D.GrayMan~聖剣使いのエクソシスト~ 作:ファイター
ティキ・ミックの使徒としての能力は、万物を選択する能力である。例えば、人間。彼は人間の体内にある心臓を能力を使う事によって破壊或いは抜き出す事が可能である。『心臓だけを抜き出す』と選択し、服、皮、血液、筋肉、脂肪、骨を素通りして心臓を抜き取るのである。心臓だけを選択しているのだから、大動脈や大静脈といった血管は千切れてしまい出血してしまう。心臓を引き抜かれた時点で、その人間は死んでしまうのだろう。また、万物を選択出来るのだから空気も選択出来る。その結果が、まるで空中に立っている様に見えるのだ。非常に使い勝手がよく汎用性がある能力ではあるが唯一、選択出来ない物体がある。神の結晶とも呼ばれ、不思議な力を帯びた物質であるイノセンスだ。対AKUMA武器であるイノセンスがAKUMAに有効な様に、人類の敵である使徒に対しても有効なのだ。イノセンスの能力は非常に強力な物であるが、使い手によるものが大きい。イノセンスを発動した者がルーキーな程に力は小さく、ベテランである程に力が大きくなる。
では、元帥であるアーサー・ペンドラゴンが使えばどうなるのか。
綺麗な街並みが見れる一角で、白煙が上がっていた。アーサーがロードによって引き摺りこまれた世界は小さな街だった。大きな塔が世界の中心にあり、その塔を囲むようにして街が広がっている。人間の姿は無い。人間が“いてはいけない”世界だからだ。
「やるねぇ、元帥」
「…………」
「また無反応?やめて欲しいね。殺りにくいったらありゃしない」
ティキが俺を見ながらそう言ってくる。その前に、だ。一言だけ言わせてほしい。どうしてこうなった?俺とサーシャは今までバルコニーに居た筈なのに、気が付いたら箱舟の中にいる。そんな馬鹿な。チラリと横を見れば。サーシャはバルコニーに設置されていた椅子に座って呑気にミルクティーを飲んでいる。ふざけるな。そんな心の声が聞こえたのか、サーシャは可愛らしく舌を出して片目を瞑り、右手を頭の上に持って行った。
――てへぺろ
「…………」
「あぁ、ダリィ。俺もお前の事をアーサーって呼ばせてもらうぜ?」
「別に構わない」
「おっ、やっと喋ったな」
サーシャから視線を外し、ティキを見れば丁度タバコを咥えていた。律儀に待っていてくれたらしい。見た目はイケメンな男なのだけど、その体から発している殺気が違うと伝えてくる。もう、アレだ。背筋がピリピリするし、そろそろ殺気を放つのを止めて欲しい。というか、だ。どうやって箱舟から出ようか。英雄王なら乖離剣を使って出れるだろう。アレはそういう宝具だ。俺の持つエクスカリバーでは不可能な領域だ。こういう時の切り札は幾つかあるけど、どれも時間が必要でとてもじゃないけど実行は不可能に近い。
「なぁ、アーサー」
「……なんだ?」
「カードはするか?」
「は?」
「だから、カードだよ」
そう言ってポケットから取り出したカードはトランプだった。カードの端が破れたりしているから、よく使っているらしい。いや、知ってるけどね。アレンにぼろ負けしてたし。
「偶になら」
「そうか。俺はさァ、よくやるんだよ。その中でも気に入ってんのが賭けなわけよ」
「やるのか?」
「そっちの方が面白いだろ?いいよな、ロード」
何時の間にか、ティキの隣に移動していたロードが面白くなさそうに眉を寄せた。
「え~、このまま連れて帰ろうよ~」
「おま、それは流石に千年公が許しちゃくれないだろ」
「仕方ないなー、いいよ」
「よし決まり」
短い会話を終えて、ロードは屋根の上に飛び移った。あれ、ロードの身体能力ってあんなに高かったか?普通の女の子程度の筋力じゃなかったか?ビックリなんだけど。
「アーサー、本気でやろうぜ」
「本気で?」
「あぁ。お前、本気で戦った事なんてないだろ?」
え、いやいや。ありますけど。ていうか、常に本気なんですけど。Leve1のAKUMAにだって奇襲されれば死にますけど。正面から来られても死にそうになるし。
「けど、ここでならどれだけ本気でやっても構わねぇ。もうそろそろ引っ越しするしな。なぁ、だから本気でやろうぜ」
――瞬間、衝撃、轟音、悲鳴、痛み、圧迫感、光
気が付けば、家の残骸に埋もれていた。蹴り飛ばされたとだと理解するまでにそう時間はかからなかった。身体にのっかてる残骸をどけて立ち上がると、ティキが足を上げていたからだ。足、長いね。少し視線をずらせば、サーシャがロードに捕まっていた。なにやってんの。
「それにしても、結構吹き飛ばされたな」
先ほど立っていた位置から数十メートルは離れていた。あれ、なんだか苛立ってきた。行きたくもない舞踏会に行かされ、やりたくもない戦いを挑まれている。足蹴にもされた。おぉ、これは怒ってもいいんじゃないだろうか?うん。怒ろう。怒るべきだ。
エクスカリバーを水平に。切っ先を敵に。回転せよ。いくぞ。
「――偽・ストライク・エア」
数件分の家の残骸を巻き込みながら、風の塊はティキに直撃する。違う、直撃はしていない。防がれた。拒絶したか。彼の差し出した右手の前で風と瓦礫は何かに当たったかの様に静止し、その威力をなくして止まった。やはり、強い。一筋縄ではいかない相手だ。あれ、今のちょっと恰好よくない?
顔がニヤケそうになった時、金色のボタンが目の前に飛び出してきた。いや、ティキが投げてきた。
『Kevin Yeegar』
驚愕した。その事実に。思い出せ。どうして、ノアの一族であるティキ・ミックが俺の目の前に現れた?偶然か?それとも狙った事か?違う。そんな事はどうでもいい。ノアの一族が我々エクソシストにしたことは、一番デカい出来事はなんだった?そう、エクソシスト狩りだ。傷のついたボタンには、良く見れば染みが着いている。血だ。誰の?決まっている、イエーガー元帥の血だ。それをどうしてティキ・ミックが持っている?決まっている。彼が、殺した。では、どうする?
「そうそう、その顔だよ。その顔が見たかったんだよアーサー・ペンドラゴン」
「…………」
「人間の、そういう顔があるから面白んだよ」
うるさい。
「そのケビン・イエーガーって元帥は強かったぜ?なんせ確実に殺せなかったからな」
彼は何時も最前線で戦ってきたエクソシストだから。
「けど、あの傷じゃ死んだも同然だよなぁ?」
治療し、一時的に意識が回復するも、彼は死んだ。
「あそこの少女はどうする?心臓を引き抜くか?それとも人間に渡して壊してみるか?」
ティキから黒い蝶が飛び出した。
「あぁ、あぁ、どれも面白そうだ。なぁ?アーサー・ペンドラゴン」
あぁ、もう駄目だ。限界だ。言葉を選ぼうにも選べない。
「黙れ」