幻次元ゲイム ネプテューヌ 白の国の不思議な魔導書 -Grimoire of Lowee- 作:橘 雪華
世界中の迷宮。
道中のモンスターを蹴散らしながら進んでいると、突然サイレンのような音がダンジョン内にけたたましく鳴り響いた。
「な、何…?」
「…警報?」
突然の音に不審がるわたし達。
…こんなダンジョンに警報? いやいやそんなのあるはずないし、だとしたら…
「ネプギア達がなんかやらかしたんでしょー。まったく、何やってんだ、かっ!」
ラムちゃんがそう言いながら向かってきたモンスターを杖で殴り飛ばす。
…もし本当にネプギア達が原因なら、急いだ方が良いかもしれない。
この音でモンスターが集まっちゃうかもしれないし。
「…急ごう」
行く手を塞ぐモンスターを氷の剣で斬り捨てながら、わたし達は奥へと進んで行った。
「わ、わ…全部動き出しちゃいましたよ!?」
「不味いわね、流石にこの状況は洒落になってない…!」
「あ、あわわわ…」
「ど、どうしよー!?」
少し奥まで進んでくると、巨大な機械のモンスターに囲まれたネプギア達を見つけた。
あぁ、やっぱりこういう事に…
と、機械モンスター…多分あれがキラーマシンだろう…の一匹が、コンパさん目がけて斧を振り下ろそうとしていた。
うわ、まずい…!
「…はぁっ!」
振り上げられた左腕に向かって氷剣を放つ。
致命的なダメージにはならなかったけれど、その攻撃を中断させることはできたみたい。
「え…?」
「この氷って…」
わたしがほっと一息吐いてる横で、ラムちゃんとロムちゃんが飛翔してネプギア達の所へと降り立つ。
ちょっと、わたし飛べないんだけど…
「あーあ、全く。見てられないわね」
「ラムちゃん!? ということは…ロムちゃんも!」
「わたしも忘れないで欲しいんですけど」
今度はよく狙って、キラーマシン一体の両腕の関節部分目掛けて氷剣を放つ。
そうすれば氷剣が当たった部分がみるみる凍っていき、腕を封じることができた。
「グリモちゃんも! 三人共、助けに来てくれたの?」
「はぁ。そんな問答をしている暇があるんですか?」
驚きつつも嬉しそうなネプギアにそう言い放ちながら、彼女等を守るように立つ。
「…援護する。早く封印を」
「で、でも、いくらなんでも三人だけじゃ…」
確かに、こっちは三人。あっちは…3、4、5……ともかく結構な数がいる。
だとしても、全く舐められたものだ。
「わたし達を舐めないでよ。この程度の連中、束になったって敵じゃないわ」
「子供だからってあまり舐められても不愉快なだけですよ、ネプギア」
「うっ…ご、ごめん」
確かにさっきまでは怖かったけれど、そうだとしてもこういう風に下に見られるのは流石に不愉快になった。
…まぁ、いいや。そんなことは。
「とにかく、ここは任せて」
「…分かった、お願い。すぐに封印して戻ってくるから!」
暫く悩んだものの、そう言ってネプギア達は奥へと進んで行った。
そしてそれを追おうとするキラーマシン。そうはいかない。
「ラムちゃん!」
「任せて! ええいっ!」
ラムちゃんの名前を叫ぶと、ラムちゃんはすぐさま氷で道を塞ぐ。
一先ずはこれで良い。後は…
「うわぁ、ほんと数ばっかり多い…」
「数が多いって事は、一匹はそんなに強くないって事でしょ?」
「…そうなら良いんだけど」
改めて見回して、その多さにうんざりしてしまう。
さっきの氷剣での手応えからして、思ったより手ごわい相手ではなかったけれど…
「っ、来る…!」
「く…とにかく、あまり一ヶ所に固まらないようにしながら、一匹ずつ確実に仕留めるよ!」
「りょーかい! 任せなさい!」
ゴゥン、と振り下ろされる鉄球をそれぞれ別方向に飛びのいて避けつつ駆け出して、杖に纏った氷の剣を消す。
流石にあんな物騒な武器を二つも持った奴に突っ込む程、命知らずでもない。
さて、機械に通りやすそうな属性と言えば…
「排除、排除」
「っ、ふっ…!」
ゴォ、と肉薄しながら再度振り下ろされる鉄球をさっと躱し、その鉄球を踏み台に跳躍する。
そしてキラーマシンの真上から集中させた魔力を、放つ!
「せやぁぁっ!」
振り下ろした杖先から氷の剣が降り注ぎ、次々とキラーマシンに突き刺さり、着弾した部分から凍りついていく。
こういうモンスターの鋼鉄の装甲は物理に強い分、魔法には弱い…なんてのをどこかで聞いた気がしたけど、本当だったみたいだ。
「ギ…ギギ…」
「このまま…やあああっ!」
凍りついて動きが鈍くなった隙を逃さずに、着地からすぐさま杖を構えなおして駆け、杖に魔力を纏わせ剣のようにしてそのまま突き刺す。
「はあああっ!」
そして魔法の刃をキラーマシンに突き刺したまま、属性変化の応用で内部から放電を浴びせる。
少し自分も痺れたけれど、それほど大したダメージじゃない。魔法の剣を引き抜いて距離を取る。
「ギ、ギ……キノウ、テイシ……」
「…ふぅ、先ずは一匹…」
力尽きたように武器を落として消えていくキラーマシンを見ながら、すぐに気を取り直して次の標的を定める。
その途中で、ロムちゃんとラムちゃんの様子も確認。
「…アイスコフィン!」
ロムちゃんの方はキラーマシンの腕を氷漬けにして攻撃を封じつつ、雷魔法で確実に仕留めている。
ロムちゃんは変身すると大分落ち着いた感じになるから、頭を使う戦い方に長けていたっけ。
で、ラムちゃんの方は…
「あっははは! 何よ、大した事ないわね! そらそらぁ!」
元々攻撃魔法が得意というだけあって、上級の雷魔法をドカドカと放ちながら圧倒していた。
…でも、少し突っ込みすぎ…っ!
「…ラムちゃん、後ろ!」
「え? わ、わっ!?」
ロムちゃんが叫ぶとほぼ同時に地を蹴り駆ける。
そのままラムちゃんとその背後で斧を振りかぶるキラーマシンの間に割って入り、両手で開いた魔導書を突き出すようにかざして障壁を展開する。
「く、ぅっ…!」
「グリモちゃん! 助かったわ!」
「もう少し敵の接近にも気を配って!」
斧の一撃を受け止め、障壁を消すと素早く魔力を杖に回して斧をはじき飛ばす。
「りょーかい、よっ!」
その隙を突くように、ラムちゃんがビームのような雷を放ってキラーマシンを吹き飛ばした。
わたしが言えたことでもないけど、やっぱりまだ危なっかしいなぁ…
「よし、次…!」
「…二人とも、無理はしないで…?」
「まだまだ! これくらい余裕よ!」
ロムちゃんが心配そうにしながら治癒と支援魔法をかけながら言う。
余裕、とまでは言わないけれど、ネプギア達が終わらせるまでは頑張らないとね…
「あぐっ…!」
「ロムちゃん! 大丈夫!?」
「く…平気」
「待ってて、今治すから」
ダメージを受けたロムちゃんの傷を、回復魔法で治療する。
あれから結構な時間が経ったけれど、キラーマシンの数は一向に減る気配がない。
どんだけいるの、こいつら…!
「あぁ、もう! 話で聞いたよりも弱っちいくせに、数ばっかり多くて!」
鬱陶しそうにしながらキラーマシンの攻撃を氷塊で逸らし、わたし達を守るラムちゃん。
よし…治療終わり。
「でも、このままだとこっちがもたない…ありがとう、グリモちゃん」
「どういたしまして。…ネプギア達、まだ終わらないのかな…」
治療を済ませて、わたしとロムちゃんも戦闘に復帰する。
このまま戦い続けるのは良くないというのは明らか。疲れも溜まってきてるし…
「っ…」
敵の大振りな攻撃を避け、避けきれないものは魔法障壁を展開して防いでいく。
そして隙があれば魔法を叩き込んで撃破…しているものの。
「また増えてる…」
倒しても倒してもどこからか湧いてくるキラーマシン。
これじゃキリがない…とにかく数を減らさないと、このままじゃ…
「グリモちゃん! 何ぼーっとしてるの! 来てるわよ!」
「っ!」
ラムちゃんの声でハッと我に返ると、いつの間にか目の前にキラーマシンが。
人に気をつけてと言っておきながら…!
「うぐ、ぁっ…!」
障壁も間に合わず、咄嗟に杖でガードしたもののまともに強化魔法もかけてないわたしとキラーマシンとでは力の差なんて一目瞭然で。
戦斧の一撃を受けきれずわたしの身体は吹き飛ばされ、背中から壁に叩きつけられる。
「か、ふ…ッ」
「「グリモちゃん!!」」
叩きつけられて全身に激痛が走る。
息が、できない。
「っ、はぁーッ…はーッ…」
「グリモちゃん! この、よくも…きゃあっ!」
「ら、ラムちゃん! っく、ぅ…!」
剥がれ落ちるように地面に倒れ、酸素を求めて呼吸をしようとする。
遠くで、二人の悲鳴が聞こえる。
わたしの方に、奴らがトドメを刺そうと近寄ってきている。
身体が痛くて、すぐ逃げることはできなさそう。
遠くで戦う音が聞こえるけど、きっと間に合わない。
「……ッ」
顔をあげると、もう奴らがすぐ近くに。
このままだと、殺される…ころ、され…
…死ぬ…しぬ…?
──嫌…いや…そんなの、嫌だ…しにたく、ない…っ
「あ、あぁ…い、嫌…」
敵が、死が、眼前まで迫ってきて、わたしの思考は一瞬で恐怖に支配される。
たった一つの油断のせいで、こんなにもあっけなく終わるの…?
そんなの、嫌だ…嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ…っ
「排除…」
「ひっ…!」
わたしを殺そうと相手は斧を振り上げる。
視界が涙で歪む。いやだ、しにたくない。
誰か…誰か…
「たす、けて…っ!」
『もう、わたしがいないとダメなんだから…』
目の前に現れた白い本から眩い光が放たれた時、
どこか懐かしいような、いつか聞いたことがあるような声が聞こえた気がして。
わたしの意識は途切れた。
「いったたた…もう! 邪魔、しないでよッ!」
吹っ飛ばされたグリモちゃんを助けに行こうとしたら横からキラーマシンが斧を振り回してきて、なんとかギリギリ避けられたけど尻餅をついちゃった。
邪魔された事と、お尻が痛い事にむかっと来て、尻餅をついたまま杖を振るって雷の魔法を撃って吹っ飛ばす。
ふん! ざまぁみろ!
「…ラムちゃん、大丈夫?」
「うん、わたしは平気。それよりもグリモ……きゃっ」
ロムちゃんに助け起こされながらグリモちゃんを助けに向かおうとした時、グリモちゃんがいた方がいきなり光り出した。
「…ラムちゃん、この光」
「うん、前にも見た事が…それに、これって…」
ロムちゃんと顔を見合わせて、ふたりで頷く。
そう、この光…お姉ちゃんがまだいた頃、わたしがフェンリルにやられそうになった時にも見たことがある。
それに、今ならわかる。この光のこの感じ、間違いなく…シェアエネルギーだ。
「もしかして、グリモちゃんって…」
光が収まっていくのと同時に、轟音がダンジョンに響き渡る。
そして、光が完全に収まったわたし達の視線の先には。
「ギ…ギ……」
「………」
水色の髪をなびかせながら、キラーマシンの上に乗りながら大きな氷の槍でその頭を貫いている、グリモちゃんがいた。
パッと見た感じ別人にも見えるけど、なんとなく感じる雰囲気がグリモちゃんだから、きっとあれはグリモちゃんだ
「……女神…?」
「っぽい、よね…あれ」
ぽつりと呟いたロムちゃんの言葉に、そう答える。
グリモちゃんの姿は、背中の辺りまで伸びた水色の髪に、桃色の瞳。そしてわたし達のに似た形をした蒼色のラインが入った白いプロセッサユニットを纏っていた。
「…」
そんなグリモちゃんを見つめていると、グリモちゃんが杖を構えて動き出した。
そこからは、グリモちゃんの無双状態だった。
グリモちゃんが杖を振るうと、グリモちゃんの周りにディスクみたいなのが出てきて、もう一度杖を振るうとそれはひとつひとつが意思を持ってるように飛び回って、次々にキラーマシンを切り裂いていく。
キラーマシンもすぐに新しいのが現れて襲ってくるけど、出てきてもすぐにディスクに切り裂かれ、貫かれて…そのまま動かなくなって消えていく。
「なにあれ…」
「すごい…」
そんな光景を見たわたし達は、ただ凄いと感じる事しかできずにいた。
暫くするとキラーマシンが出てこなくなった。
さっきまであんなに湧いてきたのに…って少し不思議に思ったけど、グリモちゃんが一気にやっつけたせいで全滅しちゃったのかも…なんて考えながらグリモちゃんの元に向かった。
「グリモちゃんすごい…強いし、女神になれるなんて…」
「でも、なんで女神だったこと黙ってたのよ?」
「…さっき思い出した、とかじゃないかな…?」
「………」
ロムちゃんと話したように、今のグリモちゃんの姿はどう見ても女神だった。
というか、なんとなくロムちゃんに似てる?
髪の色だって水色だし、前髪の片方側が長かったり…髪の毛自体はわたし達より長いけど。
あと、近くに来たらわかったけど、わたし達よりもちょっとだけ背が高い。胸も少しだけ……なんかズルイ。
プロセッサユニットも似てたけど、こっちは蒼と白色だからそっくりってほどでもないかも。というかコアユニットしかないし。
……それにしても、グリモちゃんさっきからなんにも喋らないわね。
「グリモちゃんー? おーい」
わたし達が目の前で話していても無反応だったもんだから、グリモちゃんの顔の前で手を振ってみる。けど、無反応のまま。
不思議に思いながらロムちゃんに相談しようとふり返ったら、ロムちゃんが怯えた顔でグリモちゃんを見ていた。
「? ロムちゃんどうかした?」
「ぁ…え、えと…なんか、怖くなって…」
「怖い? グリモちゃんが?」
「(こく)…なんか、冷たい目、してる気がして…」
ロムちゃんに言われてもう一度グリモちゃんの方を見てみる。
冷たい目、って言われても…ただ無表情なだけのような…
「……」
「ん…? わ、わっ!?」
暫くじーっと観察していたらなんか顔が近づいてるような気がして、少し後ろに下がったらふらっとグリモちゃんが抱きついてきた。
「え、え!? な、なに、なにっ!?」
思わず抱きとめながら、突然の事にパニックになっちゃって。
よくわかんなくなって慌てちゃって、ロムちゃんが近くに来ていたのにも気づかなかった。
「…気を、失ってる…?」
「え? あ、ほ、ほんとだ…」
ロムちゃんにそう言われてグリモちゃんをよく見ると、目を閉じてぐったりしていて。
なんだ…と一安心しながら、慌てちゃってた自分を思い出して恥ずかしくなった。
「くす…ラムちゃん、面白かった」
「ろ、ロムちゃん!? 面白くなんかないよ! もうっ!」
そんなわたしを見てさっきまで何かに怯えてたロムちゃんも、くすくす笑いながらいつも通りに戻っていた。
でも、うー…わたしは恥かいたんだし、グリモちゃんは後でお仕置きなんだからっ!
「…ん、んんぅ…」
なんて言ってる内に、グリモちゃんがもぞもぞと動いた。
目を覚ましたのかなと思いながら、ふと面白いことを思いついて声をかけてみる。
「グリモちゃーん、起きなさいよー」
「んぅ…、…?」
姿は変わらないまま、ぼんやりした顔でわたしを見上げるグリモちゃん。
少しすると今の状況に気がついたのか、グリモちゃんはみるみる顔を赤くしていく。
「え、え? な、え!?」
慌てて離れようとするグリモちゃん。
でもわたしはあえてグリモちゃんをぎゅっとして、逃がさないようにした。
「グリモちゃんってば疲れちゃってたみたいだし、もうすこし楽にしてていいのよー?」
「は、え、やっ、らら、ラムちゃん、は、離して…っ!」
わたわたと面白いくらいに慌ててるグリモちゃんは、さっきまでのだんまりな感じじゃなくっていつも通りのグリモちゃんだった。
心配させたこととか、変身のこととか…言いたいことは色々あるけど、とりあえず暫くはこのままからかって 遊んじゃおっと。
いきなり倒れ込んできて驚かせた仕返しでもあるしっ!
「あぅぅー…」
「……ラムちゃん、何やってるの…」
それから暫くグリモちゃんをからかい続けて。
そんなロムちゃんの呆れたような声がかかるまで、わたしはグリモちゃんを弄って遊ぶのだった。
「うぅ、ひどい目に遭った…」
「こんなに可愛い女神ラムちゃんに抱きつかれてひどい目ってどーゆーことよー」
気がついたらラムちゃんに抱き締められていて、なんとか開放してもらって。
未だ熱の引かない顔を手で覆いながらそう呟くと、横から不満げな声を上げられた。
自分で可愛いって…まぁ確かにそうだけど。
「…で、どういう状況なの、これ?」
それはそれとして、重要なのはそれだ。
どうしてわたしはこんな格好なのか。
「それは…わたし達にもさっぱりで…」
「そーそー。むしろこっちが聞きたいわよ、グリモちゃんってば女神化してるしー」
それについては二人もよくはわからないみたいで、そんな返答が返ってきた。
わたしの今の姿は、ぴったりと身体にフィットするような蒼色ベースに白いラインが入ったバトルスーツみたいな服?に、目の前の変身したロムちゃんに似た、けれど少し青色が深いような髪。
しかも髪の方はなぜか右のもみあげが長い。気になって思わず指で弄りたくなるほどに。
つまりわたしは、目の前の二人のような姿──女神の姿になってしまっていた。
というかこの格好やっぱりスクm……いや、これはバトルスーツ。バトルスーツだ、うん。
「…ピンチで覚醒は物語じゃよくあることだけど、実際に自分がそうなるとこんな気分なんだね…」
「つまりグリモちゃんもよくわかってないー?」
「うん。叩きつけられた衝撃で声もうまく出せなくて、本気で死ぬかと思ったところまでは、覚えてるけど…」
そこまで言って、さっき体感したその恐怖を思い出して、思わず身震い。
「グリモちゃん、大丈夫…?」
「っ…う、うん、大丈夫…」
そんなわたしの様子に気が付いたのか、ロムちゃんが心配そうに顔を覗き込んでくる。
流石に怖がってるような情けない顔を見られるのも恥ずかしくて、少し無理矢理気味に深呼吸。
「……えーと、それで。わたしにはそこからさっき起きるまでの記憶がないんだけど…二人は何があったか分かる?」
「(こくこく)」
「ちょっと遠目だったけど、ロムちゃんと二人で見てたからね。えーっと…」
ひとまず、二人から何があったのかを教えて貰う。
まずそこが大事だからね。
………
……
…
「はぁ、つまりここらにいたキラーマシンの殆どはわたしがやっつけちゃったと」
話が終わってからそう言うと、二人はこくこくと頷く。
…本音を言えば「何言ってるのーもー」なんて言いたいところだけど…この姿が何よりの証明なんだろうな…
「本当に凄かったのよ、何か変なカッターみたいなの飛ばしてばったばった倒してったんだから!」
「かっこよかった…」
「うーん、でもわたしはその時の事は全然覚えてないんだけど…」
二人の言う戦いの時の記憶もないし、そもそもこの姿に関する記憶だって…
「? グリモちゃん、どうかした…?」
「いや、えっと、うぅん…名前はまだ思い出せないんだけど、この姿の名前は思い出した…かもしれない」
「え、ホント!?」
わたしがそう言うと、二人とも驚いたような、少し嬉しそうな表情になる。うん、喜んでくれるのは嬉しいんだけど…
正直言って、自分自身戸惑いが抑えられない。だって、気を失う前には"無かったはずの記憶"があるんだから。
突然思い出したわけでもなく、最初から記憶にあった様な感覚で、気味悪さすら感じる。
そんな心境を片方だけ長く伸びた前髪をくるくると指で弄りながら、二人に告げる。
「うん。本名とか所属までは思い出せないけど、わたしは…」
「わたしの名前は、女神ブルーハート。どこかの国の、守護女神」
「……」
二人と新たな一人の小さな女神達が、強敵を退けたその頃。
積み上げられたブロックの頂上付近に、一つの影が遥か下の少女を見つめていた。
「…やっぱり、そうなるんだ」
影は小さくそう呟くと立ち上がり、見下ろす。
悲しそうに、しかしどこか安堵するように一人の少女を見据えて、
「…」
少女は背後に開かれた黒い門へと消えて行った。