度こそ、おしまいかな…ああ、わたし、終わっちゃうのか…
でも…がんばったよね? わたし、十分に……
だからもう、休んで、いいよね……
………
……
…
──まだ、諦めてはダメ…!
「……うっ…?」
目を閉じようとしたところで、どこからか声が聞こえた気がした。
どうにも気になって声の出所を探そうとして、それはすぐに見つかった。
「本……グリモワール…?」
わたしの目の前に真っ白な本──グリモワールがふわふわと浮かんでいた。
……そういえば、この本は前に妙なことを巻き起こしたりしてたっけ。
グリモが関与してるのかはわからないけど、これの不思議な力に頼ったら、帰れたりして…
なんて、都合のいい想像をしながらも、震える手を伸ばす。
──ダメ、足りない。もっと強く…意思を持って…!
また、声が。
あはっ、意思って何…? それで助かるって? 都合が良すぎるよ、そんなの。
わたしは、もう……
──諦めないで…
──約束、したんでしょう…!
やく、そく…
『みんなと一緒に戻るって、約束。だから、この戦いが終わるまでラムちゃんが持ってて』
『ぜったい、約束よ。破ったらしょうちしないんだから』
『うん』
『帰ってきてよ…いなくなっちゃ、イヤだよ…!』
「……!」
あの日の夜、ラムちゃんと交わした約束…
"いっしょに"って約束は破っちゃったけれど、今もラムちゃんは、待っている…?
ううん、ラムちゃんだけじゃない。エスちゃん、ロムちゃん、ネプギアちゃん、ユニちゃんにブランさん達も…
みんな、わたしのことを……?
………
……帰らなきゃ。
ううん、違う……
「……帰り、たい…っ!!」
溢れる感情に後押しされて、わたしは、
みんなの待つ場所に帰りたい──そう、強く願って、
真白い本へと、手を伸ばした──