幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「ええいっ!」
「邪魔よ!」
モンスターの群れ…壁? を突破してさらに突き進むわたし達。
さっきまで程とは行かないけど、まだ襲ってくるモンスターや構成員を蹴散らしながら、タワーの目前まで迫っていた。
「…エスちゃん、後で覚えててね」
「なんのことー?」
「…(にこにこ)」
「あっ、大分怒ってる…のね」
当然。あんな、人のことを弾丸かなにかみたいな扱いして…
勢いついた分、遠くまで斬り進められはしたけどもね。
「…この先で誰かが戦ってる」
「それって…!」
「きっとお姉ちゃん達よ!」
と、だんだんと誰かが戦っている音が聞こえてきた。
「あー、先は越されちゃったわね」
「そんなの気にしてる場合じゃないでしょ…! 早くっ」
エスちゃんだけ緊張感のない事を言っていたけれど、わたし達は戦いの音が聞こえる方へと急ぐ。
いくらグリモがいるとはいえ、相手はあの人達が一度負けたという相手。急がないと…
『お姉ちゃん!!』
広場に出ると同時に四人が叫ぶ。
そこではやっぱりというべきか、先に着いていた四女神と四天王最後の一人──マジック・ザ・ハードが、既に戦闘を始めていた。
「ネプギア…! それにみんなも…無事だったのね!」
ガキンっ、と刀と大鎌がぶつかり合う音を響かせ、こちらに気が付いたネプテューヌさんがマジックから大きく飛び退きながら安心したように言う。
ノワールさん、ブランさん、ベールさんも大きな怪我は無いようだけど、相手もほぼ無傷。まだ戦いは始まったばかりみたい。
「……この数期間でこうも早く力を取り戻すか。──否、この場に満ちるこの空気……貴様か」
「気付くのがお早いことで。マジックの名は伊達じゃねーってことですか」
……って、あれ、誰…? なんか見覚えがあるというか、顔は知らないけど知ってるような…
「…あー、ディーちゃん達は見たことなかったのね」
「見たことって……あの本、もしかしてグリモワール…?」
「うん。そっちじゃわたしの姿だったんだっけ? わたしの方でも最近までディーちゃんの姿だったから、正直言うとわたしもあんまり見慣れてないけど」
わたしの表情から察したのか、エスちゃんがそう答える。
つまり、あれがグリモワール本来の姿って事なんだ…
…グリモワールが乗ってる本、わたしが持っているのと比べるとなんだか黒いし、あれがエスちゃんが持ってた方のグリモワールってことかな。
「何はともあれ、これで形勢逆転ですわね」
「ああ。…本当ならあいつらを危険な目に合わせたくはねぇが…」
「貴女も引きずるわね。あの子達だって女神なんだから、いつまでも置いてけぼりになんてできないわよ。…ま、危なっかしいのは否定しないけど」
臨戦態勢を取るネプギアちゃん達を見ながら守護女神達が呟く。
本当、ブランさんノワールさんに負けず劣らずに不器用というか…
「マジック・ザ・ハード! これで形勢逆転よ!」
「ふ…足でまといが増えただけ、の間違いではないのか? …あの時の戦いのようにな」
「っ…」
マジックの言葉に、ネプギアちゃんが顔を伏せる。
精神攻撃は基本…ってこと? けれど…
「…ネプギアちゃん! 大丈夫、だよ」
「……ディール、ちゃん?」
「あなたはもう、わたし達が初めてあった時よりもずっとずっと強くなった。だから……大丈夫」
「そうよ。それにね、アタシ達の事も忘れるんじゃないわよ」
「ユニちゃん…」
「そーよそーよ! こんどはさいきょーに可愛くて強いわたしとロムちゃんだっているのよ! 負けるはずないじゃない!」
「元気だして、ネプギアちゃん……わたしも、頑張るから…!」
「ラムちゃん、ロムちゃん……、……うん!」
皆の励ましに、ネプギアちゃんの表情から怯えが消えていく。
ただの励ましじゃなくて、事実みんな強くなっているんだから、わたしは負けたりなんてしないって信じてる。
……横で「わたしだけ仲間はずれって空気よねーこれー」とかぶつぶつとエスちゃんが拗ねていたのは今は置いておく。
「…貴女の妹は随分と人たらしね。…いえ、女神たらし?」
「全くだ。誰に似たんだろうな?」
「まぁ、姉がこれですものねぇ」
「…? 何? 皆して私の顔を見たりして…」
あっちもあっちでなんか言ってるけど……つまりネプギアちゃんがユニちゃん達を惹き付けるように、ネプテューヌさんもノワールさん達を、って事なのかな。
きっと本人達に聞いたら否定しそうだけど…
「…今の私には、皆がいる。だから…もうあなたには負けたりしません!」
「そういうこと。アンタには借りもあるし、今ここで返させてもらうわ……アタシの弾丸でね!」
「お姉ちゃんに酷いことした…許さない」
「とーぜんよ。あんたなんかここでボッコボコにしてやるんだから!」
ネプギアちゃんとユニちゃん、ロムちゃんラムちゃん。
皆が決意した眼差しをマジックへと向けながら、女神化していく。
「ならばやって見せるがいい。…最も、できればの話だが」
「っ!」
そんな皆の眼差しが気に入らなかったのかわからないけど、マジックは標的をネプギアちゃん達へと向け、一斉に魔弾を放った。
「ネプギア!!」
ネプテューヌさんの叫び声が聞こえる。
いくらロムちゃんとラムちゃんがいるとはいえ、自分の妹が狙われれば誰だって心配するんだろう。きっとノワールさんとブランさんも同じだと思う。
でも、今回は誰にも怪我なんてさせたりしない。
「残念だけど、そうはさせない。ってね?」
「……貴様達は」
そう、いくら魔法弾の雨を降らせようと、ここには
ロムちゃんラムちゃんもあわせればちょっとやそっとの魔法なんて、通用しない。
「ちっ、イレギュラー風情が…」
「別次元から、という意味でならそうなる…でも」
障壁魔法を解除しながら、エスちゃんと顔を見合わせる。
こくりと頷いたのを見て、わたしは自分が持っていた方のグリモワールを手にして、その手にエスちゃんも手を重ねる。
「…なんと言われようと、今のわたしの居場所はここだから。わたしはこの場所を、みんなを守るために……あなたを倒す!」
「わたしはディーちゃんが守れるなら、どこにだってついていくよ」
「…うん、ありがとう」
全部を守る、なんて…そこまでの力はまだ無いけれど。
身近な大切な人から、いつかは守りたいもの全部を守れるようになるって、決めたんだ。
「…行くよ、エスちゃん」
「いつでもオッケーよ!」
「「プロセッサユニット、セット!!」」
覚悟を決めて、エスちゃんと一緒にグリモワールの中の
光が止んで改めて手や自分の身体を見れば、ちゃんと女神化できていることを確認する。
……思えば、記憶が戻ってからは初めての女神化かも?
「…ん? ディーちゃん、なんかちょっとイメチェンした?」
「イメチェン…? そう言われると前からロムちゃんとはちょっと違ってるかなって感じてたけど……エスちゃんも人のこと言えないよ」
「あれ? そう?」
エスちゃんの姿と、改めて自分の姿を見てみれば、
殆どはロムちゃんラムちゃんのものと一緒だけれど、一部……プロセッサユニットのピンク色だった部分がそれぞれ赤と青に変わっている。…わたしの方は前に変身した時と一緒なはずだけど。
ただ、もう1つ変わったところが、髪の色。これにかんしては前に変身したときよりも髪の色が青寄りというか、少し濃くなっていた。エスちゃんも同じで赤っぽい。
「…なんでだろう」
「うーん。今のわたし達って他の女神と違って、グリモワールの力で女神を再現したような感じらしいし、人間のイメージじゃなくて自分自身のイメージとかが反映されてるんじゃない?」
ま、わたしもよくわかんないけど。と付け足すようにエスちゃんは言う。
要はわたしとエスちゃんのは、限りなく女神化に近い別物って思えば良い…んだと思う。
「アンタ達ね…その辺の話は後にしなさいよ!」
「「はーい」」
なんて敵の目の前で呑気に話してたせいでユニちゃんに怒られてしまった。当然だね。
…そんな状況なのに襲ってこなかったマジックは…多分、不意討ちするまでもない相手だと思ってるんだろう。なにせ四女神相手に一人で戦えるくらいだし。
「……見覚えのない女神…貴様等は何だ」
「悪党に名乗る名前なんてないわ! ってとこだけど、いいわ。冥土の土産に教えてあげる!」
横で得意げな顔をしてるエスちゃん。
あれ、これわたしも名乗る流れ?
「女神レッドハート、エストちゃんと!」
「あ、えっと……女神ブルーハート、ディール…」
「アンタを裁くために舞い降りた、最強の双子女神…よ!!」
……エスちゃん…
「…厨二入ってる?」
「入ってないわよ!」
…とにかく、なんか拗らせてそうな「拗らせてないってばぁ!!」エスちゃんは置いといて、物語を進行させようね…ぐだぐだは、めっ。
「……良いだろう。滅ぼす手間が省けるというもの」
十人の女神を前にしても顔色変えずに、マジックは大鎌を構え、
「犯罪神様より賜った
トランプのような3枚のカードを取り出した。
その直後、マジックが口にした
わたし達は知ることになる──