幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
『まったく、そんなんでどうするのよ?』
『わたし達は──なのよ? もっとしっかりしてよね!』
『ほら、そんな顔してないで。大丈夫よ、────。例え離ればなれになったとしても、わたし達は──』
「…………」
目を覚ますと、もう見慣れてきた天井。
狼のモンスターに襲われてその途中からの記憶がないけど、いつの間にか教会の自分の部屋に戻ってきていたみたい。
「……今のは……」
ゆっくりとベッドから身体を起こしながら、ぼぅっとした頭で考える。
夢。どこか懐かしくて、安らぐような…そんな夢を見ていた気がする。
内容は…もう思い出せないけれど。
暫くそのままぼーっとしていると、コンコンと部屋のドアがノックされ、扉が開かれる。
「…目を覚ましたようね」
やってきたのはブランさんだった。
ブランさんは部屋に入ってきたからベッドから出ようとしたけど、ブランさんが「そのままでいいわ」と言ったので言われた通りにする。
それから体調のこととかを聞かれたから、どこも悪くないと答えつつ、あれから何があったのかを聞いてみた。
話によると、あのクエストはなんとか無事に終わったみたいで、わたしは途中で気を失って今まで眠っていたみたい。
窓の外を見ると、辺りはすっかり暗くなっていた。
そしてなぜだか、わたしはそのままブランさんに色々と質問攻めにされていた。
クエストの時の事はどこまで覚えているか、とか、記憶は戻ってないか、とか。
覚えているのはフェンリルだっけ? ってモンスターに襲われた辺りで、そこから記憶が曖昧。
なくした記憶の方は、相変わらず…
…その質問をしてくるブランさんの目が、やけに鋭くて少し怖かったのが印象的だった。
「……それじゃあ、あの時の事は何も覚えていない、と」
その言葉に頷いて答える。
なんだか真面目な雰囲気だったので、なるべく思い出せるところまでは思い出そうと、今日の出来事をもう一度思い返してみる。
ええと……フェンリルに襲われて、それで、確か…そうだ、ブランさんが変身して倒したと思ったら、ブランさんが吹き飛ばされて、えっと、そしたらラムちゃんが……
…そうだ、ラムちゃん!
「ら、ラムちゃんは? 無事なの…?」
ラムちゃんがフェンリルに襲われかけてたのを思い出して、慌ててブランさんにそう聞いてみる。
するとどうやら無事だったみたいで、わたしはほっと胸をなで下ろした。
…けれど、結局あれはなんだったんだろう。
ブランさんの話によると、あそこにあのフェンリルってモンスターがいたこと事態変だったみたいだし、なによりも、あの…禍々しい? 嫌な感じ
というか、青っぽい色だったのに紫色になってたし…
「…あれは多分、汚染化ね」
そんなわたしの考えを察したのか、ブランさんがあのモンスターの変化について教えてくれた。
なんでも、普通のモンスターがバグによって突然変異してひまう現象のことを、汚染化と呼ぶらしい。
汚染化したモンスターはそれまでに受けた傷が治って、ステータスも元より強化されて、しかも近くのモンスターに感染する可能性も出てしまうとか。
最近は、汚染化の原因のバグが増えてるだとかで、汚染化するモンスターの発見報告も増えてるみたい。
と、ブランさんがなんか黙ってこっちを見つめている。
な、なんだろう。
「あの時起きたことも覚えてなくて、記憶の方も別に戻った様子もない、か…」
そしてなにやらぶつぶつ呟いてから、はぁ、とため息をついた。
…ま、まさか、わたし何かしちゃったの…?
「あぁ…別にあなたが何かをしてしまった、ということはないわ。…むしろ、助けられた方ね」
不安が顔にでも出てたのか、ブランさんがそう言ってくれる。
それなら良かった……うん? 助けられた?
「えぇ…あなたがいなければ、わたしもラムも今頃は……だから、まずはお礼を言わせてもらうわ」
ありがとう、とお礼の言葉を告げるブランさんを見て、わたしはただ困惑していた。
助けたって、え…どういうこと…?
「え、えっと、それはどういう…」
思わずそう聞くと、ブランさんはあれから何が起きたのかを話してくれた。
その出来事はブランさん達も驚いてたみたいだけど、正直わたし自身も驚いていた。
わたしが、倒した……あのモンスターを…?
「本当になにも覚えてないのね…この様子だと聞くだけ無駄か…」
ブランさんのそんな呟きも聞こえない程に、わたしは戸惑っていた。
え、だってわたし、ブランさんには無理言って戦う所を見せてもらったけど、わたし自身は戦い方なんて知らなくて…
「…そうそう、あなた、あの日これを持ち出していたのかしら?」
色々わからないことだらけで混乱していたところを、ブランさんの言葉ではっと我に帰る。
そしてブランさんが出した物を見て、思わず「あっ」と声を上げる。
「…グリモワール…」
ブランさんからそれを受け取りながら、その本の名前を呟く。
これはずっと、この部屋の机に置いてたはずなのに…
そう思って机の方を見るけれど、当然のようにそこにはなくて…
「あぁ、それがあなたの名前の由来だって言ってた物なのね」
「…はい」
本を眺めながら、呟くように答える。
けど、わたしの意識は完全にグリモワールに行っていた。
この本は、何なんだろう。わたしの記憶に関係してるのかな…
けど、表紙だけでもずっと眺めていると、なんだかだんだん吸い込まれそうな気になってくる。
…でも、同時になにか、暖かい感じが…
「私もそんな白い本見たことがないのだけれど……きっとそれはあなたにとって、とても重要なものなのだと私は思うわ」
わたしにとって、重要な、もの…
「どう重要なのかはわたしにはわからないけれど、それは大事にした方が良いかもしれないわ」
ブランさんの言葉に頷いて答える。
もしかしたら、わたしの記憶に関係する唯一の手掛かりかもしれない、もんね…
「…それじゃあ、夕飯の支度が出来る前にお風呂に入ってくるといいわ。今日はあなたも慣れない外出で疲れたでしょうし、ね」
「あ、はい…」
そう言ってブランさんはわたしの頭をぽんぽんと軽く撫でてから、部屋から出ていってた。
「…………」
暫くぼーっとして、それからわたしはブランさんに言われた通りにお風呂へと向かった。
「あ…グリモちゃんだ…」
「ほんとだー、グリモちゃんやっほー!」
着替えやタオルを持ってお風呂場に向かっていると、途中でロムちゃんとラムちゃんの二人に遭遇。
「グリモちゃんも、お風呂…?」
「え……あ…う、うん。ブランさんがご飯前にって、言ってたから…」
「そっかー。じゃーどーせだしわたし達と一緒に入ろっ!」
………えっ?
「一緒にって…お風呂?」
「それ以外に何があるのよ」
「いや、だって…」
今までは……一度目はフィナンシェさんに使い方とか教わりながらだったけど、それからは基本一人で入ってたし、
急に一緒にと言われてもなんだか…気恥ずかしいというか…
「お風呂もそんな狭いわけじゃないし、それに順番で入ってたら時間かかるでしょー?」
「そ、そうだけど…」
なんて、ラムちゃんとそんな言い争いをしていると、ラムちゃんの後ろから、
「…グリモちゃん、わたし達といっしょ、いや…?」
と、うるうると涙目なロムちゃんが。
それはずるい、ずるいよ…
「うぅ……わ、わかった、よ…」
結局折れるのはわたしの方。
あんな、わたしだってきゅんとしちゃうような顔…おっきいおにーさんとかがやられたら即KOに違いない。
ちなみに普段から大体こんな感じで二人に引っ張り回されていたり…
「やった…♪」
「……なんでロムちゃんの言うことはすぐ聞くのよ…」
喜ぶロムちゃんの横でなんかラムちゃんがぶつぶつ言ってたけど、気にしなくていいかな…
そんなこんなで、お風呂には三人で入ることに…
三人で脱衣所までくると、服を脱いでいく。
二人の方は後で何して遊ぶか、とか、どんなイタズラしようか、とか…そんな話をしながら。
……あれ? イタズラの方は止めた方がいいのかな…
「グリモちゃん、はやくー」
「あ、うん」
と、気づいたら二人共脱ぎ終わっていた。
慌ててわたしも着替えをカゴに置いて、お風呂場へ。
「じゃ、身体洗っちゃおー」
「おー…」
お風呂場でも楽しそうな二人を眺めながら、本当に仲良しだなぁ、なんて思う。
双子だからなのかな、ここまで仲良しなのは。
「よーし、それじゃまずはグリモちゃんからねー!」
「グリモちゃん、いくよー…」
「えっ? わぷっ!」
不意に名前を呼ばれて顔を上げると、お湯を掛けられた。
ちょっと熱かったけど、シャワーだし。
それよりも、
「ね、ねぇ、まさか二人が洗う気だったり、するの…? わたし一人で洗えるから…」
「問答無用ー! ロムちゃん捕まえて!」
「りょうかい…!」
「あ、ちょっと!? ほんとにいいから、離して!?」
いつの間に後ろに回り込んでいたロムちゃんに羽交い締めにされて、もがくわたし。
「グリモちゃん今日は色々あって疲れてるでしょー? だから遠慮しないでいいの!」
「するよ! 遠慮するよ! っていうか離してー!」
「逃がさない…(がっしり)」
何、何なのこの連携は! いやぁー…っ!!
※ここから先は音声のみでお楽しみください(?)
「もう、洗ってあげるだけなのにグリモちゃん大げさー。えいえいっ」
「ひぅ! ひ、人に身体洗われることなんか、ないもん…!」
「えー、わたし達はいっつも洗いっこしてるよ? ねーロムちゃん」
「うん、してる…」
「二人は慣れててもわたしは慣れてないの…! ひゃあ! く、くすぐったい!」
「…わたしから見るとロムちゃんとグリモの見分けがすっごくつきにくいんだけど」
「し、知らないよ…!」
「そうなの…?」
「うん、すっごいそっくりさん。…んん?」
「きゃふっ!? ら、ラムちゃん、ちょっと…! どこ触って…」
「…ロムちゃんよりちょっぴり大きいかも」
「えっ…」
「知らないから…! 恥ずかしいからもうやめ…みゃぁ! ろ、ロムちゃんまで…!」
「…むむむー…!」
「ちょっ、ロムちゃ、やめっ…くすぐったいからぁ…!」
「……ずるい!」
「そんなこと、言われても…!? あぅぅ、もう、いやぁぁぁぁぁ…………」
……………
…………
………
……
「ぐ、グリモちゃん、ごめんってばー」
「き、機嫌、直して…?」
「…………(ぶくぶく)」
あれから暫くして。
ようやく開放されたわたしは湯船に漬かり、二人から距離を取りつつ睨みつけていた。
(ちなみに涙目で睨みつけているせいで、逆に可愛かったと後に双子は語る)
「ど、どうしようロムちゃん…完全に怒ってるよ…」
「う、うん…やりすぎちゃった…(おろおろ)」
流石にやりすぎたと思ったのか、反省した様子の二人。
でも許してあげはしない。あんな辱めを受けたんだから当然だよ。
「…もうお嫁に行けない…」
「そこまで!?」
「そ、そうなったら…わたしが貰ってあげるから…!(ぐっ)」
「ロムちゃん!?」
と、そんないつもより数倍も騒がしい入浴。
何度もあんな目に遭うのは流石に嫌だけれど、この騒がしさは…嫌いじゃないかも。
「ろ、ロムちゃんは渡さないんだから!」
「じゃあ、ラムちゃんもいっしょにおよめさん…」
「えっ、え? ろ、ロムちゃんもしかしてのぼせてるんじゃ…!?」
「えへー…」
……こんな毎日が、ずっと続いたらいいのに。
近い内に何かが起こる…そんな不安を感じながら、わたしはそう祈っていた。
…ちなみに、この日以来二人とお風呂に入るのが少しトラウマになったのは、ここだけの話。