転生先が平賀さんな件   作:スティレット

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 前回で色々とすっきりした。

 最近適度に休みながら執筆することを覚えました。


ヴァリエール三姉妹

 魅惑の妖精亭で働き出してさらに数日。なにやら騒がしかったが、街では大規模なネズミ捕りを行っていたようだ。しかし素手で相手を切り裂くのは燃費が悪い。次はもっと楽な方法にしよう。秘孔も分からんから呪いで代用してたし。

 

 一度ルイズとお芝居を見に行ったが、とんだ大根役者しかいなかったのでむしろ脳内での突っ込みを肴に楽しんでいた。しかし一方ルイズもこういったものが新鮮だったらしく、とても楽しんでいた。俺の愉しみを良い方向に勘違いしてくれたので、お互い良いデートだった。

 

 しかし学院に居た時に記憶のすり合わせを行っていたのだが、原作では傷心のアンリエッタが自らを囮にしてリッシュモンとかいう大物貴族をアニエス姐さんに捕らえさせたり、また、そのせいで原作才人君は場末の宿でアンリエッタとキスしたり、ルイズが場をごまかすためにアニエスにキスされたりと、やたらめんどくさいことが起こってたはず。原作との乖離でその件については顔を合わせなかったが、まあいい。

 

 そして任務が完了したので後日手紙では無くまとまった報告に行くと、何故かアニエス姐さんが護衛してた。何故だ?

 

 どうせなんでルイズの報告が終わってから聞いてみた。

 

「アンリエッタ王女殿下。大事なお話があるのでサイレントをかけてもらってもよろしいでしょうか?」

 

 姐さんはルイズと久々の語らいと言うことで扉の向こうだ。

 

「ええ、構いませんわ。サイトさん」

 

 ルイズともども惚気話に付き合い続けてるせいか、ウェールズとも仲が良いせいか、最近馴れ馴れしいんだよな。

 

 ともかく、こんな場所で地下水を抜くわけには行かないので代わりにかけてもらった。

 

「あの護衛ですが、メイジではありませんね?新しく部隊でも設立したのですか?」

 

「そうです。彼女達は「銃士隊」。アニエスを除く平民の女性のみで構成されたわたくしの私兵ですわ」

 

「平民?」

 

「ええ、ウェールズさまやマザリーニと相談いたしましたの。ここ最近の間諜の多さ、それも後に分かったのがお金の亡者に多いのだと。それは大抵貴族に当てはまりますわ。なのでわたくしの身の回りを世話出来、なおかつ裏切る心配が少なく、ウェールズさま曰く「反乱しても鎮圧出来る程度の戦力」、つまり敵には相討ちや時間稼ぎが出来る程度の部隊が好ましい、と。

 

 ウェールズとマザリーニ枢機卿の入れ知恵か。だがやはりサイレントをかけていてもらってよかった。心証悪いってレベルじゃねーぞ。

 

「ふむ、お話は解りました。大胆ですが、良い手段です」

 

「サイトさんは解ってくださいますか。頭の固い方々はどうも平民と言うだけで王宮に入れたくないみたいでして、アニエスにシュヴァリエの称号を与えるときにも揉めましたの」

 

 そりゃそうだろうな。あいつ等プライドの塊だもん。

 

「確かに私も平民の力は侮れないと思いますわ、姫様。平民が居なくてはまともな料理すら出来ません」

 

 ジェシカにしごかれたルイズの言葉は実感が篭っている。

 

「ああ、そうでしたわ。色々と話す時期が合いませんでしたが、わたくし、決めました。レコン・キスタを打倒し、アルビオンの地を取り戻した暁には、ウェールズさまと共にアルビオン王家を支えていこうと。だからルイズ、そしてサイトさん。あなた方には危険ですが、戦果をあげてもらいます。以前のタルブでの活躍でルイズの虚無はトリステイン王家とアルビオン王家が全力で保障する。と、ウェールズさまとわたくしとマザリーニでロマリアに以前から打診し、ようやく色よい返事を貰いました。サイトさんのガンダールヴのルーン、そして、レコン・キスタ首魁オリヴァー・クロムウェルが使う虚無を特定したのも大きかったみたいですわね」

 

 相変わらずこのあーぱー殿下は「ああ、そうでした」じゃねーよ・・・・・・。

 

「だからルイズ、今回の戦争で華々しくサイトさんと凱旋を飾れば、わたくしは心置きなく王家をあなたに任せることが出来ます。周りもそれを認めるでしょう。よって、現王女、アンリエッタ・ド・トリステインが命じます。この度の戦争に参加し、王にふさわしい覇道を歩みなさい」

 

「御意」

 

 ルイズは臣下の礼を取ったので、俺もそれに従った。俺は現王家に忠誠を誓ったわけじゃないからこういうことあんまりしたくないんだけど。

 

 

 

 王宮から学院に帰ってタバサの実家へおっかさんの途中経過を見に行き、少し良くなりつつあったので発狂してるように見せるよう解析して無事な容量に仮想人格埋め込んだり、キュルケとの攻防が激しくなり、もはやルイズをからかうためではなく、完全に俺を落とすつもりでアタックしてきたり、コルベール先生と新しい発明のため、サスペンションと車輪に金属スポークを使った新型の馬車を作ったり(タイヤには白い樹液を出すトレントの噂を聞いて狩りに行った)、マチルダから現ロングビル経由でスキルニルを受け取ったり、それでタバサの家の現状を知っているキュルケにタイミングを見てスキルニルで影武者を立て、タバサのおっかさんとペルスランを匿ってもらえるよう話を付けたりと、それなりに忙しい日々を送っていた。

 

 が、しかし、ルイズへの客が来て他の予定は一旦キャンセルすることになったのだ。

 

「あなたがワルド子爵の言っていたルイズの使い魔でメイジ殺しね?」

 

 ややウェーブのかかっている金髪、歳の位は20後半かな。きつめの美人だが、「出来る女」と言う雰囲気がある。そう、ルイズの姉、エレオノールである。

 

「はい、初めまして。我が主、ルイズ・フランソワーズ様の使い魔をしております、サイト・ヒラガと申します。異国の地にて学生をしておりました。よって身分の無いトリステインにおいては平民となっております、ついでに、こちらはデルフリンガーと地下水と申します」

 

「よう、姉ちゃん」

 

「よろしくな、貴族様」

 

 欺瞞は無い。だが、ここハルケギニアにおいて、学生とは一般的に貴族しかなれない。たまに例外が居るかもしれないが、そういうのは私塾とかに通うだろう。タバサなんか身分詐称してるとはいえ王族だし。

 

「そう、色々と言いたいことがあるけど、ここでは漏らせない用件だとは解っているわね?ヴァリエール領まで来てもらうわよ」

 

 二振りの魔剣には文句言われると思ったんだが、まあいい。そう言ってルイズとの挨拶もそこそこに、洗濯途中のシエスタを付き人に捕まえて学院から出立する準備を迫られた。まだあちらにとって身分は定かではないが、プライド的に使い魔を同乗させたくなかったのか俺とシエスタは一回り小さめの馬車に乗せられることとなった。その際ルイズとシエスタが「この間独占」とか「せめて馬車の中くらいは二人きり」だとか聞こえたが、喧嘩してるようには見えなかったので放置した。喧嘩してても話を振られて答えを返すことを想定すると結局放置なんだが。

 

 

 

「才人さん、なんかわくわくしますね!」

 

 シエスタが俺の腕を抱きかかえ、楽しそうに言った。

 

「そうだね。ヴァリエール領ってどんなところだろうな。五指に入る大貴族らしいから、下手したらトリスタニアとは違った意味ですごいかもしれないよ」

 

「それも気になるんですけど、才人さん、二人っきりですよ。この間はお仕事でスカロンおじさんとジェシカのところに行ってて寂しかったです」

 

 そう言いながらシエスタはさらに俺の腕に胸を押し付ける。

 

「そうか、寂しかったか。ごめんな」

 

 スキンシップを求めてくるので軽く頬に唇を落とす。

 

「才人さん、分かっててやってるでしょう?そっちじゃないです」

 

「ごめんごめん、ちょっと魔法を使わせてくれ」

 

 一度腰から地下水を抜き、サイレントをかける。

 

「これでいい。御者もゴーレムみたいだし、ここからは遠慮は無しだ」

 

「きゃあ」

 

 馬車に揺られている間、支障の無い範囲でシエスタを可愛がった。

 

 

 

 馬車に揺られながら2日間、休憩時間に物は試しとエレオノールに色々聞いてみた。

 

 最初は身分も定かではないと言う事で警戒していたようだったが、水魔法などに対する精神防壁をこちらの魔法でも使えるようまとめた概要、さわりの物理学から挙句の果てに婚約者と破談になった愚痴へと転々し、それで大分ほぐれてきたようだ。

 

「バーガンディ伯爵がなによ!婚約がなによ!こんなにも才能溢れる私に限界ですって?本当に良い度胸よ!」

 

「確かにここまでの才女である貴女が釣り合わないのもあるでしょう。それも男の方が釣り合いが取れてないからだと思いますよ」

 

「あなたもそう思うのかしら?でも、そうなると婚約できる男性の条件って限られてくるのよね・・・・・・」

 

「エレオノール様、男と言うものは女性相手に格好付けたがるものです。そして貴女はそこら辺の男と比べるまでも無く才能溢れる。だから気後れしてる部分もあるのでしょう。それに、同世代の男はプライドが邪魔してバーガンディ卿のようになったと推測されます。大人の女性として年下を手ほどきしてやる気概で探すのがよろしいかと存じます。年下なら多少のミスもしょうがないである程度目を瞑れるし、欠点は修正できるでしょう?」

 

「あなた良いこと言うわね!それもそうね。私に男性が馴染まないのなら、私に馴染む男性を育てればいいのだわ」

 

「ただ、歳の離れた弟妹を持つとついつい小言を挟んでしまう気持ちは分かるのですが、そう言った男性と付き合うときは相手の欠点をむしろいい方向へと見てみるのもよろしいかと。人は欠点はすぐ見えますが、美点は努力しないと見つからない場合もございますし」

 

「分かったわ。覚えておいてあげる。しかし異国の地で学生をしていたと言うのも知識の量からして納得できるわ。最初から貴族と言っておけば雑な扱いをされなかったでしょうに」

 

「いいのですよ。我が主を守るために余計な身分は必要ないと思っただけです。しがらみが増えるので。それに私は王家を規範として見るも、異邦人なので忠誠は誓えませんから。多少無礼な態度を取られても構いません。今はこの娘も居ますし。おいで、シエスタ」

 

 そう言ってシエスタを抱き寄せる。ルイズは2日程軽くしか俺と会話してないせいかちょっと不満顔だ。そのつねられたほっぺに治癒の魔術かけてやったんだから今くらいは我慢しとけ。

 

「それならばそれで構わないわ。ルイズの使い魔として今後とも立ててあげてちょうだい」

 

「はい、かしこまりました」

 

 ってな感じ。まあ、打ち解けたと考えてもいいね。

 

 そしてさらに揺られていると、馬車が止まったのでシエスタはそこから出て、とととっとルイズ達の馬車へと駆け寄り扉を開いた。俺は並んで頭を下げる。

 

 そうしてしばらくすると、ドドドドドっと地響きを響かせながら領民の集団が馬車へ寄ってきた。突き飛ばされそうになったのでシエスタを抱えて退避する。

 

「エレオノール様!ルイズ様!」

 

 流石お姫様って感じだよな。

 

 そうして距離をとって見ていると、領民が頭を下げてきた。

 

「もうしわけねえ、エレオノール様たちの従者を突き飛ばしそうになっちまっただ」

 

 他にも、「剣をお持ちします」とか「お疲れでしょう?」とかいたわる声が。デルフと地下水にしゃべらせて、「俺達は相棒にくっついてる方がいいからな」「同じく」と無難な回答をしてくれた。地下水なんか特に危ないし。

 

 途中、情報の伝達が遅い領民が「確かエレオノール様はご婚約なさっただか?」とか言ってたけど、前回休憩を挟んだときに散々愚痴を聞いて改善点を挙げておいたので爆発はしなかった。ルイズも触らぬ神に祟りなしって顔してた。

 

 ルイズ達が領民に取り囲まれている間、新しくワゴンタイプのさらに大きな馬車が来た。

 

「まあ、珍しいものを見つけたと思ったら、エレオノール姉さまだわ!帰っていらしたの?」

 

 こう、ルイズを色々と成長させてふんわりさせた感じの女性が馬車から出てきた。

 

「カトレア・・・・・・」

 

 ああ、うん、そうそう。ヴァリエール三姉妹の身体の弱いほうだよ。なんか体内の小源(オド)が停滞してすごい溜まっている。変な流れだ。

 

「ちいねえさま!」

 

 領民をかき分けてルイズも出てきた。こいつは下の姉が大好きだからな。

 

「ルイズ!わたしの小さなルイズじゃない!」

 

 ルイズとカトレアは手を取り合ってきゃっきゃと喜んでいる。カトレアは落ち着いたお姉さんって感じだったけど、そうしてると幼く見える。

 

「あら?まあ。まあまあ、まあ」

 

 俺の方を見たカトレアはあらあらまあまあと言いながらまじまじと見つめてきた。

 

「あなたルイズの恋人ね?」

 

「そう思っていただけると光栄です。私の名前はサイト・ヒラガ。ルイズ様の使い魔です」

 

 エレオノールも居るし、現段階でいちいちばらしても面倒なだけだ。

 

「そうだったの。わたしはルイズの姉のカトレアよ。よろしくね、サイト君?」

 

 特段気にしてない様子。こういうのでいいんだよ。

 

「じゃあ、せっかく姉妹そろったのだし、皆で一緒におうちへ帰りましょう」

 

 カトレアの鶴の一声で俺とシエスタも一緒の馬車に乗ることとなった。

 

 

 

 カトレアの馬車の内部は一言で言うと動物園だ。

 

 前の席は虎が寝そべり、俺の隣に熊が座っている。天井から大蛇がぶらさがっていて、シエスタが気絶した。犬猫ももちろん居る。

 

「壮観です。これだけの動物が喧嘩しないで同じ馬車に乗っている」

 

 シエスタを介抱しながら感想をこぼした。

 

「ちいねえさまは動物が大好きなのよ」

 

 大好きでここまでの多頭飼いは普通出来ない。食物連鎖や本能的に。

 

「そうだ、主、カトレア様はどこか悪いのですか?」

 

 エレオノールが居るので敬語に戻してある。

 

「・・・・・・分かるの?」

 

「はい、精神力に身体が耐え切れず、あちこちに無理が来てるようです。放出するにも口が耐え切れません。溜まって澱む手前と言ったところでしょうか」

 

「あなた、サイトとか言ったわね。ルイズとあれだけはしゃいでたカトレアを見て、何を根拠に言っているの?」

 

 エレオノールが怪訝な顔をする。

 

「忘れましたか。私がワルド卿の集めた証拠を揃えるためのマジックアイテムを作った人物ですよ。あれは他人でも私が感じているものを分かりやすくするためのものです」

 

 あのマジックアイテムを風石の塊であるアルビオンなんぞに持っていったらすごい反応を示すだろう。ガイガーカウンターみたいなものだ。俺もそんな感じのものを感じている。最近は悪意の無い正面からの不意打ちに弱いことに気がついたが。

 

「・・・・・・そう言えばそうだったわね。一度父さまと母さまに相談してみるから、出来るのならカトレアのことを診なさい」

 

「かしこまりました」

 

 大事な姉のことと言うだけあって、ルイズも期待と不安の目でこちらを見ている。見立てどおりだといいんだけど。事情をしらないカトレアだけがのほほんとしてた。




 ギーシュの部屋には試作品として、プラモサイズのゴーレムが並べてあります。順番に、球体ドール、ハングドマンマスブレードバージョン、アルトアイゼンです。それぞれ、簡易ゴーレムケンプファープッペ、魅惑の妖精亭の件で暴れた搭乗型ゴーレム、パーカッション式リボルバーを作る際のお遊びとして才人君の悪ふざけで作られました。ドーザー装備のフラジールもありましたが、ギーシュはそれを思い出したくないらしく粉砕されました。

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