続きマダー?って言われたので書きました。
今回短めです。
「ふぅ……」
疲れと共にため息を一つ。今日は冬野菜の為の温室のメンテナンスを行っているが、純度の高いガラスを成型出来るのが俺しか居ないので忙しいのだ。
せめて石英の鉱脈でもあれば……と思うものの、俺の領地にそんなものは無い。ワインもまだ軌道に乗っていないのであまり他所に借りを作るのも憚られる。
「英雄も平時はただの人、か」
「旦那様……」
弱気な俺を執事のセバスに聞きとがめたのか、独り言に口をはさんでくる。
「どうした? セバス」
「旦那様は領地の経営に対しても非常に真摯的でございます。ですがここ最近は少々根を詰め過ぎかと」
「そういうものか」
「そういうものでございます」
確かに結果がすぐ出るものでもないのに焦り過ぎたきらいはあるかな?
「分かった。ありがとうセバス。キリの良い所でいったん切り上げるよ」
「かしこまりました。湯浴みの準備を致します」
「ああ、頼む」
セバスに申しつけ、俺は再び錬金に取り掛かった。
ぼけーっと湯舟で半身浴をしながら取り留めも無いことを考える。ぬるま湯に漬かりながら考え事を右から左に流すのは思考を整理する時間として重宝している。
領地の事、ルイズ達の事、情勢の事、実家の事……浮かんでは消え、思考が逸れてはどうでも良いことを考え始める。その中から一つ天啓とも言うべきものが沸いてきた。
そうだ、スキルニルで俺自身を増やそう。
スキルニルは血液の所有者の経験などをコピーする性質があるのだが、従来品はあくまで戦士などを想定して作られているため魔法と言った特別な力は使えない。だが、今回執務に携わるだけならこれで十分とも言える。
それにガラス製造も本来は人力でも十分に行えるもの。商人を呼び込んでスキルニルにガラス製造を師事させればいい。だが、質の良いガラスは機密を保持しておかないと他所の領地に技術を盗まれる可能性もあるからな。徒弟一つ取っても面倒な事柄が控えているか。
まあ、思考のシミュレートならその辺もスキルニルに任せればいいか。確かジョゼフのおっさんから「婿殿ー! 戦争しよう!」と野球に誘う中島ばりにスキルニルを送り付けられたんだった。兵力としては十分すぎるほどだが、これをうまく使えないものか。あれか。今回のウォーゲームで勝てれば余った分好きに使えるよう交渉してみよう。
おっさん自身も領地経営なんて片手間でやってるから最近なんか加速しながら抜刀術仕掛けてくるんだよな。剣術齧り始めたからって調子に乗って飛天御剣スタイルなんて教えなきゃよかった。
となるとレギュレーションを整えるためにおっさんに一筆したためないとダメか。風呂から出たら忘れないうちにやっておこう。
結局今日は楽するために今さらに苦労するを地で行ってしまった。ミカンでも抱っこして寝よう。疲れた。
それから数日。
「旦那様、お客様がお見えになられています」
「誰だ?」
「ジョゼフ陛下からお手紙を預かったとガリア騎士団の方が」
「分かった。通せ」
おっさんに送った手紙はガリアから風竜に乗った騎士が速達で返事が来た。どれだけ戦争したいんだあのおっさん……。
しばらく執務室で待っていると胸当てや鉄靴などで身を固めた騎士が入ってくる。この世界の騎士にしてはこれでも重装備な方である。
「失礼いたします! ご機嫌麗しゅう閣下!」
「ああ、ご苦労。楽にしてくれ。疲れたろう」
「はい、いいえ! これしきの事で疲れるほどやわな鍛え方をしておりません!」
20台前半と思われる騎士は鯱張って敬礼した。最近軍部の連中の対応がこんなんばかりなんだよな。何と言うか烈風ばりの軍神扱いされてるので少々こちらとしても扱いに困る。
「結構、では要件を聞こうか」
「はっ! ジョゼフ一世陛下からお手紙を預かっております!」
そう声を張り上げ胸当ての内側から手紙を出し、それをセバスが受け取って机まで持ってきた。
「ありがとう。冷たい風に当たって疲れただろう。君の相棒にも十分な食事を与えるから今日一日休んで行ってくれ」
「はっ! 恐縮です!」
「ではセバス、案内を頼む」
「かしこまりました。こちらになります」
後の事はセバスに任せ、おっさんからの手紙をペーパーナイフで開け、読むことにする。
親愛なる婿殿へ
ますます冷え込む寒さの中、壮健であられるだろうか?
俺は最近日課に運動を取り入れたのだがこれが存外楽しくてな。よく動き、よく食べ、よく寝る……は少し語弊があるか。最近ミューズが気絶するまで眠れなんだわ!
ただ、そんな日々でも毎日ともなると少々飽きが来るものだ。以前提案したスキルニルを使ったチェス……戦争遊戯に婿殿が乗ってくれて助かったぞ。
今回は細かい取り決めをしたためた。草案とまとめたのでそちらからも要望があったらそこな騎士にでも返事を持たせてくれ。10日以内に戻ってこれないようだったら一族を縛り首にしてやるつもりだ。
こういったものは熟考したほうが面白いからな。返事はゆっくりで良いぞ!
ジョゼフ一世
読み終えた俺はため息を一つ。取り消し線をしている箇所は本気にしたほうがいいのか?強行軍なら日帰りできる辺り信ぴょう性が出てくるのが困る。試供品のグラッパでも出してやろうと思ったが二日酔いになられると可愛そうだし薄めたワインで我慢してもらおう。竜にも牛を出させるか。
領民の食卓に牛肉を出す日々が遠のいていく事に少々の頭痛を覚えながら、今日の予定を全てキャンセルしてレギュレーションをまとめるために呼び鈴を鳴らす俺であった。
かつて、メイジすら恐れると謳われた戦士たち。
故国を守る誇りを厚い装甲に身を包んだメイジ殺しの、ここは墓場。
無数の暴君たちの、ギラつく欲望に晒されてコロッセオに引き出されるスキルニルの戦士たち。
魂無き人形たちが、ただ己の主人の為に激突する。
次回「バトリング」。
兜の中の相貌から、サイトに熱い視線が突き刺さる。