ソロアート・オフライン   作:I love ?

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突然ですが、皆さんは俺ガイルのアニメ一期と二期、どっちの絵が好きですか?
ネットで二期の絵は萌え絵? とか言うのであまり好きな人がいないことに驚きました。絵も綺麗になってるし、ゆきのん可愛いしゆきのん可愛いしゆきのん可愛いのに。
作者は一期の絵で八幡が「本物が欲しい」って言ってる姿が想像できません。逆に二期の絵で一期の内容やってるのも想像できないんですけど(笑)

結論:一期の絵も二期の絵もいいけど、やっぱりぽんかん8さんの絵が最高。


二年の時を経て、ようやく彼は彼女たちのことを少し理解する。

……暗い暗い場所に唯一の光が眼を差す。

アリーナが歓声で満たされる。

ステージはライトアップで満たされ、相対的にアリーナ全体の暗さが解ってしまう。

跳び跳ね、歌い、楽しむ。

見目麗しい五人の少女……或いは女性が、自らの演奏を奏で、他の人の音と調和している。

ボーカル。ギター。ベース。キーボード。バスドラム。

たった五つの音で一つの曲を作り上げる。

アリーナのボルテージは最高潮。

熱気と光の坩堝で響く澄んだ歌声と溌剌とした歌声。

確かに網膜に焼き付いた忘れない、忘れられない光景。

光溢れるステージすらも、暗闇に塗り潰された。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「……うおぁぁぁぁぁぁぁッ!」

 

跳ね起きる。

気分は最悪。汗も滲んでいる。

荒い息を整え、数十秒経った後、ようやく状況を認識する余裕が生まれる。

そうだ。確かボスと戦って……戦って、どうなった?

 

「……クライン、ボスは? ボスはどうなった?」

 

「お、おう。見ての通り、ボスは倒された。七十四層、突破だ」

 

「そう、か」

 

立ち上がろうと力を込めていた体から再び力を抜き、情けなくへたり込む。

また一つ、今度は安堵の気持ちから深く息を吐いた。

 

「あー、安心してるとこ悪いんだけどもよ……」

 

「何だ? さっきのスキルなら企業、秘密……」

 

何だ? 頭の中に違和感がある。そうだ、俺は確かボスと戦って……その後は? 俺がステラ・インパクトのサンをボスに喰らわせて……アイツがブレスを吐いて俺は……。

 

「そうだ……、何故、俺は生きている?」

 

「……おめェは死にかけた……いや、一度死んだんだよ」

 

「おい、趣味の悪い冗談はやめろ。まだ死んでねーよ?」

 

冗談めかして言う。いくらなんでもデスゲームの状況下であるこの世界で、命のことに関する冗談はさしもの俺も笑えん。

 

「いや、言い方がワリィな……。おめェは一回死んで、生き返ったんだ」

 

「は? クライン、頭……大丈夫か? 俺が心配するなんて相当だぞ」

 

「うるせぇよ、至って正常だっつーの。……じゃなくてだな。ほら、おめェさんも知ってんだろ? 去年のクリスマス」

 

クリスマス。その単語を聞いただけで顔が勝手にキリトの方を向いた。

キリトは若干頬を染め、そっぽを向いている。うん、俺も何か恥ずかしいわ。

 

「つまり……、ソードアート・オンラインで唯一かもしれない蘇生アイテムを俺に使ったのか?」

 

何というか、申し訳なくもあり情けなくもある。

俺が勝手にボスと戦い、死んだ。そのせいでSAOに現存するなかで一番かもしれないほどのレアアイテムを使ったのだ。しかも、それは俺が勝手にした行動の尻を拭っているということにもなるのだ。

それは、俺の信念に反する。それなのに、生き延びられたことに安堵を感じている自分が少し苛立たしかった。

キリトに向き直る。

 

「あー、その、なんだ、悪かったな。俺なんかにレアアイテム使わせちまっ……」

 

乾いた、ともすればいっそ清々しい音が聴覚野に届いたとき、俺の体は宙を舞っていた。何を言ってるのか、自分でもわからねぇぜ……。

キリトに平手打ちされたのに気づいたのは地面に墜落した瞬間。え、何で平手打ちされてんの?

心中の疑問に答えるものはいない。クラインは「さーて、おめェらを送らねぇとな!」とか言って軍と共に出てくし、アスナはこっち見て立ってるだけだし、キリトは未だに立ち上がってない俺に向かって歩く度にズシンズシンと聞こえてきそうな雰囲気で近付いてきてるし……せめて立体起動装置をください。

その後もいきなりマウントポジションを取られ、ガスガスゴツゴツ殴られ続ける。嘘である。強烈なのは最初のビンタだけで、後はヘロヘロのパンチで、ポスポスと体に当たった時に鳴る。え、何これ。女子からの馬乗りってもっとこう、ロマンと夢があるもんじゃないの? 何をされるのかっていう恐怖しかないんだけど。

いや、しかし。普段温厚で少なくとも俺が知っている限りではデュエル以外に人を殴ったことのないキリトがここまでやるんだ、恐らく俺がやらかした何らかのことがキリトの怒りの琴線に触れたのだろう。

ヘロヘロパンチを右手で掴む。その際上体を起こしたからだろうか、雪ノ下とはまた質が違う感じのする黒い長髪に隠された顔が解ってしまう。

俺がキリトの泣き顔を見たのは二年間でも数えるほどしかない。

例えば、アニールブレードのクエストの時や去年のクリスマス。そして……今。

その顔を見ると何故か脱力してしまい、また冷たい石畳に背中を預ける。……うむ、何にせよこの体勢はまずい。主に俺の理性的に。

何とか上半身を起こし、逃げようとするが……、こらやめろ、やめてください抱きつくな近い近い近い良い臭い!

超大型キリト、もしくは鎧のキリトによってウォール・リーズン(理性の壁)は陥落しそうである。あれだ、南側領土最高責任者が喜んで食われにいくだろうな。

 

「ちょ、ちょっとキリトちゃん、ハチ君? 少し密着しすぎじゃない?」

 

さすがにこれは見かねたのか、アスナがようやく俺たちの間に割って入る。うん、俺もそう思う。アスナさん、この子離しちゃって!

 

「ほらキリト、離せって」

 

「やだ」

 

まるで駄々っ子のように、俺を抱き締める腕と足に力をさらに込める。や、それはあれよ? 俺はいわゆる薄い本でしか見たことのない体勢になってるのよ?

 

「何で嫌なんだ?」

 

「エイトが……また遠くに行っちゃう気がするから」

 

「はぁ?」

 

「……今日、ううん、五十層からずっと嫌だった。エイトは壁役(タンク)でもないのに、ずっとボスの攻撃を捌いてた」

 

五十層ボス。ハーフポイントであるだけに、強大なボスで当時の攻略組にはその攻撃を真っ向から受け止められるタンクが居なかった……ヒースクリフ以外。

とはいえ、あいつも多分人間だ。同時に捌けるのは二本だけだったのに対し、ボスの巨人の腕は四本。まぁ、防ぐだけが防御じゃない、ということだ。

 

「……でも、それでうまくいってた。それもすごい嫌だった。エイトがいなかった二ヶ月間のボス戦、キツかった。それも嫌だった」

 

嫌だった。そう言ってるだけだし、聞きようによっては今までの俺のやり方を否定している。だか、何かが腑に落ちた。

到底信じられないし、今までの経験則からそんなことはないと理解もしている。

だが、何回問い直しても出てくる同じ答えはもう結論となっている。

わからなくて当然だったのだ。

 

「あー、何か今まで色々悪かった。だから取り敢えず離してお願いします」

 

筋力値の上では完全に負けているため、どうあっても逃げられない。アスナにSOSを求めても不満げに眼を逸らされる。……何でや。

恥ずかしいならやらなけりゃよかったのに、赤面して離れていくキリトたん。うん、キリトという響きが男っぽいから俺がホモォ……みたいな感じになってしまう。やめて! おホモだちどころかお友だちもいないんだぞ! どっちも欲しくはないけど。前者に限ればいらんと断言できる。後者は戸塚が友達になってくれるなら欲しい。むしろ戸塚が欲しい。

下らない思考をして気を逸らしていると、アスナが沈鬱な表情を顔面一杯に張り付けて、迷ったように口を開く。

 

「……ハチ君は、さ。人を……ううん、何でもない」

 

「……多分、お前が思っていることは違う……と、思う」

 

言うと、花が咲いたように顔を綻ばせる。

高々数時間だけなのに、もう数週間も見ていなかったかのような感覚に襲われ、その笑顔につられて俺も口の端を少しだけ吊り上げた。

 

 

 

× × ×

 

 

 

上機嫌そうにラン、ランララランランランと前を歩く二人にいつも通りの体勢で着いていく。

……そう言えば、人型の物が猫背だと何か怖く見えるとか聞いたことあるな。三分間の超人とか五分間の人造人間もそうだしな。ちなみにエヴァンゲリオンはウルトラマンを参考にして猫背にしたらしい。ソースはテレビ。

仲睦まじく、隣り合って人気がない迷宮区の道を進行していく二人の小さく華奢な後ろ姿を見ていたら、ふと武者小路実篤の言葉が浮かんでくる。

――仲良きことは美しきかな。

美しいものとは虚飾だ。光あるところに影は必ずある。

仲が良いと自分や相手、或いは第三者が認識しているから本音を隠し建て前を並び立て、偽物の関係に皹が入らぬようにする。

逆説的に、『喧嘩するほど仲が良い』とあるように仲が悪い奴らほど仲が良いのではないだろうか。いや、やっぱ違うな。仲が良いと見える中でも本当に仲が良い奴はいる。ソースは俺と小町。

それにしてもあいつら、ものすごい上機嫌なんだけど。

 

「あ、ハチ君。わたし、血盟騎士団しばらくやめることに決めたわ」

 

「……は?」

 

楽しげに、軽やかにステップするアスナはすべてを魅了する魅力を備えていた。キリトも若干赤面している。……いや、それはおかしくないか?

なぜ、と知らぬ内に目で問うていたのかまるで大陽のような笑顔が少し悲しげなものになる。

 

「……多分、ハチ君は自分からこっちに踏み込んでくれることはないと思うの。だから、待たない。こっちから行くの」

 

思わず、息を呑んだ。

どこかで聞いたような言葉だ。

 

「……そう、か」

 

全く、女って奴は怖くて強い。陰湿で明るくて正直で嘘つきで厳しくて優しい。

複雑に入り乱れてできている女の子に単純な男子が勝てるわけもない。

だから、言うことは決まっていた。

 

「お好きにどーぞ」

 

 

 

× × ×

 

 

 

七十四層攻略から翌日。

どうやらキリトが大変なことになっているらしい。ソースは鼠。先人から言えることは頑張ってくれ位しかない。俺の双剣スキルも今までに確認できなかったスキルだからかユニークスキルだと思われているらしい。

一番しつこい鼠が双剣スキルの存在を知っているのと、入手方法がよろしくないクエストをやらなきゃいけないのも解っているため、双剣スキルは広まっていない。

余談だが、レインは自分の命の危機以外に双剣スキルを使わない。ほとんどエイト君がクエストを進めたから、だそうだ。

何となく脳内に思い浮かんだ某宇宙戦艦の歌を口ずさみながら、そう言えば食料があまりなかったことを思い出してホームでごろごろしていた体を起き上がらせる。

ついでに昨日のドロップ品を売り捌くのも良いかもしれない。俺の隠蔽(ハイディング)を看破できる奴もそうそういまい。

樹木が数えきれないほど屹立している様は見ていて気持ちがいい。

青々しい樹の緑が眼を、そこら中から漂ってくる緑の薫りが鼻を、無数の葉が奏でる音が耳を癒してくれる。

転移門までは後少しだ。

 

 

 

× × ×

 

 

 

「おっす」

 

「あ? ……ああエイトか。ほらお前も早く二階行け」

 

五十層アルゲードにあるエギルの雑貨屋は何故か今日は誰もいなかった。店主が厳ついからついに愛想を尽かされたのだろうか。

……ていうか、何で二階に行かにゃならんのだ。商談なんていつもここでしてただろーが。なんなら冗談言い合うのもここだったからな。

……まぁエギルの顔が怖いから従っちゃうんだけどね!

二階には何故かキリトがいる。俺今日疑問に思うこと多くないか? その内名探偵腐眼の八幡とか言われちゃうんじゃないの?

 

「こ、こんにちは〜……」

「……? おう……」

 

え、何これ何この空間。何で顔赤くしてんの? 何でそっぽ向いてんの? 何で小汚ない部屋がピンクに見えんの?

……あ。やッベー、昨日か? 昨日のことなのか? 改めて考えるとかなり恥ずかしいことしてたよな……。俺まで恥ずかしくなって来ちゃうだろうが。

 

「……なあ」

 

「……何?」

 

「昨日俺を殴ってたけど、オレンジにならなかったか?」

 

「あ、うん、大丈夫だった……」

 

また恥ずかしそうに顔を伏せる。地雷を踏んだどころじゃない、踏んだ地雷が爆発して他の地雷を誘発してるくらいやばい。

 

「…………」

 

「…………」

 

……俺、何で女子と二人きりで無言の耐久レースをやってんの?

 

「…………」

 

「……んんっ」

 

「……!」

 

バッ、と突然音がしたキリトの方に首を曲げるが、ただの咳き込みだったらしくプイと顔を背けられる。やだこの子可愛い。けど沈黙が辛い。

そんな沈黙をよくも悪くも破ったのは、アスナだった。この時初めて、俺はアスナが鬼ではなく天使に見えた。

 

「どうしようキリトちゃん! 大変なことになっちゃった!」

 

……前言撤回。もしかしたらやっぱ鬼かもしれない。

 


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