幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
トリック・ザ・ハードを撃破して、イストワールさんを救出したわたし達は、今後の事を決めるためにラステイションの教会へと戻ってきていた(ちなみに、ギャザリング城に大穴開けたりしたことはブランさんに少し叱られた)
「…皆さん。ご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」
「迷惑なんてことないよ! いーすんが無事でよかったし、悪いのは全部あっちだもん!」
連れ攫われたりしたことを悔やんでる様子のイストワールさんだけど、ネプテューヌさんはそれよりもイストワールさんの身を案じていた。
「ネプテューヌさん…ありがとうございます」
イストワールさんと話しながら、ちらりとこちらに視線を寄越してくるネプテューヌさん。
というのも…
「っ…」
「ん。…沁みた?」
「ううん、大丈夫だよディールちゃん」
先の戦いでネプギアちゃん達が下っ端にやられた傷の手当てをしているから。
わたしがネプギアちゃんの、ロムちゃんがユニちゃんの手当てを手伝っている。
「いつっ! うぅ、結構沁みるわね、これ…」
「…(じぃぃ)」
「あ、いつっ、ちょ、ロム!? 沁みるって言ってるでしょ!?」
「あ…ごめんね?(てへ)」
……今なんかロムちゃんがサディスティックに見えたけど、何も見てなかった事にしよう、うん。
「……下っ端って奴だっけ? 今度見かけたらちょーっとお話してみたいかなーなんてー」
「あら、奇遇ねネプテューヌ。私もそう思っていたのよ」
そしてさり気なく下っ端の死亡フラグが建築されていく。…まぁ、妹をこんなにボコボコにされたらそうなるよね…
「二人ともお手伝いありがとです。あとはわたしに任せてくださいですっ」
「あ、はい。わかりました」
「…もう少し、お手伝いしたかった(ちらり)」
「ひぃ!?」
「…?」
わたしは何も見てない。わたしは何も見てない。
と、それはさておき、大事な話の続き。
「まぁ、プラネテューヌの教祖を取り戻せたのは良しとしても、問題は残ったままのようだけどね」
「そうね。肝心の都市が占拠されたままだもの」
教祖組が言ったように、イストワールさんは助け出せて、四天王の一人を倒しはしたけれど、都市の方はまだ犯罪組織の手の内。
「それに…襲撃以来、グリモワールさんとの連絡がつかないことも気になります。…ディールさんのところにも、何も?」
「はい。わたしからも連絡が取れないままです」
イストワールさんがこっちを見ながら聞いてきたことに、魔本のグリモワールを手にして答える。
相変わらず呼びかけてもあっちからの応答はない。
本当にどうしたんだろう。
「……まぁ、死ぬことはないと思いますので、今はプラネテューヌのことをどうにかするべきだと、思います」
あれは暗躍とかが好きそうだし、案外どこかでうまくやってるでしょ、多分。
そもそも死の概念あるのかな…?
「というか、私の国が乗っ取られてるんだから、今すぐにでも取り返しに行かなきゃでしょ!」
「ご自分の国のことはご自分で……と、普段なら言うところですけれど、今はそういう状況ではありませんわね」
「主要都市の一つが敵の手にあるというのは好ましくない。ということでイストワール、勝手ながらそちらの人員を使わせてもらったよ」
「……アンタに命令されるのは癪だったけれど、そうも言ってられなかったし」
多分、わたし達がギャザリング城に行ってる間のことだろう、ケイさんがアイエフさんに様子を見に行くよう指示していたみたい。
「それで…どうだったんですか?」
「どうもこうも、街中モンスターと犯罪組織っぽい連中だらけ。住民の避難は済んでるはずだから、そっちの心配はしなくても平気だと思うけど…」
自分の国の事だからか、気にした様子でアイエフさんにそう聞くネプギアちゃん。
返ってきた返答はなんだか歯切れの悪いものだった。
「…何が気になることでも?」
「敵の数が多いのも確かですけど、一番の問題は指揮官かな、と」
「ふぅん? で、その指揮官って言うのは?」
「はい。敵の指揮官…手下には確か、マジック・ザ・ハードと呼ばれていました」
マジック・ザ・ハード。
その名前が出た途端、四女神とネプギアちゃんの表情が険しいものに変わった。
ザ・ハードということは、マジェコンヌ四天王の一人、でしょ。それで四天王はもうジャッジ、ブレイブ、トリックで三人倒してるから…
「つまり、最後の四天王、ですか?」
「その通りですわ。その名、忘れたことはありませんもの」
「マジェコンヌ四天王、最後の一人で、あちら側の女神のような存在。そして…」
「…私達が負けた相手よ」
真剣な表情のノワールさん達から告げられた言葉に、残りのメンバーにも緊張が移った。
わたしも直接的に深い関係があったわけじゃないけど、名前を聞いて思いだせる程度には記憶に残っている。
なにせ、四女神(とネプギアちゃん)を捕らえた張本人らしかったし。
「マジック・ザ・ハード…ですか」
「過去にお姉さま達を倒し、捕らえた相手…」
「つまり、一筋縄では行かない相手という事だね」
強敵が相手とあってか、空気が重い。
これは、あんまり良くないかも…
「まぁまぁ、負けたのはもう昔のことじゃん! それに、今度は私達だけじゃなくって強くなったネプギア達だってついてるんだから、何とかなるよ!」
そんな空気を壊したのはネプテューヌさんだった。
まぁ、この中じゃ一番シリアスが似合わない人だもんね、この人は。
「そうよ! わたしとロムちゃんがいたら負けなしなんだから!」
「負けない…!(きりっ)」
「はぁ…ネプテューヌ。あなたの能天気がうちの妹に伝染ったらどうしてくれるのよ…?」
「私が悪いの!?」
…ある意味、女神達の集まりのノリっていうのはこういう感じであるべきなのかもしれない。
そういう意味ではあの人は……いや、あれはあっちの空気がそうさせているのかも。現にわたしも…
「それで、作戦内容なのですが…女神である皆さんには二手に別れての強行突破をお願いしたいと」
「二手?」
「はい。わかりやすく言うと、守護女神の四人と女神候補生組の五人での二チームです」
イストワールさんの言葉に、当然と言うべきか、難色を示したのは守護女神の四人。というか、ほぼ全員。
当然だ。いくら四人とも覚醒を経て強くなったとはいえ、それでも候補生なんだから。
「イストワール、流石にそれは賛成しかねるわね」
「はぁ…私も実のところあまり良い考えとは思わないんですがね…」
「…と言うと、何かあるのですか?」
ノワールさんに言われイストワールさんはため息を吐きながらそう言った。
…どういう事だろう。何か作戦でもあるのかな。
「……すみません、私も詳細は聞かされていないので…ただ、戦力の心配はこの編成で気にしなくていい、と。グリモワールから」
「グリモワールっ?!」
思わぬ名前につい声を荒らげてしまった。
グリモワール…連絡寄越さないと思ったらなんでイストワールさんにだけ…!
「は、はい。ですが先ほども言いましたように、それしか聞かされていないので…」
「……何を企んでるの、あいつ…」
「何だか不安ね…本当に大丈夫かしら」
「まぁ私もネプギア達と別だって言うのはちょっと心配だけど、大丈夫じゃないかな? 私の勘はそう告げている!」
「あなたの勘なんて当てになるかどうか怪しいんだけれど」
周りが怪しむような反応をしている中、一人考え込む。
こっちからの呼びかけには応えないで、イストワールさんには何か言っていた…? どうやって、とかは…まぁ魔法の書だし。それとも書同士のネットワークみたいなのでもあるのかな。
結局、ノワールさんとブランさんは不満そうにしていたけど、作戦の大体の流れが決まった。
まず始めに軍や協力してくれる実力者らが先駆けて敵軍の注意を引いて、それから女神組、候補生組がそれぞれ別ルートから占領プラネテューヌの頭であるマジック・ザ・ハードのところへと一気に進軍する…といったもの。
話はわかるんだけど、不確定というか…情報開示のされていない部分があるせいでどうにも不安…
「……今更後戻りなんてできないけど」
「…? どうか、したの…?」
「ん。なんでもない」
ぽつりと呟いた言葉が聞こえてたみたいで、ロムちゃんが不思議そうに見つめてきていた。
あぁ、急だけれど場面は変わって、既に作戦の為の配置に着いている状態だったりする。つまりプラネテューヌに近い場所にわたしは候補生組の四人と一緒にいる。
急に場面が飛んだって? わたしもそう思う。でもネプテューヌさん曰く
「まぁ大まかな流れは読者の皆もmk2とかRe2やって把握してるでしょ!」
とかなんとか。
自分の国が大変な時もいつも通りなの崩さないのはある意味凄いと思った。
「で、ボスまで突撃ってのはわかったけど、アタシ達はどこを目指せばいいのよ」
ライフルのスコープを覗いて偵察しながら、ユニちゃんが言う。
そういえばボスであるマジック・ザ・ハードがどこにいるかとかそういう話はなかったっけ。でも…
「そんなの見たらわかるじゃない。そーゆー悪いやつは高いところが好きってどこかで見たから、あそこでしょ!」
「おっきな塔…!」
ラムちゃんが指さした先は、プラネテューヌの象徴でもある塔、プラネタワー。
うん、まぁ、そう思うよね。目立つし。…あ、でも、
「そういえば…イストワールさん、合図とかも特に言ってなかったけど、ここからどうするんでしょうか」
「あー、それは多分あれよ」
ふと感じた疑問に、今度はユニちゃんが答えようとして…同時に、街の方が騒がしくなりだした。
「…街がドンパチ、騒がしくなったらよ」
「つまり、そろそろ出発ですか」
銃声やら何やらが聞こえ始め、戦いが始まったことを感じ取り、気を引き締める。
目指すは都市の中心、プラネタワー…
「…それじゃあ、皆。お願い、力を貸して…!」
「ここまで来ておいて帰る訳ないでしょ、やってやるわ!」
「ふふん、しょーがないから手伝ってあげる。わたし達がいっしょなら敵なんてないんだから!」
「こわいけど…ネプギアちゃんのためだから…がんばるよ?」
「もちろん。ですけど、油断はしないように、ね」
先頭に立つネプギアちゃんの言葉に、それぞれが答えて、
「皆、ありがとう…行こう!」
ネプギアちゃんが嬉しそうにしながら駆け出すと同時に、わたし達も走り出した。
……そういえば、グリモワールの企みはなんなんだろう。
罠にかけようとしてたり…なんて、まさかね。
「いたぞ! 女神候補生だ!」
「退いてください!」
「ぐわぁっ!」
邪魔をしてくる犯罪組織の兵、モンスター達を蹴散らしながら、わたし達は駆ける。
「そーれ、ふっとびなさいっ!」
「邪魔、しないで…!」
「「「うわああああ!!」」」
銃を構え、一斉射撃で攻撃しようとした犯罪組織兵達がロムちゃんとラムちゃんの魔法で吹き飛ぶ。
「これも持ってきなさい!」
「ええと、あそことあそこと…」
そして体勢を崩した相手にユニちゃんがとりもちのような弾丸で、わたしが鋼魔法の鎖で拘束していく。
いくら犯罪組織とはいえ、人間まで殺しちゃうのは女神のイメージ的にもよくないからね。評判が力に直結してしまう女神の辛いところ。
「ハイジョ、ハイジョ」
「…」
「ネプギア、
「わ、わかってるよ!? うん!」
続いて現れた機械モンスターをじぃっと見つめるネプギアちゃんにユニちゃんがジト目で言う。
「キカイなら遠慮はいらないわね! エクスプロージョンっ!!」
そして加減のいらない相手と見てラムちゃんによる容赦のない爆裂魔法。…あそこまで大規模超燃費じゃないし、どちらかといえばラな炎テクニックっぽい感じだけど、それでも機械モンスターは一撃で吹き飛んだ。
…それを見たネプギアちゃんが「あぁー…」と残念そうにしていたのは、見なかったことにする。
「……ところであれって機械型のモンスターなのか、それともモンスター型の機械なのか、どっちなんだろう」
「あ、確かに…それを解明する為にもやっぱり今度分解してみなきゃ」
「今考える疑問じゃないでしょ!? さっさと先行くわよ!」
ふと思ったことを呟いただけなのにわたしまで怒られた。りふじん…
…なんて若干緩い空気になりつつもどんどん進んでいき、順調に感じ始めた頃。
「なんだ、大したことないじゃない」
「あんまり、くせんしてない…?」
「各国からの攻撃のお陰…ならいいけど、なんかきな臭くなってきたわね…」
ラムちゃん達が言うように、数はそれなりにあっても少し拍子抜けするくらいに上手く行っていて、どことなく不安を感じる。
だいたいこういう時って良くないことが起こる前触れ………
「…! ロムちゃん防御!」
「ふぇっ!? う、うん…!!」
悪い予感というのは当たるものなのか、ロムちゃんと一緒に全員を守るように障壁を展開。
次の瞬間、ドドドドドッ!! と障壁にミサイルの雨が降り注いだ。
「ぐっ…この程度!」
「ぜったい、守る…!」
爆撃に障壁が砕かれないように二人でどうにか踏ん張り、攻撃が止んだ所で障壁を決して風魔法で爆煙を吹き飛ばす。
煙が消えて視界に入ってきたのは、結構な数の敵の兵士と機械モンスターに囲まれていた。
つまり、待ち伏せていたということ。
「ふん! ロムちゃんとディールちゃんがいれば、あんた達の攻撃なんて怖くないよーだ!」
「数で囲めば勝てるとでも思ったわけ? 邪魔するなら容赦しないわ!」
自分の得物を構えてそう言うラムちゃんとユニちゃん。
すると、犯罪組織の一人が何かの機械を弄り始めた。
「へっ、いつまでそんな態度でいられるか、見ものだな?」
「どういうことよ!」
「こういうことだよ!」
妙に強気な犯罪組織の人が何かをすると、機械から何か紅い色のクリスタルが現れて、光を放ち始めた。
何かの攻撃が、と思って身構えるものの、特に何も起こる気配がない………そう思った時だった。
「……え、あ…れ…?」
「な、なによ…これ…」
「力が、はいんない…っ」
「うぅ……」
「っ!? ロムちゃん、ラムちゃん!? みんな、どうしたの…!?」
突然、ロムちゃんラムちゃん、ネプギアちゃんユニちゃんの四人が地面に膝をつく様にして崩れ落ちた。
な、何が起きてるの…!?
「なるほど、効果バッチリみたいだな!」
「…何をしたんですか」
なるべく四人を守れる位置をとりつつ、機械を操作した人物を睨みつける。
「へっへっへ…これはなぁ、アンチクリスタルとかいう、女神の力を弱らせる石なんだとよ。つまりこの装置でその力を増幅させた光を浴びたそこの女神共は弱体化しちまってるってことさ!」
「隊長!? なんでわざわざバラしてんですか!」
隊長と呼ばれたここの部隊のリーダーらしいやつの説明によると、そういう事らしい。
……ならどうしてわたしはなんともないんだろう…?
「…なら、その装置を破壊すれば…!」
「させねぇよ! 行け!」
だったら四人を弱らせている装置を壊せばいいと攻撃を仕掛けようとするも、当然簡単に許されるわけもなく、モンスターが四人を狙って攻撃を始める。
「う…!」
「っ、させない!」
放たれた砲撃をどうにか防ぐものの、次から次へと皆へと攻撃が放たれて、防御で手一杯になってしまう。
「ぅ…ディールちゃん、ごめん…」
「謝ってる場合じゃ、ないでしょ…くぅっ!」
何度も砲撃を防いできたせいで、だんだん腕が痺れてきた。
このままじゃ…
「一人動けたのは想定外だったが、どうせテメェらはここで終わりさ! 攻撃させる隙なんてやらねぇよ!」
「──じゃあ、もう一人増えたらどうかしら?」
一方的に攻撃され続けて、限界かもしれない、そう思った時だった。
誰かに似た、けれどとても懐かしいような声。
「誰だ──うわっ!?」
別の誰からしい声に敵の隊長も警戒するものの、何かが装置に向かって飛んできて、装置を破壊した。
飛んできたもの、それは…大きな手裏剣だった。
「手裏剣!?」
「アイエエエエ!? ニンジャ!?」
「バカっ、ふざけてる場合じゃねぇだろ!」
突然の奇襲に相手も動揺している。
もしかして、イストワールさんを通して聞いた、グリモワールの企み…?
と、わたし達の前に誰かが降りてきて、思わず身構える。
その人物は、赤い色のフード付きケープなんていう、赤ずきんみたいな格好で、
背丈はネプギアちゃんと同じか、少し高いくらいの人だった。
「誰だテメェ!」
「あんた等みたいな雑魚に名乗る名前なんてないわよ、ザーコ」
「て、テメェ…お前らやっちまえ!」
そして早々敵に向かって煽るような言葉を投げかけ、挑発に乗った犯罪組織の兵とモンスターがその人に攻撃を始める。
「ちょ、誰だか知らないけど無茶なことしてんじゃ──」
さっきの手裏剣攻撃で装置は半壊したものの皆の力はまだ戻っていないようで、膝をついたままのユニちゃんが叫んだ。わたしも今動けば動けない皆が狙われるだろうから、下手に動けない。
そうこう考えてる内に、敵の攻撃が赤フードの子に………届くことはなくて、
放たれた攻撃、突撃した敵、その両方が吹き飛ばされていた。
そして、その中心には……
「ふんっ、一人相手に大人気ないったらないんだから」
『縮んだぁっ!?』
赤いケープを揺らしながら呟くその人の姿に、その場にいた殆どが驚いたように声をあげた。
だって、そりゃあ、人が縮んだら驚くでしょ…? つまりそういう事。
さっきまでネプギアちゃんくらいだった背丈の人は、わたしやラムちゃん達くらいまでに縮んでいた。
でも、さっきから、何だろう。この、どこか懐かしいような感覚…
「な、なんだぁ? ガキじゃねぇか…」
「さ、て、とっ。…それじゃ、次はわたしの番ね!」
姿が縮んだその子はぴょんぴょん、とストレッチでもするように小さく跳ねると……身の丈以上あるように見える大剣を手にした。
ズン、と大剣を地面に突き立てると、その子はフードをとって顔を見せる。
見た目通りの幼い顔に、長い髪をポニーテールに結わいた姿。
その素顔は、見覚えのあるもの……エストや、ラムちゃんのものだった。
「あ、あれって…」
「エスト? ということは…」
「いーすんさんが言ってたグリモワールさんのって、こういうこと…?」
「……」
皆もそれに気付いた様子。だけど…
なんだろう、エストの顔をしているけど……何かが違う。
「ねぇ、そこのあんた!」
「……ぅえ? ぁ、わ、わたしっ!?」
「そうよ、もうしばらく耐えられる? 耐えられるでしょ!」
「あ、う、うん…っ」
ぴしっとこっちを指差しながら勢い良くそう言われて、思わずこくんと頷く。
言われなくてもそうするつもりだったけれど、そんなわたしを見てエストらしき人は大剣を"左手で"持ち直して…駆けた。
それからは、まさに一瞬の出来事だった。
「うわぁっ!? なんだこのガキ!?」
「は、速ぇ…ぐふっ!?」
大剣を持っているとは思えない速度で駆け周り、
機械や兵器、モンスターはその大きな大剣で斬り潰し、
人間は蹴りや柄殴りで昏倒させ、
敵の攻撃は大剣を持ってるとは思えない身のこなしで風のようにひらりひらりと避けていく。
「…すごい…」
戦いぶりを見たネプギアちゃんが思わずそう呟くくらいには、一方的な戦い。
この時点で、わたしは彼女がいつものエスト…グリモワールではない事に気付いていた。
だって…エストワール(ややこしいからくっつけた)は戦うとしても素手での魔法で、大剣なんて使ってた事は一度もないから。
なら、あの子は……見ているとぎゅう、と胸を締め付けられるように感じるあの子は、誰…?
「ひぃ! ば、バケモノ!」
「ああ、もう。やめてよね、これでもやりすぎるなって言われてるんだからさー。…そんな怯えた顔されると…」
なんて考えていると、エストっぽい子は腰を抜かして戦意を失っている相手にゆっくりと歩み寄り、すっと大剣を振り上げ……
「っ! だ、ダメっ!!」
何をするのか察したのか、ネプギアちゃんが静止の声を上げる。
ユニちゃんは咄嗟にロムちゃんとラムちゃんの目を塞いでいて、二人は「ちょっ、何、なにー!?」「何も見えない…(おろおろ)」と戸惑っていた。
「………」
そして何かを呟いたかと思うと振り上げられた大剣が振り下ろされて……わたしも思わず目を背けてしまった。
……けれど、別に肉を叩き潰すような生々しい音も悲鳴も聞こえてこなくて、恐る恐る視線を戻してみると、
大剣は相手の真横に振り下ろされていて、犯罪組織兵は耐えきれず気を失っている様子が目に映った。
「流石に命を取る真似はしないっての」
大剣を引き抜き、しまいながらそう言う姿を見て、安心したような疲れたような感覚に。
そして敵の殲滅が終われば、謎の女の子はこっちへとやってきた。
一応助けてはくれたんだろうけど、未だに正体がハッキリしてない為に、身構える。
「…流石に、見ただけじゃわかんないか……」
「…?」
すると、そんなわたしを見て女の子は何故かしゅん、と落ち込んだように俯いた。
「…で? 一応味方らしいけれど、アンタ何者よ?」
「ん…そうね。信じてもらえるかはわからないけど…別にもう隠す必要もないしね。わたしは…」
ユニちゃんの言葉に俯いていた女の子は顔を上げると、自分の頭の後ろに手を伸ばしてポニーテールを解く。
そして、わたしをじっと見据えながら……その正体を明かした。
「──わたしは別の次元から来た…ルウィーの元女神候補生。
〜パロディ解説〜
・街がドンパチ、騒がしくなったらよ
映画「コマンドー」より、主人公「ジョン・メイトリクス」の台詞の一つ。原文は「島がドンパチ、騒がしくなったらだ」
彼ならば一人でプラネテューヌの奪還もできたりして…