幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.10 ギャザリング城の戦い

トリックの舌がうねるように伸びてきて、わたし達はそれを散開するように跳んで避ける。

この戦い、もしも負けるなんてことになったらどうなるかわからない……そうじゃなくても、負ける訳にはいかないけれど。

 

「アッククク…戦闘中のペロペロならば、合法…ッ!」

「戦いでもじゃなくてもする癖に何言ってるのよこの変態!」

「変態は…褒め言葉だ…」

 

心底気持ち悪そうにしながら魔法弾を飛ばすラムちゃんだけれど、トリックは容易くそれを舌で弾き落とす。

見た目からしても印象深いだけあって、舌の扱いは相当なものみたいだ。

 

「気持ち悪い…っ」

「そぉら、我輩からも行くぞぉっ!」

 

流石に舌だけが攻撃方法なんて事はないようで、自身の周りに魔法弾を生成してわたし達に放ってきた。

 

「させない…!」

 

それを見てわたしはすかさず杖を地面に突き立てて、自分を含めた三人の前の地面から氷塊を突き出させて攻撃から守る。

 

「ディールちゃんナイス!」

「まだ!」

 

ラムちゃんに称賛されながらも、さらに杖を手に取って振りかざし、突き出した氷塊から氷柱を一斉に放つ。

前が見えないからと不意を突かせない為の攻防一体技だ。

 

「ぬぅ! だがこれしき!」

 

ただし攻撃されないための牽制というのが強すぎたせいか、氷柱が当たりはしたものの対したダメージにはなってない様子。

 

「アクククク! 少しばかりやんちゃなのも幼女的には良し! 垂れる未来しか見えぬ無駄胸の年増では味わえないものよなぁ!」

 

「………」

「ベール、無言で横槍刺そうとしてないでモンスターを狙って」

「…ああ、申し訳ありませんでしたわ。つい手が滑って」

「あっちはアイツらに任せるって言ったでしょう…?」

「…ブラン、貴女にこの怒りはきっと理解できませんのよ」

「なんだテメェ喧嘩売ってんのか!?」

「ちょ、あなた達喧嘩してる場合じゃないでしょ!?」

 

なんかトリックの発言が別のところへのヘイトを高めてるけど…き、気にしないでおこう。

 

「しかしやはり幼女を痛めつけると言うのは心が痛む……今からでもこちらについてくれれば我輩は嬉しいぞ?」

「そんなの…!」

「誰がっ!!」

 

戦いが始まってもなおそんな事を言うトリックに、二人は氷塊を放って答える。

 

「そうか…ならば仕方あるまい!」

 

するとトリックは舌で氷塊を弾きながら、鞭のように鋭い一撃を放ってきた。

わたしは二人に攻撃が届く前に、と前に飛び出しで障壁を展開し、その一撃を受け止める。

 

「ッ! 言う割に、容赦のない攻撃…!」

「確かに心苦しくはある。…が、言う事を聞かない子にはお仕置きが必要だろう?」

「はっ…誰があなたの言う事なんか!」

 

言い放ち、障壁の魔力を爆破させて舌を弾きながら空中に攻撃用の魔法陣を展開。

 

「舞い踊れ、剣…!」

 

そして魔法陣がパキン、と音を立てて砕けると、砕けた破片が鋼の剣へと姿を変えて飛んでいく。

当然、トリックはそれを叩き落とそうするけど、剣を操作して舌を躱させる。

 

「むッ、遠隔操作か! …だがまだ甘い!」

 

そのままやっとトリックへの一撃に……とはならず、トリックが手を翳すと剣は魔力の爆発に巻き込まれて弾かれてしまった。

そしてそれと同時に、舌がわたしに向かって伸びて来ていたことに、遠隔操作に集中していたせいで気づけなかった。

 

「…あっ…!」

 

ダメだ、速い…避けられない…!

思わず目を瞑ってしまったけれど、衝撃や身体に何かが巻きついてくるような感覚は来なかった。

 

「わたしだって、守れる…!」

 

目を開いてみれば、わたしの前でロムちゃんが防御障壁を張って防いでくれていた。

 

「ロムちゃん…ありがとう」

「…えへへ。…ね、ディールちゃん」

「…?」

 

守ってくれたロムちゃんにお礼を言えば、ロムちゃんはふにゃりと微笑んでからこしょこしょとわたしに耳打ちをしてきた。

その内容を聞いたわたしは、何も言わずにこくりと頷く。

 

「おやおや、内緒話かい? 我輩も混ぜてほしいなぁ!」

「……あなたに聞かせる話なんて、ないっ!」

 

杖を構え直し、再度鋼の剣を次々に放って攻撃再開。

今度は技じゃなくて、数で勝負。

 

「ほう、物量できたか。だがこの程度では我輩には届かぬなぁ!」

 

けれどこれも両手からの魔力波と舌で次々と叩き落とされていく。

 

「そぅら、返却だ!」

「っ! …幼女は傷つけないんじゃなかった?」

 

そして下で数本の剣を巻きとったかと思うと、こちらに投げ返してきて、咄嗟に上に飛んで回避しながら言うとトリックは気持ちの悪い笑みを浮かべた。

 

「我輩は気づいてしまったのだ。多少の傷ならば、我輩の舌で治せると…!」

「…うわ」

「気持ち悪い…」

 

べーろべろと舌を動かしながらそう言ったトリックを、わたしとロムちゃんは心底嫌な気持ちで見つめる。

 

「幼女の冷たい視線を感じる…ハァ…ハァ…」

「「…………」」

 

そしてあまりの酷さにわたしとロムちゃんは以上何も言えなかった。

ただただ、早く倒してしまいたい…

 

「このっ!」

「アクククク! 無駄無駄!」

 

とはいえいくら剣を飛ばしてもその舌で的確に打ち落としてくるからあれはあれで真面目なつもりらしい。

厄介…だけど、それもそろそろおしまいだ。

 

「…幼女幼女言う割には、あまり周りを見てないんだね」

「当然であろう。年齢二桁以上のババアなんぞに興味なぞ……む? 幼女が一人足りない…」

 

わたしの言葉でその事に気付いた様子のトリック。

けど、今更気付いたところで…

 

「もう、遅い…! 潰れろっ!」

 

言い放ちながら、上に掲げた杖を振り下ろし、トリックの居る箇所の重力を強くする。

 

「ぬぅっ…!?」

「甘い。ロムちゃん!」

「…ええいっ!」

 

重力魔法で身動きが取れないトリックに向けて、ロムちゃんが無数の氷の剣を降らせてさらに動きを制限する。

勿論動きを封じるだけじゃなくて刺さりもするから、ダメージにもなる。

 

「ぐぅっ! ちょ、痛いっ…だがこれしき、幼女をペロペロする為ならばぁ!」

 

それでもなお舌を動かそうともがくトリック。しぶとい。

 

「……何か、勘違いしてる。これで終わりと思った?」

「まだわたし達のターンは終了してない。そうでしょ──」

 

けれどこれで終わりなはずはなくて、ロムちゃんと息を合わせるように言いながら、一緒に振り返ってその名前を呼ぶ。

 

「「ラムちゃん!!」」

「…もちろんよ! これで、凍っちゃいなさい!!」

 

今まであまり喋っていなかったりしたのはこの為。

魔法陣の中心で丁度詠唱を終えたラムちゃんが、杖を振りかざすと同時に、室内の温度が一気に下がっていく。

 

「皆さん、跳んでッ!」

「え? わ、わわっ!」

 

そして周りで戦ってるネプギアちゃん、ブランさん達にそう叫びながらふわりと宙に浮く。

 

それからは、一瞬の出来事。

カキンッ、と、一瞬にして部屋中の床、壁、天井までもが氷漬けになり、床に立っていたトリック、下っ端、モンスターの足元をも凍らせて動きを完全に封じ込めた。

 

「うわぁっ! く、クソっ、なんだってんだ!」

「狼狽えるな! …あっ、これ割と本当に不味いかもしれん」

「ちょ、トリック様ぁ!?」

 

「うわぁ、一瞬で…」

「…ちょっとやり過ぎじゃない? これ」

「ふふん。わたしにかかればこんなもんよ!」

 

足元が凍って動けず慌てる敵サイドと、得意げなラムちゃん。

ユニちゃん辺りが若干引いてるけど…ここからが仕上げ。

 

「ロムちゃん、ラムちゃん、トドメ」

「「うん!」」

 

二人を呼び、ロムちゃん、わたし、ラムちゃんで並んで三人でトリックに杖を向けて、魔力をチャージしていく。

ありったけの魔力を、全力で籠める…!

 

「アンタみたいなヘンタイなんて、これで跡形もなく消し飛ばしてやるんだから!」

「うん、容赦なんて…しないから」

 

三人分の魔力がどんどん集まって、空気が震えて風が渦巻き始める。

女神の中でも魔法に特化した、それも3人分の魔力…短時間でもかなりの量だ。

 

「いかん、これはいかんぞ! ぬ、ふぬぬぬぬッ…!」

「無駄。あなたはここで……倒す…!」

 

カタカタと震える杖を両手で持って、暴発しない様にさらに魔力を凝縮させていく。

 

「さぁ、最期に見て行きなさい! わたし達の全力全開!」

「星も、光も、全部壊すくらいの、一撃…!」

「その身で、味わえッ!」

 

そして、限界まで高まった魔力を……解き、放つ!!

 

 

 

「「「いっけぇーーー!!!」」」

 

瞬間、室内が光に包まれて、吹き飛びそうになるくらいの衝撃波がわたし達に襲い掛かる。

 

「ぬおおおおおっ! よ、幼女……ばんざぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

転がらない様にするので必死な上光でよく見えなかったけれど、トリックのそんなよくわからない断末魔? が聞こえてきて、

 

「っ…ふきゃっ!」

「きゃぁっ!」

「あうっ…!」

 

ちょっと出力を高くし過ぎたせいで、三人そろって後ろに転がってしまった。

それと同時に光も弱まって、魔力の奔流も収まっていく。

 

魔力の砲撃が完全に収まると、壁に大きな穴が開いていて、

トリックの姿は、跡形もなくなっていた。

 

……あ、これ、お城崩れない、よね…?

 

「……いや本当にやり過ぎでしょこれ!?」

「ゆ、ユニちゃん落ち着いて…」

 

「今の魔法の余波で、モンスター達もほぼ全滅したけれど…」

「あの下っ端とか呼ばれていたのも吹き飛んでいきましたわね」

「…ブラン、貴女の妹って随分とバイオレンスなのね」

「お、おう…私だってどんな顔したらいいかわかんねぇよ…」

「笑えば、いいんじゃないかしら」

 

勢いで三人力合わせてやっちゃったけど、周りの反応から引かれてる感すがすごい。

そんな周りに反して、二人はというと…

 

「やった! やっつけた、やったよロムちゃん、ディールちゃん!」

「うんっ。やっつけた…!」

「そ、そう、だね…」

 

なんだかんだ因縁の相手だったトリックを撃破できて満足な様子。

まぁ、やり過ぎた気もするけど、本音を言うとわたしも少しスッキリした。

 

 

こうしてわたし達は、四天王ジャッジ・ザ・ハード、ブレイブ・ザ・ハードに続いて、トリック・ザ・ハードも撃破したのだった。

 

残る四天王は、後一人……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃。

ギャザリング城・地下にて…

 

「随分とドンパチ賑やかね…ここ崩れるんじゃないの?」

「大丈夫だいじょーぶですよ。見た感じそんな様子はないですから」

「……なら良いけど」

「…あれ、もしかして上のに混ざりたかったです?」

「…別に。それにまだその時じゃない、でしょ。今は…」

 

二人の少女が城の奥地にて、何かを探すようにして歩いていた。

 

「そうですね、目的を見失ってないようで何よりです」

「ふん。……あったわ、これね」

 

そして、奥地のさらに奥の部屋で、片方の少女が部屋の真ん中に刺さっていた剣を抜き、掲げる。

一件朽ちて古びた……けれど、どこか禍々しい雰囲気を放つ、剣。

 

「ああ、よかった。ここにあって。これで計画通りに事が進みます。…ふふふ」

「…………」

 

抜いた剣を、どこか嫌悪するような目で見つめる少女。

 

その傍らでくすくすと意味深に笑う少女の声が、ギャザリング城の奥地に響いた──




〜パロディ解説〜
・変態は…褒め言葉だ…
ネットスラング「ブロントさん」関連の「汚い忍者」によく使われる台詞。原文は「汚いは…褒め言葉だ」
なお知ってる人相手ならネタで通るものの、知らない人からした場合の「汚いな忍者流石汚い」は罵倒でしかない為、使い所を誤った場合裏世界でひっそり幕を閉じることとなるのでご注意を。

・まだわたし達のターンは終了していない
「遊戯王」より「武藤遊戯」が「狂戦士の魂(バーサーカーソウル)」使用時の台詞。原文は「まだ俺のバトルフェイズは終了してないぜ」
よくよく考えてみると、演出の為とはいえあそこまでモンスターカードが固まっていたらデッキの内容次第では事故なのでは…なんてしょうもない事を考えていた作者でした。

・星も、光も、全部壊すくらいの、一撃…!
「魔法少女リリカルなのは」より「高町なのは」の使用する技「スターライトブレイカー」から。
星も(スター)光も(ライト)全部壊す(ブレイカー)という感じのイメージとなっていました。…伝わったかな。

・「どんな顔したらいいかわかんねぇよ」「笑えば、いいんじゃないかしら」
「新世紀エヴァンゲリオン」より「綾波レイ」と「碇シンジ」の台詞。
実際城を壊す勢いの一撃を見たら口ぽかーんとなっても仕方ないと思います…きっと。そして笑うとしても渇いた笑いにしかならなそう。

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