……さて、真面目に言いますと、作者は今年受験生なので、投稿は早くて週一、遅いとまるまる一年投稿をしないこともあり得ます。
私事で大変恐縮ですが、読者の皆様にはご理解頂きたいです。どうか長い目で見ていてくださいますよう、お願い申し上げます。
堅苦しいのはここまでにして、第五十九話、どうぞ!
……あ、お気に入り登録数千二百件突破しました。ありがとうございます。これからもよろしくお願いします。
五十七層主街区《マーテン》の外は、節くれだった枯れ木が点在する草原だ。
ここが数週間前に最前線だった時、何回も通った筈なのに、全く覚えてない。季節が春に移り変わり、景観が変化していることもあるだろうが、攻略組は基本、攻略完了したフィールドは来ないのも原因の一つだろう。
霧雨のせいで、俺のチャームポイントであるアホ毛がへなりとしなっていく。
市街の門を出ると、《OUTER FIELD》の文字が表示され、警告される。ここからは《圏外》……つまりアンチクリミナルコードの庇護も保護も擁護も恩恵もない、一言で言えば強者生存の世界なのだ。
まあ、そうは言ってもすぐにMobが襲いかかってくる訳ではないのだが、緊張してしまうのはこの一年半で染み付いた無意識の癖なのでしょうがない。
いつもの白い騎士服、黒革コート、灰色黒ラインコートにそれぞれ
「……それで、ハチ君。実験っていったいなにをするつもりなの?」
「ん、ああ……別に大したことじゃねえよ」
いつもの服装(装備)に着替えたので、手に装備されている指ぬきグローブを外しながら返答する。指ぬきグローブとか材木座みたいに中二臭くて嫌だが、ただでさえ紙装甲なので少しでも生存確率を上げるために装備せざるを得ない。
アイテムストレージとは違い、直ぐにアイテムが取り出せるポーチを探り、普段はスローイングダガーを使っているから滅多に使わないピックを出す。
アインクラッドのに存在するあらゆる武器は、必ず
しかし投擲武器は少し勝手が違う。投擲武器と一口に言っても様々な種類がある。チャクラムやブーメランは
既にグローブが
自分で自分の手の甲を刺すのは少し怖いが、男は度胸、女は愛嬌、オカマは最強、天使は桃源郷、ボッチは卑怯、俺が好きなのは妥協だ。
どうでもいいことで気を紛らわし、一思いに手の甲にピックを刺そうとする。今の気持ちは注射をされそうな幼稚園児だ。しかしそこでストップをかけられる。
「「(ちょ……ちょっと)まって!」」
鋭い声に動きを一時停止し、代わりに口を動かす。
「……なんだよ」
二人に顔を向け、アイテムストレージから高価な
「大袈裟過ぎだろ……いくら俺の装甲が薄くても、さすがにピック一本じゃどうにもならんぞ……」
具体的にはコート脱いで、インナー脱いで、ズボン脱いで、ブーツ脱いだ上で攻撃がクリティカルヒットしないと、初級ソードスキルではさすがに死なないと思う……まあ肉体的に死ぬ前に、社会的に死ぬが。なんだよ、グローブとパンツだけって。中二病じゃなくてもはや要治療だな。
「「ダメだよ!(バカ!)圏外じゃなにが起こるか分からないんだよ(のよ)!?いいから(さっさと)パーティー組んで、HPバー見せて!」」
「解った。解ったから」
詰め寄ってくるからパーソナルスペースを保つために後ろに下がったらまた圏内に入っちゃったでしょうが。
また湿った草を踏みしめ、再び表示された《OUTER FIELD》の警告は、一回目とは違い緊張感なんて皆無だった。
圏外に出て、この一年半でも十回も使っていないであろうパーティー申請を二人に送る。直ぐに受託され、新たに俺より小さいHPバーが二本追加される。
「……ていうかさすがに
ネトゲ用語にあるのか知らんが
「……私が回復するからアスナは回復しなくていいよ?」
「……いや、そういう訳にもいかないでしょ?万が一ということもあるし。回復要員は多い方がいいんじゃない?」
【攻略組に速報】どうやら第二次人外口論大戦が五十七層フィールドで起こっている件について。
なんかいいあらそってるけど、けんかするほどなかがいいっていうし、たのしそうだからほうっておこう。あははー。
……割りと本気で言い争っている姿が怖い。
あの迫力に比べれば、自分の手の甲にピックを突き刺すことくらい怖くない!と大分恐怖に対する神経が麻痺していることに気づかないまま《シングルシュート》のモーションに入り、ピックを突き刺す。
ピックが手の甲に突き刺さった瞬間、不快な痺れに僅かな鈍痛に襲われる。貫通武器をプレイヤーに使うと、ダメージ云々の前に不快な痺れのせいで戦闘に集中できなくなりそうだから、反射的に引っこ抜いてしまいそうだ。
初級ソードスキルの《シングルシュート》を使った筈なのに、八パーセントもHPが削れたのを見て、思わずなんでや!と関西人が聞いたら怒るであろう突っ込みを心の中でしてしまう。……まあ多分、レベルが上がるにつれ、防御力よりも攻撃力が上がっているからだろうが……
「「なんでいきなり突き刺したの(よ)!?」」
「い、いや……決心が揺らぐ前に?」
「なんで疑問系なの……」
二人→俺→キリトと言葉のキャッチボール(最初は気迫が凄くて豪速球だった)をしていると、五秒経過したのか、ピックが刺さっている手の甲から血のような赤いエフェクト光が噴き出す。
HPバーを見たら〇・五パーセントほど減っていた。これがカインズの命を削った貫通
「……早く圏内に入ってよ!」
「ひゃい!」
鬼の一喝で即座に圏内であるマーテンに入る。すると、HPの減少が――――止まった。
五秒ごとに明滅するように赤いエフェクト光がフラッシュするが、HPバーは一ドットも減らない。やはり、圏内ではあらゆるダメージはキャンセルされるのだろう。
「……止まった、ね」
一応頷いて首肯しておく。
「貫通武器に刺されたまま圏内に入ると、武器は刺さったままで貫通継続ダメージはストップする、か」
「感覚は?」
「残ってる……これは圏内で武器を刺したままにするプレイヤーがいないようにするための仕様、だな。多分」
「今の君のことだけどね」
まあその通りなのだが。今度は一気にピックを引き抜き、再び不快な感覚。思わず顔をしかめると、二人の両手で左手が握られていた――否、包まれていた。
「……なにやってんの?」
この
「だって、エイトが顔をしかめてるから……」
キリトのてんしのかお!こうかはばつぐんだ!エイトに80000のダメージ!
「これでダメージの残留感覚は消えたでしょ?」
アスナの
……じゃなくて。
「……そういうのは、ちゃんと相手を選んでやれ」
顔を背けながら言う。俺だったからよかったものの、それ以外の思春期男子だったら、惚れて→告白→撃沈→クラスに広まってて→トラウマに。のコンボが炸裂するから。そういうのは好きな男子だけにやりなさい、
実験は終了したため、痺れがとれた左手をズボンのポケットに突っ込み、ヨルコさんがいる宿屋があるマーテンの街に足早に歩いていった。
……べ、別に役得なんて思ってないんだからねッ!
次回!『ヨルコさんへの事情聴取』です!