幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
またディールからの呼び方を[フーちゃん→フーリ]に変更しました。
「あぅ、ぐ…!」
今までのは加減してたとでも言うような速度で射出されてくる黒剣。
それはまるで嵐のように、わたし達へと降り注いでくる。
皆それぞれ回避・防御行動を取るものの、どうしても防ぎきれず悲鳴が聞こえてきた。
それなのにわたしは、わたしだけはあまり被害というか、ダメージが少ないような気がして。
「くっ…(当たっても痛いには痛いけどそこまで大きなダメージじゃない…?)」
それでも障壁で剣を防げばすぐ壊されるし、何がどうなっているのかわたし自身もよくわからない。
それならみんなを助けに行こうと思っても、自分が避けたり
違和感に塗れたまま暫くして、剣の嵐が止んだ。
「っ! みんな!?」
慌ててみんなの状況を確認する。
「う、ぅ…」
「は、ぁっ…なによ、これ…」
「ちから、入らない…(ぐったり)」
みんな傷だらけで、女神化も解けて地面に倒れ苦しそうにしている。
…って、わたしも女神化が解けてる…!
「ちょ、ちょっとエスト! なんで、あんた…!」
「ぐっ…うぁ……こられくらい…どってこと…!」
「え、エスちゃん…!?」
中でもエスちゃんがひどい怪我で、服の所々に血が滲んでいる。
近くにいるラムちゃんの怪我が他のみんなより軽いし、もしかして…
「はっ…なんか、身体が勝手に、ね」
「バカ! だからって、こんな…!」
エスちゃんがラムちゃんを庇った…のかな。
今すぐ駆け寄りたいくらい心配だけど、クロムから目を離す訳にも…!
「…うぅーん? そっちが元気そうなのは身を呈してくれた騎士さんのお陰なのはわかるけれど…どうして
不思議そうに首を傾げるクロム。そんなこと言われたって、わたしにもわから……
……いや、待って。クロムのあの攻撃って、ネガティブエネルギー由来の攻撃…だよね。
ネガティブエネルギーが闇でシェアエネルギーが光だとして、互いに相反する関係だったなら、結果的に両方持ってるわたしには効きが薄かった…とか?
クロムが抜けたあとも、暴走起こすくらいにはわたしの中に黒い力が残ってるみたい、だし…
って、深く考え込んでる場合じゃない。今やるべき事は…!
「ラムちゃん! みんなを連れて下がって、回復を!」
「えっ!? う、うん。ディールちゃんは大丈夫なの?」
無事そうなラムちゃんにそう伝えると、心配そうに聞き返してくる。
切り傷とか軽い怪我はあるけど…特に問題はない。大丈夫。
「わたしなら平気…だから、お願い!」
「……わかったわ。無茶はダメだからね! 絶対よ!」
「…うん!」
表情は少し不満げだったものの案外あっさり言うことを聞いてくれるラムちゃん。
ちょっとは食い下がるかなと思っていたけど、それならそれでスムーズだから、良い。
「…ゼッタイ、守る!」
ラムちゃんが負傷メンバーを下げたのを確認して、ひかりのかべ──魔法障壁を展開。
みんなが立て直すまで、凌ぎきらないといけない。
「くすくす…ひとりでワタシの相手をするの? ワタシが甘く見られているのか、ただの無謀か…どっちかしら」
「…すぐにわかるよ」
くすくすと余裕そうな表情を変えないクロムに言いながら、魔法を発動する。
「はああああ…っ」
意識を集中させて、魔力を集める。宙を漂うものから、
つまり、さっき作った氷樹なんかも根本から折れて、わたしの周りに飛んでくる。
辺りの氷樹が集まったのを見計らって、杖を地面に突き立てる。
ピシッ…ミシッ……と音を立てて、氷が砕けていく。
「ここからはもう、わたしの領域……フロストミスト・テリトリア」
砕けた氷が、魔力が、冷気の霧となって辺りを包み込む。
フリージング・テリトリアが地形を変える魔法であるならば、こっちは場そのものをわたしの、わたしだけのものとする。
場を完全に自分のものにするくらいには自信のある最上級レベルの魔法。…欠点も当然あるけれど、今は気にしてる場合じゃない。
「アハッ、アハハハハ! しっかり成長しているってことね! 良いわ、素敵! そうでなくちゃ!」
どこから目線での言葉か知らないけど、テンションの高いクロムに反してわたしの思考は氷みたいに冷え切っていた。
内側からひんやりと冷たいのが広がるような錯覚、でも寒くはない。
喜びも、怒りも、恐怖もない。感情が凍結でもしたような、心が凍り付いたような。不思議な感覚。
「───」
杖をポーチにしまいながら左手をかざし、クロム周囲の霧から氷の刃を生成、射出。
同時に右手に冷気を集めて氷刀を作り、駆け出す。
「ふふっ」
クロムの力は魔力由来じゃないからか、フロストミスト・テリトリアじゃ抑制はできないようで、
宙に黒剣を作り出して氷の刃を相殺し、相手も剣を手にして刀を防ぐ。
それだけでもわたしの氷刀は割れる程に、脆い。けど、気にする事じゃない。
「───」
すぐさま手を下段脇に構える様にしながら、次の氷刀を生成、斬りつける。
「質より量なのかしら? っと」
パキン、バキン、斬る度に刀が割れ、砕け、その度に新しい刀を手に斬りかかる。
斬撃の合間に周囲からも氷刃を射出する。休ませる時間は与えない。
「っ、く…フフ、アハハハハッ! 楽しいわ! ねぇ、
「───」
黒剣二刀で狂気的に笑う
氷を操り何も感じないとさえ錯覚するほど無な
なんにせよ、クロムはわたしに釘付け。これで、いい。
「っ…はああ…!」
「そう、もっと、もっとよ!」
「ッ…!!」
何本か飛んできた黒剣で身体を傷付けられても止まらない。止まるわけにはいかない。
まだ、まだ…わたし一人で倒すくらいじゃないと…
「フフ、焦らないで。もっと楽しみましょう?」
と、クロムは後ろに飛びのくようにして逃げる。
追いかけようとするものの、周りから飛んでくる黒剣に阻まれる。
……逃がさない。
「っぁう!」
後ろも見ずに後退するクロムの背後に氷柱を生やすと、クロムは背中を打ち付けて止まる。
すかさず追撃の為に、氷刀を手に駆ける。
クロムが周囲に黒剣を展開し放ってくる。
霧から生み出した氷刃で周りから飛んでくる黒剣を打ち落とす。
そして、一回り大きい太刀型の氷刀を…振り下ろす。
「やあああッ!」
「っぐ…フ、フフっ」
まさに両断される瞬間、そのはずなのに、
クロムは、笑った。
「言ったでしょう? 焦らないでって」
「っな、ぅぐあっ!!」
わたしの太刀が届く前に、クロムは手から黒い魔法弾を放つ。
ずっと黒剣での攻撃ばかりで他の攻撃を予期していなくて、空中で、かつ行動を起こしている最中のわたしは黒魔弾をモロに直撃してしまう。
お腹に強い衝撃と痛みが走る。冷たい心が溶けていく。
「ぅ…そん、な…」
霧が晴れていく。魔力が霧散するように、消えていく。
つまりは、時間切れ。
っく…いくらなんでも、こんなに早いなんて…
「さて、それでカードは全部?」
「っ…そんなわけ、ないでしょッ!!」
魔弾を受けた箇所以外、というか全身の痛みを堪えながら起き上がり、氷剣鋼剣を織り交ぜて、
いや、もううまく魔力を操れてなくて剣なんて呼べる形じゃない。ただの塊だけど、それでも放つ。
だって、退く訳にはいかない…!
「……ふうん。すごいのね、昔はあんなに弱虫だったのに」
「ふぅ、ぐ、っ…何を、言って…!」
こっちの攻撃を軽く避けながら、黒い剣……ではなく、魔法弾で反撃してくる。
加減でもしているのか。なんて考える余裕も、身体も動す余裕もなくて、何発か当たって身体の痛みが増す。
痛い、痛い。耐えろ、耐えろ。
「そうでしょう? ラムちゃんがいないと、何もできなかった。戦うことだって怖かった。知ってるわ、ワタシはアナタなんだもの」
「うる、さい…っあぁ!!」
身体が言うことを聞かない、バランスを崩して転んでしまう。
痛い、もう、嫌。駄目、耐えろ、耐えて……
「だって、今だって──」
わたしが今、頑張らないと…皆を、ラムちゃんを、守らなきゃ……
痛みに耐えて、力を振り絞って、顔を上げて──
「──痛くて、怖くて、たまらないんでしょう?」
そうしたら、黒い剣が、
たくさんの黒い剣の先が、わたしに向けられて、いた。
「──っ、ひ…ッ!!」
思わず、か細い悲鳴を上げた。
辺り一面、剣、剣、剣、剣……
あんなの、避けられるわけ、ない。
あんなの、飛んで来たら、耐えられない。
耐えられなかったらどうなる? そんなの決まってる。
──死ぬ。
嫌…いや、やだ…やだ…っ!
痛いのもやだ、怖いのもやだ…! 死ぬのもやだ…!
わたし、死にたく、ない…っ!
「フフ、なんだ。変わってなかったのね」
恐怖で頭が真っ白になって、遠くでクロムの安堵したような落胆したような声が聞こえた気がして、
そして、黒い剣が、わたしに向かって───
「させる、かぁああああああッッ!!!」
もうダメだと、諦めて目を瞑った。その時だった。
何かが凍るような音と、叫び声が聞こえてきた。
その声は、聞きなれた、けれど聞いただけで怖かった気持ちが無くなっていくような、そんな声で。
閉じた目を開けてみると、そこにはやっぱり見慣れた格好の、ピンク色のコートに身を包んだ、
「……ラム、ちゃん…?」
ラムちゃんが、立っていた。
「間に、あった…! ディールちゃん、大丈夫!?」
「ぁ……」
氷の壁を目の前に作り、クロムの攻撃を防ぎがら、ラムちゃんはわたしの身を案じるように言った。
ああ、やっぱり。次元が違っても、ラムちゃんはわたしにとっての──
「…うん。生きては、いるよ」
「…ん! ならいいけど、そんなになるまで一人で戦うなんて…後でお説教だからね!」
「……うん、ごめんなさい」
呑気に話してる場合じゃないなんて、わかっているのに。
酷く安心している自分がいる。
「ちょっと!そこはわたしが颯爽とディーちゃんを助けるとこでしょ!?」
「っていうかいくら一番ダメージが少ないからってアンタ一人で突っ込んでんじゃないわよ!」
「ま、まぁまぁ二人とも…」
少し遅れてエスちゃんにユニちゃん、ネプギアちゃんもやってきて、わたしはラムちゃんとユニちゃんに連れられて下がり、代わりにエスちゃんとネプギアちゃんが前に出る。
「わ、わわ…ひどい怪我…! すぐ治すから…!」
「あ、ありがと…ひぅっ!」
ラムちゃん達の救援に呆気に取られてたせいで意識から抜けてたけど、オロオロしながら回復魔法を唱え始めるロムちゃんに言われると途端に痛みを自覚し始めて、びくりと震える。
って、わたしもだけど…
「わ、わたしよりも、ロムちゃん、ユニちゃん達は大丈夫なの…?」
「まぁね。女神化が解かれる位の量のダメージではあったけど、怪我自体はラムと真っ先にラムが治したロムのおかげで大分回復してる。今のアンタよりは元気よ」
「そ、そっか…」
わたしの頑張りは功を成したみたいで、少し安心。
少し痛みが引いてきて、回復速度を早める為に自分でも回復魔法をかけ始める。
「その、ラムちゃんも…ありがとう」
「お礼なんていらないわ! ディールちゃんが頑張ってくれたおかげでどうにかできたんだもん。…頑張りすぎだけど!」
……うん。やっぱり、そうだ。
確かに戦うのは今でも怖い。それは否定しないけれど、
でも、そう。わたしは一人で戦ってるんじゃないんだ、みんながいっしょにいてくれる。
それだけで、怖いのはへいき…へっちゃら!
「……そろそろ、前に戻らなくちゃ」
「大丈夫? 無理してない…?」
「し、してないよ、信用ない…。流石に完全回復とまではいかないけど、そんなに待ってたら今度はエスちゃんとネプギアちゃんが危ないから」
ロムちゃんと二人がかりで治したおかげで、大分楽になった。
立ち上がって、腕をぐるぐる回す。…うん、大丈夫。
「今はまだ何とか抑え込めてるみたいね、それでも時間の問題かもしれないけど」
「…ん、そうね。なら、行こ」
「うん。みんなで、いっしょに…!」
改めて、行こう。今度こそ決着をつけるんだ…!
「はぁっ!」
戦線復帰してまず初めの一撃、魔法で加速した抜刀斬りを浴びせるも、これをクロムは手元に黒剣を呼び出して防いだ。
「っ、流石に無理か…」
「うふふ、おかえりなさい。必ず戻ってくるとは思っていたけれど、随分早いのね?」
「それは…どう、もッ!」
離れ際にもう二太刀浴びせつつ、エスちゃんらの近くまで飛び退く。
「ディールちゃん! もういいの?」
「うん。二人も、ありがとう」
「何言ってんのよ、姉妹でしょ? 気にしなくていいのよ!」
「わ、私は姉妹じゃないけど…でも、無事なら良かった」
様子をみた感じ、二人ともそこまで消耗した様子もなさそう。
なら……
「エスちゃん、ネプギアちゃん。あのね──」
「せぇりゃッ!」
エスちゃんが大剣を手にクロムへと肉薄する。
「そぉれそれっそれぇッ!」
「っ…重い、のだわ…! そんなにパワータイプだとは思わなかったわ、ね…!」
大剣とは思えないくらい軽々振り回して連撃を叩き込んでいくけれど、クロムは黒剣をクロスさせるようにして受け切っていく。
「チッ、なら!」
防御が硬いと判断してか、エスちゃんは大剣から手を離した。
何をするのか、と思えば、そのまま何も手に持たないまま拳を握り、
「おりゃあッ!」
「!? うぐっ!」
左拳でボディブロー! まさかの素手攻撃!
なんて言葉にしたら数段階踏まえてそうに見えるけど、実際の無手攻撃への移行は一瞬。
クロムも防ぐ前にまともに食らって、小さな身体が少しだけ浮かぶ。
「今!」
「アイススパイク!!」
そしてすかさずエスちゃんが叫べば、ラムちゃんがクロムの足元から氷柱を生やし、打ち上げた。
「ユニちゃん!」
「えぇ!」
さらにラムちゃんからユニちゃんへと続いていき、ユニちゃんが銃に弾倉をセットして構える。
「ワンポイントバレット! 全弾持っていきなさいッ!」
そしてそのままダダダダダッ! と銃を連射。
弾丸の嵐がクロムを襲う。
「く、ぐ、ぅ…! まだ、なの…!」
「させない…! はぁあっ!」
銃弾を浴びながらも反撃の黒剣を飛ばしてくるクロムだけど、その攻撃は全部ロムちゃんの魔法で凍らされ、無力化されていく。
「まだわたしのターンは終わってないっての!」
再びエスちゃん、今度は大きな…手裏剣? を両手に一つずつ、計二つをクロムへと投擲する。
「
「うぅぅ…!」
二つの手裏剣は意思でも持っているかのようにクロムの周りを飛び回り、何度も斬りつけ刻んでいく。
それはまるで、嵐のよう。
「ロムちゃん、ラム!」
「わかってるわよ! ロムちゃん!」
「(こくん)…捕まえる!」
手裏剣で怯んだ隙を逃さないまま、ロムちゃんとラムちゃんが二人で魔法を唱え、クロムは空中で拘束魔法陣に囚われる。
「っ! く、この…!」
「さぁ、ネプギア、ディール! ここまでお膳立てしてあげたんだから、キッチリ決めて来なさいよ!」
そして、最後はわたし達。
最後の力と聖剣の力で女神化した状態で、わたしとネプギアちゃんは構える。
「ネプギアちゃん…全力で加速魔法かけるからね」
「うん、お願いね、ディールちゃん」
ネプギアちゃんといっしょに、聖剣・シェアブレイドを持ち、飛翔する。
飛びながら、自分とネプギアちゃんに加速の魔法をかける。かける。かける──どんどん速度が上がっていく。
ぐるぐると飛び回りながら速度と高度を稼ぎ、そして、クロムへと目掛けて突撃する!
「私達、皆の想いを込めた一撃!」
「限界も超えて、あなたを、倒す…!」
「ぐ、うぅぅうううっ!!」
拘束を黒剣で解こうとしながらクロムがもがく、拘束が解ける。
けど、逃がさない! これで──終わり!
「未来を、きりひらけ──」
『グレイシー・スターッ!!!』
シェアブレイドが輝き、その一撃は一条の流星のように、
クロムの身体を、貫いた。
………
……
…
「…、……?」
ふわふわと、何も無い空間。
気が付いたらわたしはそんなところにいた。いや、漂っていた?
あれ? わたし、確かネプギアちゃんと一緒にトドメの一撃を……
「ええ、その認識で間違ってないのだわ」
「わっ!?」
突然聞こえてきた声。
びっくりして振り返ると、そこにはクロムがいた。
というか間違ってないって、じゃあ……
「お、おばけ…!?」
「…もとよりお化けというか、不安定な存在だったと思うけれど」
真面目に切り返されて、それもそう、かな? と納得。というか自然に思考を読まれているけど…多分精神空間的なあれだから、だよね。ネプギアちゃんもみんなもいないし。
…そもそもクロムってどういう存在なんだっけ。
「クロム…安直ね」
「…む。そう言うなら、名前あるの?」
「名前? そうねぇ…」
クロムって呼び方はこっちで決めた事だし、なら本当は別に名前でもあるのか、と思って聞いてみれば、クロムはううんと考え込む素振り。
…考え込んでる時点で無いんじゃ。
「失礼ね、あるわ。確か……コー…ええと…フリー……ううん……フーリ?」
「フーリ?」
「ええ、そう。フーリ。本当はもっと長ったらしいのだけど、呼称名とするならこれ、になるかしら」
なんか本人でも覚えてるのかどうか微妙な雰囲気だったけど…
フーリ、フーリかぁ。
「まぁ、好きに呼んだらいいのだわ」
「わ、わかった。えっと、じゃあ……フーリ」
「で、わたしがどういう存在なのか、だったかしら」
クロム…改め、フーリは話を戻すように言葉を続ける。
どういう存在か、うーん。本とかでよくあるやつなら、内なる闇とかそういうあれかな。
「全く違う…とも言い切れないけれど、簡潔に述べるならば、複数の要因が重なった結果に生じたバグ、かしら。まぁ大体はグリモワールが原因」
「バグ…え、グリモワールが…?」
ここで出されたグリモワールの名前に、少し驚く。
まさかのグリモワールが黒幕でした、みたいなやつ…?
「うーん、黒幕ではないの。ただ、あなたの身体に蓄積したネガティブエネルギーと、グリモワールの特異な魔力。これが合わさって変異した結果、ワタシが生じた。もしかしたらラムちゃんの方にもワタシみたいなのがいるかもね?」
ああ、なるほど。そういう事なら確かにグリモワールが原因だって言われても納得できる、かも。
「あなたが都市に戻れずに、どんどん溜め込んでいくネガティブエネルギーとあなたの負の感情を、もぐもぐと、食べていたのよ」
両手でがおー、と獣の真似なのか、変なポーズを取るフーリ。
ポーズはスルーするとして、負の感情…
「そうね、あなたが持つ主な負の感情は、恐怖。そういった感情を食らっていたの、もぐもぐってね。で、色々あって犯罪神の依代にされて、それからは大体知っているでしょう?」
「犯罪神の意思に沿って、世界に仇なした…」
「そうね。でも、自分で歩いたり人と話したり出来るのは、少しだけ楽しかったのだわ」
語るフーリの表情は、なんとも言い難い、不思議な表情だった。
嬉しいのか…寂しいのか、後悔しているのか…
「…さて、そんなところよ。理解出来たかしら?」
「ええと、まぁ、うん」
「曖昧ね…でもいいわ。これが最期だもの、忘れたって問題はないはずよ」
…? 何を言ってるんだろうこいつは。
「…何? その顔は」
「何、はこっちの台詞だよ? 何満足して消える気でいるの」
「…?」
今度はフーリの方が何言ってるんだこいつみたいな顔をする。
しょうがない、ハッキリと言ってあげようか。
「
「…自分が何を言ってるか、わかってる? 犯罪神の依代にもされたような、自分の負の面とも呼べるワタシを、受け入れる?」
「そう言ってるでしょ? あ、拒否権はないよ? わたし達が勝ったんだから、敗者は勝者に従ってね」
「そういう問題じゃ…」
知らない知らない。だって少し前から決めた事だもん。しーらないもーん。
「急に子供ぶって誤魔化すなんて…」
「ふんだ。本当は消えたく無いくせに」
「何を…っ」
わたしがフーリを受け入れることにした
あ、初めて余裕なさそうな所見たかも。
「戦ってる時とか、時々寂しげな顔してたでしょう。気付かれないと思ってたの?」
「ぐっ、ワタシが、そんな顔を…?」
本人でも無意識だったのか戸惑うフーリ。
だって、ね? わたし…つまりロムの精神から分かたれたってことだし、当然ロムちゃんみたいな純粋さ(客観的に見てそう思ったこと)を引き継いでいないはずもないだろうし。
台詞回しなんか絶対あれだよ、昔読んだ童話の絵本に影響されてるでしょ。不思議の国のやつね。
「同情とかじゃないけどね。ただ、本当にわたしなんだなって思っただけ」
「……」
それに……なんだか敵対してたのも、犯罪神のせいだった気も…それは流石に甘すぎるかな。
「本当に、甘々ね。マカロンよりも甘いのだわ」
「…わたしマカロン食べたことあったっけ」
「……ないかも」
……
「こほん。とにかく、わかったね? 勝手にいなくなろうだなんて許さないもん」
「…とんだわがままに育ったものね」
「あなた育ての親でもなんでもないでしょ!」
なんだか途端に会話の年齢レベル下がった? と言われても仕方ないやり取り。
けど、不快とかそんな気持ちはなくて。
「…じゃあ、これから──ううん、これから"も"よろしくね、
「ふぅ、仕方がないからよろしくしてあげる事にするのだわ、
右手、左手を合わせて、繋いで、
わたしは、ワタシを受け入れたのでした。
〜パロディ解説〜
・へいき…へっちゃら!
「ワイルドアームズセカンドイグニッション」における「リルカ・エレニアック」及び
「戦姫絶唱シンフォギア」における「立花響」の口癖より。
作者的には響の台詞だと思ってぐぐったら元ネタの元ネタが存在してびっくりでした(なおシンフォギアもそこまで詳しいわけではない)
・ワンポイントバレット
「ファンタシースターオンライン2」の
ちなみにネプテューヌV2でもユニが同名の技としてパロディをしていたりする。ヒット数も原作(PSO2)と同じ12ヒット技でした。
・まだわたしのターンは終わってない~
二度目の使用となる「武藤遊戯」の台詞。
このセリフってバトルものだと結構使いやすいですよね、ね?
・旋刃操乱・暴風
「四女神オンライン」より忍ラムの覚醒奥義から。ボイスから拾ってるので漢字は適当だったり(どっかに乗ってて見逃してるだけかもですが…)
あ、暴風はエストオリジナルなので原作にはありません。あくまで旋刃操乱の部分がパロディですね。
・限界も超えて~
・未来を、きりひらけ~
・グレイシー・スター
三つ合わせて、「超次元ゲイム ネプテューヌmk2」の主題歌「きりひらけ! グレイシー☆スター」の歌詞・曲名から。
書き始めてすぐのころから、トドメの技にゲーム主題歌をどうにか入れたいなーと思い続けて数年…ようやくここまでたどり着けました。いやはや、時間かけすぎだろうに…