幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
私は戦闘描写を描く技能がクソであると!!
マジック・ザ・ハードと戦っていたパーティーと合流しようとして、運が良いのか悪いのか、ラムが大怪我を負う場面に出くわしたわたし達。
何が良くて悪いのかと言うと、良い事はまずわたしも多少は回復魔法が使えるから、すぐにでも治療にかかればきっとなんとかなるってこと。
で、悪い事っていうのは……
「あぁぁぁあぁぁあああああッッ!!!」
ラムがやられたのを見て、ディーちゃんがおかしなことになったこと。
いや、頭がおかしくなったとかじゃなく、もう視覚的に。
叫びながら、何か黒く禍々しい力を纏っていくような、そんな感じ。
というか、この感じは…
「ロムちゃん! ディーちゃんから離れるよ!」
「で、でも…!」
「このままじゃ、
気を失ったラムを抱き抱えるロムちゃんを引くようにして、ディーちゃんから離れる。
ほんっとに、どうなってるのよ…!
「何事ですか!」
「グリモ! ディーちゃんが、ディーちゃんが!」
「ディールちゃんが……こ、これは…」
この自体を察知してか、グリモがやってくるなりディーちゃんを見て、言葉を詰まらせた。
と、同時に、ディーちゃんから溢れ出ていた黒い奔流が治まる。
「ふ……ふふ、ふふフフふふふふ…っ!」
「ちょっ、どうなってんのよ!?」
「グリモワールさん、これはいったい…!」
「わ、私にでもわかることとわからないことが……ッ!!」
明らかにおかしい笑い声を上げながら飛んでいくディーちゃんに、ネプギアとユニも異常だと思ってか、グリモを問い詰める。
グリモはグリモで珍しく取り乱した様子を見せたかと思えば、ハッとなにかに気付いたように顔を上げた。
「まさか……そうか…!」
「なに!? わかったの!?」
「私とした事が…どうして気付かなかったんでしょうか…」
「一人で納得してないで早く説明しなさいよ!!」
ディーちゃんの異常と自分だけ理解したようにぶつぶつ呟くグリモにイライラして、思わず強く言ってしまう。
っ…ダメ、落ち着いて、冷静にならなきゃ…
「え、エストちゃん…?」
「ふー、ふー……何でもない…ロムちゃん、あとネプギア! ラムの回復!」
『う、うん!』
一先ずラムを地面に降ろさせて、ロムちゃんとネプギア、あとわたしでラムに回復魔法を掛け始める。
ユニはマジックの方を警戒してるから、攻撃が来てもすぐ対応はできるはず。それより…
「ディーちゃんに何が起きてるのよ…?」
「……皆さんは、エストちゃん以外は墓場で遭遇したんですよね。ディールちゃんそっくりの…」
「うん…そっくりの、黒い子…」
「そう。仮称、クロム。あれはいつかの日、女神奪還の際に、ディールちゃんの内のネガティブエネルギーを引き抜かれて現れたモノ。だから私は、もうディールちゃんの中には無いと思い込んでしまっていたんです」
つまり、今のディーちゃんは…
「ですが通常、ネガティブエネルギーは女神の力……シェアエネルギーと相反するもの。打ち消し合うものなのですが…」
「どう見ても打ち消されてるどころか、あれ…」
「…はい。
回復魔法を続けながら上を見上げれば、狂ったように笑いながらディーちゃんがマジックに剣を飛ばしまくっている。
というか飛ばしまくりすぎてネプテューヌちゃんとノワールさんにも当たりかけてる。無差別攻撃だ…
「女神化による
「カオスエネルギー…」
響きが侵食とかしそうな感じだけど、混ざり合ったってことはそんなことはない……のよね?
っていうかそっちのカオスエネルギーだとディーちゃんって名前からしてまき散らす方になりそうだしね…
「ディールちゃん、大丈夫なの…?」
「どうしてこうなったのか、経緯まで見ていないので断言はできませんけど…今はマジックに激しい憎悪を向けているっぽいのでネプテューヌさん達に攻撃する危険は少ないとは思います、が…」
「…狙いはしなくても巻き込みはしてるわね…」
「彼女達は戦闘慣れしてますし、信じてあげてくださいな。ともかく、私はディールちゃんを止める手立てを考えます。エストちゃん達は……ひとまず
グリモの言葉に全員が頷く。
まぁ、わたしとかは言われなくてもラムの治療に専念するつもりだと思うけど。
「わ、わかりました。でもお姉ちゃんたちはどうするんですか?」
「……お二人は、危険かもしれませんがあのまま戦ってもらいます。万が一マジックがこちらに攻撃する余裕が出来てしまえば大変ですから」
その辺はマジックにバレないようにこそっと伝える、と付け加えて、グリモはディーちゃんを止める方法を考えているのか、なにも話さなくなった。
ラムへの回復を続けながら、上空を見上げる。
「あはっ…!」
絶えず剣を生成し、射出しながら直接斬りかかり、攻め手を
休めることなくマジックへと攻撃を繰り返すディーちゃん。
それだけ見れば凄いと感じてしまうけど、状態のせいで危うさしか感じられない強さ。
「……ディーちゃん…」
たったひとりの姉があんなことになってるのに、わたしは…
見てることしかできない自分が嫌になりながら、わたしは戦いの様子を見守った。
「どうしたの…? ねぇ、ねぇ…? あははは…!!」
「くっ…」
エスト達が下でラムの治療を続ける中、上空ではパープルハート、ブラックハートと、暴走したブルーハート・ディール対マジック・ザ・ハードの戦いが続いていた。
最も、ディールの攻撃は大規模な剣の射出、かつ、味方への配慮の無いもので、ネプテューヌとノワールはマジックへと近付くことが困難になっている。
「一体、ディールちゃんはどうしたというの…!?」
「知らないわよ! 危うく私達まであの剣の嵐に巻き込まれるところだったってのに!」
二人はディールの変貌ぶりに困惑しながらも、彼女の魔法のせいでマジックへの攻撃ができずにいる。
そこへ、二人の頭に直接声が響いた。
『お二人共、聞こえますか…!』
「っ、通信? その声は…ぐりもんね!」
「ちょっと貴女! あれはどうしたって言うの!」
『説明すると長くなりそうなので、要点だけ伝えます。お二人はそのまま、ディールちゃんを利用してマジック・ザ・ハードを叩いてください。できればマジックが再びこちらに注意を向ける余裕ができないように』
「! ラムちゃんは無事なの!?」
『気を失ってはいますが、今治療中です。なので…』
「今ユニ達は狙われちゃ不味いってワケね…了解したわ」
グリモワールからの通信で大体の状況を把握した二人は、目の前で交戦するディールとマジックを見据える。
巻き込まれたくはないが、これ以上妹達への被害も出したくない……例え自分の妹ではなくとも、二人の考えは同じだった。
『…無茶な事なのは承知ですが、お願いします…』
「ええ、わかったわ。そっちはラムちゃんの治療に専念して!」
グリモワールとの通信が終わると、やれやれとノワールがため息を吐く。
「とんだ無茶ぶりね…」
「そうかもしれないわ。けど、これ以上ネプギア達に怪我させるわけにはいかないわ。ラムちゃんに攻撃を通してしまったと言うだけで、ブランに会わせる顔がないのだから」
「はぁ、そうね。それじゃ、せいぜい味方にやられないようにやってやるしかないわねッ!」
そう言って、剣の雨の間を縫うように、二人の女神は飛翔する。
避けきれないものは剣で弾きながら二手に分かれ、マジックへと突撃していく。
「ッ…貴様ら…!」
「悪いけど、貴女相手に手を抜く余裕もないの」
「私達が二度も負ける訳にはいかないのよッ!」
流石のマジックと言えど三方向からの同時攻撃には対応しきれず、大きなダメージを受けた。
「女神風情が…! 跡形もなく消し飛ばしてくれるッ!」
負傷したマジックは激昴したようすで、大鎌を掲げた。
すると鎌の上、マジックの頭上に膨大な魔力が収束し始め、巨大な魔力の球を生成した。
「なっ…」
「あれは、ヤバそうね…」
魔法の心得がないネプテューヌとノワールでも、あれは危険だと理解できるほどに、巨大な魔力の塊。
あれが魔力の爆発でも起こそうものなら、自分達諸共この一帯が吹き飛ぶかもしれない……そう感じる程に。
「…アポカリプス・ノヴァ」
そして、終焉を告げるように、
マジックが鎌を振り下ろすと、魔力の塊がネプテューヌ達に向かって放たれた。
「あんなのまともに受けたら…」
「でも避けたところで下にいるユニ達が……いえ、そもそも、避けても無駄かもしれないわ…!」
「くっ…ここまでなの…?」
ゆっくりと、着実に近づく破滅に、ネプテューヌまでも弱気になってしまっていた。
しかし、そんな中で、不思議そうに首を傾げる存在がいた。
「何を困っているの…?」
それはまるで、普段と変わらない様な。
けれど瞳は狂気の紅に染まっている、ディールだ。
「えっ? 貴女…」
「何って、その目は節穴なの? 見れば分かるじゃない!」
「ううん。わからない。だって──」
意思の疎通ができたのか、と驚くネプテューヌ。
場違いな質問に苛立ちを隠さずに怒鳴るノワールに、ディールはそう返すと、
杖に刃を纏わせて、迫る魔力の塊へと突っ込んだ。
「なっ!? ディールちゃん、何を!?」
あまりに無謀で、自分から命を投げるような行為に、思わずネプテューヌが叫ぶ。
けれど、次の瞬間には、
「──魔力なら、
そんな小さな呟きが聞こえたかと思えば、魔力の塊は真っ二つに両断されていた。
「………何………だと………」
自身の大技が、一瞬にして打ち破られ、無表情だったマジックですら驚愕する。
そして両断された魔力がディールの刃へと集っていくと、そのままマジックへと構えて突進した。
「…カ、ハッ…」
自身の魔力により強化された刃に貫かれ、血を吐き出すマジック。
──しかし少女は終わりではないとでも言うように、ニヤリと笑みを浮かべて刃を引き抜いた。
「ふふ……まだ、壊れないでね…ッ!」
そして休ませる間も与えずに、少女はその身体を斬りつけていく。
何度も、ただ斬るだけでは飽き足らず…
全身を燃やし、氷を打ち込み、雷を浴びせ、風で切り刻み、
生成し続ける剣は刺さるとすぐに消失するものの、絶えず全身を串刺しにして、
「あははは、ははははは…ッ!」
狂ったように笑いながら、太刀と化した杖で斬り続けていった。
「ガ、グッ…! その、力……そうか、貴様は、あの方の……」
「あはっ…死ね、死ねっ…ぐちゃぐちゃに、壊れて、死んじゃえ…ッ!」
何かを感じ取った様に呟いたソレの言葉など聞こえていないように、
動かなくなるまで、斬り続けた。
そして、マジック《だったモノ》が動かなくなると、漸く手を止めるのだった。
「ああ──壊れちゃった」
返り血で真っ赤に染まりながら、少女がつまらなさそうに、いつの間にか落ちないようにと発動していた拘束魔法を解くと、マジックだったモノが地面へと落下して行く。
そんな凄惨な状況を見ていた女神二人はというと…
「………」
「……うわぁ」
完全に引いていた。
「………ぁ…」
と、標的であるマジックが倒された為か、ディールが力なく落下を始めた。
「はっ、いけない!!」
それを見て我に返ったネプテューヌが、落下するディールをなんとかキャッチして救出する。
受け止めたディールの様子を伺うと、どうやら気絶してしまった様子であった。
「…その子、大丈夫なの?」
「えぇ…どうやら気を失ったみたい」
「そう……なんだかスッキリしないけど、勝ちは勝ち、かしら?」
「そう、ね」
複雑そうにそう言ったノワールに同意しながら、気絶したディールを見やるネプテューヌ。
──この子の、別次元から流れてきたロムの抱える闇は、どれほどの事があってなのか。
そんな思いを抱きながら、ネプテューヌはネプギア達の元へと戻るのだった。
〜パロディ、用語解説〜
・カオスエネルギー
本来打ち消し合う、若しくは浄化、侵食されどちらか一方になるはずの相反したエネルギーが混ざりあってしまい、正でも負でもない混沌の力となってしまったもの。
カオスエネルギーを身に宿した者は、己の感情のままに振る舞い、邪魔をするなら力を以て排除しようとする凶暴性を見せる(グリモワール考察)
・ディーちゃんって名前からしてまき散らす方になりそう
上記でちらっと名前が挙がった、「ねぷねぷコネクト カオスチャンプル」より、キャラクター「DCD」の事。
作中にてホワイトシスター〔カオス〕らに「ディーちゃん」の愛称で呼ばれていた。
・「………何………だと………」
漫画「BLEACH」より、「黒崎一護」の台詞。
そりゃ、自分の必殺技が目の前で真っ二つに叩き斬られた挙句、救出されたらそうもなるでしょう、きっと。
……ちなみに原作のアポカリプス・ノヴァとは少し違うことになっていますが、そういう仕様です。