幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「それっ、それそれぇッ!」
大剣を振るい、マジックへと連撃を叩き込んでいく。
相手の大鎌とぶつかり合う度に、金属音が鳴り響く。
「ほらほらどうしたの? 守ってばかりじゃわたしは止まんないよッ!」
「…チッ!」
弾かれる大剣の刃を切り離してすぐに、長剣の刃を纏わせて突きを放つ。
すると防ぎきれないと判断したのか、マジックは舌打ちしながら飛び退いて避ける。
「逃しませんわ! シレットスピアー!」
「…ゲフェーアリヒシュテルン!」
すかさずベールおねーさんとおねーちゃんが遠距離技で追撃するけど、どっちも全部鎌で薙ぎ払われちゃった。
四天王最強って言っても前からこいつだけ妙に強かったのよね、なんでだろ。
これが慢心、環境の違いってやつかしら?
「エストちゃん、がんばって…!」
「わっ。あ、ロムちゃん強化ありがと! その調子で援護も任せたわ!」
「う、うん!」
ロムちゃんからの強化魔法を受けながら、相手を観察する。
「たぁっ! そこぉっ!」
「ふん…以前よりは強くなったようだが、無駄だ」
「くぅ、なんのー!」
ネプテューヌちゃんが仕掛けた攻撃を払い、弾きつつも鋭い一撃を放っていくマジック。
その実力は流石守護女神とネプギアを一人で倒しただけはある、ってとこだけど…
マジックがネプテューヌちゃん達三人に気を取られている隙に、気配を殺して剣での刺突不意打ちを仕掛ける。
「…むっ!」
けれど寸前のところで見つかり、避けられた。
ちっ、感覚も反応速度も高いって訳…
「…勝ち目が無いと見て、姑息な手段に出るか」
「はっ、姑息ぅ? 決闘じゃあるまいし、命の取り合いに卑怯も何もないって、のッ!!」
「くっ…!」
鎌の一撃を飛び退いて避けながら、爆裂クナイをばら撒くように打つ。
爆発魔法の印の入った紙を付けたクナイはマジックの周りで連鎖するように爆発を起こしていく。
これでやられてくれたら楽なんだけど…そんなはずはないだろうし。
犯罪神戦の為にシェアエネルギーの消費は抑えないといけないけど、こいつは手を抜いて勝てる相手じゃない。
それに、犯罪神との
「おねーちゃん達! 巻き込まれないように気をつけてよね!」
注意喚起するように叫び、杖をしまって意識を集中させていく。
沢山の魔力を、左手に…!
「奥の手、見せてあげるわ…!」
そしてわたし、奥の手を抜き放った。
「来なさい、フロストカリバーッ!」
エストちゃんが魔力を左手に集め出すと、それはだんだんと剣のかたちを作っていって。
それが完全に剣のかたちになる前にエストちゃんは腕を振りかぶり、そして振り下ろした。
冷たい魔力がどんどん集まって行きながら、その一部が放出されてピンク色の氷の波になってマジック・ザ・ハードに襲いかかる。
「ふん…」
真正面から目に見える速度の攻撃だから、マジックは大きな鎌の一振りでかんたんにに氷を一閃して消してしまった。
でも、エストちゃんはもう次の行動に移っていた。
「せやぁっ!!」
氷のせいで広がる冷たい霧。
そこから飛び込むように、そしてマジックの元へ飛び出すようにエストちゃんは突っ込んで、マジックへとピンク色の氷の大剣を振り下ろす。
「目くらましか。だが無意味「かはアンタが決める事じゃないッ!」む…ッ!」
あう…視界悪いし、エストちゃん速くて目で追うの大変だけど…がんばる…。
エストちゃんの一撃を受け止めたマジックが反撃をする…前に、エストちゃんは次の一撃をくりだしていく。
氷の大剣を振り回すほどに、空気が冷たく白くなっていく。
「それそれぇ! ちゃんと受けなきゃ死んじゃう、よッ!」
「チィッ!」
ガキン、ガキン! と甲高い音が鳴り響く。
エストちゃん、すごい……けど、あんなにたくさんの魔力…ちょっと心配、かも。
「はー、すっごいね、エストちゃん」
「大切な妹を守るために身につけた力…次元の旅を経て、もしかしたら守護女神クラスの力を得ているのかも知れませんわね」
「……そうせざるを得ない状況だった、というのもあると思うけど……ラム…」
お姉ちゃん達三人も、エストちゃんの強さに驚いてる。
でも、そっか。エストちゃんは、ディールちゃんを守るためにあそこまで頑張ったんだよね。
離れ離れになって、そうしてまで、守るために強くなろうとして…
「って、見とれてる場合じゃないよ! エストちゃんだけに任せてないで、私達もやらなきゃ!」
「…そうね。いつまでも
ハッとしたようにネプテューヌさんが言う。
今のエストちゃん、近寄ったら危なそうだけど…そんなこと言ってる場合じゃない、よね…(ぐっ)
「お姉ちゃん…!」
わたしも、お姉ちゃん達三人に向けて強化魔法をかけていく。
…わたしだって、守られてばっかりはやだけど。今はこう言うかたちで、みんなの力になる時だって思うから。
前に出て戦うだけが戦いじゃ、ない(ふんす)
「あら…良い援護ですわよ、ロムちゃん」
「えへへ……エストちゃんの攻撃に、気をつけてね…?」
「ええ。さすがにこんな場面で味方にやられるなんて嫌だもの。……ゲフェーアリヒシュテルン」
お姉ちゃんが担ぎ直したハンマーで、魔法の玉を打ち出していく。
それに合わせてネプテューヌさんとベールさんも走り出した。
「あはは、あははははっ! まだまだこんなもんじゃないでしょ!?」
「小娘が…図に乗るなッ!」
「おお、っと!」
エストちゃんの方はと言うと、マジックの反撃をひょいっと避けながら、なにかを投げつけていた。くない、だったっけ。
それより、エストちゃん、もしかして…
「くっ…」
「休む暇は与えませんわ!」
「おうともー! 私達はラスボス前で犠牲になる系女神じゃないんだからねー!」
お姉ちゃんとエストちゃんの飛び道具を弾いてすぐに、ネプテューヌさんとベールさんの攻撃。
マジックをどんどん押し込んでいく。
「舐めるなァッ!」
「ねぷぅっ!?」
「「ネプテューヌ!!」」
ときどきマジックの反撃に怪我をしても…
「だ、大丈夫…! えい!」
「っ、おお…ありがとロムちゃん!」
すぐにわたしが回復して、攻撃再開。
そんな感じの戦いが続いていくと、マジックが疲れ始めたように見えてきた。
「おのれ…女神…!」
「わたし達だって、いつまでもあの日負けた時のママじゃないってこと、理解したかしら」
「そろそろ限界が近いのではなくって?」
「くっ…ならば…!」
追い詰めて、もうすぐで勝てそう…そんな時だった。
マジックが消えたと思ったら、鎌を振りかぶってわたしの前に…
「ひっ…!」
「まずは…貴様だ」
逃げなきゃ…
そう頭で考えても、急には動けなくて。
あまりの怖さに、思わずきゅっと目を瞑ってしまう。
……でも、痛みとかはなにも感じなくて、代わりにがぃん、って音がすぐ近くから聞こえてきた。
恐る恐る、閉じた目を開けてみると…
「…何っ!」
エストちゃんがわたしの前にいて、氷の大剣で鎌を受け止めていた。
「残念だけどねぇ…そんな誰でも想像つくような工法狙いは……わたしの前じゃ120%通用しないってのッ!」
そう言って、エストちゃんは大剣を振り上げてマジックの鎌を弾き飛ばした。
「ぐっ!」
「もひとつ、オマケッ!」
「何、ぐああッ!」
そのまま大剣を振り下ろして剣先が地面で砕けたかと思うと、バチバチと電気が広がってマジックを襲った。
エストちゃんは感電する前に跳び退いたみたいで、そこはあんしん…?
「ロムちゃん、おねーちゃん!」
「…! う、うん!」
「えぇ。…私の妹を泣かせた事、後悔させてやる! いくぞネプテューヌ、ベール!」
「」
エストちゃんがわたしとお姉ちゃんを呼ぶ。
ちょっとびっくりしておろおろしそうになったけど、攻撃のチャンス…ってことだよね。
わたしは杖を構えて、魔法で大きな氷のキューブを作り出す。
これで…!!
「「「はああああああッ!!」」」
「いっけぇぇぇ!!」
わたしがキューブを放つと同時に、お姉ちゃん達も一斉に飛びかかって行く。
斬撃と打撃と突きと魔法。全部が身動き出来ないマジックに直撃していった。
「ぐ…ォォオオオ…ッ! おのれェ…!!」
一斉攻撃でボロボロになったマジック。
もう勝負はついた、そう見えたけど、マジックの魔力がぐんぐん高まっていく。
まだ、なにかする気なの…!?
「しぶとい! いい加減に…倒れなさいよッ!」
でも、マジックが何かをしようとする前に、エストちゃんが鋼の剣でマジックを一閃。
「ガッ…! 犯罪神様…申し訳…ございません……」
そのままマジックはばたりと地面に倒れて、動かなくなった。
ふぇぇ、なんとか倒せてよかった…けど…
怖かった気持ちを吐き出すように息を吐きながら、エストちゃんの方へと向かう。
「ふん、ざまぁないわ、ね…っとと」
「え、エストちゃんっ…!」
そして思った通り、エストちゃんがふらついて倒れそうになったのを見て、慌てて支えてあげた。
「わ…ロムちゃん?」
「気付かれないと、思ったの? 無理は、だめっ…!」
「え、あー…やっぱバレてた?」
「むー…!!」
「あっいひゃい、いひゃい! ひっぱんないでぇ!」
あんまり反省してない様子のエストちゃんを見て、思わずほっぺを引っ張ったりしていた。
「ロムちゃんはどうして怒っていますの?」
「多分、エストが無茶をしたからよ。さっきの様子からして魔力酔いする程の魔力を使ってたみたいだし」
「魔力酔い?」
「一度に大量の魔力を必要としたり、継続して消費する魔法を使うと起こる事がある現象よ。要は魔力ハイね」
お姉ちゃんがネプテューヌさん達に説明している、魔力酔い。さっきまでのエストちゃんの様子はそれのせいであんな風になってた、という事。
前に、ミナちゃんの魔法の授業の時、ラムちゃんが同じようになって練習場がすごいことになった事があるから、わたしも知ってた(そのあとミナちゃんに叱られてた)
お姉ちゃんが言うように、魔力の使いすぎで元気になっちゃうだけで、なってる時に悪いことはないんだけど…
終わった後に、えっと…反動? で、今のエストちゃんみたいになる。ミナちゃんが言ってたし、ラムちゃんも怒られながらぐったりしてた。
「だ、だって、あんまり時間かけるわけにもいかないし、かといってあいつ強かったし!」
「むぅー!!」
「いひゃいー! ろむひゃんほっへひっぱらないでー!」
エストちゃんが言うように、マジックはすごく強くて怖い敵だったし、わたしが危ない時に守ってくれたりもした。それは、いいの。
でも、それと、無理をして身体壊しそうになるのは、別!
「あー、ロムちゃんが激おこみたいだけど、とりあえずネプギア達と合流しない?」
「そうね。無事だと良いけれど」
「その心配を晴らす為にも、進みましょうか」
「…ロム、エスト! いつまでも遊んでいると、置いていくわよ」
エストちゃんのほっぺたをぐにぐにしていたら、お姉ちゃんに叱られた。
ラムちゃんとディールちゃんが心配だけど…きっと大丈夫、だよね。
「うん。今、行くよ…?」
「いひゃあああ! ほっへはなひへ! ひひふははいへー!!」
無理をしたエストちゃんはおしおきとしてもう暫くぐにぐにの刑にかけながら、お姉ちゃん達の後を追う。
……ラムちゃんとエストちゃん。
もちろん、わたしにとって一番は姉妹でずっと一緒だったラムちゃんだけど、エストちゃんはラムちゃんよりも危なっかしくて、放っておけない、って思っちゃう。不思議。
今度、エストちゃんが暴走しないようにって、ディールちゃんとお話しないと、ね…?
〜パロディ解説〜
・わたしの前じゃ120%通用しない〜
台詞そのものはパロディではないものの、イメージとしては『ファンタシースターオンライン2 EP4』よりオークゥ=ミラーの口癖(?)が元ネタ。
ちなみに彼女の相棒の中の人がロムちゃんといっしょだったりします。