幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.2 降り注ぐタコ、夜の星の下で

「ああ、ネプギアさん! 丁度良いところに…」

 

ある日のこと。

たまたま候補生組(わたしやエスちゃん含め)で集まっていると、少し慌てた様子のイストワールさんに声をかけられた。

 

「あ、いーすんさん。作業の方はどうですか?」

「ああ、はい。そちらの方は問題なく…ただ、別件で緊急事態が発生しまして…」

 

はぁ、とため息を吐くイストワールさん。

…もしかして、グリモの手伝いしながらそういう普段の仕事も捌いてる? 大丈夫かな…

 

「それで、頼み難いのですが…」

「お仕事ですか? だったら遠慮せずに言ってください」

「アタシもヒマだし、付き合ってあげてもいいわよ。ネプギア一人じゃ心配だし」

「はーい! わたしもヒマー!」

「わたしも…」

「…と、まぁ、ここにいる全員予定空いてるので、大丈夫ですよ」

「というかヒマだからどうしようかって集まってた所だもんね」

 

エスちゃんが言ったように、いざ決戦日まで各自自由行動と言っても何をするか特に決まっていなくて、それで集まっていた。

ブランさん達は……まぁ、自由にしてるとだけ。

 

「すみません。実はその緊急事態というのは……タコなんです」

「…タコ?」

「はい、タコです。状況は私にもよく分からないのですが、とにかく大量発生したタコが次々空から降ってくると…」

「タコが、空から…」

「…本当によく分からない状況ね」

 

確かに、そんな報告はよく分からなくっても仕方がないとは思う。

なんでタコで、しかも空から…

 

「ふふん、タコでもイカでもたくさんいたところで、わたしの魔法でいちもーだじんよ!」

「それなんですが、発生場所の海は安全指定区域に指定されていまして…魔法はもちろんの事、武器となりうる道具の持ち込みが一切禁止されているんです」

 

安全指定区域…うぅん、それって、犯罪組織残党とか危ないのがいても禁止のままなのかな。厄介そう…

ただその区域のシステム上、入場するとそう言った武器防具が一時的に没収されて、退場とともに勝手に返却されるらしいから、いくら犯罪組織でも武器を持ち込んで潜伏なんてできないみたいだけど。

 

「なら、どうやってタコを退治するんですか?」

「えっと…てづかみ…?」

「そうなります…さらにもう一つありまして、その海は環境保護地域でもあるので、海に入る場合は十分に身体を洗った後、水着着用と義務付けられているんです」

「えぇー…何よそれ…」

「タコが大量発生してるのに環境保護も何も無いでしょ…」

 

エスちゃんとユニちゃんのツッコミは最もだけど、流石にそういう決まりを女神が破る訳にも行かないわけで…

 

でも、海…かぁ…

 

「…わたし、暑いの苦手…」

「あれ、ディーちゃん暑いのダメだったっけ?」

 

手伝いが嫌ということはないけど、暑い場所に出るのは嫌。という思いをぽつりと呟けば、不思議そうにエスちゃんが聞いてきた。

 

「ああ、うん…多分だけど、エスちゃんと離れ離れになったあと、ルウィーの人目のつかない雪山の奥で過ごして、寒さに慣れすぎたせい…?」

「えっ。ま、魔法で暖まれば良かったんじゃ」

「……魔力感知とかされて、見つかりかけたから……初めは寒くて辛かったけど、慣れたらなんてことないよ」

「…相変わらず過去話が壮絶ね…」

 

あの時は大変だったなぁ…なんて思い出しながら話してみれば、なぜだか皆に引かれてるような。

……あれ?

 

「と、ともかく、色々と立て込んでる現状、向かってくれる人材にも困っており厳しい仕事でしたので、皆さんが受けてくれるというなら安心です。先にも言ったように緊急の仕事なので、なるべく早く現地に向かってくださいね」

「わかりました、任せてください!」

 

……ま、まぁ、とりあえずわたし達はこうしてイストワールさんからの仕事の依頼により、プラネテューヌの海へと向かうことになったのだった。

 

「それじゃあみんな、今日はタコ退治だね!」

「安請け合いしちゃったかしら。…なんかイヤな予感がするわ…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてやってきた海。

見渡す限り砂と海と……空から降り注ぐカラフルな球体。

 

うん、わかってる。つっこみどころはわかってる。

でもね、先に言わせて。

 

「……あづい……」

「もう水着には着替えてんだからちょっとは我慢しなよ!? っていうか外伝と同じ流れじゃない!」

 

横で桃色のフリフリフリルの着いたスカート水着を着たエスちゃんがわたしに言う。

だって、暑いものは暑いんだもん……

 

ちなみにわたしの水着はエスちゃんのと一緒の色違い。水色。

まぁ、言ってしまえば外伝で着てたのと同じデザインということ。あっちにはエスちゃんまだいなかったけど。

 

……他のみんなはって? 原作のこのイベント見てきたらいいと思うの(丸投げ)

 

「まったく…でもさー、どうせならこう、ステータスの器的なのを弄って、普段と違う戦い方でどーん! ってやるべきじゃない? わたしは星4くらいで」

「そんな物騒な話じゃないし第一これ(mk2)の時期にそれまだ配信すらされてないと思うけど…というかそこは最高レア(星5)じゃないんだ…」

 

いやまぁ、擬似的に別の武器使うのはグリモがやればできる…のかなぁ、いやいやダメダメ。

 

「うわぁ…本当に空から降ってきてる…」

「っていうかアレ、ボールじゃないの?」

 

で、話は戻って、

水着に着替えたわたし達は、早速件のタコが降り注ぐ場所へと向かったわけだけど…なんか想像してたのと違う光景に困惑していた。

 

「むむ、むむむむ……これは…マル・デ・タコね!」

「いや、デフォルメチックだけどタコ・ソ・ノモノでしょ」

「どっちも違うから…うぅん、近づいて見ればタコだってわかるけど…わたしもっとこう、リアルな方を想像してた…」

「アタシも…なんか気の抜ける顔してるわね」

「でも、色んな色があって、かわいい…」

 

プカプカと海に浮かぶタコを見ながらそれぞれ思ったことを述べていく。

はーぁ、タコけしマシンでもあればこんな仕事すぐ終わらせて涼しいところに帰るのに……いや、あれってタコ型の置物しか消せないんだったっけ…

 

「じゃあ、タコ集め、始めよっか」

『はーい』『わかったわ』

 

ネプギアがそう言うと、それぞれタコを手づかみで捕獲しに向かう。

ちなみに捕まえたタコは専用のカゴに入れると勝手に依頼主の指定したタコ置き場? タコ用池? に送られるシステムらしい。

ゲート・ポケットシステムといい、便利な世の中だ。

 

「あぁ…足元冷たい…でも日差し暑い…」

「暑がってないでさっさと捕まえて、よっ! まずは一匹!」

「はぁい…」

 

早速タコを両手で捕まえながらエスちゃんがじとっとした視線を送ってくる。

うぅ、わかった、わかったよぉ…

 

「よーし、私も捕まえた!」

「ぷにぷにしてる…(ぷにぷに)」

 

ネプギアちゃんも捕獲に成功し、カゴにへとタコを入れていく。

ロムちゃんは捕まえはしたものの、タコの感触を面白がってぷにぷにしていた。

 

「な、ちょ、こら! なに水着にひっついてんのよ! 離れなさい!」

「あ、ユニちゃんそっちにもう一匹いったー」

「え? きゃあああ! だからひっつくなってー!」

 

ラムちゃんも難なく集めていて、ユニちゃんは…何故かタコにひっつかれていた。

 

「本当にすごい数だなあ…。網の上に載せたり、同じ色を四つ並べたら消えたりしないかな?」

「一応、回収って形になってるんだから消したらまずいんじゃ…」

「そ、そうだよね…でも、見てると思わずやりたくならない?」

「それは…なるかも」

 

こう、いい感じに積み上げてから、ファイヤー! アイスストーム! って感じに…

 

「あーもう! あったまきた! 片っ端から捕まえてタコ焼きにしてやるわ!」

 

と、タコに人気なユニちゃんがここで怒りを顕にし、捕まえたタコをカゴに放り投げまくる。

タコ焼き……

 

「あ、それいいかも! タコ焼き大好き!」

「わたしも好き…」

「本物ならまだしも、このカラフルファンシーを食べる気? 大丈夫なの? ねぇ、ディーちゃんもそう思うわよね?」

「……タコ焼き…(じゅるり)」

「あ、ダメね。もうタコ焼き食べたいしか頭になさそう」

「あはは。じゃあ終わったらみんなでタコ焼きパーティーだね」

 

いや、まぁ流石にタコ焼きのタコはちゃんと食用のがいいけども。でもタコ焼き……美味しいよね。

ふふ、楽しみ…

 

「…って言っても、本当に終わるかな? まだまだ空から降ってくるし」

「うーん…魔法が使えたら楽なんだけど…」

「あ、そういうの良くないわよディーちゃん」

 

手は休めずにタコをカゴに入れながらぽつりと呟くと、エスちゃんがそう言ってきた。

 

「いくら魔法が便利だからってそればっかりに頼ってたら、魔法が使えなくなった時に困るのよ? だからある程度頼らずに済む手も考えておかないと」

「む…確かに、今はいいけど、凶暴なモンスターがいる場所とかだと危なそう…」

「あー、私も前に女神化封じされて大変な目に遭ったなぁ。それに、私の武器も万が一でビーム部分が故障したらマズいかも…」

「でしょ? だからそーゆー対策考えておくのも大事よ」

 

むぅ…なんだかエスちゃんが凄く頭良さそうに見える。

ネプギアちゃんもなんか自分の手を拳にして「うーん、いっそ素手とか…」なんて呟いてるし。

臨時の手段かぁ…

 

「…わ、なんかタコが集まってきた…!? きゃ、わ、そんなに来ないで! いやああ!!」

「うわー、すごい。タコのハンギャクだ!」

「…ユニちゃん、タコにもてもて」

 

なんて三人で他愛のない会話をしながらタコ回収を進めていく。

あっちは荒ぶりながらタコを回収していくユニちゃんが脅威とみなされたのか、タコ達がわらわらユニちゃんに群がっていた。

 

大変そう…(他人事)

 

「のんきにしゃべってないで、助けなさいよー!」

 

そんなこんなで暫くしてお仕事は無事終了(ユニちゃんだけひどく疲れた顔してたけど)して、

プラネテューヌに戻ったわたし達はみんなでタコ焼きを食べたのでした。

 

 

……水着回の割に水着要素薄いね…

 

 

 

 

 

「あれ? ディールちゃんは?」

 

みんなで海のタコさんあつめをして、それからお姉ちゃんたちも混ぜてタコ焼きパーティーをはじめてから、すこしして。

中にコーンとかチーズとかお餅とか、いろいろ入れてみたタコ焼きをいっぱい食べておなかいっぱいになったところで、いつのまにかディールちゃんがいないことに気がついた。

 

「ディールちゃんなら、さっき外に行くのを見かけたよ」

「夜風にでも当たりに行ったんじゃない?」

 

ネプギアとユニちゃんはディールちゃんが出ていくのをみてたみたいで、そのことを教えてくれた。

……うーん。

 

「かっらぁぁぁああ!?」

「あはははっ! ノワール大当たりじゃーん!」

「ね、ネプテューヌぅ!! 貴女の仕業ね! こら、待ちなさい!」

 

どたばたうるさくしてるネプテューヌちゃんとノワールさんは気にしないようにしつつ、わたしは立ち上がる。

 

「……まったく、食事時くらい静かに出来ないのかしら」

「あら、私はこういうのもたまには良いと思いますわ」

「そうかしら…。…ラム? どこへ行くの?」

「お姉ちゃん。うん、ディールちゃん探しに行くの」

「そう。あまり遅くならないようにね」

 

お姉ちゃんに言われたことに「うんっ」と答えながら、わたしは部屋を出た。

 

 

 

ユニちゃんがよかぜにって言ってたから、外にいるのかなと思って探してみると、少ししてお空を見上げているディールちゃんを見つけられた。

 

「ディ──」

 

直ぐに声をかけようと名前を呼ぼうとして、足が止まる。

 

わたしからはディールちゃんの背中しか見えない位置だから、どんな顔してるのかわからない。だからどうしてこんな風に感じたのかもわからない、けど、

なんだか今のディールちゃんの背中は、すごく遠くに感じられて…

 

目の前にいるのに、足を踏み出して手を伸ばせば手を届くところにいるはずなのに、届かない、届かなくなっちゃうような、不思議で悲しい感覚──

 

「……? あ、ラムちゃん。こんなところまで…どうしたの?」

 

振り返って、わたしがいることに気がついたディールちゃんが聞いてくる。

 

「な、なにも。ディールちゃんがひとりで出てったって聞いたから、探しに来たの」

 

今のは気のせいだって自分に言い聞かせるようにふるふると首を振りながら、探しに来たことを言う。

ディールちゃんは「そっか」とだけ答えて、またぼんやりとお空を見上げる。

 

そんなディールちゃんの姿が、やっぱり遠くに感じて、胸がきゅっと痛くなる。

それが怖くて、わたしはディールちゃんの隣に移動して、ぎゅっと手を握った。

手を握られて少し驚いた顔をしながらも、ディールちゃんはなにも言わなかった。

 

 

 

静かな時間。

ディールちゃんといっしょに見上げた空は、星があんまりないように感じた。

 

………

 

グリモワール達が作ってるって言うなんかが出来たら、一番の悪いやつを倒しに行くんだよね。

お姉ちゃん達を捕まえたり、わたしをロムちゃんディールちゃんと戦わせたりした奴らがふっかつさせようとしてた…ハンザイシン。

そして今のハンザイシンは、ディールちゃんの……

 

「…もうすぐ最後の戦い、だね」

「うん…」

 

急に話しかけられてちょっとびっくりしたけど、ディールちゃんの言葉に頷いて答える。

 

「……ラムちゃんは……怖くない?」

「え?」

 

続けて聞かれた事の意味がいっしゅん分からなくて、聞き返しちゃった。

 

「犯罪神と、戦うこと」

「それは…その…とーぜんよ! ロムちゃん、ディールちゃん、それからネプギアにユニちゃんにエスト、お姉ちゃん達だっているし、なんていったってサイキョーなわたしだっているんだから! ハンザイシンなんかぼっこぼこよ!」

「…そっか、そうだよね」

 

ふふん、と胸を張りながら答える。

女神みんなでかかれば、どんな悪い奴にだって負けないんだから!

 

それなのに、ディールちゃんはなんだか元気がない。

…そんなこと聞くってことは、もしかして。

 

「ディールちゃんは…怖いの?」

「……うん。皆の事を信じてない訳じゃないんだよ? ただ……もしもって考えると……どうしても、怖くなって…」

 

思った通りの事を申し訳なさそうに答える…そんな話をわたしに話すディールちゃんは、小さく震えていた。

 

「誰も怪我しないで、なんてのは無理だって分かってる、それだけの敵なんだから。……だから、もしも誰か一人でも……ラムちゃんが、ロムちゃんが、エスちゃんが…犠牲になってしまったら、なんて考えちゃうと…凄く、怖くて…ッ!」

「ディール、ちゃん…」

 

ディールちゃんは、目の前でお姉ちゃんがいなくなって、また会えたけどエストとも離れ離れになって、いなくなったって思ってて。

だから、なのかな…また誰かがいなくなるのが怖いのかも。

 

……ロムちゃんとかお姉ちゃんがいなくなったりしたら、わたしもそう思うかもしれないって思うから、きっと…

 

「だから、そうなるならいっそわたしが、わたし一人が…!!」

「ディールちゃん!」

 

そしてとんでもないことを言い始めるディールちゃん。

気がつくと、わたしは思わずディールちゃんをぎゅっと抱きしめていた。

 

「っ…ラム、ちゃん…?」

「またそうやって! そんなこと言わないでよ! 誰かがいなくなるのがヤだって、そんなのディールちゃんだけじゃない! わたしだって…ディールちゃんがいなくなるのは嫌よ!」

 

いつかお風呂場でも似たようなことを言ってたことを思い出しながら、怒りの感情を抑えないまま吐き出す。

あの時も思ったけど、ディールちゃんってロムちゃんより怖がりじゃないように見えて、ホントはずっとずっと我慢してるだけに見えるんだよね。

だからなのかな…後ろ向きに考えちゃう内容がロムちゃんよりも大変なのは…

 

「それに、せっかくエストとまた会えたのに、今度はエストを一人ぼっちにさせるの? そんなのダメに決まってるでしょ!?」

「……ぅ…」

 

なにより前に怒った時と違うのは、今のディールちゃんには(エスト)がいる。

なのにそんなことを言うってことは、今度はディールちゃんがエストを置き去りにするってこと。

 

そんなの、許せない。だから、怒る。

 

「もしもでも、そんなことしようとしないでよ……そんな事言うディールちゃん、やだよ…」

「ら、ラムちゃん…ご、ごめ…っ」

 

いつからだろう…ディールちゃんがこんなに放っておけなくなったのは。

ディールちゃんが洗脳されたときから? 記憶が戻ってから? ……多分、その辺から。

 

「…約束して」

「え…?」

「ぜったいに皆で帰ってくるって約束してって言ってるの!」

「は、はいっ!」

 

強くそう言ってみれば、びくりと怯え気味に返事をする。だってこうでもしないと絶対無茶しそうだし、そんなの絶対に……

 

……なんでわたし、こんなにディールちゃんのこと気にしてるんだろ。一番大事なのはロムちゃんなのに…

…ううん、ディールちゃんもある意味ロムちゃんだから? でも…

 

「……ちゃん…? ラムちゃん!」

「ぅえ? な、何よっ、文句でもあるの?」

 

変に考え込んじゃってる所に声をかけられて、思わずそんな風に答えちゃう。

するとディールちゃんは「そ、そうじゃないけど…」と言いながら、ごそごそとポケットから何かを取り出してわたしに差し出してきた。

 

「これ…って、もしかして」

 

それは、いつかわたしが、わたしとロムちゃんとディールちゃん──その時はまだグリモちゃんって呼んでたっけ──でお揃いにしようと思って買った、青色のペン。

 

「ゴムとメガネはいつの間にか…多分、海で無くしちゃったけど、これだけはずっと持ってたの」

「それは、わかるししょーがないけど…どうしてこれを?」

「大事なもの、だから…これをラムちゃんに預けるよ」

 

そう言って、ちょっと無理矢理にわたしの手にペンを渡してくるディールちゃん。

どういう意味、と聞こうとすると、聞く前にディールちゃんが言葉を続けた。

 

「それを返してもらうために…みんなと一緒に戻るって、約束。だから、この戦いが終わるまでラムちゃんが持ってて」

 

そう言ったディールちゃんの顔にはさっきまでのどこか怯えた感じはなくて、

わたしはペンを握りしめながらこくりと頷いた。

 

「ぜったい、約束よ。破ったらしょうちしないんだから」

「うん」

 

ゆびきり…まではしないけど、わたしとディールちゃんとで、約束する。

 

──ディールちゃんを見つめる視界の端っこの空で、星が流れて行った気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「あーあ、わたしの立ち位置、取られちゃった」

 

そんな二人を影から見守る姿がふたつ。

そのうちの一人──エストが壁に寄りかかるようにしながら苦笑を浮かべる。

 

「…(じぃー)」

「…な、なによ、ロムちゃん。っていうかしれっと着いてきてるし」

 

そんな彼女を傍らでじっと見つめるのは、ロム。

ディールとラムを気にしてる素振りはあるものの、その視線はずっとエストに向けられていた。

 

「い、言いたいことがあるなら言いなさいよ?」

「あ、うん。……(じぃぃ)」

「ああ、もう…なんなのー…」

 

そう告げても見つめ続けてくるロムに、エストはげんなりとしながらも思考を巡らせる。

なにかロムちゃんにしちゃったっけ? そんな覚えはないけど…と。

 

「エストちゃん…なんだか、無理、してる?」

 

そんなロムの言葉に、エストの思考は中断させられた。

 

「……どういう意味?」

「うまく、言えないけど…そんな風に、見えた?(いわかん)」

「ふぅん…?」

 

平静を保った風にエストは相槌を打ち、ロムの言葉を待つ。

 

「ディールちゃんとお話してるときは、あんまり感じないけど…わたしとか、ラムちゃんとか…他の人と話してる時に、なんだろう…少し、よそよそしい、ような…? あぅ…わかんないけど…そんな感じがしたの」

「へぇ」

 

言い難そうに理由を述べるロムの言葉を聞いたエストが再び短い相槌を打つ。

すると彼女は急に壁から離れ、ディール達の元へと歩き出した。

 

それはどこか、逃げだすようにも見えて…

 

「ほらロムちゃん、あんまり遅くなるとお姉ちゃんに怒られるわ。二人を迎えに行って帰りましょ」

「あ…うん…」

 

話題を断ち切るように告げられて、ロムもそれ以上何も言えなかった。

 

「…(きのせい…? ううん、きっとそんなこと、ない…)」

「ロームーちゃーんー? 置いてくよ?」

「あ、ま、まって…(あわあわ)」

 

頭の中ではぐるぐると感じた違和感に対して考えてしまうものの、エストに急かされ、湧き出した疑問は後で考えることにするロムだった。

 

 

 

なお、その後教会に戻った四人は帰りが遅かったことで結局ブランに少し叱られたとか。




〜パロディ解説〜

・ステータスの器的な
表現自体は「ゼルダの伝説シリーズ」のハートの器から。
その後の下りはソーシャルゲーム「Fate/GrandOrder」の夏イベントから。
霊器まで弄れるルーン魔術はほんととんでもないもんですね…

・マル・デ・タコ
・タコ・ソ・ノモノ
任天堂作品「MOTHER2」から、タコみたいなロボの敵キャラクター。アイテム盗んできたり行動不能にしてきたりと何気に厄介な敵でした。他にも「ミタ・メ・タコ」「カナ・リ・タコ」や、MOTHER3にて「タコ・フ・タタビ」などがいたり。

・タコけしマシン
同じく「MOTHER2」より、タコの形をした障害物を消すアイテム。
ちなみに機能としてはそれだけ。マル・デ・タコのようなタコ型の的には使えません。残念。

・ファイヤー!アイスストーム!
「ぷよぷよシリーズ」より、お馴染みの連鎖ボイス。ここから「ダイアキュート→ブレインダムド→ジュゲム→ばよえーんry」と連鎖の数で続くやつですね。
ところでぷよぷよの元(?)の魔導物語って地味に生々しい表現が多いなぁ、と…世代じゃないのであまりよく知らないですけどね!

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