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――広い。
俺がボス部屋に抱いた感想はまずそれだ。
ボス部屋は長方形の形をしていて、幅二十メートル、奥行き百メートルだ。
暗い部屋に松明が付き、次々に奥へと点灯していく。
うっすらデカイ影が見えるから、恐らくあれが一層最強のモンスターでありボスでもある、《イルファング・ザ・コボルドロード》だろう。
俺が《イルファング・ザ・コボルドロード》の影(多分)を見ていると、ディアベルが銀色の剣を降り下ろし、四十五人ものプレイヤーがボス部屋に雪崩れ込む。
まず、ヒーターシールドを掲げる戦槌使い率いるA隊、その左後方に斧戦士のエギルさん率いるB隊が追う。右にはディアベル率いるC隊と、両手剣使いがリーダーのD隊。更にその後ろを、キバオウ率いる遊撃用E隊と、長柄武器のF隊、G隊の三パーティーが並走する。
俺逹ボッチパーティーは一番しんがりだ。
先頭のA隊と玉座の距離が二十メートルを切ると、今まで動かなかった影が跳躍して、空中で一回転、地響きと共に着地、高らかに吼える。
「グルルラアアアアアッ!!」
獣人の王、《イルファング・ザ・コボルドロード》はその姿を露にした。
――と同時に右手に持つ骨斧でA隊リーダーに振りかざした。
A隊リーダーはヒーターシールドでそれを防ぐと、ギィィィィン!という音と火花を散らす。
その音が開戦のゴングかのように《ルインコボルド・センチネル》が壁の高いところにいくつかある穴から降りてきた。
キバオウ率いるE隊とそのサポ役であるG隊がタゲをとる。
こうして、十二月四日午後十二時四十分、アインクラッド初めてのボス戦が開始した。
俺逹は担当である《センチネル》の相手をしている。いるのだが………
「……これ、俺必要?」
キリトとフェンサーの二人で無双している。
いや、働かなくて良いのはいいんだけど……
「スイッチ!」
「ええ!」
うわあ……喉元を寸分違わす刺してるよ………
弱点をつくのはいいことだが、思わず喉元を押さえてしまう。
しかし……あのフェンサーも最初より………なんだろうな、余裕?があるな。
《センチネル》を倒したキリトとフェンサーが戻ってくる。
「おう、お疲れ」
「……あなたも戦いなさいよ」
「そうだよ、エイト」
いや、だって俺必要ないじゃん……
まあ、言ってもキリトはともかく、このフェンサーは納得しないだろうし、素直に答えておくか…
「わーったよ、次ポップしたらちゃんと戦うよ」
そう言っておいて、ボスの方を見る。
たった今、一本目が削れたようで、ディアベルが二本目!と叫んでいる。
その時に三匹の《センチネル》が飛び降り、フェンサーが走っていく。
フェンサーが
「スイッチ!」
と叫んだのですかさず交代、《スラント》で切るがやはりあまり効かない。
「チッ」
軽く舌打ち。
元々が敏捷極振りなので、あまり効かない。
それでも《センチネル》のヘイト値を上げるには充分だったのか、手に持った斧槍(ハルバート)を振りかざしてくる。
これはアインクラッドに入ってから気づいたが、どうやら俺はボッチで培った観察眼のお陰か動体視力がいいらしい。
《センチネル》の攻撃を回避し続け、一発で倒せる時を狙う。
(――今だ!)
《センチネル》がハルバートを縦に振り、体が前のめりになったとき、ハルバートを右にステップで回避、鎧の隙間から見えたうなじを《ホリゾンタル》で切り裂き、首を落とす。
気分は進○の巨人。
倒し終わって、二人が微妙に引いていた。
「うわあ……」
「えげつないわね……」
いいだろ別に……というか喉元突く奴に言われたくない。
コボルド王+衛兵VSプレイヤー(王に立ち向かっているから革命家?)四十五人の戦いは、プレイヤーに有利に進んでいった。
ディアベル逹C隊が、一本目のHPバーを削り、D隊が二本目を、現在はF、G隊がメインで三本目のバーを半減させていた。
先程も思ったが、キリトとアスナ――二人の奮戦が目覚ましい。
アイツらは、今後の攻略に欠かせない存在になるだろう。
と考えていたとき、キリトにモヤットボールが話しかけていた。
……《鼠》の依頼もあるし、聞いて(盗み聞きじゃないよ!)おくか……
「アテが外れたやろ。ええ気味や」
「……え?」
キリトは意味が分からないといった様子で聞き返す。
「ヘタな芝居すなや。こっちはもう知っとんのや、ジブンがこのボス攻略部隊に潜り込んだ動機っちゅう奴をな」
キリトはなおも分からないようだ。俺も分からん。何を言ってるんだ?アイツは。
「動機……?ボスを倒すこと以外何があるの?」
「何や、開き直りかい。まさにそれを狙うとったんやろが!!」
……ああ、なるほど。そういうことか…
俺は自分の足防具――《グレーウルフズ・レッグアーマー》に目を向ける。
「わいは知っとんのや。ちゃーんと聞かされとんのやで……あんたが昔、汚い立ち回りでボスのLAを取りまくったことをな!」
「えっ……!」
そう。LA――Last Attackは、他のゲームでもある、ボスに最後の攻撃を当てた人が、何らかの特典を得ることだ。
しかし――ベータテスターを憎むコイツが元テスターな訳ないし、誰からベータ時代のキリトのプレイスタイルを聞いたんだ?
恐らくは四万コルの出元からだろうが……
だが何故、キリトのアニールブレードを買い取ろうとしたのかは今の話でわかった。
――キリトのLAボーナス入手の阻止だろう。
「き、キバオウ。あなたにその話をした人は、どうやってそのことを知ったの?」
恐らくベータテスターか、ベータテスターの誰かから聞いたかだが……
「決まっとるやろ。えろう大金積んで、《鼠》からベータ時代のネタを買ったっちゅうとったわ。攻略部隊に紛れ込むハイエナを割り出すためにな」
よし、決まった。そいつは元ベータテスターだ。
《鼠》は、ベータ時代のネタは売らないし、元テスターじゃないなら、そんな嘘を吐く必要もない。
俺の考えがそこまで至ったところで、ボスの方から「おおっしゃ!」という声が聞こえたので、そちらを見ると、バーが四段目に突入していた。
「ウグルゥオオオオオオ!!」
《コボルドロード》が吼えると、最後の《センチネル》が出現してきた。
「……雑魚コボ、もう一匹くれたるわ。あんじょうLA取りや」
そう皮肉を残して、モヤットボールはパーティーメンバーのところへ戻っていった。
キリトはフェンサーと合流して、何やら話していたが、不意にボスの方を見る。俺もつられて見る。
ボスは、骨斧と盾を捨て、もう一度吼え、異様に長いタルワールを取り出す。情報通りだ。
俺はさっきのモヤットボールの話を交えて考えたいので、《センチネル》を二人に任せようとした。
「……なあ、二人共。少し考えたいことがあるから、《センチネル》を任せていいか?」
「……わかった」
「うん」
よし、頼まれてくれたので、任せよう。
まず、キリトの剣を買おうとしたのは、キリトにLAボーナスを取られるのを警戒したため。
買おうとしたのは、ベータテスター。
そのベータテスターは、ビギナーを装っている。
何故ビギナーを装った?
元テスターは非難されるからか?……もしくは、バレると不味い立場だからか?
そこまで考えたところで、全てが繋がった気がした。
まさか――
俺はボスの方――いや、青い髪をなびかせ、銀色の剣で戦っている騎士を見た。
――あんたが全部仕組んだのか?ディアベル。
無論答えはなかった。
突如感じる違和感。
なんだ?なにかが情報と違う気がする。
タルワールというのは曲刀だが、ボスが持っているのはあまりにまっすぐで、しっかり錬成されている業物だ。
――違う、あれは曲刀じゃない。
俺は中二病時代に無駄に調べた武器を脳内検索する。
そうして思い当たったのが、日本人なら時代劇で見たことがあろう代物。
――そう、刀だ。
キリトも気づいたのか叫ぶ。
「ダメ!全力で後ろに跳んでーっ!」
叫びむなしく、その声は届かない。
まるで竜巻のようなソードスキルは、C隊を襲った。
マジかよ……HP半分以上持ってかれてるぞ……
あんな攻撃を軽装な自分が喰らったらと思うと冷や汗が出る。
攻撃を喰らったC隊は、スタンしているが、誰も動けなかった。
硬直が解けた《コボルドロード》の追撃がくるのをみて、エギルさん逹が助けようとするが、もう遅い。
地面すれすれの軌道でプレイヤーを斬り上げる。
――狙われたのは、ディアベルだ。
釣られている魚のように上空に打ち上げられるディアベル。だが、さほどダメージはない。
だが、その瞬間《コボルドロード》の野太刀が再度ライトエフェクトに包まれる。
上、下の連撃。さらに一拍おいての突き。
その全てのダメージエフェクトがクリティカルヒットであることを示していた。
ディアベルのアバターは、ほとんど突き刺さる形で少し離れたキリト逹の所に落ちる。
急いでキリトは、《センチネル》の斧槍をシステム外スキル《武器破壊》をして、アスナが喉元を突き刺す。
俺もディアベルの所へと駆け寄るが、既にディアベルはその体をプレイヤーの『死』を表す、ポリゴンへと変えていた。
それでも、最期にディアベルがキリトに託した「ボスを倒してくれ」という願いが俺の耳に残っていた。
次回は『ビーター』まではなんとかやりたいです……