幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.14 複製されたHENTAI

「犯罪神様より賜った()()の力で、ねじ伏せてくれよう」

 

そう言ってマジックはどこからか取り出した3枚のカードを放り投げる。

物凄く嫌な予感を感じたその直後、地面に刺さったカードが禍々しい光を放った。

 

そして──

 

「──なっ」

「冗談でしょ…」

 

その光景に、ネプテューヌさんとノワールさんがその場の皆の思いを代弁するように呟く。

だって、マジックの周りに現れたのは……

 

「まさかまたテメェらと戦えるなんてなァ!? ハッハァ! 最高だぜぇ!」

「目的は違えど、よもや貴様と意見が合う日が来ようとは思わなんだ。当然吾輩は戦いではなく……アクククク!」

「………」

 

「し、四天王…ジャッジ・ザ・ハード!?」

「嘘…ブレイブまで…」

「ぎゃー! なんであのヘンタイまでいるのよ! サイッアクー!!」

「へんたい、やだ…!」

 

ジャッジ・ザ・ハードにトリック・ザ・ハード、ブレイブ・ザ・ハード。過去に倒したはずの四天王達。

ジャッジは前にも復活したけど、今度は三人一気に……つまり四天王勢揃い、ということになる。

 

そう、確か前の時も、妙なカードから……

 

「ふーん? 厄介そうな事になってきたじゃん」

 

強敵の復活に戸惑う中、エスちゃんはどこか抑揚のない声でそう呟く。

 

「エスちゃん…なんか楽しそうな顔してない?」

「そんな事ないわよ? ただ──」

 

エスちゃんどこかさっきまでとは違う様子で、左手で振り下ろした杖に鋼の刃を纏わせ、大剣のよう形態に変化させた。

 

「アイツはわたしが倒す」

「えっ? え、エスちゃん…?」

 

なんだろう…エスちゃん、なんか…怒ってる…?

 

「アクク! 幼女からのご指名とは、吾輩嬉しいぞぉっ!」

「…………チッ」

 

舌打ち!?

 

「エストちゃん、こわい…(ぶるぶる)」

「……あれって、元はラムだったのよね」

「ちょ、ちょっとー! わたしあんな怖くなんかならないわよー!!」

「あー……もしかして、あの時のか…」

「ブラン、彼女が不機嫌な理由に心当たりが?」

 

その様子に皆も若干引き気味だったけど、ブランさんがなにか知ってるようにそう言った。

 

「ロム、ラム達と合流する前に一緒に居たろ? 大剣使う奴が。あれがエストだったとして、あの変態野郎にディールが舐め回されてたのを見てたとしたら…だ」

 

う、うぇえ…思い出したくない事を…でも…

 

「……確かあの時クナイが飛んできました。そしてエスちゃんも手裏剣とかを使ってましたね…」

「…なるほどね、何となく察しがついたわ」

「つまり彼女が怒っているのはそういう事…」

 

思い出した事を言ってみれば、ノワールさんとネプテューヌさんも納得したような顔。

本当にそれで怒ってるなら、あの様子を見る限り…あんまり近寄らない方が良さそう…巻き添えにされそうだし…

 

「と、とにかく、私達も行きましょう!」

「…そうね、今の私達なら四天王相手でも勝てる。…皆、行くわよ!!」

 

エスちゃんが先行しちゃったけど、とにかくわたし達も攻撃に移るべく散開する。

 

こうして、女神vs四天王の全面対決の幕が上がった──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「アクククク! 見覚えのない幼女女神だが…何だっていい! 幼女をぺろぺろするチャンスだ!」

「……」

 

集団戦をする気がないのか、それとも他の四天王に邪魔されるのが嫌なのか、

エスちゃんをおびき寄せるように移動してから、舌を伸ばして襲いかかるトリック。

 

何かの罠じゃないか、と心配しつつ後を追って追いつけば、うねる舌を無言でかわし続けるエスちゃんの姿が見えた。

 

「エスちゃん!」

「ディーちゃん? 別に心配しないで任せてくれればよかったのに」

 

エスちゃんの背中に声をかけると、彼女はちら、一瞬こっちを見て、攻撃を避けながら言った。

 

単騎で四天王の一人に勝つ気満々だったんだ…

でもエスちゃんは記憶無くしてほぼニューゲームなわたしと違って、終盤からさらに強くなった強くてニューゲームみたいな状態なのかな。序盤に一時的に加入するレベル高くて強いキャラみたいな。

 

……途中離脱しないよね? じゃ、なくて…

 

「グリモがそう指示したの。こっちはエスちゃんとわたしに任せるって」

「む、そう」

 

わたしがこっちに来たのはグリモの指示だと言う事を伝えると、エスちゃんは素っ気ない返事で返して直ぐにトリックへと意識を戻していった。

 

敵に突っ込みがちなのは変わらず、って所かな…

 

「ほーれほれ、大人しく吾輩にぺろぺろされるがいい!」

「そんなの二度とごめんだね…!」

 

ぺろぺろとか言いつつ飛ばしてくる魔法弾を、飛行して避ける。

あいつは図体がでかいから、こっちから攻撃を当てることは難しくないはず…!

 

「こん、のぉっ!」

 

攻撃を避けながら周りに鋼の剣を生成して、トリックへと一斉発射。

一度倒した相手なんか、さっさと押し切ってしまえば…そう考えていた時だった。

 

「…えっ?」

 

放たれた剣が直撃した…と思いきや、トリックの姿がブレて、消えてしまった。

げ、幻影…?

 

「アククっ、ほうら、こっちだよ」

 

困惑していると背後から気配を感じて、振り返って見れば、

本物?のトリックが宙から舌を伸ばして来ていた。

 

「ディーちゃんッ!!」

「ふぐぅッ!?」

 

避ける間もなく捕まる……かと思いきや、間一髪のところでエスちゃんがわたしに向かって突撃してきて、舌攻撃からは逃れることができた。

 

「もうっ! 油断しないで!」

「う、うん、ごめんなさい…けふっ…」

 

正直エスちゃんにぶつかられたのが結構なダメージになってるけど…そもそも精神ダメージよりはマシ、かな…

 

「ぬぅ、逃したか。だが──」

 

『吾輩の術から逃れられるかな?』

 

精神的にやられるのは避けられたものの、そう言ったトリックはいつの間に三体に増えてわたし達を囲むように陣取っていた。

術…ということは、幻惑…分身の魔法?

 

「はっ! 幻なんかで増えたとこで、全部ぶっ倒せばいいだけよ!」

「あ、ちょっとエスちゃん! そんな考え無しに…!」

 

わたしの静止も聞かずに、エスちゃんはトリックの一人に斬りかかる。

けれど、斬りつけられたトリックはかき消えるようにして消えた。…つまり、偽物。

 

「アククク! ざぁんねぇん!」

「今の感触…ちっ、偽物は偽物でも攻撃もできるってわけ!」

 

残った二体から伸びる舌を避けながら、エスちゃんが面倒そうに舌打ちする。

つまり、ただ幻じゃなくて、耐久だけ低いけどトリックそのままってこと…?

 

「よそ見はいかんなぁ!」

「くっ…」

 

しかも偽物流行られてもすぐに復活すると…新しく現れたトリックの舌を避けながら判断する。

…いや、すぐに補充できるってことはつまり──

 

「アククク…」

「アククククク!」

「うえぇ、気持ち悪い! 増えすぎでしょ!?」

 

どんどん数を増やしていくトリックを、エスちゃんは心底嫌そうにしながら斬り捨てていく。

わたしも負けじと、剣を飛ばして仕留めていく。

 

けれど敵の数は一向に減らない。倒す速度を補充速度が上回っているんだ。

近接タイプのエスちゃんはともかく、わたしの殲滅力でも減らせない。

その上…

 

「ひっ!」

「ひゃぁっ! …こンの、変態ぃっ!!」

「おお、なんという甘美…!」

 

偽物も含めたトリックが四方八方から舌を伸ばしてきて、こっちばかりが色々と削られていく。

このままじゃ良くない…なんとかしないと…

 

………いや、エスちゃんなら魔法使えるはずだから…

 

「エスちゃん雷防御!」

「えっ?」

 

杖を構えながらそれだけ伝えて、返事も待たずに詠唱…!

 

「ライトニング、ボルトッ!!」

 

詠唱完了と同時に杖を掲げて、魔法発動。

ライトニングボルト……本来なら前方放射状に雷撃を放つ魔法。

だけどこれは魔法の術式を少し組み換えて、杖から雷光が周囲へと迸り、無差別に雷撃を食らわせるようになっている。咄嗟の判断にしては魔力暴走の気配もなさそうだ。

 

「っぐ…ァァあああ!!」

 

けれど安全性を度外視して範囲化したため、味方の識別もできない諸刃の剣と化している。

エスちゃんには言ってあるから軽減できてると思うけど、雷撃はわたしの身体にもダメージを与えていく。

 

「なっ、無茶な事はやめたまえ! 自分も傷付いているだろう!?」

「あなたを倒す為なら、これくらい……なんてこと、ない…ぅぁあああああ!!」

 

何故か敵のトリックに心配されるけど、構わず出力を上げる。

杖を持つ手が痺れて震えてきて、流石にこれ以上はまずいと判断して魔法を止めると、辺りにトリックの姿は一体だけになっていた。

 

「かふっ……エスちゃん、本体…!!」

「…わかってる!」

「ぬぉっ! しまっ──」

 

少し目が霞むけど、気合で意識を保って自分を治癒しながら叫ぶ。

エスちゃんは言われずともわかっていると大剣と化した杖を構え、トリックへと突っ込んでいく。

 

「亡霊は…暗黒に帰れッ!!」

「ぐぉぉおおおっ!! ま、またしても、幼女に…だが幼女の手にかかるならば…本…望……グフッ」

 

女神体で出せる加速力を乗せた渾身の一閃が、トリックの身体を両断し──消滅させた。

 

「……終わり?」

 

辺りからは気配も消えて、多分勝ちって事で良いんだろうけど……なんだろう。エスちゃんが強いだけ?

いや、エスちゃんが強いとしても──

 

「とぅ!」

 

ズビシッ

 

「ふぎゃっ!?」

 

自己回復しながら考え込んでいると、脳天にチョップされる。

ま、まだ完全回復できてないのに…

 

「な、何するの、エスちゃん…」

「「何するの」じゃなーい!! なんて無茶してくれてんの!?」

 

痛む頭を押さえながら見上げれば、ご立腹な様子のエスちゃん。

多分雷撃の被害を被ったから怒ってるとかじゃ、ないよね。

 

「と、とっさに思いついたのが、あれで…」

「だからってねぇ…! もうちょっと自分の事も大事にしてよ! 今度こそ絶対守れるようにって強くなったのに、これじゃ何のために強くなったのか、わかんなくなるよ…っ」

「エスちゃん…」

 

そっか…そう、だよね。

エスちゃん、確かにすごく強くなったと思うけど、当然それは楽な事じゃなくて、凄く大変な思いをしたのかもしれない。

それでも全部乗り越えてここまで強くなったのは……わたしを守りたいって思っていたから。

 

この次元でロムちゃんとラムちゃんを見ていて感じたことだけど、ラムちゃんはロムちゃんに少し過保護なところ、あるもんね。

思い返してみればエスちゃんもわたしにそんな感じだったかもしれない。

 

「……ごめんなさい。もう無茶はしないようにするね」

「わかれば、いいのよ」

 

泣き出しそうな顔を見せないようにふいっとそっぽを向くエスちゃん。

…尚更気をつけないと、かぁ…

 

「……まぁ、ディーちゃんがあんな事したお陰で、アイツまで取り乱して分身出てこなくなったとは言えるけど」

「ああ、そうだ。…エスちゃん、変だと思わなかった?」

「? なにが?」

 

エスちゃんがトリックの事を言ったことで、さっき感じた違和感を思い出す。

 

「だって、エスちゃんがいくら強くなったって言っても、相手は四天王の一人だよ? なのに一撃で倒せるなんて…」

「あぁ、言われてみればそうかも。術タイプでもボスなら一撃必殺なんて普通ないわよね」

「うん…。あの分身の技は…多分、前に戦った時は屋内だったのとか、幼女(わたし達)に怪我させたくないって加減しちゃってたかもだし」

 

それに比べると、今回は前よりも戦う意思が強いように感じられた。

復活体でマジェコンヌの力が強いせい、とも考えたけど…

 

「あれはトリックであってトリックじゃない……本物(オリジナル)じゃない、複製体(レプリカ)のトリック・ザ・ハードなんじゃないかな、って…」

「ふぅん。…そういえばあいつら、変なカードから出てきてたわね。つまり複製体を作る力が今のマジェコンヌ…クロムだっけ? にはあるってこと?」

「多分…だから、ジャッジ・ザ・ハードとブレイブ・ザ・ハードも、オリジナルよりも手強くはないんじゃないかな…」

 

とはいえ、ここまで全部わたしの予測、想像に過ぎないから、断定はできないけど……ジャッジ・ザ・ハードなんて今回で二度目だしね。

 

「……ってことは、レプリカじゃない、まだオリジナルのマジック・ザ・ハードはこのまま分かれたまま相手するのは良くなさそうね…」

「うん。残りの二人はそっちに向かった人に任せて、わたし達はマジックと戦ってる方に加勢した方がいいと思う」

「りょーかいっ。なら急ぐよ、ディーちゃん!」

 

そう言って飛翔するエスちゃん。わたしもその背中を追うようにしてに続く。

 

グリモがジャッジとブレイブに守護女神を一人ずつだけ割り当てたのって、もしかして本当に偽物だからだったのかな。

 

でも、なんだろう。ザワザワ嫌な予感がする。

ロムちゃん、ラムちゃん達、無事だといいけど…

 

「ほらっ、ディーちゃん加速加速!」

「ま、待って…!」

 

ばしゅぅん、と加速するエスちゃんを追いかけて飛んで、戦いの音が近付いてくる。

よかった、流石にやられてる、なんてことは無かったみたい。

 

──そう、思った直後の事だった。

 

「忌々しい…ならば先に殺してやる」

 

前衛を援護するロムちゃん(ヒーラー)が鬱陶しく感じたのか、マジックが手から魔弾を放った。

 

「ひっ…!」

「っ! しまった!」

「ロムちゃん避けて!」

 

ネプギアちゃん達前衛も狙いに気付くものの止めるには遅く、ロムちゃんに向かって叫ぶけれどロムちゃんは突然の事に怯えたのか動けない。

 

「ッ! ダメ!!」

 

出力を全開にして、ロムちゃんを庇いに行こうとする。

 

……ダメ、届かない…!!

 

「ロムちゃん!!」

 

魔弾がロムちゃんに当たってしまう…その直前。

ラムちゃんが抱きつくようにしてロムちゃんを庇った。

けど…

 

「ッ、ぁぁあああ!!」

 

一歩遅かったのか、魔弾は庇ったラムちゃんに直撃。

ラムちゃんの悲痛な叫びが響いた。

 

「ラムちゃん…!」

「ら、ラムちゃん…!きゃぁ…!」

「ぐ、ぅ……ロム、ちゃん…へいき…?」

 

急いで二人の傍に行き、様態を見る。

ロムちゃんの方には怪我は無いみたいだけれど、ロムちゃんに支えられながら、それでもロムちゃんの心配をするラムちゃんの背中からは、赤い色の……

 

「ぁ…ぁ…」

 

それが()

ラムちゃんから流れ出た、血で…

 

今にも泣き出しそうなロムちゃんと、苦しそうなラムちゃんを見て……わたしの中を、何かが埋め尽くしていく。

 

「これは…ロムちゃん、ディーちゃん! 回復魔法!」

「ぁ、ぁ…あぁ、ぁぁぁ……!」

「……ディーちゃん?」

 

黒い、黒いナニカが、わたしを染めていく。

 

 

 

ラムちゃんにこんな事をした奴は、誰だ。

 

アイツ…アイツだ…アイツが…アイツのせいで……

 

 

 

 

 

アイツが、ラムちゃんを……!!

 

「あぁぁぁあぁぁあああああッッ!!!」

 

 

湧き上がる憎悪はもう止められない。

 

いいや、止める必要なんてないよね。絶対に許さなくっていいんだ。だから、もう──

 

 

 

 

 

──壊してしまえ

 




〜パロディ、用語解説〜
・「何だっていい! 幼女をぺろぺろするチャンスだ!」
「スーパーロボット大戦K」より、「ミスト・レックス」の台詞から。現文は「なんだっていい! 奴にとどめを刺すチャンスだ!」…霧が濃くなってきたな。
ちなみに作者は動画コメントとかで流れてくるので見たことがある程度なので、スパロボの内容自体は知らなかったりします。

・「亡霊は…暗黒に帰れッ!!」
「機動戦士ガンダムUC」より、「バナージ・リンクス」の台詞。
別にエストはビームトンファー的な仕込み武器までは持っていませんが。それにしてもガンダム系は何かと汎用性が高い…

・レプリカカード
今回の四天王の内三体を権限させたアイテム。登場自体は「4-4 黒の地方、黒い工場、黒いボス」にて登場済。
生成者が生成したモノの模倣品をカードに閉じ込め、使用すると模倣品が生み出されるというもの。条件次第で模倣前の記憶を保持していたりするが、基本的にオリジナルよりも性能がダウンしてしまう。

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