幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
プラネテューヌの教会に集まってから、次の日。
いよいよギョウカイ墓場に突入する日がやってきた。
「皆さん、準備はよろしいでしょうか」
「ひゃい! ばっちりでひゅ!」
「…思いっきり緊張してるじゃないのよ」
台詞カミカミなネプギアを本当に大丈夫なのかなこいつ、みたいに見ながら、実はわたしもちょっと緊張していた。
だって、お姉ちゃん達がやられたようなのがいる所に乗り込むんだから、するに決まってるでしょ?
…まっ。負けるつもりなんてないんだけど!
「ふふ、大丈夫ですよ。ネプギアさん達なら必ず成功させてくれると信じています。さぁ、これが皆さんの集めてくれたシェアで作ったシェアクリスタルです」
「わあ、おっきいわね」
「きれい…」
イストワールさんが出したシェアクリスタルを見て、思わずそう呟く。
ミナちゃんが作ったのよりずっとおっきい…あの時はきんきゅーじたいってのもあったけど。
それでも、やっぱり今まで見たことない大きさだった。
「これだけのシェアがあれば…」
「はい。きっとねぷねぷを助けられるです!」
聞いた話だと、お姉ちゃん達を助けようとしたけど、ちからぶそくでネプギアだけ助けて戻ってきたっていう二人もやる気いっぱいみたい。
っていうか、前は二人だけで乗り込んだのよね。
「あ、でも…早く戻ってこないと、街が危ないですよね?」
「いいや。君達が出向いている間の街の守備なら心配いらないよ」
「えぇ、ネプギアさん達の助けになりたい、という方々が都市の防衛についてくれていますから」
「アタシもそっち側だよっ。本当はついていって女神様に会いたいけど、帰る場所がなくなっちゃったら大変だしね!」
任せて、とREDがネプギアに言う。
他の人達ってもしかして、ブロッコリーとか日本一とかのことかな。
っていうことは、乗り込むのは6人…ってことね。
『どうせ原作だって1度に戦えるの4人までだったし別にいいんじゃない』
うるさい。
「では、私は転送装置のコアとなって、皆さんをギョウカイ墓場へと送ります。向こうには私の声しか届きません。ですので、何が起きてもこちらから手助けをすることはできません」
「あなた達! 絶対にベールお姉様を助けてくるのよ! これは命令よ!」
「ユニ、期待しているよ。ノワールと一緒に戻ってきてくれることをね」
「皆さん、どうかご無事で…」
ミナちゃん達教祖とREDに見送られるような形で並んで立つわたし達。
「では…行ってきます!」
そうして、わたし達はお姉ちゃん達を助け出す為に、ギョウカイ墓場へと出発した。
「ここが、ギョウカイ墓場…」
「こわい…(ぶるぶる)」
「だいじょーぶよロムちゃん、わたしが手握っててあげる!」
ぎゅ、と怖がってるロムちゃんの手を握りながら、辺りを見回してみる。
空は暗いし、そこらじゅうによくわからないものが転がってるし、モンスターもいる。明らかにヤバそうな所。
でもどこか少しだけ、寂しくて悲しい場所に感じるのは、お墓だからなのかな。
「道案内は任せてほしいです」
「ちょっと前に来た事があるからね。…まぁ、結果は誇れた物じゃ無かったけれど」
そういって表情を曇らせるアイエフさんとコンパさん(出発前に呼び捨てにしてたらミナちゃんに怒られた)
ま、その時と違って今はわたし達もいるんだし、今度は絶対大丈夫だもんねー。
「それじゃ、行くわよ」
「はいっ!」
歩き出すアイエフさんについていくようにして、わたし達も先へと進む。
ロムちゃんが心細くないように、手をぎゅっと握ったまま…
「ぐああああああっ!!」
叫び声を上げながら消えていく敵……ジャッジ・ザ・ハード。
…………あれ? 場面飛んでない?
『仕方ないわ。ここまでほぼ丸写しになるほど原作と同じ流れだったんだから』
えぇー…
「…ラムちゃん? 何かあったの?」
「え? あ、えっと……た、大したことない奴だったわね!」
「ま、アタシ含めて女神候補生四人に、ネプギアもなんか新しい力貰ってたから当然よ」
「とうぜんのしょうり…(ぶい)」
…まぁ、我らの中で最弱とか言われてそうな奴なんかどうだっていいわね。うん、よしっ。
とりあえずそんなことよりお姉ちゃん達を…
『…!』
「…ん? な、何?」
と思ったらなんかエストが急にわたしの手から離れてふよふよ浮き始めた。
見てる(本だから分かりにくいけど)方向はお姉ちゃん達の方とは違う方だけど…って、
「ちょ、ちょっと! 勝手にどこいくのよー!」
「あっ、ラムちゃん!?」
ぴゅーっと一人(一冊?)で勝手に飛んでいくエストを追いかける。
なんなのよ、もうっ!
『…っ!』
「えいっ! 捕まえたわ! もう、勝手に飛んでいかないで……あっ!」
飛んでいくエストを見失わないように追いかけて、動きが止まったところでぴょんっとジャンプしながら捕まえる。
文句の代わりにページにラクガキでもしてやろうかと思ったところで、気付いた。
「ディールちゃん!」
少し離れた先の方に、見覚えのある姿──ディールちゃんが倒れているのを見つけて、思わず名前を呼ぶ。
だけどディールちゃんは気を失ってるみたいで動かない。
『ッ! ラム、わたしを投げなさい!』
「え、えっ? なんで『早く!』わ、わかったわよもー!」
ほっと安心したのも一瞬で、エストが焦ったような感じでそう言ってきて、わたしはよくわからないままエストを構えて、
「ええいっ!」
そのままディールちゃんの方に向かって投げた。
投げてから、いつの間にかディールちゃんの傍に黒い影って言うか、誰かが立っているのに気が付く。
あれは…
「あ、危ないっ!?」
なんて考えてる間にその黒い影みたいなやつは、剣みたいなのを振り下ろすように構えていた。
そいつが剣を振り下ろそうして…そこに投げたエストが人型になって割り込むようにして二人の間に入っていく。
「させない!」
エストは素早く黒い影の方に手をかざして、掌から魔力を放って影を吹き飛ばした。
今度こそ一安心した所で、わたしも急いで二人の所に向かう。
「ディールちゃんっ!」
「……ぅ、ぅ……」
倒れているディールちゃんの傍に駆け寄って声をかけて身体を揺すると、うっすらと目を開けるディールちゃん。
洗脳は…されてない? イヤな感じはしないから平気…かな。
「とうとう外にまで出てきたってわけ?」
「……くすくす」
エストの方はまだ臨戦態勢でふっとばした黒いヤツに構えている。
アイツは、なんなの…?
「なにが目的なのよ!」
「もくてき…? そんなのはないよ」
いつでも魔法が撃てるようにしながら言うエストに、そいつは気味の悪い笑顔を向けながら喋り始める。
…この声、エストと…わたしと同じ声…?
どれだけ同じ声のキャラクター出す気よこの作品!
「わたしは
「わたしわたしって鬱陶しい奴…!」
よくわかんないことをいう黒いヤツに、エストは敵意を剥き出しにしながらも、こっちに下がってくる。
そして小声でわたしに「逃げるわよ」と言った。
…なにがなんだかわかんないけど、とりあえずネプギア達もお姉ちゃん達を助け出してるはずだし、ヤバそうだから文句はないけど。
「わたしも、ディールも…あんたに振り回されるのはウンザリなの、よっ!」
そう言ってエストは黒いヤツに向かって魔弾を放つと、ディールちゃんを背負いながら走り出して、わたしもそれに続く。
ああもう、後で絶対どういうことなのか聞いてやるんだからっ!
「とりあえず…っ!」
エストはあいつから逃げたいみたいだから、くるりと一度反転して杖を振るって、地面から氷の壁を作り出す。
よーしっ、これで少しは大丈夫なはず!
「ちょっとラム! アンタ勝手に一人で…誰よアンタ」
「あ、エストちゃんに…ディールちゃん!」
「ディールちゃん、無事だったんだ…よかった…」
「(あれ? なんかアタシだけアウェー感…?)」
逃げるために少し走ると、向こう側からネプギア達がやってきた。
ユニちゃんはエストのことを不審に見つめていたけど。そう言えばユニちゃんは会うの初めてだっけ。
「まったく、単独行動はやめて欲しいものね。ここに来て失敗とか絶対笑えないもの」
「まぁまぁ、あいちゃん。何か事情があったみたいですし…」
後ろからアイエフさん達も。
そしてその二人の後ろには……
「ねぷっ? なんかブランのとこの妹増えてない? 気のせい?」
「ええ、まぁ、色々あったのよ。…一人は私も知らないけれど」
「あらあら、ではそんなに沢山いるなら一人くらい貰ってしまっても…」
「……どうやら冗談言ってる場合じゃなさそうよ」
お姉ちゃんと、見覚えがあるようなないような気がする三人の人。
お姉ちゃんがいるから多分、捕まってた女神だよね、なんとか助けられたんだ…!
「お姉ちゃん!」
「ラム…。…今は再会を喜んでいる場合じゃなさそうね」
「そ、そうよっ! 早く逃げないと!」
思わずお姉ちゃんにぎゅーってしたくなる気持ちを今は押さえて後ろを振り返ると、わたしの作った氷の壁を、まるでどんどん染めていくようにして、赤黒いイヤなモヤモヤがこっちに向かってきていた。
「な、何したのよアンタ達…」
「色々説明は後よ! アレに呑まれたらマズい……イストワール! ここからそっちまで転送できないの!?」
『今やっています…!』
いつも偉そうにしているエストが珍しく焦った様子でイストワールさんを呼ぶと、そんな返事が返ってきた。
でも、そうこうしてる内に黒いモヤはどんどん迫ってくるし、おまけにモンスターも集まってきた。
「きゅ、急にモンスターがこんなに…ええいっ!」
「急展開すぎてアタシもおいつけないわよ! このっ!」
襲ってくるモンスターを迎え撃つネプギアとユニちゃん。
わたしだって色々考えが追いついてないっての…!
「ロムちゃん!」
「うんっ…!」
「「アイスコフィン!」」
ネプギア達に負けじと、わたしとロムちゃんもモンスターを氷漬けにしていく。
お姉ちゃん達、まだ調子悪そうだから、わたし達で守らなきゃ…!
「くっ、数が多い上に…イストワールっ!」
『後少し………準備完了です! 皆さんをこちらに転送します!』
アイエフさんコンパさんエストも迎え撃つもののどんどん追い詰められて、黒いモヤももうすぐそこまで来た時。
わたし達全員の体を光が包み込んで…
気がつけば、わたし達は出発前の場所…プラネテューヌの教会に戻ってきていた。
「ま、間に合った…?」
「ふぅっ、ハラハラしたわ…」
「よかった…(あんしん)」
安全な場所に戻ってきて、ネプギア達はほっと一息つく。
けど、わたしは気になってる事があってじっとエストを見つめていた。
「はー、怒涛の展開だったねー。流石のわたしもびっくりだよ」
「そうね…そこにいる子が何か知ってるみたいだけど」
紫髪の人と黒髪の人…多分ネプギアとユニちゃんちゃんのお姉さんも、エストの事を見つめている。
そんな注目の的にされているエストは、どこか居づらそうに顔を伏せていた。
「皆さん、お疲れ様です。…とは言え、いったい何があったのですか…?」
「それは…」
「……いいよ、エスト」
ふよふよとやってきたイストワールさんの言葉にも言いづらそうにしていたエストだったけど、不意にエストが背負っていたディールちゃんが呟くように言った。
「ディー…」
「これは、わたし達が招いてしまった事態だから……皆にはちゃんと、話さないと…」
エストの背から降りて、まだ少しふらつきながらもディールちゃんは言う。
話す…? って、ディールちゃん、もしかして…
「グリモ…いえ、今はディールかしら。…あなた、記憶が…」
「ブランさん……はい」
お姉ちゃんが聞いたことに頷くディールちゃん。
やっぱり、記憶、戻ったんだ…。
「…そう、ですね…他にも色々話さないといけないことはあるんですけど…先ずは、わたしの事について、話させてください」
エストに支えられながら、顔を上げて話し始めるディールちゃん。
そして、次にディールちゃんが言ったことはわたし達に……特に、わたしやロムちゃん、お姉ちゃんにとって衝撃的な事だった。
「……わたしの
「わたしの本当の名前。それは……」
「……ルウィーの女神候補生
ホワイトシスター…ロムです」