ソロアート・オフライン   作:I love ?

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……さてそれはそうと、ロスト・ソングが楽しい……!
誘惑に負けて投稿が遅くなった第五十四話、どうぞ!


やはりキリトが聞き込みをするのは、なかなか辛いものがある。

廊下をズルズル引き摺られている間に、アスナがお願いをしてくる。

 

「ハチ君、この圏内事件の捜査を手伝って?」

 

「こ、断ったら?」

 

「そんなに黒鉄宮に行きたいの?」

 

……違った。お願いじゃなくて脅迫だった。

 

「わ、解りました……」

 

ここまでするか?それとも、俺ってここまでしないと手伝わないと思われてんの?そこまでしなくても手伝いますよ?……多分。

 

「お前、ヤンデレの素質あるかもな……」

 

ポツリと呟いた言葉は、アスナには届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ようやくロープをほどいてくれ、晴れて自由の身となった俺。シャバの空気が美味しいぜ……

それはいいのだが、事件の方は誰が、何で、どうやっての一つも検討がつかない。

暫定的探偵トリオを組んだ(俺は組まされた)俺達は、ひとまず証拠物件である槍とロープを回収し、教会の出入り口へと戻る。

キリトの知り合いであろう二人のプレイヤーにキリトが声を掛け、ここを通過した人はいないか?と訊ねたが、誰もいなかったらしい。

 

「……なあアスナ、入り口に監視がいたなら、検証の必要なかったんじゃないか?しかもよく考えたら事件が起きたとき、お前らと一緒にいたから、アリバイあるし……」

 

「……言質はとったからね?」

 

確信犯ですか……怒ればいいのか、さすが副団長と感嘆すればいいのか……

制服は白いのに腹の中が案外黒い副団長様と話していると、キリトが広場に出てプレイヤー達に声を掛けていた。

 

「みんな、さっきの一件を始めから見てた人はいない?」

 

数秒後。おずおずといった様子の女プレイヤーが一人、人垣から出てきた。見たことがないプレイヤーだ。武装はなんの変哲もないNPCショップで売っている片手剣のことから、どうやら観光目的で来たことが窺える。

こちらをチラリと見て、ヒッと声を漏らしている。

声を漏らしたことに、俺より女プレイヤーの近くにいるはずなのに気づいていないキリトは、女プレイヤーに優しげな口調で声を掛けた。

 

「あ、あの……まず、お名前は?」

 

インタビュー?解っていたことではあるが、キリトのコミュニケーションスキルは、見ず知らずの人と話せるほどの熟練度はないらしい。

 

「あ……あの、私、《ヨルコ》っていいます」

 

震える声は、どこかで聞いたことがある……というより、さっきの悲鳴の声の主か。

名前を聞いて、これ以上なにを訊けばいいか思い付かなかったのか、泣く泣くキリトはアスナとバトンタッチする。……お前はよくやった、と人類最強の兵長風に心の中で言っていると、キリトの後を継いだ、俺達三人の中では一番コミュ力が高いアスナが質問する。

 

「あの……さっきの悲鳴は、あなたが?」

「は……、はい」

 

濃紺色のウェーブ?がかかった髪を揺らして、女プレイヤー――ヨルコさんは頷く。ざっとした年齢は、俺と同じくらい――十七、八歳くらいといったところか。

髪と同じダークブルーの瞳を揺らし、うっすら涙の膜が瞳を覆っている。

 

「私……、私、さっき殺された人と、友達だったんです。今日は、一緒にご飯食べに来て、でもこの広場ではぐれちゃって……それで……そしたら…………」

 

それ以上は言葉を紡げないと言わんばかりに口許を押さえたヨルコさんをアスナが教会の内部に導くのを見ながら、俺は考えつく仮定をできるだけ整理していた。

まず一つ、デュエルで死んだ可能性は限りなく低くなったことだ。飯を食いに来てデュエルを――それも《全損決着モード(死ぬ確率が高いデュエル)》をする奴はいないだろう。

しかしそうなると、少し解らないことも出てくる。なぜ男はフルプレート・アーマーを着てたのか、ということである。

普通、パーティーで狩りをしていて、終わって直ぐに待ち合わせをしたと考えるだろうが、ヨルコさんは『広場ではぐれた』と言っていた。

つまり、少なくとも広場ではデュエルはなかったことが解り、食事に鎧を着てくるのもそうだが、どんな地味な鎧でも目立つ全身鎧装備の人を見失ったこと、更には死んだ男の抵抗がなさすぎたことがおかしい。

仮に教会の問題の四部屋目でデュエルしたとしても、胸に槍を刺され、首にロープを結束され、持ち上げられて窓から落とされるまでに、あまりにも抵抗がなさすぎる。

継続ダメージといっても、そこまでHPが急速に減るわけではないから、槍が刺されたなら抜けばいいし、ロープを結束されたなら武器で攻撃して切ろうとするなりすればいいし、持ち上げられたなら暴れればあんな重装甲だったら半端ない重さのはずだから、支えることなどどのプレイヤーでも不可能だろう。

などなど、例をあげればキリがないほどこの事件は不可解なことが多い。……まあ、デュエルのウィナー表示が見つからない時点で不可解なのだが……

限られた情報で考えても解るわけないか、と頭を切り替え、俺を置いていった二人の後に続いて教会に入ると、何列も並んでいるベンチに三人は腰かけていた。

アスナはゆっくり、ゆっくりとヨルコさんの背中を子供をあやす様にさすっていると、やがてヨルコさんは泣き止み、聞き取れるギリギリの声ですみませんと言った。

 

「ううん、いいの。いつまでも待つから、落ち着いたら、ゆっくり話して、ね?」

 

「はい……、も……もう大丈夫、ですから」

 

そう言うとアスナの手から体を起こし、こくりと頷く。

 

「あの人……、名前は《カインズ》っていいます。昔、同じギルドにいたことがあって……。今でも、たまにパーティーを組んだり、食事したりしてたんですけど……それで今日も、この街まで晩ご飯食べに来て……」

 

若干落ち着いたものの、未だに震えが残る声でヨルコさんは続けた。

 

「……でも、あんまり人が多くて、広場で見失っちゃって……周りを見回してたら、いきなり、この教会の窓から、人――カインズが落ちてきて、宙吊りに……しかも、胸に槍が……」

 

……話を聞くに、はぐれてから十数秒後には、フルプレート・アーマーの男……カインズが窓から吊るされていたということか。……そんな速攻決着デュエルがあるのか?

 

「その時、誰かを見なかった?」

 

アスナの問いに意識を話に戻す。ヨルコさんは一瞬黙ったが、ゆっくりと首を縦に振った。

 

「はい……一瞬、なんですが、カインズの後ろに、誰か立ってたような気が……しました」

 

そうなると、あの衆人環視の中を、誰にも気づかれず、悠々と脱出したことになる。

まさに《幽霊》、《暗殺者(アサシン)》、《忍者》など、様々な言葉が浮かんでくる。

デュエルによる殺人は考えにくい。まさか、このSAOに、アンチクリミナルコードをも無効化する、未知のスキルがあるのか……?

ヒースクリフの《神聖剣》のような、一人しか取得できない《ユニークスキル》だったら、よくはないが、まだいい。圏内殺人をできるのは一人だけなのだから。

しかし、条件さえ満たせば誰でも取得できる《エクストラスキル》だったら、それこそSAOには心休まる場所はもうなくなる。

同じことを考えていたであろう二人の背中が僅かに震えた。しかし、ヨルコさんに心配させまいと思ったのか、直ぐに顔をあげて訊ねた。

 

「その人影に、見覚えはあった?」

 

「…………………」

 

少し考える素振りを見せたヨルコさんだったが、解らないといった様子で首を横に振った。

あと一つ、訊かなければいけないことがある。答える側はイヤな気持ちになるだろうが、イヤなガサ入れは俺の専売特許だ。

 

「その……カインズが恨みを買っていた人とか、疎まれていたりしてたことは……?」

 

予想通り体を硬くしたが、訊かない訳にはいかない。レッドプレイヤーの快楽のために殺されたならともかく、それ以外なら動機は必ずあるはずなのだ。

しかし、ヨルコさんはまたも首を横に振った。一言すいませんでしたと謝っておく。

大まかに考えて、犯人の可能性は二つ。一つはレッドプレイヤー、もう一つはヨルコさんが知らないが、カインズと何らかのトラブルがあった人だ。

もちろん他にも色々あるだろうが、候補を絞らなければキリがない。

しかしレッドプレイヤーというだけで、カーソルがオレンジの奴、カルマ回復クエストをしてグリーンにした奴、潜在的にその傾向がある奴などを考えたら数百人はいるだろう。

これは骨が折れそうだという思いがこもった俺のため息は、見事に二人とシンクロした。

 




次回!『狭い交友関係の物証』です!

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