転生先が平賀さんな件   作:スティレット

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 前話の長さのせいで、今回の執筆が若干物足りなく感じました。私はMではないんですが。


妖精さんとご対面

 7万の軍勢を壊滅させ、敗走する残敵がいなくなった事を確認した後、残っている損傷の酷い竜牙兵をニコイチで修復していった。おかげで機銃とクロスボウを抱えていた竜牙兵以外の数が5体となってしまったが、少ないほうが鎧の修復も楽なのでこれでいい。

 

 クロースアーマーの損傷部分に死体から剥いだ適当な布を当て、錬金を唱える。ついでなので糸を鋼糸にし、チェインメイルにする。個人的には布を癒着させるイメージが沸き難いのでこちらの方が楽なのだ。

 

 鎧も錬金の際厚めに、硬く作ったのが良かったのか致命的な損傷は無い。脱落したのは集中的に狙われた奴らだ。

 

 その錆と返り血が乾き、どす黒くなっている鎧の表面を真鍮の鍍金として錬金し、防錆効果を求める。内側もクロースアーマーが存分に血を吸っていたのでこれで錆びないだろう。

 

 再びフルフェイスで完全に骨が見えなくなった竜牙兵に、街に残っている水の秘薬などの物資を中心に集めさせた。武器はそこら辺に転がっているのを錬金しなおせばいい。

 

 一応竜牙兵と武器、俺自身を浄化の魔術で呪詛を取り除き、そのままシティオブサウスゴータに残るとレコン・キスタの残党が面倒なので森へ隠れることにした。

 

 

 

 クロースアーマーが無事な竜牙兵を斥候とし、布をチェインメイルに錬金した竜牙兵は比較するとガチャガチャと音がうるさいので物資の輸送と後方の警戒を行わせた。物資持ち以外は広く散開し網を張らせている。

 

 しばらく進むと開けた場所に出、建物が見えて来た。

 

「誰ですか?」

 

 脳内レーダーには人影が映っていたが、村人かもしれないのでそのまま接近させた。物資持ちの竜牙兵は警戒させないため武器を持っていない。

 

「ああ、すまない・・・・・・」

 

 そこには妖精が居た。帽子から覗くのは癖が無い、輝き長く伸ばした金髪に、すらりと伸びた手足、気品を感じさせつつも無垢なたたずまい。顔の造詣はまさしく妖精と言うにふさわしい。

 

「重ねてすまない。君があまりにも綺麗だったから少し見蕩れていた。誰か年長の人を呼んで来てくれないかな?対価を払う。しばらくここの村に滞在させて欲しい。一応俺の後ろに使い魔が居るけど、こいつらはゴーレムみたいなものだから実質人は俺だけなんだ」

 

「テファ、誰か来たのかい?」

 

 聞き覚えのある声が届いた。

 

「おや、貴女は」

 

「げ」

 

 げ、とは何だ。雇い主に対して失礼な。

 

 

 

「はあ、森の外がきな臭いから様子を探っていたら、まさかあんたが大暴れしてたとはね」

 

「仕方が無いだろう。数が多すぎてルイズでは対処しきれなかったんだ。だったら守りながら戦うより使い魔を消耗品と割り切って戦ったほうが楽だったんだ」

 

 戦争に出てから連絡を取ってなかったマチルダと再会した。貯まっている情報や証拠を後でまとめて吐き出してもらおう。

 

「それより、マチルダでいいか?」

 

「ああ、それで通しておくれ」

 

「貴女一人ではあの娘がどうにかこの村を守っているとは言え、万が一を考えると心配だろう。今回滞在させてくれる対価にこの竜牙兵というガーゴイルみたいな奴をやろう。滞在費に4体、依頼した分で追加の5体でどうだ?」

 

「確かにそんなクソ重いフルプレート着て動きが鈍らないガーゴイルなんて武器を持たせたら十分な戦力になるだろうね」

 

「この鎧は偽装だ。鎧自体は本物だが、中身の方が耐久力が高い。ただ、そのままだと見た目に問題があってこういう格好をさせている」

 

「へえ、どんなだい?」

 

「顔を見せてやれ」

 

 そう言って竜牙兵の1体のバシネットを開かせ、骸骨が露出する。

 

「こりゃ確かに問題だね。特に村のがきんちょ共が怖がる」

 

「そこら辺は事前に説明するとかで対処するしかないな。竜の牙で出来てるからドラゴンのブレス以上の火力じゃないとダメージは無いし、ライン程度なら2対1で勝てるだろう。ライン以上の土メイジのゴーレムだと単独では対処が難しい。ただ、頑丈だから単独でも時間稼ぎは可能だ。単純な命令なら設定した主の言うことを聞くが、とっさに回避させるとかは出来ないけど」

 

 ポケ○ンバトルみたいに単体で運用するなら出来なくも無いが。

 

「なら、試しに私のゴーレムを相手させて試させてもらうよ。壊した分は買い取るから、まずは1体貰おうか」

 

「壊したくないならいつものでかい奴じゃなくて人間くらいの大きさがいいんじゃないか?」

 

 その後、ゴーレムと竜牙兵の泥臭い殴り合いが行われ、無事交渉が成立した。

 

 

 

 さて、拠点を確保したが、味方は撤退、敵も大きな出血により再編成を余儀なくしているだろう。ガリアが美味しいところを持っていくだろうし。幸いアンドバリの指輪は奪還したし、ベッドで眠れるので疲労の回復も出来る。あれだけ頑張ったんだ。のんびり村の手伝いをしつつ、使いが来るのを待とう。臨死体験もしてないからサモン・サーヴァントでゲートが開くということも無い。

 

 方針が決まったので、ちまちまと銃弾のローディング作業、20ミリを見て思いついた新しい武器の製造、まき割りや荷運びなどの力仕事、子供達の為に錬金で騎士人形製作や針を暗器と認識してのぬいぐるみ作りで好感度を稼いでいた。

 

「こら、ジム、今はご飯の時間でしょ?」

 

「テファ姉ちゃんママみたいー」

 

 ティファニアの胸の谷間でフガフガやっているのはジム、10歳だ。そろそろ色に目覚める年頃と言ったところかな。こういうことをしてはマチルダに拳骨をもらい、俺にテファを奪われまいと敵視されている。他の子は騎士人形やぬいぐるみにすぐに夢中になったが、こいつだけは意地を張って受け取りを拒否している。周りが自慢するのでさらに意固地になり、テファにまとわりつくようになった。

 

「ジム、またマチルダさんに怒られるぞ」

 

「お前の言うことなんかしるもんか!」

 

 この調子である。

 

「はあ、残念だ。新しい騎士人形が出来たのに。まだ持ってない子から優先的にあげようと思ってたけど、その様子だといらないようだな」

 

「い、いるもんか!」

 

「本当に残念だ。今度の騎士人形は剣だけじゃなくて槍とか銃を持ち変えられるよう、別々に作って手に磁石まで仕込んだんだけど、それだったら一番最初に貰った子に戻ってまた順番にあげるしかないな」

 

「・・・・・・」

 

 ふふ、日々進化し続ける俺の玩具に懊悩するがいい。

 

「最初にあげたのは誰だったかなー?」

 

「い、いる!テファ姉ちゃんに迷惑かけないから!」

 

「・・・・・・本当に?」

 

「本当だよ!だから頂戴!」

 

「なら男の約束だ。他の子を困らせない。もちろんテファやマチルダさんもだ」

 

「分かった!」

 

 ちょろいぜ。

 

 

 

 撤退戦から3週間が過ぎた頃、俺は木を伐採して乾かし、薪を作っていた。

 

「サイト、お疲れ様。そろそろご飯の時間よ」

 

 ティファニアが俺を呼びに来た。

 

「ああ、分かった。ありがとう。これで最後にするよ」

 

 腕力を鍛えるため身体強化を切り、純粋な力のみで斧を振るっていた。こういうのも可能な限り効率的な姿勢を考えながらやるため、木の年輪などを見てどこが一番脆いか、どの程度の力が一番楽かを探る。これも鍛錬の一つだ。

 

「こりゃあいつらから逃げてきて儲けもんだな。高く売れる別嬪がいやがる」

 

 無粋な声がした。竜牙兵から逃げ切ってここに来たらしいならずものが3人居る。レーダーに意識を向けてなかった。久しぶりの油断だ。

 

「それはこの娘のことか?だとしたらお前らは人攫いか?」

 

「ああ、そうさ。傭兵をしてたんだが、こないだ楽な追撃戦と聞いていて蓋を開けたらとんでもない化け物共と来たもんだ。本業に戻ったのさ」

 

「その化け物が徘徊してたはずだが、どうしてお前らみたいなのがここに居る?」

 

「こっちも2人やられたが、それを囮にしたのさ。それでもそこの別嬪で分け前が増えた分、危ねえ橋を渡ってもおつりが来らあ」

 

「ちなみに、その化け物共を率いてたのはどんな奴だか知っているのか?」

 

「そりゃここいらじゃ珍しい黒髪に、大小の剣を持った・・・・・・」

 

「ようやく気付いたか。まあ、今持っているのは斧なんだがな」

 

「ええい、動くんじゃねえ!動いたらそこの娘のど頭に矢をぶち込むぞ!」

 

 俺はもう片方の手に地下水を抜き、テファの盾になるように射線上へと割り込んだ。それに反応して矢が飛来するも、発射のタイミングを見切っていたので難なく地下水で叩き落とす。

 

 テファにあまりショッキングな光景は見せたくないし、見せたら多分マチルダに怒られるだろうからエアハンマーで1人を吹き飛ばし、じりじりと牽制する。

 

「ナウシド・イサ・エイワース・・・・・・」

 

 これは、他の四系統とは違った独特のリズム。ガンダールヴの鼓舞効果は無いが、その詠唱に何かが反応する。

 

「ハガラズ・ユル・ベオグ・・・・・・」

 

 確かティファニアは王族の血を引きし者。

 

「ニード・イス・アルジーズ・・・・・・」

 

 これは虚無の旋律だ。

 

「ベルカナ・マン・ラグー・・・・・・」

 

 詠唱を終えたティファニアが杖を振ったらしい。ならずもの共は突然呆けたような顔になった。

 

「あれ?俺達は何を」

 

「あなた達はこの森へ偵察に来たのよ。あっちに隊が居るから、そこから戻れるわ」

 

「あ、ああ、ありがとよ・・・・・・」

 

 残った2人はエアハンマーで気絶した奴を背負って、姿を消した。完全に姿が見えなくなったところへ、マスター権が残っている竜牙兵に悲鳴を上げさせずに始末するよう命令を飛ばした。後は当初の命令通り埋めて森の養分にしてくれるだろう。遠隔で命令出来るのはマチルダと俺。テファ達は口頭で命令し、竜牙兵たちにはそれに従うよう命じてある。権利の大きい順に俺、マチルダ、テファ、子供達だ。

 

「テファ、その魔法は?」

 

「私が子供の頃、オルゴールから聴こえてきたの」

 

 今から4年位前まで、テファはエルフの母親と2人で暮らしていたらしい。外に出れない生活を送っていたもののたまに顔を見せに来る父もとてもやさしく、不満は無かったとか。だが、突如屋敷に兵が押し寄せ、無抵抗な母親に兵は槍を突き立てた。テファも危うく手にかかるところだったが、オルゴールから聴こえてきた旋律に乗った魔法でその場を乗り切ったと言う。それからはマチルダの仕送りの元、ここウエストウッド村で孤児院を経営し、静かに暮らしているという。

 

「テファ!無事かい!?」

 

 騒ぎを聞きつけたマチルダがすっ飛んできた。

 

「すまない、マチルダ。賊が味方を囮にしてここまで来た。今の竜牙兵は居場所がばれるからむしろ威嚇用として、それに加えて偵察用に3体新しく作っておく。少ない分高性能にしておくから、後で粘土で擬装用の肉付けを頼む。それと出来れば要らない服と靴を履かせてやってくれ」

 

「むしろそこまでの人でなしだからここまで来れたんだろうさ。申し出はありがたく受けるよ。後は行商の方もやっちまわないよう命令しとかないとね」

 

「そうだ、ご飯。サイト、姉さん、ご飯の時間よ?」

 

 テファはちょっと天然さんだなぁ。




 あれだけ長い詠唱を律儀に待ってくれた、これまで村に来た連中がいい人すぎる。

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