幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
「わたしの真名は魔書グリモワール。つまりわたしは、あんたの持ってるその本よ」
物理も魔法も効かないなんてトンデモキラーマシンをやっつけたエストが、片手をコートのポケットに入れながらわたしが手に持った本を指さして言う。
この本…?
「…え、でもあんた、どこからどう見ても人…っていうかわたしだけど…の姿してるじゃない!」
「そりゃそーよ。そういう魔法を使ってるんだもの」
「そんな魔法、あるの…?」
「うん、あるよ。本当なら色々化けたりできるけど…今はさっきみたいに登録者の力を借りないと無理」
わたしとロムちゃんの質問に淡々と答えていくエスト。
…いや、グリモワールならこっちがグリモ? いやでもエストって名乗ってたし…
「そーね。ネプギア、だっけ? アンタならわかると思うけど、要はイストワールと似たようなもんよ」
「あ、あー、いーすんさんと…確かに名前もちょっと似てるかも…」
今度はネプギアを指差しながらそう言うと、ネプギアは何かわかったような顔。
むー、わたし達そのいすなんとかってやつ知らないから全然わかんないし…
「で、よ。登録してからこういう話するのはなんとなく詐欺感あるから嫌なんだけど、緊急だったからということで、一応説明しておくわ」
「登録…って、わたしよね」
「そ。
そんな言葉を聞いて、急に不安になってきた。
なんていうか、なんとなく良くない事をしちゃったような…そんな、感じ。
「…言っとくけど、別にアンタの命を吸うとかそういうのないからね、悪魔じゃあるまいし」
「ほんとー…?」
「本当。出来ることって言っても、それが読めるようになる事と、さっきみたいな事ができる程度よ」
ま、指示に従うかはわたしの気分だけど、と最後に付け足しながら、説明するエスト。
案外地味…? いやでもさっきのやつとか一撃で倒してたし…
「たださっきみたいな大技は、現状じゃ登録者の命令と魔力供給がないとできないから、この先の敵みんな消し飛ばせるーなんて考えない方がいいよ」
「まりょくきょーきゅー…? …あっ、なんか力が抜けたのって」
「そーゆーこと。…細かい部分は取説ページがあるからそこ読んでおいてね」
むぅ…確かにさっきのすごいのやる度にわたしの魔力を使うのは、なんかやだかも…
「あの…エストさん、いーすんさんと似たようなものって言ってましたけど…いーすんさんが国の歴史を記録してるみたいに、エストさんも何かを記録しているんですか?」
本の始めの方のページにほんとにあった説明書部分をなんとなく読んでいると、ネプギアがエストにそんなことを聞き始めていた。
…まぁ、わたしとロムちゃんはそもそもその、いーすんって奴の事知らないからよくわかんないんだけど。
「ああ、そうね。イストワールが歴史を記録する史書ならわたしは…んー、力を記録する魔書ってところかしら」
「力…ですか?」
「うん、力。メインは魔書って名前通りの魔法とか魔術とか呪術…そういった類の物だけど、例えば剣術とか槍術とか、スキル系の記録がわたしが作られた目的だったかな」
ま、今となってはわたしを作った奴の顔とか覚えてないんだけどね、と言いながらくすくす笑うエスト。
「まぁそっち関連は勿論ちゃんと記録してはいるんだけど、最近は割と武器とか科学技術にも興味が……っと、今のは関係ない話ね、気にしないで」
「う、うん…?」
いまいちよく分かってないわたしとロムちゃんの横で、ネプギアがなるほど…とか呟いていた。
「…まぁ、雑談はひとまず切り上げましょ」
「ま、待ちなさいよっ! そもそも、なんでわたしとおんなじ姿して…」
「その辺の話は一旦後回し。それより、もう一人の女神候補生の心配をした方がいいんじゃない?」
「え…?」
まだまだ聞きたいことがたくさんある…そう思っていたけど、エストのそんな言葉に首を傾げる。
ロムちゃんはもう大丈夫だし、ネプギアも平気だし…
……もしかしてユニちゃん?
そう思ったのとほぼ同じタイミングで、ネプギアの携帯端末が鳴り出した。
「あれ、いーすんさんからだ……はい、ネプギアです」
『ああ、ようやく繋がりました! 無事ですか!?』
「はいっ! 私は無事です。ロムちゃんもなんとか助け出せました!」
『そうですか…それより、大変です! ユニさんが…』
ネプギアの通信先のいーすんって呼ばれた人はなんだか慌てた様子。
『ユニさんが行方不明なんです』
「ええっ、ユニちゃんが!?」
聞いてた感じ、ユニちゃんがいなくなった、のかな。
どうしたんだろう…
『既にグリーンキャラの回収を終えたアイエフさん達にはラステイションで何があったのか調べてもらっています。なので、ネプギアさんも…』
「アイエフさん達に合流、ですね。わかりました!」
『…はい。申し訳ありませんが、よろしくお願いします』
そんな急な事にも「任せてください!」と答えるネプギア。
ネプギアだって、疲れたりしてるはずなのに…
「ごめんねラムちゃん、ロムちゃん。私、行かなきゃ」
通信を終わらせたネプギアが、わたし達の方を向いて申し訳なさそうに言う。
そんな顔しなくたって、わたし達だって…!
「わたし達も一緒に…!」
「待ちなさいよ」
ネプギアになんて負けていられない、そう思って一緒に行く、って言おうとしたのに、エストに遮られる。
なによ! と睨みつけると、エストは何も言わずに横を指差していた。
「…あぅ」
「ろ、ロムちゃんっ!?」
指差された先を見るとロムちゃんがふらふらとしていて、慌ててロムちゃんの身体を支えてあげる。
「意気揚々なのはいいけど、周りもしっかり見なさいよね」
「ぅー…!」
少し呆れたようなエストの言葉に何も言い返せない。
それがどうしようもなく、悔しかった。
「…新参が仕切るのもどうかとは思うけど、こっちは二人の調子が戻り次第動いた方がいいって思うんだけど?」
「…そうだね、ロムちゃんも今まで捕まってたようなものだし…私もそうした方がいいと思う」
「そ。じゃ、そうしましょ。…取り敢えず、回復して連絡が無ければラステイションに向かうって感じかしら……」
ロムちゃんの様子を見ているわたしの代わりに、エストがネプギアと相談している。
色々、言ってやりたいけど…何も言わずに…ううん、言えずに黙っていた。
一通りの予定を話し終わると、ネプギアは女神化して出発していった。
「…さ、こっちもやる事はあるでしょ?
「わ、わかってるわよ!」
「あなたは、まだ動けそう?」
「ぅ…(こく)」
そしてネプギアが飛んでいって少ししてから、わたし達も一度ミナちゃん達のところに戻ることになった。
わたし達が戻ると、まずミナちゃんにお説教をされた。
本当は少しだけ、褒めて欲しかったけど…あんな飛び出し方したら心配かけちゃうってくらいはわたしでもわかるし、仕方ないよね…
「本当に、心配ばかりかけて…無事でよかった…」
でも、お説教の途中でどこか安心したようにそう言ってロムちゃんといっしょにぎゅぅっとされて、わたしもロムちゃんも思わず泣き出しちゃった。
だって、なんとかなったんだって思って安心したら、なんか勝手に…
あれ、なんだろ…今度は眠くなってきた、かも…
ミナちゃんにぎゅってされながら泣いて、そのまま眠くなって寝ちゃうわたしとロムちゃん。
こうして、ルウィーが悪いヤツらに取られた事件はなんとか解決した。
ただひとつ…ディールちゃんが戻らないまま……
~人物解説~
・エスト/グリモワール
自身を魔書グリモワールと名乗る、ホワイトシスターラムに似た謎の少女。
似ているのは容姿だけでなく声色までもそっくりだが、正体は謎。
少女ディールに強い執着心を持っているようだが…