幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
目の前でロムちゃんとグリモちゃんがいなくなって、思わず泣いちゃって、
泣いて、泣いて、泣いて、泣いて……涙が枯れちゃうくらい泣いて。
気が付いたら、船がリーンボックスについていて……リーンボックスのメガミホテルのお部屋にいた。
きっと、ラステイションから一緒にいる、ユニってやつがここまで連れてきてくれたんだと思う。
船がついた時に、色々カンシャとかされてたけど…そんなのはどーでもよかった。
「はぁ、なんでアタシが子供の、それも別の国の女神のお守りなんか…」
同じ部屋にいるユニが、そう呟いている。
思わずどうしてまだ一緒にいるのか、って言ってやりたくなったけど、やめた。
アイツも少しだけ、辛そうな顔だったから。
お部屋の中でぼぅっとしていると、急にユニが立ち上がった。
「…とりあえず、アタシはこの国の教祖の所に挨拶に行ってくるから。アンタは暫く休んでなさい」
「…わたしも、行く」
「いいから、休んでなさいって。すぐに終わる用事だから」
そう言って、ユニは部屋から出ていった。
なんでアイツの言うことを聞かないといけないの、とは思ったけど、今は何もやる気が起こらないから、いいや。
「……」
ベッドの上で、船の上に残っていたグリモちゃんの本をぎゅぅっと抱きしめる。
こんな事になったのは、わたしが…わたしが、弱いせいだ。
もっともっと強かったら、わたしがロムちゃんを…グリモちゃんを、守れたのに。
「……っ、ぐす…」
それからユニが戻ってくるまで、わたしはまた泣くのを我慢出来なかった。
────────
「酷い顔ね」
「…うるっさい」
戻ってきたユニはわたしの顔を見るなり、そんな事を言ってきた。
さっきまで泣いてたから自分でもわかってるっての、失礼なヤツ…
「それで? アンタはこれからどうするのよ?」
はぁ、と溜め息を吐きながら、ユニが聞いてくる。
これから? これからって…何よ
「…ロムちゃんも、グリモちゃんもいなくなって…これからも何も、ないわよ」
「何? もう諦めたつもりなの?」
「…だって」
俯いて黙り込む。
…海に落ちた人なんか、どうやって探せっていうのよ…
「ふーん。つまりアンタにとってあの二人はその程度の奴らだったってことね」
「…何でそうなるのよ」
無表情でそう言ったユニを、睨みつける。
「だってそうでしょ? そんな簡単に諦めるなんて、案外いなくなって清々してるんじゃない?」
「うるさいうるさい!! わたしの事をわかったように言わないでよッ!!」
気づいたら、自分でもびっくりするくらい大きな声でそう怒鳴っていた。
「大事な人がいきなり二人もいなくなったアンタの気持ちは、…お姉ちゃんが帰ってこないだけのアタシにはわからないけど。だったら、こんなところでうじうじしてる暇はないはずでしょ?」
………うぅ
「……まぁ、アンタがそうしたいってんなら勝手にすればいいわよ」
「…うるさい。諦められるわけ、ないでしょ…!」
そうよ、ロムちゃんとグリモちゃんが、こんな簡単にやられちゃうわけないんだ。
探さなきゃ…!
そうと決まれば、早速探しに…っ
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ!」
そう決めて部屋から出ようとすると、ユニが腕を掴んできて止められた。
「なによっ! 邪魔する気!?」
「落ち着きなさいって。探す当てなんかあるの?」
「そ、それは…とにかく探すの!」
「はぁ…これだから子供は」
「なーにーよーっ!!」
こいつっ、子供子供って、ムカつく。
……でも
「…まぁ、ありがと」
一応、こいつのお陰でちょっぴり頭が冷えたし、ね。
「ん? 何か言ったかしらー」
「っ…! なんにも言ってないし! ばーかばーか!」
「なんでアタシ罵倒されてるのよ!?」
…やっぱりこいつ、気に食わない!
────────
「で? どうするの?」
あれから少しして、わたしはユニに連れられてリーンボックスの街を歩いている。
なんでも、ジョーホーシューシュー? だか、ジョーキョーハーク? とか言うのをするらしいけど。
「今のこの国の状況とか、そういうのを街の人に聞いて回ったりするのよ」
「えー、何かめんどくさそー…」
「何言ってるのよ。世界がこんな状況だからこそ大事なことよ? RPGゲームでだってやるでしょ」
…そういえば、ポシェモンでも何気なくスルーした人が釣竿くれる人だったりしたっけ。
そういうことかなー…
「あれ? そこにいるのは…ユニちゃんに、ラムちゃん?」
と、そんな時、後ろから聞き覚えのある、あんまり会いたくない奴の声が聞こえてきた。
「「げっ、ネプギア!」」
「二人揃ってげって言われた!?」
振り返るとそこにいたのは想像通り、ネプギアだった。
「ギアちゃーん、待ってくださいです~…」
「ああっ、ラステイションとルウィーのヨメ……もとい、女神候補生!」
「あなた達も来てるなんてね」
そのネプギアの後ろには、相変わらずケータイばっか弄ってる奴と、なんかふわーっとしてる女の人、ヨメヨメ連呼してた変な人もいる。
ああ、そういえばこいつらもリーンボックスに向かうとかそんなこと言ってたんだったわ。
「ユニちゃん! 元気だった?」
「え、えぇ、まぁ。アンタも相変わらずみたいね」
「そうかな? えへへっ、また会えて嬉しいよっ♪」
そう言ってネプギアが笑うと、ユニは顔を赤くしてふいっとそっぽを向く。
…なんで赤くなってるんだろ?
「ラムちゃんも……あれ? ラムちゃん、ロムちゃんとグリモちゃんは?」
「っ…」
「あっバカ!」
「むぐっ!?」
そして今度はわたしを見て、きょろきょろ周りを見ながらそう聞いてくるネプギア。
事情を知ってるユニはそんなネプギアの口をばっと手で塞いだけど、どう考えたって遅いし。
辛い気持ちとか、無神経なネプギアにムカッとしたりしたけど、コイツに怒鳴ったってロムちゃんとグリモちゃんは戻ってこない。
だから唇を噛んで、堪える。
……それに、二人を探すならコイツらの事も使った方がきっといいはず。
「…わたしは大丈夫だから。それより、ロムちゃんとグリモちゃんの事だけど…」
だから、わたしはネプギア達にもここに来るまでの事を話すことにした。
…ほとんど、船での事だけだけど。
「ロムちゃんとグリモちゃんが海に落ちた…って、ええっ!?」
「そ、それって、大変なことですぅ!?」
「思ったよりも深刻ね…」
「……だから、わたしは絶対にふたりを見つけ出さなくちゃ、いけないの」
俯きながら、手をぎゅっと握りしめて言う。
今だって、ずっとずっといっしょにいたロムちゃんに、グリモちゃんがいなくなって、すごく辛くて、泣いちゃいそうになるけど。
でも、泣いてる場合なんかじゃないから…ぐっと堪える。
…けど、いくらネプギア達がお人好しだからって、わたしの事を助けてくれるなんて事は…
「ラムちゃん! ロムちゃん達を探すの、私達も手伝うよ!」
…あった、みたいだった。
「……いいの? わたし、アンタに酷い事言ったりしてたのに」
「いいのいいの! 困った時はお互い様だし、同じ女神として、ラムちゃんを助けたいってだけだから」
そう言ってにこっと笑うネプギア。
…ほんっと、お人好しね、こいつ。…でも
「……あり、がと…ぅ…」
「え?」
「な、何でもないわよ! ばーかばーか!」
「えぇぇっ!? なんで!?」
…コイツのお人好しにつけ込むなんて、情けないし、ズルいのかもしれないけど。
それでも、絶対に見つけ出さないと、いけないんだ…!
「ネプギアってば、お人好しなんだから…」
「ふふ。でも、ギアちゃんらしいです」
「そうね。…それに、女神が不在の今さらに候補生まで行方不明なんて不味いどころじゃないわ。ちょっと諜報員仲間に連絡してくるわね」
わたしとネプギアのことをそんな風に眺めていたユニとネプギアの仲間。
そのネプギア仲間……アイエフ、だっけ。が、そう言って携帯を片手に少し離れた所に移動していった。
「でもでも、海に落っこちちゃったって…グリモちゃんは当然として、いくら女神様でも…」
「…ロムちゃんは、生きてる」
そう疑問に思ってたのか、赤い髪のやつ…RED?が言った言葉に、わたしはそう答える。
「生きてるって…わかるんです?」
「なんとなく…だけど、でも、絶対に生きてる」
そんな気がするだけかも知れないけど、でも、ロムちゃんはまだどこかで生きてる。そんな感じがした。
もちろん、グリモちゃんも。
「うーん…双子だって聞いたし、なにか感じるものでもあるのかしらね」
「それじゃ、探せばきっと見つかるよね! 大丈夫だよラムちゃん、絶対に見つけ出そう!」
「そんなの、当然でしょ! 絶対、見つけるんだから…」
こうして、ネプギア達は元々の目的の合間とかに手伝ってくれるようになって、
ロムちゃんとグリモちゃんを見つけ出すために出来ることを、一つずつ、始めていく。
大丈夫、きっと…ううん、絶対に、また会える。
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「…は ぁ、はぁ…ッ!」
走る、走る、走る、走る。
木々を、根を、枝葉を躱しながら、ひたすらに、走る。
───瞬間、背後の空間が爆発を起こした。
「ッ、あ…ぐ、ぅ…!」
直撃はしなかったものの、爆風で吹き飛ばされ、地面へと転がる。
その拍子に、背負っていた大切なものが、少し離れた所へ投げ出される。
「ぅ、ぐっ…っ…!」
身体が痛い、痛い
でも、絶対に、守らないと…
「───鬼ごっこは、終わり?」
けど、すぐに追跡者はそこに来ていて。
ふらふらと起き上がりながら、その追跡者を睨みつける、
「きゃー、怖い怖い。そんな睨まないでよ」
「…なんで、どうしてあなたは、攻撃してくるの…!」
構わず睨み続けながらそう問うと、わたしと同じくらいの追跡者は「そんなの、決まってるじゃない」とおかしそうに笑う。
「むしろ、それはこっちの台詞。なんであんたは"そっち側にいるの?"」
「……ぇ?」
「…あぁ、そっか。あんた記憶ないんだっけ?」
「っ…はぁっ!!」
くすくすと笑う追跡者に向かって、鋼の刃を放つ。
「…ね。いい加減わかるでしょ?」
けど、相手は放たれた刃を容易く避けながら一瞬で詰め寄ってきて、
「───あんたがわたしに勝てるはずない、って!」
「あぐっ! ぁ…!」
そう言いながら、左拳をわたしの鳩尾に打ち込む。
「かっ…ふ、ぁ…っ…」
その衝撃で吹き飛ばされ、お腹やら背中やら全身の痛みに悶えながら転げる。
「あんたがそっちについたのは…うーん、"あいつ"がいるから予想できないことでもなかったけど。ともかく今はあんたもそこのお友達も殺さないから、安心してよ。ねぇ?」
倒れたまま見上げれば、既にそこにそいつはいて。
「っ、ぁ……………」
ゆっくりと拳を振り上げるそいつを睨みつけながら、
「おやすみ、ディール」
拳が振り下ろされると共に、わたしは意識を失った。