幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee-   作:橘 雪華

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Act.6 謎めいた三国暴動

マジェコン工場を後にしたわたし達。

一度街に戻ろうと、ここから一番近いであろう都市のラステイションに向かおうとしたところ、ネプギアのNギアが鳴り出した。

 

「あれ? いーすんさんからだ…はい、こちらネプギアです」

『ネプギアさん! ネプテューヌさん! 大変です!』

「んぇ? なになにいーすん、どうしたの?」

 

通信の相手はイストワールさんみたい。

なんか慌てた様子だけど…

 

『それが…ラステイション、ルウィー、リーンボックス三国の首都上空に妙な黒い球体が出現したと思いきや、都市で暴動が発生しだしたんです…!』

「暴動!?」

「穏やかさの欠片もないですね…原因は?」

『わかりません…幸い既に守護女神の三人が対処に当たっていますので、まだ大きな被害には至っていません。ですが…』

「時間の問題、ね…」

 

ユニちゃんの言葉に、はい…と通信越しにイストワールさんが肯定する。

…怪しいのは、首都の空に現れたっていう球体だよね、間違いなく。

 

『そこで、皆さんには手分けして暴動の鎮圧、及び原因への対処をお願いしたいのです』

「えー! わたし遊びたい! 帰りたーい!」

「ラムちゃん…今がんばらないと、帰るばしょなくなっちゃう…」

「…あ、そっか。もー! 犯罪組織なんてキライ!!」

 

ちょっとズレた理由でラムちゃんが犯罪組織に対してぷんすかと怒っている中、わたし達は話し合いを始める。

 

「アタシはラステイションに戻ります。お姉ちゃんが心配なので…」

「ユニちゃんはそれで良いと思う。ロムちゃんとラムちゃんも、ルウィーに向かった方がいいよね」

「(こくこく)」

「で、ネプギアちゃん達がリーンボックスですか。…人数的に、わたしが二人と一度別れてラステイション側に行くべきでは?」

「えー! わたしははんたーい」

「ラムちゃんこう言ってるし、無理に均等にしなくってもいいんじゃないかな? ユニちゃんもさっきの戦いで強くなったんだし、それにノワールだってきっと大丈夫だろうしね!」

「そうよ、戦力的にも妥当でしょ?」

「むぅ…でしたらわたしもロムちゃんとラムちゃんの二人と一緒に戻ります」

 

と、そんな感じで案外あっさりとそれぞれの向かう場所が決定した。

…なんとなく、二人の事を弱いと言われたような感じがしてむっとしたけど、それどころじゃないから今は置いておく。

 

ともあれ分担が決まって、わたし達は一時別れてそれぞれの首都へと女神化して向かう。

 

ネプギアちゃんとネプテューヌさんはリーンボックスに、

ユニちゃんはラステイションに、

そしてわたしとロムちゃん、ラムちゃんはルウィーへと。

 

 

……でも、どうしてプラネテューヌでは起こっていないんだろう。

それに……少し前からエストとの連絡が取れない。

 

…嫌な事が起こらないといいんだけど…

 

 

 

 

 

ルウィーに向けて飛行を続けて少しして、

辺りの景色が白く染まり、もうすぐ着くと言った時に、それは起こった。

 

「……ぅ」

 

急に気分が悪くなって、少しふらついてしまう。

なんというか…ルウィーに近づいて来る程に、何が、心がかき乱されるような…不快感。

 

「うー…ディールちゃんー…」

「なんか…気持ち、悪い…」

「わかってる…でも、急がないと…!」

 

二人も同じ状況なのか、気分悪そうな声を上げる。

そうしている間にもルウィーは近付いてきて、その分気持ち悪さも増している。

もしかしたらルウィーに何か原因があるのかもしれない…早く潰さないと…

 

 

また少しして、ルウィーに辿り着いたわたし達の目に飛び込んできたものは……

 

「あはっ、あははは、あはははははっ!」

「や、やめて! どうしてそんな事するの! …うっ、うぅ…!」

 

「お前! 俺のゲームパクっただろ! 返せよ!」

「はぁ? 証拠ないだろ…ってぇ、殴ることねぇだろ!」

「うるさい! この野郎!」

 

狂ったように笑いながらゲーム機を踏みつけたり、それを見て大泣きしていたり、怒って人を殴ったりしてる人がそこら中に居て、

文字通り、街中が大騒ぎになっていた。

 

「な、なに、これ…」

「ど、どーなってるのよ!」

 

二人もこの状況に困惑した様子、当然だろうけど。

わたしは…街まで来て強まった感覚に、確信した事があった。

 

「……あいつの…クロムの仕業だ…」

「え? そ、そうなの?」

「うん。この、胸の中がザワザワするような嫌な感覚…これは、ネガティブエネルギーが関連しているはず。そして、その原因は……」

「……あのお空の黒い、やつ…?」

 

ロムちゃんの言葉に頷いて答える。

多分…いや、間違いなく、あの空にある黒いやつからネガティブエネルギーが発せられている。

それで、どういう原理かしらないけど、街の人に影響を及ぼしている。…多分、わたし達は女神だから効果が薄いんだろう。

 

「あれがネガティブエネルギー由来の物なら、シェアエネルギーで打ち消せるはず…」

「なら、早く消さな「きゃぁ…っ!」ロムちゃん!?」

「いや…離して…っ!」

「ぐぅぅぅ…っ!!」

 

負のエネルギーであるネガティブエネルギーなら、正のエネルギーであるシェアエネルギーで消せるはず。

早速実行に移そうとした所でロムちゃんの悲鳴が聞こえてハッと声のした方を見ると、ロムちゃんが様子のおかしい街の人に腕を掴まれていた。

 

「ちょっ、アンタ! ロムちゃんから離れなさいよ!」

「うぐぁぅぅ!!」

「や、痛いっ…」

「…うぐぐー」

 

ラムちゃんが言葉で説得しようとするけど、相手は暴走でもしてるかのように唸り声しか上げない。

ルウィーの街の人ということもあってラムちゃんも強硬手段は取れないみたい。

傷つけずに大人しく…なら!

 

「チェーンバインド!」

「ひゃっ…」

 

わたしは杖を振りかざし魔法陣を展開。

そこから幾つかの鎖を放ち、狂った街の人を拘束させる。

 

「ぐがぁああ…っ!」

「…ロリコンなのは大目に見たとしても、お触りはダメですから…!」

「ロムちゃん! 大丈夫!?」

「う、うん…なんとか…ありがとう、ディールちゃん」

 

ビシッと鎖で拘束されて地面に横たわる人に向かって言い放ち(多分、伝わってなさそうだけど)、ラムちゃんが素早くロムちゃんの手を引いて戻ってくる。

早いところ、あれをどうにかしないと…

 

「ロムちゃん、ラムちゃん、飛ぶよ!」

「「うん!」」

 

またあれの影響で狂った人に絡まれたりする前にと、二人と一緒に黒い球に向かって飛んでいく。

他の場所に向かったみんなへの情報共有は多分しなくても平気。女神の攻撃にはシェアエネルギーがあるから大丈夫。

 

そんなことをしつつそのまま進んで少しすると、黒い球の近くで何かがぶつかり合っているのが見えてきた。

 

「誰か、戦ってる?」

「あれは…」

「お姉ちゃん! と…?」

 

影の一つは、飛行しながら戦斧を振り回しているホワイトハートこと、ブランさん。

そしてもう一つの大きな影は…

 

「りゅ、竜…?」

 

竜。ドラゴン。

そう、だいたいどの物語やゲームでも、強敵に分類される、竜種。

もちろん、ゲイムギョウ界でもドラゴンの大体は危険なものだけど、あれは特にやばそう。

 

「あ、あれ…汚染、されてる?」

 

ロムちゃんが言った通り。

ブランさんが戦っている相手は、色が禍々しい紫色で、

その禍々しさは正しく、汚染されたモンスターのそれだった。

 

「グオオオオオッ!!」

「チィッ!」

 

しかもあのドラゴン、あの黒い球を守るように戦っている。

多分、ブランさんもあれが怪しいと思って来たものの、あのドラゴンに邪魔されてるって事だろう。

 

「なら、やることは一つ…だよね」

「うん!」

「助ける…!」

 

そうなればわたし達がするべき事は当然決まっている訳で、

三人で散開するように飛び、魔法を放つ。

 

「「アイスコフィン、シュート!」」

「ストライクソード! 行って!」

 

ロムちゃんとラムちゃんは氷の塊を、わたしは大剣をドラゴンに向かって放つ。

放たれた魔法は目の前のブランさんに気を取られていたドラゴンに直撃し、怯ませた。

 

「っ!? ロム、ラム、ディール!」

「お姉ちゃんっ!」

「わたし達も戦う!」

 

不意打ちをバッチリ決めつつ、こちらを見て驚くブランさんの近くへと。

 

「っ、危ないから下がってろ! なんて言ってる状況じゃねぇか」

「そうですよ。それに、わたし達だって昔よりも成長してますから」

 

わたしがブランさんにそういうと、ロムちゃんとラムちゃんもこくりと頷く。

するとブランさんは「ふっ」と小さく笑って見せた。

 

「…わかった。なら全員であのトカゲヤローをぶっ潰すぞ!」

「「うん!」」「はい!」

 

「グオアアアアアアッ!」

 

それぞれが自分の獲物を構えなおすのとほぼ同時に、怯んでいたドラゴンが体勢を立て直し咆哮する。

するとラムちゃんとロムちゃんが散開するように飛び、再び魔法を放つ。

 

「もう一回! アイスコフィン!」

「…飛んでけっ!」

 

二方向から氷塊がドラゴンに向けて飛んでいく。

でも流石に連続で同じ技を食らうほど相手も馬鹿じゃあないらしい、

飛翔して氷塊を避けてしまう。

 

「だからって簡単に逃がしたりはしない…!」

 

けれどそれは予想済み。

あらかじめドラゴンが避ける方向を予想しながら飛んでいたわたしは、杖を構えながらドラゴンへと詰め寄る。

 

「はぁぁっ!!」

 

そのままドラゴンへと居合い斬り。

…いまいち手ごたえはなかったけど、一先ずすぐに下がる。

 

「ッラァ!」

 

それでも多少の隙は作れたみたいで、ブランさんが飛び込んで戦斧を振りかぶる。

 

「食らいやがれ! テンツェリントロンペ!」

 

振りかぶった体勢からぐるぐると回転しながら連続攻撃。

昔ブランさんが戦ってた時も同じ技を見たけど…あれ、目回らないのかな。

 

「グゥゥゥッ!」

「効いてる…?」

「さっすがお姉ちゃん!」

「かっこいい…!」

 

やっぱりこのメンバーの中で一撃が一番重いブランさんの攻撃はよく効くらしく、ドラゴンも呻き声を上げる。

ずっとこの調子でいけばいいんだけど。

 

「グアアアアアッ!」

 

流石にそう簡単にいくはずもなく、激昂した様子のドラゴンが口から炎を吐き出してきた。

 

「っ、ロムちゃん!」

「うんっ…! 護る…!」

 

ロムちゃんに声を掛けながら前に出て、二人で防御障壁を展開。

吐き出された炎を防ぐ。

 

「よーし、わたしだって! 見てて、お姉ちゃん!」

 

炎攻撃を防ぎきるとすかさずラムちゃんが飛び出して、杖からビームを発射。

極冷のビームはドラゴンを捉え直撃、じわじわとその身体を凍りつかせていく。

 

「っ……きゃぁっ!」

 

ただ、照射に回した魔力が大きすぎたのか、反動に耐えられなかったラムちゃんが小さい悲鳴を上げて後ろに吹き飛ぶ。

 

「っとと…」

 

そのまま地面まで落ちたら大変だから、どうにか吹き飛んだ先でラムちゃんをキャッチ。

 

「大丈夫?」

「うぅ、うん。ありがとディールちゃん」

 

様子を見た感じ本当に魔力を回し過ぎただけみたいで、怪我はない、かな。

よかった。

 

「グ、ガァ…!」

 

とかなんとかやってる内に、ドラゴンが氷漬けから抜け出そうと暴れ始めていた。

追撃…いやラムちゃんを投げ捨てていくわけには…

 

「逃がす…もんかよッ!」

 

内心少し取り乱しているとブランさんが上空から飛んできて、逃げようとするドラゴンへと斧を振り下ろした。

 

「ぶっ飛べ!」

 

そのまま連撃を浴びせ、トドメにフルスイングでドラゴンを黒い球に向けて吹き飛ばす。

凍っていて身動きの取れないドラゴンは碌な抵抗もできずに黒い球に叩きつけられた。

 

…畳みかけるチャンス、かな?

ブランさんもその気みたいだし…わたしだって…!

 

「次で決めてやる…ロム、頼むぜ!」

「まかせて…!」

 

ブランさんがロムちゃんを呼ぶと、ロムちゃんはそれに答えるように杖を振るい、ブランさんに強化魔法をかける。

 

「…ふぅぅぅ…」

 

わたしも負けじと自分自身に強化魔法をかけつつ、杖に氷を太刀の様に纏わせる。

…よし、行ける。

 

準備が整ったのはほぼ同時。わたしとブランさんは黒い球のドラゴンへと一気に飛翔する。

 

「これで…ッ!」

「終わりだぁぁッ!!」

 

そしてそのまま交差するように、太刀と戦斧で一閃。

 

「ガ、ァァァァアアッ!!」

 

わたしとブランさんの渾身の一撃に、ドラゴンは耐え切れず断末魔を上げながら消えていく。

そして一緒に斬った黒い球もピシリピシリとヒビが入って…バキン、と粉々に砕け散った。

……女神の攻撃で壊せてよかった…

 

「ふぅっ、どうにかなったか…」

「お姉ちゃん、かっこよかった…!」

「ディールちゃんもね!」

「あ、ありがと…」

 

戦闘が終わって、ロムちゃんとラムちゃんがこっちにやってくる。

 

…まぁ、あの時のドラゴンに比べたら、汚染ドラゴンなんてどうってことはなかった。

人数も二人じゃなくて、四人だし。

 

「ロム、ラム。助かったぜ、…ありがとな」

「…!」

「えへへ…うんっ!」

 

ブランさんの力になれた事がよっぽど嬉しいのか、二人してすごく良い笑顔で喜んでいる。

……お姉ちゃん…かぁ。

 

「勿論、ディールもな。なかなかやるじゃねぇか」

「っ…」

 

喜ぶ二人を眺めなならぼんやりそんな事を考えていると、不意にぽふ、と頭を撫でられる。

それはどこか懐かしいような、胸を締め付けられるような…よくわからない気持ちにさせられた。

 

「…っと、すまねぇ、つい」

「い、いえ…大丈夫、です」

「そうか…?」

 

だからなのかわからないけど、わたしは手を引こうとしたブランさんを呼び止めていた。

少し戸惑った様子を見せながらも、ブランさんは再度わたしの頭に手を置き、撫で始める。

 

…やっぱり胸がチクチクと少し痛むけど、

こうされていると、凄く落ち着く…

 

「もー、お姉ちゃん! ディールちゃんばっかずるいー!」

「あーわかったわかった…お前達もよく頑張ったな」

「……ぁ…」

 

頭から手が離れると思わず声が出そうになったけど、ブランさんには気づかれなかったらしい。

安心したような残念なような…

 

「えへへー♪」

「んにゅぅ…(えへへ)」

 

両方の手でそれぞれ撫でられるロムちゃんとラムちゃんは嬉しそうな笑顔を浮かべている。

 

…ううん、いいんだ。

わたしは…わたしにはもう姉妹は、お姉ちゃんはいないんだから…

ブランさんはわたしのお姉ちゃんじゃないから、これでいいんだ。

自分に言い聞かせるように、心の中で何度も繰り返す。

 

「……ひとまず、やる事はやったんだ。一度教会に戻るか」

「…あっ、そうですね。遠目ですけど街の人達も正気に戻ったみたいですし」

 

少しぼーっとしてしまいながらも街の方に視線を移してみれば、街に到着した時よりも騒がしくなくなっていた。

あとはきっとルウィー兵の人達がどうにかしてくれるだろう。

 

「あぁ。…あとディール、戻ったらちょっと話がある」

「ふぇ…?」

 

ということでさぁ戻ろう…と思いきや、帰り際にブランさんからそんな一言。

わたしに話…わ、わたし何かやらかしちゃった…?

 

「よし、じゃあ帰るぞ!」

「「はーい」」

「は、はい」

 

ブランさんと久しぶりに一緒にいられて上機嫌な二人とは対照的に、わたしは少し不安な気持ちでルウィー教会へと戻ることになったのでした。

 


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