幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
またディールからの呼び方を[フーちゃん→フーリ]に変更しました。
「……う、うぅ…」
「…あっ、起きた。ディーちゃん!!」
目を覚ますと、目の前にはエスちゃんの顔が。
わたしが目覚めたことを喜ぶような、安心したようなそんな表情をしていた。
「ぁ…エスちゃん? わたしは…」
「ディーちゃん、ネプギアと一緒にクロムを倒した後、気を失ってたのよ」
「クロム…? あ、そっか…」
エスちゃんがクロムと呼んだその名前に首を傾げそうになって、そういえばあれはわたしの内での出来事だったんだろうなと納得する。
あれは、夢じゃない。ちゃんとフーリがわたしの中にいる……そんな気がする。
「……で、ね。その、言いにくい事があって…」
「…?」
とか考えていると、エスちゃんが何か気まずそうな顔をする。
なんだろう…? …そういえば辺りがやけに静かなような……
「ディーちゃんが気を失ってる間に、犯罪神、倒しちゃった」
「………え」
え。倒した? 犯罪神?
それってつまり…
「決着がついちゃった、ってこと…?」
わたしが言うと、エスちゃんは「はは…」と苦笑いを浮かべながら、こくりと頷くのだった。
「あ、ディールちゃん!」
「元気そう、よかった…(あんしん)」
エスちゃんと一緒にみんなのいる所へと来てみれば、確かにもう戦いは終わっていた。
全員が武器を構えて警戒はしているけど、犯罪神は…なんか前見た時より大分スリムな感じになっているけど、地面に倒れて動く気配はない。
「気を失っていたと聞いたけど…その様子だと無事だったようね」
「は、はい。すみません、肝心な時に…」
「良いんですのよ。きっとディールちゃんにとって因縁のある彼女を倒した事で、気が抜けてしまったんでしょうね」
申し訳なく感じてそう言うと、ブランさんとベールさんは優しい言葉をかけてくれる。
つまり、実質わたしのとってのラスボス戦はフーリだったということに…う、うー。
「おっ、これで全員無事? いやー、よかったよかったー」
「なら、ここにもう用はないわね。帰りましょ」
わたしが合流したことでギョウカイ墓場でやることをは終えた、と、
みんなが戻る準備に入り始め、帰還ポイントへ向けて歩き始める。
わたしもそれに続いて、一番後ろを歩いていく。
これで終わったんだ、犯罪神を倒して…
………
………それなのに、どうしてだろう
わたしは、今、途方もなく──
──強い胸騒ぎを感じていた
────ニガサヌ────
「…!?」
声が、聞こえた。
身体の芯まで冷えるくらいに、恐ろしい声…!
今のは、誰…?!
────カクナル、ウエハ────
────キボウノ、ショウチョウヲウバイ────
────ゼツボウニ、オトシテヤロウ───!!
はっとして後ろを振り返れば、倒れていたはずの犯罪神がボロボロの姿のまま、両剣を手に飛翔していた。
そいつの切っ先、あれは──ネプギアちゃんを狙っている…!
早く、みんなに知らせないと…でも今から叫ぶんじゃ、間に合わない…っ!
攻撃魔法も…速いっ、考えてる間も無い…!!
こんな、ここまで来てそんなこと、させるもんか…!!
わたしは限界の力を出し切って女神化すると、犯罪神が来る前にネプギアちゃんへと向かっていって、
「危ない!!」
「え? きゃぁっ!!」
そのままネプギアちゃんを、突き飛ばす。
そのはずみでネプギアちゃんの持っていた剣が投げ出されたけど、そんなことを考えている間も無く──
「ッ、ぁ、うぐ……!!」
犯罪神の刃が、わたしを、貫いた。
背中と、お腹が、熱い。痛い……
「チィ、コムスメガ、ジャマヲシテクレル…!!」
「……ぇ…?」
「犯罪神…? な、なんで…」
「…ディール、ちゃん…?」
ず、と背中から突き刺された剣を抜かれて、痛みに崩れ落ちそうになる。
痛い、痛い…
「クッ…まだ息があったなんて! 抜かったわ…!」
「テメェ…この、死にぞこないが!」
「やって、くれましたわね…!!」
ブランさん達の怒った声が聞こえてくる。けど、
意識が、遠のいて……
……だ、めだ、意識を、保って…
ただでやられたまま、なんて…許さない…!!
「っぁぁああああ!!」
「グッ! キサマ!」
倒れないよう、崩れ落ちないよう、堪えながら杖を横に振るい、横からの氷塊で犯罪神を殴り飛ばす。
他でもないわたしからの反撃に反応しきれなかったのかわからないけど、犯罪神はそのまま横へ大きく弾かれていった。
その先には……底が見えなさそうな、奈落。
「ディールちゃん! っ、こんな、血が…!」
「はぁ、はぁ……ラム、ちゃん…」
致命傷を負ったわたしのそばに、ラムちゃんが、候補生の皆が集まってくる。
はぁ…ふふ、ああ、これをしたら、ディーちゃんにも、ラムちゃんにもしかられるだろうなぁ……
……だから、ね。先に、言っておかないと…
「……ごめん、ね」
「……え?」
声を絞り出し、唯一聞き取れたらしいラムちゃんの反応を待たずに、わたしは動き出す。
力を、振り絞って…まずは、あの剣を…!
「っぐぅぅ…! 痛い、けど、それが、なんだ…っ!!」
無理に動いて傷が広がり、痛みが強くなるけど、構わず低空飛行を続ける。
そのままネプギアの手から放り出された剣──シェアブレイドをかすめ取るように拾い上げて、崖間際の犯罪神へと、突撃する。
「あああぁあぁああッ!!」
「グ、ァアアアッ!!」
お返しと言わんばかりに、犯罪神へと突っ込み、シェアブレイドを突き刺す。
そしてそのまま、犯罪神もろとも、わたしは──
「なっ、アンタ、何して!!」
「ディーちゃん!? やめてッ!」
「そんな…わたしを、庇って…?」
「ディールちゃん…!」
背中からみんなの声が聞こえてくる。
ああ、ほんとの限界、かも…
──女神化が、解ける。
「バカナ、コトヲ…!」
「バカで、いいよ…あなたは、わたしと一緒に、落ちるんだから」
「オノ、レェェェェ!!」
浮遊感とともに、身体が落下していく。意識が薄れていく。
残された僅かな力で、みんなの方を見る。
ラムちゃんが、こっちに手を伸ばしていた。
ああ、ラムちゃん。ラムちゃん…
…ごめんね…
わたし、約束────
ディールちゃんが、落ちていく。
真っ黒な奈落へと、犯罪神を道連れに、落ちていく。
崖際まで行って手を伸ばす。まだ、まだ助けられるはず。だって、だってだって、約束したもん…!
けど、必死に伸ばした手は、ディールちゃんには届かなくて、
最後にわたしの顔を見たディールちゃんが、わたしに何かを言おうとしていた。それすら届かなくて、
ディールちゃんは、真っ暗な底へと、落ちていく。
「ディールちゃぁぁああああんッッ!!!」
叫び声すらも、空しく真っ暗闇に吸い込まれるだけだった。
犯罪組織の事実上壊滅、及び犯罪神マジェコンヌの討伐。
ギョウカイ墓場から戻った女神達が世界に宣言したその言葉で、ゲイムギョウ界に平和が訪れた。
けれど女神達……わたしたち
表面上は、女神全員が無事に帰還した、となっている。
女神全員──それは、
だから──ディーちゃんの行方不明は、実質なかったことにされた、ということ。
一応女神というカテゴライズにあるとはいえ、表沙汰にならない非正規の女神…みたいな立場だったわたしとディーちゃん。
だからこそ、ディーちゃんの犠牲だけ有耶無耶にして、犠牲ゼロだったと、嘘をついたわけだ。
これに反発したのがネプテューヌちゃん。
いつもハイテンションな彼女とは思えないくらいには、怒った様子でイストワールさんに詰め寄っていた。
……そんなネプテューヌちゃんを見たくなかった、っていうのもあったのかな。そんな彼女を見て、わたしは言った。
「別に…それでいいんじゃない。ディーちゃんだってみんなに迷惑かけるためにしたんじゃないだろうし…」
そう告げたとき、背後からドス黒い感情がわたしに向けられた気がした。
ただそこで切るつもりはなかったから、構わず続けて言ったの。
「……わたしは、ディーちゃんが死んだなんて思ってないし、そう考えたら事実よ。無犠牲っていうのはね」
そしたらその黒い感情も薄れて、ネプテューヌちゃんもそれで矛を収めてくれた。
けどまさかネプテューヌちゃんがあんなに怒るとは思わなかったなぁ…はは。
それからは、各自一度自分の国に戻ることになって、
わたしは……というか、手の空いた女神全員ね。がギョウカイ墓場に行ってディーちゃんの捜索をしようってイストワールさんに頼んだんだけれど、どうやら犯罪神との戦いで墓場との繋がりが不安定になっているとかで当分は危険だから行かせられないといわれてしまった。
勿論グリモにも頼んだけど、こっちも同じ回答。次元の歪みはグリモでも流石にどうしようもないらしい。
だから、今はこの平和を守る為にと、わたし達は尽くしているの。
女神陣営の気が沈んではいたものの、各国に問題とかは特にあったりもしなくて、
それぞれ犯罪組織の残党処理やら、事後処理に追われている。
……と、言ったものの、実はルウィーだけ、一つ問題が発生していたりする。
その問題というのは……女神候補生 ホワイトシスターこと、ラムのこと。
今回のディーちゃんの一件で一番(実の双子のわたしよりも)ショックを受けたようで、あれ以来殆ど部屋に籠りきりで塞ぎこんでしまっている。
ロムちゃんと居辛い、というかラムちゃんが見ていられないとかで、一時的にわたしの部屋──ディーちゃんが使っていた部屋──で寝起きしている程。
ご飯時には出てくるものの、「いただきます」と「ごちそうさま」以外何も語らず目を伏せたまま、食べ終えれば直ぐに部屋に戻っちゃうし。
その他女の子的にも最低限の生活はしているものの、勉強、遊び、クエストなんかには出てこない。
あんまりな籠りっぷりに、緊急処置でわたしがホワイトシスター ラムを演じる羽目になるくらいには。まぁ本来わたしもラムであることに変わりはないんだけどさ(だから当然、誰にもバレていない)
ついでにグリモワールもルウィー教会の一室に籠って出てこない。
でもやっぱりどうにか立ち直って貰うべきだし。…そもそもわたしだって大分辛いっての。
……そうよ、わたしだって…わたしだって…!
……っと、いけないいけない。わたしまでネガティブになってどうすんのよ。
ああもう、これも全部
そう思ってラムの籠る部屋へと突撃を敢行した…んだけど…
「…あれ? ラム?」
部屋を見渡しても、探しても、ラムの姿はなし。
あれぇ、変ね。今朝は居たのに。っていうか今更家出するはずもないだろうし…
「エストちゃん、どうかしたの…?」
なんて不思議に思っていると、後ろからロムちゃんが声を掛けてくる。
少しびっくりしつつも、ラムが居ないことをロムにも伝えてみる。
「ロムちゃんか。それがさ、ラムがいなくって…」
「ラムちゃん…? それならさっき…それに、きっとあそこに行ったんじゃないかな…」
どうやらロムちゃんはラムの行方を見たらしく、さらにどこに向かったかも予想がついてるらしい。
「あそこ?」
「うん。多分だけどね…」
そしてロムちゃんがいうラムの向かった先というのは、
「……わたし達が、ディールちゃんと初めて出会った場所」
「ディールちゃん…」
ふらふらと、見慣れた道を歩いていく。あの日出会った、あの公園に向かって。
もう何度目かわからないけど、それでも…と、わたしはあそこに通い続ける
だって、もしかしたら…またあの時見たいに、ひょっこりいるかもしれないでしょ…?
「……」
ディールちゃんがいたらね、まずはやっぱりお説教しないと。
だって約束破りはダメだもん。めいっぱい怒るんだから。…でもそしたら…
そしたらね、おかえりなさいって言ってあげて、またロムちゃんとお姉ちゃんとミナちゃんとフィナンシェちゃんと、ついでにエストもね、みんなでまたいっしょに……
だから、ディールちゃん
お願いだから…
「帰ってきてよ…いなくなっちゃ、イヤだよ…!」
取り戻した平和。
戻らない一人の少女。
悲しみに暮れながらも、少女は少女の帰りを待ち続ける──
次回、最終章