『A』 STORY   作:クロカタ

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今週のBFTを見て……。

・アイバの苗字が被ってしまった……。
・やっぱり補給ユニットは必須(スパロボ脳)
・ガンダムジエンドが常軌を逸したゲテモノ機体だった(褒め言葉)

補給ユニット二機が、ミサキ戦のファンネル持ちだったサイサリスと同じに見えて少しきまずい気持ちになりました……。

今回で過去編は終わりです。



過去編~全国を前に~

 休日である土曜日に俺、ノリコ、コスモは、暮機坂高校ガンプラバトル部にて、大会で使うガンプラの改修を行っていた。

 俺のジンクスの方向性は見えてきたところなのだが、ノリコとコスモは何が納得いかないのか、しきりに首を捻る様に自身のガンプラと睨めっこしている。

 

 だが、今はこちらの方を優先せざるを得ない。ノリコとコスモに気を使わせることのないように、早く俺のジンクスを完全なものにする必要がある。

 アシムレイトとTRANS-AM―――二つのシステムを完全に制御した上で、切り札として確立させる。

 

 G-セルフのフォトンエネルギーが良いヒントになった。クリアパーツから放出された粒子を機体の表面を覆う事で、回避、防御、攻撃、全てをこなすことができるトリッキーな事をできる……はずだ。

 

 取りあえずこれまでで施した事は、右足だけに埋め込んだクリアパーツを左足と両腕に。そして粒子の排出口を関節の間に作り、『粒子の帯』を出す場所を設けた。一応の改修はこれぐらいにしておいて……。

 

「後は……この図通りに新しいランスを作るしかない、か」

 

 アドウやリョウヤには俺のランスが通用しなかった。いや、正確にはミサキにも通用したとは言えない。あれは力で押し込んだだけの結果に過ぎない。

 

 ―――其処で俺が作ったのは。新しく作り直したランス。

 いや、バックパックというべきか。メイジンが操作した数あるガンプラの内の一つ、エクシア・ダークマターを参考にして考えた、近接格闘専用バックパック『アドヴァンスドブースター』。

 機動力、姿勢制御、予備のランス、システムの補助、全ての役割を担うバックパック。これさえあれば、ナガレの時のように、手持ちの武装がほとんどなくなるという事態は起こらなくなるだろう。

 

 大会までには間に合うかどうかは分からないが、今から作ればギリギリ間に合うかもしれない。でもそうなると、今度はノリコやコスモに手が回らなくなってしまう。

 

 簡単に書いた設計図を睨めっこしながら葛藤していると、不意に俺の携帯が狭い部室の中で鳴り響く。驚いたようにこちらを見たコスモとノリコに謝罪しつつ携帯を見ると、そこには先日一緒にバトルをした少女の名前。

 

「……ついたか!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 先輩が誰かを迎えに外へ行ってしまった……。

 何やら私とコスモのガンプラを作るのを手伝ってくれるというが、正直言って申し訳ない。行き詰っている私達が、先輩に負担をかけてしまっているのだ。

 

「連れて来たぞ」

 

 先輩はすぐに帰ってきた。一人の女の人を連れて来て……。

 

「やっほー、久しぶりだね」

「チーム冥・Oの……キリハラ・ミサキさん……?」

 

 先輩と死闘を繰り広げた冥・Oを操作していたファイター、キリハラ・ミサキさん。そんな人が何で暮機坂高校に……?まさかこの人が私達のガンプラ作りを手伝ってくれるという―――。

 

「自己紹介は、一応しておくね。八極学園二年、キリハラ・ミサキ、今日は君達を手伝いに来たんだ」

「……とのことだ。ミサキ、助かる」

「いやいや、私もこの子たちのガンプラが気になってるからね。……あ、別に敵情視察とかじゃないよ?」

「そんな事しなくてもお前は十分強いだろ。そこのところは気にしてはいない」

 

 見たところそれなりに仲が良いようだ。先輩が信頼しているなら安心できる。それにあの冥・Oを作り上げたビルダー……すごく気になる。

 

「この子たちは私達に任せて、君は心置きなく作業に取り掛かると良い」

「あまり変な事吹き込むなよ?間を見て、見に行くからな?」

「変な事ってなにさ……」

 

 そんなやり取りを交わした後に、先輩はこちらへ向き直る。

 

「大会まで時間はない。だから俺の事は気にするな。いつも通りに思う存分、好きなように作るようにな」

 

 私たちの返事を聞き、満足したような表情を浮かべた先輩は、部室の端の方にある作業机の方に移動していった。思う存分好きなように、その言葉を反芻しながらミサキさんの方を向き、お辞儀する。

 

「よろしくお願いします!ミサキさん!」

「俺達の為に……ありがとうございます」

「ふふ、こちらこそよろしくね。さあ、まずは君たちのガンプラを見せてもらおうかな」

 

 部室に設置してある大きなテーブルに、私のザクとコスモのジムを置く。ミサキさんはそれを優しく手に取ると、目を細めながらガンプラを見回す。

 ……なんだか、すごい返答が怖い。

 

「うん、うん……ザクとジムとしては破格の性能を持っているね。でも、元になったロボットには及ばない」

「「!?」」

 

 この人、知ってる。ガンバスターの事を……そしてコスモが元にしたであろうロボットの事を。先輩は知らなかったが、ガンプラの事は私が知る誰よりも深く知っていた。でもこの人は、私の理想のガンプラの姿を知っている。

 それだけで結構違ってくる。

 

「レイ君は何も分からない状態で君たちのガンプラに改修案を提示していたようだけど……それについては文句はない。むしろスゴイと言いたい」

「でも、それは俺達が先輩に依存しているという事になる」

「そうだね、君達は努力していない訳じゃない。私とのバトルでは、君たちがあそこで介入しなければ、私が勝っていたかもしれない……」

 

 あれは紙一重の勝利だったと、大会の後に先輩は言っていたがまさしくそうだった。キリハラ・ミサキのファイターとしての能力は凄まじい、私のザクに攻撃が効かないと見るや、限りあるファンネルを惜しみなく使って私を落としに来た。

 ―――これから先の展開を考えて、耐久力に優れる私を行動不能にしようとしたのだ。少なくとも私よりは格段に強い。

 

「いえ、あそこで先輩が落ちていればミサキさんの勝ちでした」

「はは、それは分からないよ。ガンプラバトルは何が起こるか分からないからね……おっと、話が逸れたね、君達は自分だけの力でイデオンとガンバスターの力を引き出さなければならない。そのための改修案として、私はこれを提示しよう」

 

 ミサキさんが持参してきた大きめの手提げから1つの箱が出てくる。

 HGUCユニコーンガンダムデストロイモード、装甲の隙間から赤色の光を覗かせる白色のガンダム。

 

「君のジムにはサイコフレームが相性が良いだろう」

「……でも、サイコフレームは不安定じゃ……?」

「それを安定させるのが君さ。ガンプラバトルはガンプラの完成度とファイターの思いに依存するからね。ようは君次第って訳さ」

 

 確かにサイコフレームは良いかもしれない。でも先輩は絶対に提案しないような案だ、先輩は出来るか出来ないかで判断することが多い。安定性が高いからこそ安心して使えるが、その分私達は先輩に頼り切りになってしまう。

 ……そう言う意味では、ミサキさんの提案するサイコフレームの組み込みは、コスモにとっての自立を意味するものと言ってもいいかもしれない。

 

「NT-Dか……分かりました。あの……お金払います」 

「いいよいいよー、気にしなくても。君達のガンプラが見れて楽しいから」

 

 ニコニコと邪気のない笑みを浮かべたミサキさん。

 ……なんだかバトルしていた時とは違う。あの時は怖い感じだったけど、今はすごく親しみやすいお姉さんって感じだ……。

 

「本当にありがとうございますッ、これで俺も前に進めます!」

「ははは、そんな感謝されるとまんざらでもないね………さて、君にはもうちょっとアドバイスしたいことがあるけど、今は君だね」

 

 コスモにキットを渡したミサキさんは、今度はこっちに向く。コスモは深く一礼してからキットを持つと、私達のいる場所の近くでジムとキットを見比べて、改修の段取りを決め始めた。

 

「君のザクの両肩部にはGNドライブが組み込まれているね」

「ホーミングレーザーを操作するためにはGNドライブを入れるのが一番良いと言っていたので……」

「うん、両肩に組み込んだのは良い判断だね。そして腕部には粒子の変換率を補助するクリアパーツまで入れてる……そしてこれは……」

「胴体とは別の機構として作動するようにしています……だからこれは正確に言うとツインドライブではありません」

「……推進力と粒子操作にのみ役割を限定したって訳だね。良いアイディアだ」

「でも、肝心の電撃がでないんです」

「あー、そうか……」

 

 ガンバスターの代名詞と言われる技「スーパーイナズマキック」をする時に発する放電が、どうあっても再現できない。ハンブラビのウミヘビとか色々考えてみたものの、強力な電撃とは言い難い。

 

「それは簡単な事さ」

「……え?」

「MSは電気で動いているんだ。SEED系列はバッテリーさ、つまり……」

「意図的に機体に負荷をかけてスパークさせるって事ですか!?そんなんじゃ機体が持ちませんよ!!」

「あれ?そのために関節部に頑丈なラバーを入れてると思ってたんだけど……?君程頑丈なガンプラならある程度なら可能なんじゃないの………?」

「………そ、その手があったか――――!!」

 

 驚天動地とはまさにこの事だ。特に改良も要らなかった……いや、ある程度は必要だろうけど……。

 

 関節部のラバーでスパークが機体に広がらないようにすることができるし、何より今まで試したことよりも、圧倒的に強力な電撃を得ることができるはず。でも、それを実際に形にするにはまだまだ課題がある。

 でも、これからの課題が見えてきたのは、私はまだ前に進めるという事だ。

 

「……よし!」

「……ははは、じゃあ試しにやってみる?」

「はい!」

 

 ザクを持って部室の隣にあるバトルシステムへと足を運ぶ。

 いつものようにガンプラを置いてバトルシステムを起動させる。ステージは地上に設定し、仮想の敵として出てくるハイモックの数は0体で設定し、バトルを開始する。

 

「……あれ?」

 

 私のザクの他にもう一機、別のガンプラが居る。

 明るい灰色のガンプラ、エピオン……だよね?それが地上に降り立った私を見下ろしながら降下してくる。

 

『私も参加させて貰ったよ』

「ミサキさん!?そのガンプラ、ミサキさんのなんですか!?」

『ああ、そうさ。さあ、やって見せてくれ』

 

 ミサキさんに促され、右腕部にパワーを送り負荷を掛ける。右肩のGNドライブが凄まじい勢いで作動し始める。この段階はホーミングレーザーを撃つときと同じ負荷だろう。だがこれ以上強くなったらどうなる?

 さらに出力を上げ、限界値ギリギリまで右腕部の出力を上げる。

 

「こ、怖い……」

 

 まだ足りないのか。振動こそはすれど、いまだ変化のない右腕。下手すれば爆発する可能性もあるのだ、ダメージレベルCとはいえ、怖がるのは当然の事だろう。

 

『確実に出る筈だよ。爆発はしない、だから怖がらずに』

「……はい!女は度胸!!いっけぇぇぇ!!」

 

 思い切ってオーバーヒート寸前にまで出力を上げる。

 すると右腕から徐々に放電が始まった。稲光のように一瞬の儚い光だったが、電撃は電撃。ノリコはその場で喜ぶようにエピオンを見た。

 

「できました!」

『……熱を逃がす機構を作った方が良いかもしれないね。これじゃあ何回も使えない』

「そうですね……全国大会はダメージレベルA……いくら頑丈なザクでも何度も持ちません」

 

 バスターコレダ―を入れる予定だったから、一度腕と脚は作り直した方が良いかもしれない。少なくともある程度の構造は考える事が出来た。

 

「ありがとうございます!ミサキさん!!」

『いやあ、君に至っては相談すればレイ君が気付いただろうし……』

 

 照れたように頬を搔くミサキに精一杯の感謝を送る。これで先輩に余計な心配を掛けずガンプラ作りに励んでもらえる。もう県大会のような不甲斐ない姿を見せる訳にはいかない。

 私も、先輩やコスモと一緒に戦って勝つんだ。

 

「ミサキさん!!」

『ん?』

「バトル、お願いしてもよろしいでしょうかッ!!」

 

 先輩と同等以上の強さを持つミサキさんは恐らく全国クラスの実力がある筈。彼女とのバトルを通じて自分に何が足りないか、何を伸ばせばいいのかを見極めたい。

 

『ふふふ、いいよやろう。どんどん来なさい一年生』

 

 了解を得て私は前に飛び出す。大会まで残り数日、それまでにどれだけのものを学べるか、時間との勝負だ。

 

「行きます!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

~場所は変わり、佐賀県、鏑木学園高等部~

 

 

「……完成だ」

 

 一人の白髪の大柄な男が一息つくと同時に言葉を漏らした。

 彼の名はライドウ・センガ、チーム『大黒刃』のメンバーの一人である。年は17、高校二年生。なまじ高校生とは思えない外見をしている彼の前には、漆黒に彩られたガンダムタイプのガンプラが佇んでいた。

 

「完成したのかセンガ!!」

「ああ、後は県大会で使っていたこいつを持たせれば―――」

 

 同じチームのナガレが後ろから覗き込み、センガのガンプラを見て感心するように口笛を鳴らす。センガはナガレに構わず、机の端に置かれているソードカラミティガンダムから、ガンプラの大きさを優に超える大剣を取り外し、黒いガンダムの横に置く。

 

「ダイナミック・ゼネラル・ガーディアン・パワードレッド。名付けるとするならば、ダイゼンガー豪式、となるな」

「アストレイ・パワードレッドだけに豪式って訳か?」

 

 大きくせり上がった巨大な両腕、頭部のアンテナは甲冑のように巨大化、全体的に胴はスリムに見えるが、その代り脚が従来のレッドフレームよりも延長され、赤い脚甲が取り付けられているせいか強度も上がっている。アストレイレッドフレームを元にはしているが、腕の大きさに合わせて延長されて作られたからか、一般的なガンプラより若干大きくなっている。

 そして何より目立つのはその傍らに置かれている巨大な剣、それがさらに凄まじい力強さを感じさせた。

 

「相変わらずそれかよ」

「斬艦刀は俺のガンプラの魂の剣……そうやすやすと他のに乗り換えたりはせんさ」

「……見たところ、コイツ以外に武器は見当たらねぇが……」

「斬艦刀一刀で十分ッ!!」

「……か、はははははは!!とんだバカ野郎だぜ!!こいつはよぉ!!」

「お前もそのバカ野郎だろう、ナガレ」

「その通り!」

 

 ナガレのGマスターは遠距離攻撃がほぼ一つしかない、事実上の超近接格闘型のガンプラ。そしてセンガのダイゼンガー豪式に至っては、斬艦刀のみの超超超近接特化型のガンプラ。

 彼等のリーダーであるカナコの気苦労は底知れないもんだろう。

 

「ああ?そういえばカナコの奴はどこ行った?」

「近くの模型店に行くらしい。なにやら小規模の大会が行われているらしいから、暇潰しに参加してくると」

「暇潰しねぇ。ま、アイツなら心配いらねぇな」

「確かにな……ときにナガレ、ダイゼンガー豪式の練習相手を頼めないか?」

「お、いいぜ」

 

 チーム『大黒刃』。

 一人目は巨大な剣を繊細かつ豪快に操る漆黒の侍。

 二人目は野生と知性を兼ね備えた漆黒の闘士。

 三人目は―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『私の歌を聞いてェ――――!』

「ガンプラバトルの外でやってよ!!」

 

 私、アスハ・カナコはいつもおかしい人とガンプラバトルをします。今日は中途半端な変形をさせた赤い装飾が施された白いウイングガンダムで歌い始める子です。こちらの意識を混乱させる手だろうけど、すごく耳障りなだけだ。

 しかも何故に飛行機形態の状態で腕と脚だけを出す。隣接する建物の側面をホバー移動できるのは魅力的だけど、わざわざ私の目の前でやる必要はないと思う。

 というより、マクロスかよ。そして突然歌わなくなった瞬間に攻撃を始めた……。

 

『―――ッ!ええい!うろちょろと!!』

「その程度のマニューバで!」

 

 桜色に彩られたセイバーガンダムが高速で変形を解くと、同時に引き抜いたヴァジュラビームサーベルでウイングガンダムの翼の一部を両断する。バランスを保てなくなったのか、人型の形態に変形したウイングガンダムに、背部のビームキャノンを放つ。

 

『……くっ』

 

 シールドで防御したが、ビームはシールドごと突き破り左腕部を破壊。まだ戦意は残っているようでこちらにバスターライフルを放ってくるが、こちらもビームシールドを展開しながら突撃する。

 

『ただのシールドで私のキャノンは防げない!』

 

 シールドに激突したビームは難なく拡散され後方の建物に当たる。相手もただのシールドでない事が分かったのだろう。だがそれも遅い。

 

『ア、アルミューレ・リュミエールですって!?』

「貰った!」

 

 ビームシールドから放たれるアルミューレ・リュミエールをサーベルへと変容させて、そのまま無防備なウイングガンダムを一気に両断する。

 

『貴方にLoveハートォォォォ!』

「それが言いたかっただけだろ!?」

 

 思わずツッコんでしまったが、取りあえずは決勝戦が終わった。

 小規模の大会だったけど、結構楽しかった。……相手がMAを奇妙な形に変形させたり、飛行機か人型か分からない姿にさせなければ、もっと楽しかったかもしれないけど……。

 

「ま……今日はナガレもセンガも部室だし、私だけでのんびり大会参加者についてまとめようっと」

 

 一応リーダーなのでそれぐらいしないといけない。……というよりセンガとナガレがいると、逆に仕事が滞るので基本的に自分一人で行わなくてはならない。

 大会が終わっても尚賑わいを見せる模型店のガンプラ工作スペースに、大会への予備機である『セイバーガンダムツヴァイ』を置き、バックから有名な選手のデータをまとめたパソコンを取り出す。

 

「ガンプラ学園、グラナダ学園、我梅学園、天王寺学園……暮機坂高校……あれ?これってアンドウ・レイさんがいる高校だったよね?」

 

 見直して気付くが、あの人は茨城県代表のチームだった。あのナガレと互角の勝負を見せていたあたり相当な腕のファイターだ。

 

「うっへぁ……決勝戦の解説どうなってんのこれ……」

 

 店長に承諾を得てから店のネットを繋いで、彼らの県大会の決勝戦の映像とその解説を調べてみると、中々に面倒くさい事が書いてあった。

 

『今年の茨城県大会は前大会決勝校である青嵐学園、準決勝校奥部高校が、今年初出場の二校に準決勝で敗退という大番狂わせが起きました。決勝に上がったのは八極高校チーム『冥王』と暮機坂高校チーム『イデガンジン』。この異様な決勝戦に、多くの観客は戸惑いを見せていました』

 

 其処まで読んで下にずらすと両チームのガンプラの写真が張り付けられている。その写真を見て私は眼を疑った。

 レイさんのガンプラはいい。普通だ、多分普通のジンクスだ。もう一方のチームも普通のサイサリスだ。だが彼のチームメイトと相手のガンプラはどうだ?何故、ゼオライマーにイデオン、ガンバスターが居るのだろうか。

 

 スーパーロボット最強四天王に君臨する三機が満を持して参加しているぞ。

 佐賀県の県大会だって、決勝はコンボイカラーの百式が出ただけなのに……茨城県はどれだけの実力者たちの上に成り立っているんだ……?

 いや、待て落ち着こう。まだ先があるはずだ。ここから先は試合の精密な内容が漏れないように音声がない状態且つ、解説が簡略化されている。

 

 現場で見ていた観客達は大会中の音声は聞いてはいるが、運営委員会からの一応の処置らしい。だから基本的に動画内の会話は無音、バトルしている音声だけが聞こえる。

 

「…………」

 

 

 

 

 

 

 

 見た結果、何をしているのかが全く分からなかった。ビームコンフューズで空中の何かが爆発したのは分かるが、それの正体が分からない。

 ファンネル?爆発する粒子エネルギー?……クリアファンネルか?

 

「……いや、こんなことを考えてる場合じゃない」

 

 問題なのは、動画を見る限り凄まじい戦いを制したのがチーム『イデガンジン』という事だ。ナガレの話に出た、アンドウ・レイはガンプラ学園と互角に戦っていたというのは案外事実かもしれない。

 

 ならば当たった時、どうする?ぶっちゃけ自分にはあの堅牢なガンバスターを超える攻撃力はない。センガとナガレなら行けるだろうが、もしバトル中に分断されでもしたらサポート寄りの私は逃げるしかない。あの装甲を崩せる装備を取り付けてみるか?実体剣はこちらのパワーが足りないから無理。サーベルも恐らくイデオンソードで貫かれるから無理。なら打ち合う必要なく一気に勝負を付けられるサーベル?ビームナイフか?それならバッテリー駆動ではなく機体と直接つなげればラミネート装甲さえも溶解させられる威力を作れるはずだ。そうなるとやはりハイぺリオンのキットが必要になって来る。それは此処に売っているから大丈夫。後はアンドウ・レイさんを相手取った場合のバトルの予想だ。合宿時点ではジンクスⅣだった、恐らくあれはまだ改修途中、強化してくる可能性はあるだろうが、あのバトルロワイヤルの様相を見ると、大会にはトランザム駆動による超高速戦闘を必殺とする戦闘方法を用いてくるだろう。それに対峙する為にもこちらはよりMAに変形可能なガンプラを用いなければならない。それは今の機体の条件で事足りているので、クリアしているとする。問題は強化されるであろうジンクスⅣに私の武装が効くかどうかである。レイさんは近距離戦闘が得意なファイターだ、遠中距離タイプの私じゃ分が悪い。アルミューレ・リュミエールの防波結界を使えば近づけなくすることもできるだろうがそれまでだ。いずれは突破される。ならいっそドラグーンで近づけないようにするべき、ではないな。八極高校とのバトルで冥・Oが使っていた不可視の攻撃をファンネルと予測を立てるならば、レイさんはその攻撃が及ばないであろう超至近距離を保ち続けていた。そういえば合宿でも自分で「見えるファンネルは効かない」とか言っていたから生半可な無線兵器は効かないと見てもいいだろう。ジャスティスガンダムのようなフォトゥム00をバックパックとして扱うか?あれなら、乗っても良し背負っても良し……でも代わりに本体が手薄になるデメリットもあるから無理か。

 

「カナコ姉ちゃん、ねぇってば~」

「ふぇっはい!!」

 

 突然の声に驚きながら横に顔を向けると、男の子が私のガンプラを見て興味深々とばかりに目を輝かせていた。

 

「また、ボーっとしてたよ」

「あー、ごめんね。お姉ちゃんは集中すると周りが見えなくなっちゃうんだ……」

「別にいい!それより!ガンプラ見せて!!」

「いいよ、壊さないでね」

「うん!!」

 

 セイバーガンダムツヴァイを男の子に優しく渡しながらも、またやってしまったとばかりに額を抑える。……いい加減考えに没頭すると周りが見えなくなる癖を治さなくちゃ……。これのおかげでナガレとセンガの動きについて行けるのが嬉しいんだけど、そのせいでナガレにはからかわれるし散々だよ……。

 

「よく考えたら、レイさんもガンバスターとイデオンにはさまれてたんだよなぁ……」

 

 こっちはダイゼンガーにゲッターだよ。危険度はあっちの方が上なのに、このパイロットの温厚さでの敗北感。しかも予選とか見たらレイさんの相手イロモノばっかりだし……。

 もう嫌……誰かまともなバトルをさせてください……。

 

『カナコちゃーん、おーい、カナコちゃーん!』

「カナコ姉ちゃん、店長が呼んでる、って何で泣いてんの?」

「な、泣いてないやい!」

 

 目元を拭い、男の子から差し出された私のガンプラを仕舞い店長の居る場所に歩み寄る。何の用だろうか?

 

「店長、どうしたんですか?」

「いやぁ、ちょっとこの二人がこの店で一番強いファイターを紹介してくれって言うもんだからさ。ほらっ、君達、この子が我が佐賀県の代表チームのリーダー、アスハ・カナコちゃんだよ」

「ちょ、勝手に説明しないでよ!!」

 

 まだバトルするとは一言も言ってないのに!?でも一体誰にバトルを申し込まれたんだろう、店長の後ろを背伸びする形で覗いて、姿を確認する。

 

 一人は緑色の髪の男でもう一人は赤みが掛かった茶色い髪の男。どちらも私と同じ位の年だ。

 

「すっげぇ!やっぱり俺の勘は冴えてるぜ!!」

「黙れ、誰のせいでここに来たと思っている。お前に地図を渡したのがそもそもの間違いだった」

「う、うるせぇな!結果的にはいいだろうが、今度は佐賀県の代表の人とバトルできるんだぜ!」

 

 なんだかものすごく行き当たりばったりな人たちだった。どうしよう、すごく遠くから来ているっぽいからバトルくらいしてあげても良い気がする。若干の憐みの眼差しで二人を見ていた私に気付いたのか、赤みが掛かった茶髪の人がこちらへ低く一礼してくる。

 まともな対応に驚いた自分がいるのが悲しい。

 

「いきなり申し訳ない。千葉県から来たアイバ・キョウスケと言います」

「俺はマサキって言うんだ!」

「あ、どうも……アスハ・カナコといいます」

 

 とりあえず挨拶を済ませると、先程気になる言葉を聞いた。『今度』は佐賀県代表の人と、マサキくんは言った。つまり私よりも前に大会に出場する選手とバトルしているという事になる。

 すごく気になる。

 

「私よりも前に大会出場者とバトルしたんですか?」

「ええ、茨城県代表チームと県大会の準優勝のチームの二人のリーダーとバトルしました」

「かへぁ……ッ」

 

 変な声出た。これはいよいよ大会で戦う可能性が上がってきた。なんとなくだが、用心しておいた方がいいかもしれない。……まずは、茨城県代表チームのリーダー、レイさんと準優勝チームのリーダー、キリハラ・ミサキのバトルを経験した、この二人とバトルしてみよう。

 対策は今夜ゆっくり考える。

 

「アンドウ・レイさんでしょ?私も合宿で会ったよ」

「!……そうなのか!」

 

 

 

 

 

 

 この後、私は自分の運命を呪った。

 サイバスターとアルトアイゼンってどういうことだよぉ……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アスハ・カナコ。

 類まれぬ集中力を持つチーム要の刃。

 

 尚、変なファイターに恵まれている性質がある。




 方向音痴も健在です。

 前半はそれぞれのガンプラの強化。
 イデオンにサイコフレームは危ないと思ったのですが、自重しないと決めたのでやらせていただきました。……イデは発動しません。発動したらバトルが共倒れで終わっちゃいますから。
 そして、ジンクスⅣには新しくバックパックをつけました。
 プロローグまでには間に合わなかったので装備してはいませんが、三回戦あたりから装備させる予定です。

 後半は大黒刃のチームについて書きました。
 センガはアストレイ。
 ナガレはマスターガンダム。
 カナコはSEED系の機体でバトルします。


 そして今回出た再現機体は―――。

 コンボイカラーの百式(名前のみ)
 VF25カラーのウイングガンダム。 
 アストレイパワードレッドのダイゼンガー。

 百式は、以前コンボイと似ているのではないか?と感想蘭で指摘されたので、出させていただきました。


今回で過去編は終わりです。
次回からは全国編に突入です。


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