ソロアート・オフライン   作:I love ?

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今回は多分短いです。
あ、あと活動報告のアンケートですが、出来るだけ一人にして書いてください。お願いします。文句言ってすいません。
さて、ご免なさいが済んだところで、第二十七話、どうぞ!


ようやく、比企谷八幡は強化詐欺のトリックに気づく。

「……どうする……?」

 

静けさが戻った広場を見て、これまた静まりかえった空き家でアスナが呟く。

省略されている目的語は、あの強化詐欺の被害者となった特にリアクションをとらないで去ったリンド隊のプレイヤーに、アスナと同じように武器を取り戻す方法を教え、詐欺の存在を明かすのか、ということだろう。

確かにあのリンド隊のプレイヤーは、何も悪くない。いや、運は悪かったな。

ともかく、もし教えたら必ずネズハを糾弾するだろう。そして、強化詐欺の存在は広まり今までの被害者によるネズハの処罰が決まるだろう。しかし、GMや法律、規則がないSAOで、『処罰とは何だ?』

コル?アイテム?それとも――――命?

このアインクラッドは民主主義がルールと言ってもいいだろう。

集団がネズハに死ねとでも言えば、もう歯止めは利かない。アインクラッド史上初のPKになってしまう。

つまり、リンド隊のプレイヤーに明かす=殺人になってしまう可能性があるのだ。

ならば教えないのが得策だろう。……リンド隊のプレイヤーと親しい訳でもないしな。……そもそも親しい奴いませんでした、テヘッ。

結局、教えないという結論になり、八時の鐘が鳴る。ネズハの店仕舞いの時間だ。

何日か前に尾行したように、店仕舞いの準備を進めるネズハ。その表情は、とてもレア武器を搾取した強化詐欺師には見えない。そんなネズハを見て、キリトが口を開いた。

 

「なんでネズハは……《レジェンド・ブレイブス》は、強化詐欺をやろうと思った……いや、実行に移せたのかな……?」

 

……確かにな。犯罪でも計画するより実行の方が難しいしな。悪口だって面と向かって言えないから陰口になるんだろうしなぁ……

アスナには意味が解らなかったのか、首を傾げている。

 

「……強化詐欺が《システム的に可能》でも、《実際に実行する》間にはデカイハードルがあるだろ?もしバレたらどんな報復があるか想像できないわけじゃないと思うしな」

 

逆に言えば、バレなきゃ報復はないということだ。完全犯罪は、トリックを見破られないことでも警察に捕まらないことでもないと俺は思っている。なぜなら、犯罪自体がバレなきゃ犯罪は犯罪ではないからだ。

 

「想像……した上で、それでもハードルを蹴り倒したのかもね……」

 

「え……?」

 

「論理的な問題に眼をつぶれば、実際的なハードルって、バレた時に命の危険があるってことだけでしょ?」

 

「ああ、バレる前に誰にも止められない程に強くなったら――――」

 

「それって……」

 

現実の戦争、革命、争いと違ってSAOでは数が多くても勝てないことがあるだろう。

そして、もしそんな奴がこの世界のトップ、独裁者になったら――

 

「……世界の支配者、ってこと?」

 

しん、と重い空気が下りる。この一件は『自分の剣をあの鍛治屋に預けなければいい』などという軽い問題ではない。

勿論、《レジェンド・ブレイブス》がそんな大それたことを考えて強化詐欺をやっているのかは解らないが、可能性があるだけに無視できない。

 

「この一件、初めて大事だと思ったよ……」

 

「ああ、だからこそ早く強化詐欺のトリックを見破らなければいけないんだが……」

 

あと少しで解りそうなんだがなぁ……

 

「……あのカーペット……」

 

「え……?」

 

「アイテムが腐らないだけじゃなくて、あんな機能もあったのね」

 

視線を落とすと、鍛治屋ネズハが何日か前にやったのと同じように《ベンダーズ・カーペット》の上に、武器やら強化素材やら……とにかく色々置いて、カーペットのポップアップメニューを操作して、カーペットに載せられた無数のアイテムが独立ストレージに収納されていくところだった。

 

「ねえ……。武器のすり替えに、あのカーペットの機能を利用したってことはないの?」

 

そうアスナは、俺達の中で一番情報を持っているキリトに尋ねる。

 

「いや……多分無理だと思うよ?カーペットの収納機能は、今ネズハがやったみたいにメニューから発動させなきゃいけないし、上に載せてるアイテムは全部呑み込んじゃうしね」

 

カーペットでのすり替えは不可能。オブジェクト化させたアイテムを手に持ちかえるのは……そもそもオブジェクト化させたアイテムに同じ武器がなかったため不可能。

なら、残る可能性は三つ。キリトですら知らないアイテムか、ベータテストからの新アイテムか、ネズハ自身のストレージを操作してすり替えたか。

……恐らく一と二はないな。あの《鼠》からもそんなアイテムの話聞いたことがないしな。

では、ネズハ自身のストレージを使ってすり替えたと仮定して……

 

「ッ!!」

 

……まさか。

 

「二人とも、俺は今からあることをするから時間を計ってくれ」

 

そう言いながら、自分のウインドウを開き左手を垂らしたら手の位置にくるように移動させ、背中からスチールブレードを鞘ごと外し、左手を垂らす。椅子はないが、これで強化のために剣を預かったネズハとほぼ同じ体勢だ。

ここで俺の意図を察した二人が返事をしてくる。

 

「「解った」」

 

……いや、一人で充分ですよ?まあいいか。

 

「んじゃいくぞ?三、二、一、零!!」

 

自分でカウントを終えた瞬間、左手をウインドウに落とす。その瞬間にスチールブレードは粒子となり消滅、続いて文字列となったスチールブレードをすかさずタップしてオブジェクト化し、オブジェクト化した剣を左手で掴む。

 

「どうだ!?」

 

かなり早くできた自信があるのだがタイムは――

 

「現象としては似てる、けど……」

 

「ちょっと遅すぎる、かな。タイムも一秒以上かかってるし……」

 

「……そうか」

 

かなり早くできた自信があったんだがなぁ……

しかし、考え方としては……待て、最近何か会話しなかったか?武器を早く持ちかえる……というより、オブジェクト化する方法が……。――――あった。《クイックチェンジ》。しかし、あれは戦闘プレイヤー用Modだったはず――――いや、待てよ?オルランド、ベオウルフ、クフーリン、そしてナタク。いずれも英雄の名前、まさに《レジェンド・ブレイブス》――伝説の勇者達だ。

ナタク、とは確か中国の物語に出てくる少年の神で、様々な武器を操るれっきとした英雄だ。少なくとも俺が知る限りでは鍛治屋ではなかった。

ならば、こう考えれば説明はつく。ネズハ――いや、ナタクはオルランド達に鍛治屋になれと言われたか、何らかの原因でならざるを得なかった。

つまり、戦闘用Modをとっていてもおかしくない。あくまで英雄の名前を使っているナタクが、戦闘をしていなかったわけがないという思い込みの仮定が合っていた場合、だが。

 

「……そうだったのか」

 

残念だ……謎が、全て解けてしまった(かもしれない)。

やはりじっちゃんの名にかけて、真実はいつも一つだな。

 




次回!『八幡のささやかな……』です!

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