幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Chapter 5:深淵なるマジェコンヌ
Act.1 或る姉妹の一日


「クエスト行くよ、ディーちゃん!」

 

別に悠長にしていた訳じゃないけど、一人でぼんやりしているわたしを見つけては突然そんなことを言ってくる妹。

 

「何を、突然…」

「肩慣らしに行きたいのー!」

「そんなの、一人で行けばいいんじゃ…」

「冷たいー! 再会の時にあれだけ泣いたのは嘘だったっていうの!?」

 

妙なテンションで駄々をこねるように騒ぐエスちゃん。

こんな子だったっけ、なんかネプテューヌさん感が……て、いうか…

 

「そ、その話はしなくてもいいでしょ…?」

「えー、だって姉妹感動の再会だったんだし」

「人前で泣いた出来事なんてあまり思い出したくないに決まってるでしょ…!」

 

なんて自分で言葉にしてしまえば余計に思い出してしまうもので、恥ずかしさで顔が熱くなるのを感じた。

うぅ…

 

「それよりー、クエストー、行こー」

「そ、それよりって…はぁ、もう…クエスト? エスちゃんの強さなら一人でも問題ないはずでしょ、なんでわたしも一緒に行かなきゃだめなの」

「そりゃ、久々なんだから二人でーって、ね?」

 

言われてみればエスちゃんが合流したのはつい最近のこと。

二人で一緒に戦ったりはしたけど、二人の時間っていうのは再会してからまだないかも…?

 

「まぁ、それはわかったけど…二人で出来ることならクエスト以外にもあるでしょ…? お絵かきとか…」

「……別にラム達を馬鹿にするんじゃないけど、今更わたし達でそんなことやって楽しいと思う? ほんとに?」

「うっ……な、なら、ゲーム?」

「ゲーム………そういえばあんなことがあったからわたしのポシェモンのデータ無くなっちゃったんだよねー。そうじゃなくてもぜんっぜんゲームで遊んでないし」

「ゲイムギョウ界の女神なのに…」

 

まぁ、この小説の劇中ではわたしもあんまりゲームで遊んでる場面ないけど…でも描写がないだけで裏では遊んでるよ? ほんとだよ?

 

「そーゆーわけだからゲームはまた今度にして、今日はクエストなのよ!」

「な、なるほど…」

 

つまりはこのタイミングでできる事というのがクエストでのモンスター退治、腕試しくらいしかなかったってこと。

うーん…それならまぁ、仕方ないかな…

 

という訳でエスちゃんの要求により、二人でクエストを受けてくる旨をグリモワールに伝えておく。

ちなみにラムちゃん達は四人で携帯ゲームの通信プレイ、ブランさん達も四人でぎゃーぎゃーと騒ぎながらゲームで遊んでいた。

見てるだけでもいいからそっちに混ざりたかったな、なんて少し思いつつも、エスちゃんの気持ちを尊重することにしてわたし達は街を出た。

 

 

 

 

 

 

「巨大なスライヌ、ねぇ」

 

街からそこそこ離れた平原。

クエストを受けたわたしとエスちゃんは、討伐対象である巨大なスライヌを退治する為にそこまでやってきていた。

 

「スライヌなんて雑魚よ雑魚。って言いたいとこだけど、なんかそいつ、ビッグスライヌよりも大きくて手強いらしいんだよね。見た目に騙されてなのか知らないけどそれで被害が出てるんだって」

「ふぅん……犯罪神が復活したから、モンスターも活性化してる、のかな」

「どうかな、単に育ちすぎただけじゃない、のっ!」

 

端末でクエストの確認をしながら歩くわたしの前で、襲ってくるモンスターを大剣で軽々はじき飛ばしていくエスちゃん。

…ブランさん、もとい、お姉ちゃんの影響かなぁ、重量武器使うのって…

 

「ねー、それよりもー」

「んぅ…?」

 

端末をポーチにしまいつつエスちゃんの後を歩いていると、ぶすーっと頬を膨らませて不満げなエスちゃんの顔。

どうしたのか、とわたしは首を傾げる。

 

「ディーちゃんもちゃんと戦ってよー」

「…? 戦ってるよ?」

 

エスちゃんはそう言ったけれど、わたしもさっきからまほうの剣を飛ばして向かってくる危なそうなモンスターをやっつけている。

 

舞うように剣を3つ飛ばすダンシングブレードの下級魔法版…シュートエッジという魔法。

ちなみにダンシングブレードは中級魔法、上級魔法はさらにたくさんの剣でめった斬りにするストライクソード…なんてのがあったりする。

 

あ、鋼の円盤で切り裂く魔法のシルバーフラップは剣シリーズじゃない鋼魔法ね。

なんて、突然の鋼魔法解説なのでした。

 

「そーうーじゃーなーくーてー、刀ー!」

「あぁ…近接戦闘しないのって話」

 

どうやらエスちゃんは仕込み刀の方で戦って欲しいらしい。

まぁ、確かにパッと見だと楽してるように見えるかもだけど…

 

「ロムちゃんとラムちゃんとで組むことが多くって、二人が魔法使いだからわたしが前線担当してただけで…本当はわたしも後衛だから、これが普通だよ?」

「むぅ。でも前衛もできるってことでしょ? ならいいじゃんー」

「うぅ……だって…ほんとならあんまり斬ったりとか、やだもん…」

 

何故か刀を使わせたがるエスちゃんに、実はずっと思っていたことを告げる。

 

「えぇ? どうして?」

「だって…敵、近いし…斬った時の感触とか、飛び出る血とか…」

 

モンスターっていうのは、基本的に倒すとデータ化されて消えていくものだけど、生身に近いタイプとかは普通に斬った時に体液だのが飛び出す。馬鳥とかドラゴンとかそういう感じのタイプに限るけど。

わたしはそういうタイプのモンスターを斬りつけたときの感触や、噴き出す血とかがどうしても苦手だった。

普段は我慢してるし、わざわざ言ったりはしないんだけど…エスちゃんにはきっと隠しててもそのうちバレるだろうし。

 

「え、そんなの気にしてたの? ディーちゃんそういうのダメそうだとは思ってたけど、乗り越えたものだと」

「無理なものは無理だよ…そもそも、エスちゃんと二人きりでもない限りは、色々頑張ってるんだよ…?」

 

察しのいい人ならもしかしたらもう気づいてるかもしれないけど、話し方が普段と違う…言っちゃえば、ロムちゃん寄りになっている。

わたし自身、そのロムだったわけだから、これが素のわたし…ということになる。普段のわたしは所謂「仮面」を付けてるようなもの、になるのかな。

 

「そーゆーの疲れない?」

「ね、根っこからは変われなくっても、形からって……後は、記憶なかった時の影響、かな?」

「そういえば記憶無くしてたんだっけ…大変だったのね」

「うん…でも、皆に出会えたし…そこまで悪いようには思ってないかも」

 

確かに記憶喪失は色々大変だったけれど、感じたことをそのまま言ってみるとエスちゃんは「ふぅん」とだけ返した。

 

そんな雑談を交えつつ先へと進み続けて暫くして。

前方に水色の大きな何かが見えてきた。

 

「……多分、アレよね」

「……うん。そうだと思う」

 

跳ねてるのか、時折上下に動く水色のそれ。

うん。それは良いんだけど…

 

「……ねぇ、ディール?」

「……なぁに? エスちゃん」

「あれがスライヌなのはわかるんだけどさ。…あれ、まだ距離あるハズよね?」

「……そうだね?」

「つまり、さ」

 

と、そこで前方のスライヌがわたし達を見つけたらしく、ぐぐ…と力を溜めて跳ねた。

 

『ぬぅぅぅらぁぁぁぁぁぁ…』

「もっと近くに来たらさらに大きいわけよね…!!」

 

スライヌ特有の鳴き声も巨大故か野太く、跳んで来たスライヌが目の前に着地するとずぅぅぅん…! と地面が揺れる。

これは…ビッグスライヌというより、ドでか…いや、特盛級のスライヌ…!

 

「こ、こんなにおっきいなんて聞いてないんだけど…!?」

「わたしだってここまでとは思ってなかったわよ!」

 

エスちゃんと言い合いながらも、臨戦態勢に移る。

スライヌの方も既にこっちを敵とみなしているようで、その巨体からは想像もつかない速度で突っ込んできた。

 

「うわっ! っと、あたらないってぇのッ!」

 

二手に別れるようにスライヌを避けながら、エスちゃんは大剣を振るって、わたしは鋼魔法の剣を放って攻撃する。

 

「うひゃぁっ!?」

 

けど、スライヌの巨体はそのどちらの攻撃も、ぽよんと弾いてしまう。

 

「硬いんじゃなくって、弾力が凄い…?!」

「ぬらぁぁっ!」

「物理攻撃じゃ通らな…こ、こっちくるなー!」

 

生半可な物理攻撃は弾いて無効化する程のスライヌ。こんなになるまで育つなんて、よっぽど恵まれた環境で育ったんだろうね。

 

…ううむ。

 

「エスちゃん、少しの間囮、お願い」

「ええっ!? 囮って…うわっ転がってきた!!」

 

エスちゃんに一言告げて、わたしは身を屈めて気配を殺す。

グリモワールで刀術の知識を読み込んだ時に一緒に覚えた、気配を消す技。確か音無草(ねなしぐさ)だっけ…

これで少しは時間が稼げるから、後は魔法陣を展開していく。

 

「この、燃えなさいよっ!」

「ぬぅ! るぁぁああ!」

「うわっと! 危ないわね!」

 

描く陣はある意味お馴染み、エターナルフォースブリザード。

だけれど、普段使う即席魔法陣の短縮版ではなく、しっかりと魔力を沢山流し込んだもの。

アイスコフィンも含めて、普段使うならそれでも十分(最も、それで十分な威力が出るのはそれだけ魔法に長けて魔法に秀でたルウィー女神候補生ならではだって知ったのは最近のこと)だけれど、今回は氷に閉じ込めるのではなく、確実に凍結させるのが目的。

 

その上、これは術者がトリガーじゃなくて魔法陣を踏んだら発動の、所謂(トラップ)魔法。

魔法陣を描き終えると、わたしは本命の魔法の為に杖に魔力を集中させる。

 

「……エスちゃん! こっち!」

「え!? 急に、言われても…っ!」

 

準備が整い、エスちゃんに合図を送る。

けどエスちゃんはゴロゴロと転がり追いかけてくるスライヌを避けるので手一杯な様子…

 

「っ…この、調子に乗ってんじゃ、ないッ!」

 

…かと思いきや、転がってくるスライヌに向き合うと、大剣を横に大きく振るってスライヌの巨体に打ち付けた。

 

「ぬらぁぁあああっ!?」

 

かなりのパワーで打ったのか、スライヌは自分で制御できないままにこっちに転がり始める。

ドドドド、と、迫る巨体に思わず「ひっ」と声が漏れたものの、杖を両手でしっかり構えて気を持ち直す。

 

そして、スライヌが魔法陣を踏むと同時に、真上に跳び上がる。

地上を見下ろせば、思い通りにスライヌは氷漬けになっている。このまま…!

 

両手で持った杖の先に、鋼鉄が槍の様に纏っていく。

穂先を氷漬けスライヌに向けると、纏った鋼鉄が螺旋のように回転する。

 

「つらぬ、けぇっ!!」

 

空中に足場の魔法陣を展開し、氷漬けスライヌに向けて跳ぶように足場を蹴り、突撃する。

ドリルのような螺旋の槍が氷にぶつかると、ガリガリと削りながら凍ったままのスライヌを貫いていく。

 

もし、スライヌに核があって、その位置を把握していたなら、この一撃で終わっていたかもしれない。

けど、核があるなんて聞いたことも無い。だからこそ、もう一押し。

 

「はああああああっ!!」

 

十分に槍が突き刺さった所を見計らって、杖に魔力を一気に流し込む。

すると鋼鉄の螺旋への魔力が許容限界を超えて、そして、

 

わたしの身体を吹き飛ばすように、氷漬けのスライヌは内側から爆ぜ飛んだ。

 

 

 

「わっと! ディーちゃん平気?」

 

衝撃で吹っ飛ばされたわたしを、エスちゃんが受け止めてくれた。

 

「うん、平気」

 

衝撃までは防げなかったものの、爆ぜる直前に防御魔法で飛び散る氷の欠片とか杖の損傷を防いでたおかげで、かすり傷程度で済んだ。

エスちゃんはわたしが無事なことにほっと息を吐くと、さっきまで氷漬けがあった場所を見た。

 

「うへぇ、なかなかエグいことするね…」

「内側から吹っ飛ばせばいいかなって思って…そのために凍らせたの」

「いや、したかった事は分かるわ。…ま、爆ぜたのがスライヌそのままの姿じゃなくって氷だった分、マシかぁ…」

 

とりあえずなんとかなったけれど、わたし自身の安全面とかも考えると微妙な結果…

でもやってみたかったことは出来たから、オッケー。

 

「オッケーじゃないよ! やめてよね、ああいう危ないこと!」

「むぅ…」

 

エスちゃんはご立腹だけど…何はともあれ、これでクエストクリア、かな。

 

「もー…今のディーちゃん、前より危なっかしいし…わたしがちゃんと守ってあげなきゃダメみたいね!」

「む。…守る為に戦うのは、わたしもだもん」

「守る前に自分も守ってよ!?」

 

……お互いに、色々変わっちゃったけれど、

それでもやっぱり、二人一緒の方が良い。

エスちゃんと一緒にクエストをこなしたわたしは、それを実感するのだった。

 

 

 

ちなみに、飛び散らせたせいで素材回収が大変だったのはここだけの話。


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