転生先が平賀さんな件   作:スティレット

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 今回は長めになりました。これでも削ったんだけどな。どうしてこうなった。


浮き足立つと色々大変

 あの後何事も無く魔法学院に帰り、ルイズを送ってから矢を改造していた。

 

 発破用の火薬の一部は馬に積んで、帰り次第爆弾製作をしようと思っていたのだ。

 

 そういうわけで黙々と作業していると、なにやら振動と大きなものをぶつける音がする。

 

 原作ではシュペー卿とやらの大剣とデルフリンガーのどっちを使うかでルイズとキュルケが争っていたはず。それで宝物庫の壁にヒビが入り、好機と見たフーケが強襲してきたんだっけ。

 

 しかし今はそんなことも無く、何度も振動がやってくる。舞踏会の前で緩んでいるところを突いてきたか。

 

 ため息を一つ、そして気持ちを切り替え、早速作った爆弾矢と強弓、デルフリンガー、刀を引っ掴んで現場に向かった。ルイズが向かっていたら面倒なことになるという理由で。

 

 

 

 現場は騒然としていた。

 

 30メイル級のゴーレムが宝物庫の解体作業をしている傍ら、起きて来た教師陣がゴーレムの射程ギリギリ外から魔法を放ち、衛兵が生徒を止めている。その中にはルイズの顔もあった。

 

「主、無事でしたか」

 

 本当、交戦して下手に壁にヒビ入れて無くてよかったよ。ただ、あの壁もよく見ると時間の問題みたいだけど。

 

「サイト、賊よ」

 

「そのようですな」

 

「何落ち着いているのよ! 由緒あるトリステイン魔法学院に賊が入ったのよ! 今は先生達が対処しているけど、あれじゃ壁が保たないわ」

 

「了解しました。では、対処に移ります」

 

 俺は強弓に導火線に火の着いた矢をつがえ、ゴーレムの関節を狙う。放った矢は突き刺さった後しばらくして爆発した。

 

 エアカッターは質量が無いし、ファイヤーボールは無機質相手には相性が悪い。有効なのはウインディ・アイシクルやジャベリン、熟練者のブレット。一番有効なのは同じゴーレムだと思うのだが、ラインクラスっぽいのがぺちぺちやっては潰される以外肝心のオスマンやシュヴルーズが居ない。さては寝ているな。ただ、オスマンは誰かが呼びに行くだろう。

 

 そこで作っていたのが爆弾矢だ。関節内部まで突き刺されば、あとは爆発でもげていた。肩の根元を狙えば再生にも時間がかかるし、動きも止まる。

 

 有効打を与えたので、立て続けに残る肩、膝裏を狙って矢を放つ。そのまま結果を見ずにデルフリンガーを抜き放つ。

 

「やっと俺様の出番か。待ちくたびれたぜ」

 

「お前の頑丈さを当てにしているからな」

 

 矢が爆発し、片膝を付いて行動を停止しているゴーレムを尻目にフーケ、いや、ロングビルを探す。あいつはメイジでも平民扱いだったし、ラインと言う自己申告だったはずだから戦線に加わらずに居る可能性が高い。

 

 やはり、遠巻きの木々の陰で杖を握っていた。暗闇で矢が爆発したことがなんなのか理解できていないらしい。

 

 そのままガンダールヴ補正で忍び足で近づき、肩から首に刃筋を当て――。

 

「動くな。魔力の流れからお前が犯人だと分かっている」

 

「な、何のことでしょうか?」

 

 こちらでは魔力って言い方ではなく精神力だったか。まあいい。

 

「ミス・ロングビル、いや、土くれのフーケだったな。調べはついている。だが、ここで見逃すのもやぶさかではない」

 

 原作知識だけどな。

 

「!? ・・・・・・どういう事だい?」

 

「おっと、振り向くなよ。そのフード越しでは余計に分かりにくいと思うが、念の為だ」

 

 武人でもない限り死角越しの反撃なんぞ相当やりにくいだろう。

 

「・・・・・・」

 

 不審だと思っているだろうな。ちなみにフーケのゴーレムはぱっと見こちらからでは分からないが、少しずつ再生している。逃走用に暴れさせようと思っているようだが、それも見逃してやっている。

 

「何、ちょっとした取引だ。お前の狙っている「破壊の杖」だが、あれは銃から進化したただの武器だ。しかも1発限りの使い捨て。使い方なんぞ見ただけで分かる構造ではないから、持って行っても損なだけなんだが。俺と俺の主人の出世の為に持っていってもらおうって訳だ」

 

「何が言いたいかは大体分かったよ。でもいいのかい? 私がそのままとんずらするって事は考えなくて」

 

「逃げれば似顔絵付きの手配書を配布してもらうのみだ。あとまだアルビオンで生きているお前の家族のもな。マチルダ」

 

 我ながら下種い。後でテファに嫌われたらどうしようと思うけどもう遅い。

 

「くっ、この外道が! 家族にまで手を出すのかい!」

 

「お前が協力してくれれば今回の件は見逃そう。その後も何か頼むかもしれないが、その時は正式に金を払う」

 

 お前でマッチポンプした後、頂いた金でな。

 

「もはや選択肢は無いって訳かい・・・・・・」

 

「そういうことだ。やぶれかぶれで今も再生しているゴーレムを暴れさせてやっても良いが、その時は俺のみの手柄になるだけだ」

 

「分かった。私は何をすれば良いんだい?」

 

 諦めてくれたようだが油断は禁物。

 

「あと少しで壁は破壊できるだろう? そのためにゴーレムの拳を態々鉄に錬金して叩いてたんだ。その後予定通り破壊の杖を持って行ってくれれば良い。その後俺がうちの主人を伴って行くから、そうしたら大人しく破壊の杖を引き渡すだけだ。どこかに置いておけば良い。あれだけの見物客が居るんだ。身体の線は隠しておけよ? それと、今からここから行って帰ってくる時間も計算しておけ。最後に、お前自身が道中の御者をやれ。そうすればこの件はおしまいだ」

 

「しょうがないか。分かったよ」

 

 フーケ――いや、しばらくはロングビルで良いか――は、深いため息をついてこちらに従うことにしたらしい。俺はデルフリンガーを手に、反対の手にはいつでも懐の銃を抜けるようにしながら、そのまま見逃した。

 

 そこから先は予定通り、ロングビルが宝物庫を破壊した後、破壊の杖を強奪。そして逃走してもらった。その間ずっと監視していたが、特に問題は無かった。

 

 

 

「これは由々しき事態です!」

 

 防衛に参加していた教師が気炎を上げている。しかし、残り半分が寝こけていたんだ。仕方ないさ。

 

 俺たち目撃者は大きめの教室で会議をしていた。今回目撃者が多いからね。その中で唯一フーケの顔を見たと言うことになっている俺は最前列で言い争いを見ていた。その横に主のルイズ。

 

「他の者達はどうしていたのですか!?」

 

「当直は――」

 

 と、いった具合である。一応トライアングルのシュヴルーズだったら押さえ込めたかもしれないけどね。後オスマンはおっとり刀で駆けつけたが、時既に遅かった。

 

「これこれ、ここで言い争いをしていても仕方なかろう。儂らもメイジの巣に強盗に入る輩なんぞ想定していなかったんじゃ。迅速に動いていた者は褒められ、それ以外の者は反省し、次に活かすことが肝心じゃ」

 

「ですがオールド・オスマン!」

 

 これ以上長引きそうなのでオスマンに視線で合図して促す。

 

「幸いフーケの顔を間近で見た者がおる。ミス・ヴァリエールの使い魔となったミスタ・ヒラガじゃ」

 

 生徒や何名かの教師はオスマンが俺をミスタ付きで呼んでいるのに驚いていたが、素知らぬ顔でスルー。

 

「ご紹介に預かりましたサイト・ヒラガです。フーケを今一歩のところまで追い詰めましたが、力及ばず申し訳ない。クラスはトライアングルと推定。男でした」

 

 あちらこちらでざわざわしている。「平民がトライアングルを追い詰めただと?」とか、「オールド・オスマンがミスタと呼んでいるんだ、何かあるに違いない」とか聞こえてくるが、益にもならないので無視。

 

「オールド・オスマン!」

 

 ここで良いタイミングでロングビルさんが入場。

 

「ミス・ロングビル? この非常時にどちらへ行っていたのです?」

 

「そうですぞ! 由々しき事態ですぞ!」

 

「皆の者、静まれい! して、ミス・ロングビル。どうしたのかの?」

 

「私はミスタ・ヒラガから一足早くフーケの情報を知らされていたので、調査しておりました」

 

「おお! それで、フーケはどこへ?」

 

「はい、馬で二時間と言ったところでしょうか」

 

 原作の半分になったか。しかし往復四時間プラス聞き込みなんて夜明けからやっても間に合わない計算なんだが。夜が明ける前からやっていたと言う計算か? まあ良いか。

 

「では、捜索隊を編成する。我はと言うものは杖を掲げよ!」

 

 辺りに静寂が訪れる。やっぱりこうなるか。腰の刀を鞘ごと抜いて、掲げた。

 

 再びざわざわし始める。やっぱ俺平民って見られてたのね。

 

「ミスタ・ヒラガ。お主はミスタ・グラモン相手に勝利したが、相手はトライアングル。良いのかの?」

 

「はい、直接顔を見たのは私だけですし、今一歩のところを取り逃がしたのが口惜しいので。最低でも宝だけは奪還してきます」

 

 その言葉にルイズが杖を掲げる。

 

「ミス・ヴァリエール! あなたは生徒じゃないですか!」

 

「でも、サイト以外誰も挙げないじゃないですか!」

 

 その言葉に目を逸らす連中の居る中、キュルケとタバサも杖を掲げる。

 

「ミス・ツェルプストー! ミス・タバサも!」

 

「ヴァリエールには負けていられませんわ」

 

「心配」

 

「主よ、良いご友人を持ったではないですか」

 

 小声でささやくと、恥ずかしいのか睨んできた。ハハッ迫力が足りない。

 

 

 

 あの後ぐだぐだ言う奴らを相手にせず、俺たちは馬車で現場まで向かっていた。

 

「なんでミス・ロングビルの隣に居るのよ」

 

「不意打ちが来ないとも限りませんから。こちらの方が守りやすいんですよ」

 

 主に御者席からな。テファの命がかかっているならなりふり構わなくなる可能性が高いし。

 

「いつも真面目なダーリンも素敵! ヴァリエールなんか捨ててあたしのところに来て!」

 

 ルイズ達は難色を示していたが、いつでも飛び出しやすいよう使用人用の馬車を都合してもらった。ゴーレムが現れたらこいつを囮にするので馬車から飛び降りるように言ってある。

 

「ハハハ、もし主に捨てられたら考えるよ」

 

「ああん、ダーリンのいけず。それにしてもヴァリエールは堅物だし、タバサは本の虫になっちゃってるし、何かお話しましょうよ。ミス・ロングビル。なんか面白い話とかありませんの? あのオールド・オスマンの秘書だと色々とありそうだけど」

 

「フフ・・・・・・それは秘密です。オールド・オスマンの名誉にも関わりますゆえ」

 

「それにしても、手綱なんて付き人にやらせれば良いじゃないですか」

 

「いえ、良いのです。私は貴族の名をなくした者ですから」

 

「え? でもあなたオールド・オスマンの秘書なのでしょう?」

 

 ロングビルは困ったように笑いながら。

 

「オールド・オスマンは貴族や平民と言うものに拘らないお方です」

 

「差し支えなかったら、そこら辺の事情を教えてくださらないかしら?」

 

 このままルイズが助け舟出すだろうけど、このまま放置するのも可哀想だし、ちょっと好感度を上げておきたいので口を出すことにした。

 

「キュルケ、人には言いたくないことが一つや二つある。詮索しないことも魅力の一つだと思うよ?」

 

「ダーリンがそういうなら・・・・・・あっ、でもダーリンの国のことくらいなら良いでしょう?」

 

「しょうがないな」

 

 現地に到着するまでキュルケとのおしゃべりに付き合うことになった。ロングビルに注意を置いたままで。御者席じゃなかったら視線とかさりげなくロングビルに行ってるから不機嫌になってただろうな。

 

 

 

 2時間近くキュルケのおしゃべりに付き合わされ、内心疲労を覚えながらも現地に着いた。

 

「あの小屋に潜伏していると思われます」

 

 木陰から小屋が遠目に見える。

 

「では、私が偵察してきますから、オールド・オスマンも言っていたのでシュヴァリエの称号を持つミス・タバサが皆を守っていて下さい。キュルケとミス・ロングビルはその補佐をお願いします。主はいざと言う時、一番精度の高い魔法でゴーレムの足を吹き飛ばして下さい」

 

 ここでルイズだけ振り分けなかったら面倒なことになるんだ。やれやれだぜ。

 

「油断するんじゃないわよ」

 

「ダーリン、気をつけてね」

 

 俺は脇差と投げナイフを抜き、音を殺して小屋に忍び寄る。茶番だけどしっかりしないと。

 

 そして窓から内部を覗き、問題なしと合図を送る。

 

 ルイズ達が来る間に念の為のクリアリングを済ませ、目の前の木箱を検める。

 

「破壊の杖」

 

「これが破壊の杖? 杖っぽくないわね」

 

「ですが、私が目録を作っている時に見たものと同じです」

 

「じゃあ、後はフーケを捕まえるだけね!」

 

「主よ、やる気を出すのは結構ですが、ここまで無傷で杖を奪還出来たのです。欲張ると・・・・・・死にますよ?」

 

「あ、あんた。凄んでも怖くなんか無いんだからね!」

 

「相手を甘く見すぎなのです。あれだけの数のメイジから攻撃を受けながらも宝物庫の壁を破壊したゴーレムを操るメイジです。常に最悪を想定して動かないとダメです」

 

 納得いかない顔をしているな。

 

「第一目標の破壊の杖は奪還出来たのです。生徒だけでここまで出来たので十分でしょう。勇気と蛮勇を履き違えてはいけませんよ?」

 

 一番後ろでロングビルがひとまず安心したと言った表情をした。後で契約でもして正体を漏らさないと誓ってやろう。

 

「では、学院に帰りましょう。こういった任務は拍子抜けする程度が良いのです。いちいち命を張っていたら身が持たない」

 

 強引にまとめて帰路に着いた。タバサが怪訝な顔をしていたが、君の持っている情報では真実には辿り着けんよ。悪いね。

 

 

 

「よくぞ無事破壊の杖を持ち帰った」

 

 オールド・オスマンからは歓迎ムードで迎えられた。この狸爺にはロングビルの事などばれているかも知れんが、承知の上だ。いわば俺達は共犯なのだから。

 

「君達にはシュヴァリエの爵位の申請をしておいた。この度フーケを捕まえられなかったのは残念じゃが、無事宝が戻ったのじゃ。それとミス・タバサは既にシュヴァリエなので精霊勲章の授与を申請しておいた」

 

 ルイズとキュルケは煮え切らない顔をしている。4時間馬車に揺られるだけで爵位申請とかどうなんだろうって感じだ。タバサは相変わらず無表情だ。

 

「ミス・ロングビルとサイトには何も無いんですか?」

 

「彼らは平民じゃからのう・・・・・・」

 

 とても残念と言った風に頭を振った。まあ、俺は別にこの後交渉するから良いんだけど。

 

「主よ。私は身軽な今の身分で良いのです。それに、成功報酬を交渉してはいけないとは言われませんでしたし」

 

「あんたがそう言うなら良いけど、程々にしときなさいよ」

 

「心得ています」

 

「どうだか」

 

 キュルケは俺とルイズのやりとりに面白くない顔をしている。しかし、それも少しの間だけで、すぐに取り繕って見せた。

 

「今日は「フリッグの舞踏会」じゃ。破壊の杖も戻ってきたし、予定通り執り行う」

 

「では主、キュルケ、ミス・タバサ。また後ほど」

 

 3人が出て行き、扉が閉まった後、おもむろに切り出した。

 

「オールド・オスマン。あの破壊の杖は、私の国でも見かけた武器です」

 

 嘘は言っていない。ブラウザごしとかだけど。

 

「そうか・・・・・・あれは30年以上も前の事か。ワイバーンに襲われての。それで私を助けてくれた知人の遺品なのだ」

 

 口調が微妙に若返ってる。昔を思い出したのだろうか。

 

「そうですか。無事戻ってきて良かったですね。しかし、アレが万が一使用されていたらとんでもないことになっていた」

 

「うむ、ワイバーンを一撃で殺傷するほどのものじゃからの。使い方は分からなかったが、コルベール君のようにからくりに詳しい者に渡り、それが悪用されればぞっとせんのう」

 

「そうですね。ではここらで交渉と行きましょうか。命の恩人の遺品。貴方はいくらの値を付けますか?」

 

 オスマンはわずかに目を見開くが、それも一瞬で調子を取り戻した。

 

「そう言われると痛いのう。破壊の杖の価値を知り、命の恩人の遺品に対する誠意を値にするならば決して安くは無い」

 

「はい、私は貴方がどれだけ誠実かも知りたいですしね。貴族の学院の偉大なる長よ」

 

「それ褒め殺しとみせかけた値段吊り上げじゃろう」

 

 茶目っ気で濁しつつその脳内では計算しているようだ。

 

「そうじゃのう、10000エキューでどうじゃ? 一流の大剣が2000から3000だったら武器としての価値が5000、遺品としての値段で5000じゃ」

 

「かまいません。それといらぬお節介かもしれませんが、ミス・ロングビルにも何か褒章を与えてください。彼女だけ何も無いのではあんまりだ」

 

「それはお主が言わんでも待遇を良くしようと思っていたところじゃ。それで、以上かの?」

 

「はい、以上です」

 

「では、今宵は大いに楽しむが良い」

 

「はい、失礼します」

 

 1万か。ずいぶんな値が付いたな。これでしばらくは困らないな。しかし原作では「ここはどこだ、帰りたい」と言っていたはず。30年前のおそらくアメリカ兵だろうが、言葉が通じていた? ゲートを通じずに? 疑問が尽きないが答えも出ないんだよな。ま、今回はレコン・キスタ側にロングビルが付かないんだ。ワルド相手だったら結構楽になるかも知れないな。そうでも思っておかないと先のことを考えすぎてノイローゼにでもなりそうだ。まあ良い、舞踏会の準備でもするか。

 

 

 

 奪還と交渉が終わり、アルヴィーズの食堂の上の階がホールになっているのでそこの端でゆっくりしていた。

 

 最初はギーシュとも少し話したが、あいつにはあいつの付き合いがある。それに少なくなったとはいえ、未だに闇討ちしようとする馬鹿が居るのだ。今のあいつでは不意打ちに対する対処は難しいだろう。そう考えたら次は護身かな。服の中に着ける装備とか見繕っておいてやろう。

 

 今回は寝不足もあり、気を張っていて若干疲れているので果実や蜂蜜で薄めたワインを食事と共に摂っている。忙しい最中に気遣ってくれるシエスタが癒しだ。

 

 キュルケは寄ってくる男達の対処で忙しいらしい。タバサはひたすらにハシバミサラダと格闘中だ。あれって生のゴーヤ並に苦いから苦手だ。塩もみすれば苦味も薄まるだろうか。

 

 今日くらいはゆっくり休んでも良いかと思い、酔わない程度にワインを飲みつつガヤガヤとした舞踏会の会場をぼうっと見ていた。

 

 そうしてしばらくすると――。

 

「ヴァリエール公爵が息女。ルイズ・フランソワーズ・ル・ブラン・ド・ラ・ヴァリエール嬢のおな~~~り~~~」

 

 ルイズが着飾って入ってきた。素材が良いからな。このまま磨いていけば内外共に素晴らしいものになるだろう。

 

 その美貌に普段の行いを忘れ、アタックを仕掛ける男共(愚民)。ルイズはそれらを振り切り、まっすぐこちらに向かってきた。

 

「おや、これは主。着飾るとさらに可憐になりますね。ところであの者たちは・・・・・・まあ、構いませんか。普段が普段ですし」

 

「そういうことよ。あんなのより、ずっとマシなのが目の前に居るしね」

 

「おやおや・・・・・・言うようになりましたね」

 

「あんたのお蔭よ。お礼に踊ってあげてもよろしくてよ」

 

「それは光栄。では、まず一曲」

 

 流石にこういったダンスは経験が浅すぎたので、ガンダールヴの力をフルに使い、愛しの我が主が満足いくまで踊るのだった。


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