幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.7 白の姉妹

ルウィー 教会

 

「………」

「………」

 

部屋の中を若干の重たい空気が支配する。

 

現在この場にいるのは二人。

ディールと、その目の前にルウィーの守護女神、ブラン。

机を挟んでお互い向かい合うように椅子に座っているといった状況。

候補生のロムやラムはおやつの時間で、フィナンシェの所へ行っている為この場にはいない。

 

「…………」

「…………」

 

ディールは困っていた。

ブランから話があると言われたはずなのに、さっきからお互い黙ったまま。

ディールは普段はロムとラムを守ろうと、見知らぬ相手には強気で毒も割と吐くような性格だが、その実別段気が強い訳ではなく、またブランは知らぬ間柄でもない為、この空気に少し怯えてしまっていた。

 

そもそも、記憶が戻った為既に察しがつくと思われるが、本質はホワイトシスター・ロムと同一であるのだ。

幾つかの重い経験があるとはいえ、その本質までは変わりようは無かった。

 

「……あ、あの…」

 

が、ディール自身もブラン達が囚われ、記憶が無かった事もあってこの数年で有り様が変わっているのも事実であり。

意を決したように口を開いた。

 

「お、お話…と、言うのは…」

「……ん、そうね…」

 

おどおど、とか、びくびく、と今にも台詞の後ろにつけて読み上げそうな様子を見せつつもディールがそう問うと、ブランの方もようやく口を開く。

 

「……先ずは…私が居ない間、二人の面倒を…ありがとう」

「………ぇっ?」

 

そして告げられた言葉は、感謝の言葉。

何か咎められるのだとばっかり思っていたディールは、思わずきょとんとしてしまう。

 

「私達が奴らに捕まっていた間の事は、ミナから大体聞いたわ。あなたには苦労をかけたようね」

「い、いや、そんな。わたしはただ、お世話になった皆を…二人を守りたいって思っただけで…」

「それでもよ。…本当にありがとう」

 

軽く頭を下げながら再度の感謝に、先程までとは別の意味であわあわと戸惑うディール。

 

「ただ、一つだけ。あなたに聞いておきたいことがあるの」

「っ…? な、なんで、しょう…?」

 

そんな様子のディールを見ながら、ブランはそう言った。

戸惑いのせいで少し声が上擦りつつも、ディールは聞く姿勢になる。

 

「前に話を聞いた時はごたごたしていて聞きそびれたけれど……あなたは、本当に別次元のロム…なのね?」

「あ…え、と…はい。記憶自体が後から植え付けられたとかでなければ、間違いなく…」

「そう…。やっぱりそうだったの」

 

まるで確認する様なその問いに、思わず首を傾げるディール。

それもそうだろう。その言い方だと、まるでディールの正体を知っていたように取れるのだから。

 

「あの…気づいて、いたんですか…?」

「…お世辞にも完璧な姉だとは自分自身思ってはいないけれど、妹を見分けるくらいはできるわ」

 

疑問をぶつけてみれば、やはりそんな返答が帰ってくる。

そんな答えに、ディールはどこか心の奥で嬉しいと感じていた。

 

「そ、そう、なんです、か…」

「まぁ、そう感じはしたけれど今までは確信しきれていなかったわ。あの頃はまだあなたの記憶も、女神としての力も薄かったし、何より別次元から別のロムが流れてきただなんてにわかに信じ難い話だもの」

 

嬉しいと感じた直後、流れてきた、という表現に今度はどこか複雑な気持ちを抱く事になるディールであった。

 

「まぁ、これで二つ、確信を得られた」

「…二つ?」

 

二つ、という言葉にディールが思わず聞き返すと、ブランは「えぇ」と答える。

一つは、ディールがロムだということ。

 

「一つはあなたが本当に別次元の私の妹だという事。もう一つは…」

 

そこまで言うと、ブランは一呼吸挟むように間を開けてから言葉を続けた。

 

「……ディール。あなた、無理をしているでしょう?」

 

表情にはどうにか出さずにいたが、思わず息を詰まらせるディール。

…が、すぐに自分の考えてる無理とは違うと判断して、平常心を保っていた。

 

「む、無理なんて……どうして、そう思うんですか?」

 

だからこそ……否、本当は平常心などではなかったからか、

ディールはブランにそう聞き返していた。

 

「そうね…私達が捕えられる以前……あなたにまだ記憶が戻っていない頃なら、まだ確信とまでは行かなかった」

「は、はぁ…」

「けれど…今はハッキリ言えるわ。だって、あなたは自分をロムだと言う割に、あまりにロムと違いすぎる」

 

「…まぁ、時折見せる顔は、ロムと似ているけれど」と付け足すように呟きながら、ブランは告げる。

 

「た、確かに、ロムちゃんと比べたら色々違う事くらい、自分でもわかります、けど…それがなんでそんな話になるんですか…」

「…姉としての勘、かしら」

「勘って…」

 

そんなもので、と言い返そうするディールだったが、ブランはそれを許すことなく、口を開く。

 

「逆に聞くけれど。あなたから見てラムやロム、それと…ネプギアとユニ、だったかしら…、…そんな、あなたの周りの人は、そんなにも頼りない?」

「…そんな事、無いです」

「本当にそう言い切れるかしら?」

「……どういう意味、ですか」

 

どうにも意地の悪い切り返しをしてくるブランに、ディールからもだんだん不機嫌なオーラが漂い始める。

しかしブランは気にした様子もなく、言葉を続ける。

 

「ディール。あなたが本当にラムやロム達…周りの人を頼りにならないと思っていないのなら、どうして一人で背負おうとするのかしら?」

「っ…だ、だって、これは、わたしの問題で…」

「そんなの関係ないわ」

 

問いかけに思わず言葉が詰まりかけながらも答えるも、ぴしゃり、と切り捨てるように言われてディールは押し黙ってしまった。

 

「『これは自分の問題だから、自分一人の問題だ』だなんて考え…それは、周りを頼っていない確固たる証拠よ」

「っ…!」

「迷惑を掛けたくないだとか、あなたは思っているんでしょうけれど…ラム達からしたら、頼って貰えない方が悲しい事だと思う。私だってそう思うもの」

 

問い詰めるような言葉に、ディールの余裕がなくなっていく。

 

「…もう一度聞くわ。あなたの周りの仲間は、そんなに頼りない?」

「っ…ち、ちが…そんな風に思って、なんか…!」

 

そして再度そう聞かれると、ディールはいつもの冷静な様子でいられるほど余裕がなくなった様子で、首を横に振り否定しようとする。

 

「わたしは…わたしは、ただっ…! わたしのせいで誰かを傷つけたり、大事な人をなくしたく、なく、て…っ!」

 

そこからは、まるで決壊したダムの様に、

 

「わたしがっ! あの時、「死にたくない」なんて…わがまま、言わなかったら…! こんなことには、こんな、別次元のラムちゃんや、わたしや、お姉ちゃんに…迷惑、かけたりなんか、しなかったのに…!」

 

吐き出していく、吐き出されていく。

 

「さっきのあれだって! わたしが…この次元に来ないで、クロムを引き込んだりしなければ…あんなことになんか、ならなかった…っ!」

「…そんなの、誰にも分らないと思うけれど?」

「わかるの…! あれは、わたしが引き込んでしまったものだって…それで、あんな大勢の人にまで、迷惑、かけて…!」

 

ぐすぐすと子供の様に、思った事を吐き出し続けていく。

 

「もうこれ以上、わたしのせいで誰かが傷ついたり、迷惑かけたりするのは、や、なの…!」

「……そう」

 

多少の口出しはしつつも、静かに聞いていたブラン。

彼女はすっと立ち上がると、涙目のディールの傍まで歩み寄り──

 

パシンッ

 

「──ぇ…?」

 

ディールの頬を叩いた。

突然の出来事に叩かれた頬を抑えながら、目を丸くしてブランを見返すディールを見下ろしながら、ブランは話し始める。

 

「……確かに、あなたがこの次元に流れ着いてこなければ、ここまでの事態は起こらなかったかもしれない」

「っ…」

「…けれど」

 

ブランの言葉に俯き、涙を流すディール。

するとブランはそんなディールを、優しく抱きしめた。

 

「ぇ…え…?」

「あなたがどう考えようと、もうこれはあなたの問題じゃなくて、この世界の問題よ。だから…これ以上あなたが一人で全部を抱え込む必要は無いわ」

「ぇ…で、でも、わたしは…」

「さっきも言ったでしょう? 頼られない方が、悲しいと。それは私だって同じよ」

「う、うぅぅぅ…っ」

 

子供をあやすように…というよりは、姉妹の様に。

ブランはディールを抱きしめたまま頭を撫でる。

 

「私はあなたの本当の姉ではないし、代わりになれるとも思ってはいないけれど、言わせてもらうわ。……今までよく頑張ったわね、()()

「っ…!! そん、なの…ずるい…っ」

 

甘やかすように、実の妹にそうするようにしながら──その名で呼びながら。

彼女からすれば、もう二度と呼んでもらうことはできないと思っていた相手に、呼ばれないと思っていた名で呼ばれて。

最早、限界などはとうに超えていた。

 

「…良いのよ、今は。好きなだけ…」

「っ…ぁ……うぁ、ぁぁあぁぁぁ…!!」

 

もう失ったと思っていた、二度と戻ってこないと思っていた温もりに包まれながら……少女は今まで耐えてきた分の涙を流した。

大声で、子供のように──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…もう良いの?」

「っ…は、い。…もう、大丈夫…です」

 

ブラン…さんに甘やかされながら暫くの間大声で泣き続けて、それがようやく収まってわたしは涙を拭きながら答える。

終わってみればものすごく恥ずかしいような…けれど、どこか心の引っ掛かりが取れたような、スッキリした気持ちだった。

とか思っていると、くすりとブランさんが小さく笑った。

 

「な、何……ですか…?」

「いえ…さっきまでと同じ敬語なのに、大分素のあなたらしくなったな、と思って」

「素って…ロムちゃんですか…?」

「ええ。前までは、なんて言えばいいのかしら……心は許していてもどこか他人行儀のままのようだった気がするわ。まぁ、今のあなたを見て思ったことだけれど」

「そう、なんですか…」

 

ブランさんにそう言われて、うぅんと考え込む。

…記憶が戻る前から、自分がこの次元の存在じゃない(そういうこと)が無意識的に態度に出てた、とか?

 

……けど、何にしてもそういう感じが無くなったってことは、きっといいことなんだろう、と思えた。

 

「……絶対、犯罪組織からゲイムギョウ界を守りましょう。みんなで、いっしょに」

「当然、そのつもり」

 

今度こそ、みんなで平和な世界を取り戻すんだ。

そう、みんなで…

 

「失礼します! ブラン様は!?」

「…騒々しいわね、ミナ。私ならここだけれど」

 

と、そんな時。

慌てた様子でミナさんがやってきて、何故かブランさんが不満げな顔でミナさんを見る。

なんだろう、何があったのかな…

 

「す、すみません…じゃなくて! 一大事ですよブラン様!」

「…何があったの?」

「それが──」

 

大慌てのミナさんと、流石にその様子にただ事ではない事を察したブランさん。

そんな二人を見て、ふとこう思った。

 

……あれ? なんか、この流れラムちゃん視点の時に似たような事が……

 

 

 

 

 

「──プラネテューヌが、陥落しました…!」

「……なんですって?」

 

心の中でメタな事を考えながらもミナさんの報告に驚くことになるわたしと、真面目に驚くブランさんだった。

 


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