そして読者様が作者を犯罪者にしたがる……。いいよじゃあ、作者もラフコフ目指してやるから!
こ、これからもソロアート・オフライン、よろしくなんだからねッ!
脳が精神的疲労を完全に回復して俺が覚醒したのは、夜中か夜かの微妙なライン……十一時だった。なにか夢を見てた気がするけど、まったく思い出せない。死に急ぎ野郎もこんな気分だったのだろうか?
起きた途端に空腹が体を蝕み、料理をする気分でもないため街に繰り出そうと防具を外し、普段着に着替える。さっきあんなことがあったから、一応武器は装備しておくか……。
部屋を出て、しっかり鍵を閉めておく。夜は嫌いだが好きだ。というのも、誰かに見つかれば不審者扱いされるけど、居酒屋などの施設がない場所に限り静かな夜は心が落ち着く。
夏休みの時の不規則な生活のように、自堕落極まりない起床時間だがしょうがない。俺は悪くない、攻略組の奴らが悪い。
当然のことながら、一階にはもう攻略組はいなかった……三人を除いて。
「……家に帰れ、不良学生」
「む、ハチ君には言われたくないなぁ」
いや、だってお前高く見ても高校生じゃん。現実世界だったら十一時だから補導されるぞ。キリトもだけど。
「それにしてもここの飯うめぇな……。おいエイトよォ、なんでこんないいとこ教えてくんなかったんだよ?」
「こういうことになるからに決まってんだろ……」
いやもうさ。アスナに無理矢理攻略を手伝わされる時点でバレたくないのに、
「ま、いいから座って飲め飲め」
「いや、俺今から飯食いに行こうと思ってたんだけど……」
「いいじゃん。私たちもまだ食べてないから、一緒に食べようよ」
「よし今すぐ食うぞお前ら早く座れ」
「キリトちゃんの言葉に弱いのは相変わらずなんだね……」
いや、俺が弱いのはキリトじゃなくて天使だから。小町戸塚キリトの三大天使を新たに聖書に加えるべきだと思います。
「何食うか……」
夜中だからそこまで脂っこいものを食いたくないが、腹は猛烈に減っている。結局、ラーメン(アッサリ系)に決定し、ずるずると啜る。
「……ねぇ、ハチ君」
「あ?」
「さっき、シュミットの質問に答えたのは……本当、だよね?」
ピタリ、とラーメンを啜る手を止める。SAO内の食事は冷めたりはするが、麺が伸びたりしない。だから悠長に話しても、温くなったラーメンが出来上がるだけだ。
「……俺がラフコフメンバーか否かって話ならさっき言った通りだ。お前らが信じるかは……」
「信じるよ」
「信じるわ」
「信じるに決まってんだろ?」
三者三用ながら意味合い的にはまったく同じことを答えた奴らに面喰らう。ちょ、こいつら無垢すぎない? 無ッ垢ル、無垢バード、無垢ホークなの?
「お前ら……マジでバカじゃねーの?」
「お、今回は捻デレじゃなくてツンデレか?」
おい、なんでクラインがその言葉を知ってる?
俺を知ってるやつの中で、造語を作るやつは……《鼠》か、もしくは……。
重度のネットゲーマーである黒の剣士を責めるように睨む。と、脂汗を流ながら下手な口笛を吹き始めた。
「キリト……。はぁ、まぁいいか……」
捻デレなんて歴代の噂の中じゃましな方だし、まぁいいか。
ラーメンか……。平塚先生は結婚できたのか? あの人独身から独神になりつつあるよ。誰か、本当に早くもらってあげて! 今もラーメン独りで食べてるかもしれないから!
不思議なことに、切ない気持ちで啜ったラーメンは、塩味じゃないのにしょっぱかった。
「……ねぇ、ハチ君。やっぱり、ハチ君もラフコフ捕獲作戦に参加してくれない?」
「え?」
捕獲作戦、ねぇ……。捕獲で済めばいいけどな……。いや、やめよう、済めばいいではなく、済まさなければいけないのだ。だが……
「……別に俺必要なくないか?」
「む、それはハチ君にデュエルで負けた私への嫌味?」
「いやばっかお前、あれはお前が冷静さを欠いていたからだ。な、攻略の鬼?」
「や、やめてよ……」
あれはキリトの格好張りの黒歴史なのか、顔を赤くして首を少し振るアスナ。あれだな、奉仕部だといつも悪口を言われる側だったからなんか新鮮な気分ではある。今なら死んだ魚の目から生きている魚の目にジョブチェンジできるかも。
「……それにしても、こいつらどうすんだ?」
チラリと眼を向ければ、眠気に負けたキリトと酔い潰れているクラインの姿が。だから酒は控えろと……。
「えっ、と……キリトちゃんは私が連れ帰るから、エイト君はクラインさんをお願い」
「へいへい」
クラインの手を動かし、フレンドリストを開く。そこからメッセージを打ち込み、クラインがギルドマスターのギルド《風林火山》のメンバーに、クラインを引き取るようにメールを送る。
「あくまで自分では動かないのね……」
「俺に男をおぶさる趣味はないからな」
まぁ、女の人をおぶさる機会もないけど……。フィリアのはやむにやまれぬシチュエーションだったしな。……状況をシチュエーションって言うと、なんかエロく聞こえます。
「ふー……ん。じゃあ、女の子をおぶさるのは?」
「き、嫌いじゃねぇな」
というかなんで俺は自分の好みを暴露してるのん? 軽く罰ゲームだろ、コレ。
「ふぅーん。嫌いじゃないって言うわりには、前にハチ君が女の子を背負ってたってキリトちゃん言ってたけどなぁ」
「あれはそれ以外に移動方法がなかったんだよ……。転移結晶使うのも勿体なかったしな」
「ふぅーん」
隠す気もないジト目で見られるのは初めての経験ゆえに処世術も判らん。眼をそらしてちびちびとカルピスみたいなものを飲む。
「……話が逸れちゃったけど、結局ハチ君は捕獲作戦に出てくれないの?」
「……判らん、としか言えん。確かにラフコフの連中がしていることは正義感がない俺でも目に余るとは思うが、好き好んで参加したいわけでもない。なにせ死にたくないからな」
「そっか。……うん、そうだよね。私も強制するつもりはないけど、参加しようと思ったら言ってね? 元々、ハチ君がラフコフだと疑われてるのは、
だが、正直シュミットが最高指揮官と言うのは不安が残る。集団に属すからこそ、人は孤立を恐れ、孤独を嫌い、孤絶を拒む。
指揮に関してはアスナがいるが、最悪の場合、人を殺せと命令しろというのは、十六、七の少女に求めるものではないだろう。
「……あぁ、解った。明日も対策会議はあるのか?」
「え? うん、あるよ。どうして?」
「いや、まぁその、何? 俺も一応参加しとくかな、って思っただけだ。いつまでもラフコフだと疑われてるのは、面倒だしな」
「ん、解ったわ。それじゃあシュミットに連絡しておくから」
さて、明日の会議、どうなることやら……。自分から参加するとは言ったが、早くも鬱だ。
「――それじゃあ、第二回ラフコフ対策会議を始める!」
二回目の会議が始まる。――俺という、不協和音を交えて。
当然、そんな存在を認めない奴らはいる。
「お、おい! な、なんでラフコフメンバーのそいつがいるんだよ!」
「勝手に決めつけんな。そもそも、俺がラフコフのトップスリーといつ、どこで、何を話してたのかを正確に知っているのか? 正確に知ってるのなら、録音結晶とかの証拠でも出してみろ。勝手な憶測で人を判断しないでくれるか? 妄想癖でもあんの?」
罵詈雑言の限りを尽くした俺の言葉に、しかし反論するものはいない。シュミットは弱味を握られているも同然のため、何も言えない。
ここまでしてラフコフの捕獲作戦に出る必要はないかもしれないが、いつ命を狙われるか分からない中圏外に出るというのもなかなかのストレスなのだ。それに、俺が直接殺されるわけではなくとも、ラフコフをこのまま蔓延させていたらSAO内のプレイヤーが減る。すなわち、攻略組のバックアッププレイヤーがいなくなるのだ。
「……じゃあ、シュミット。続きをお願いします」
「あ、あぁ。……それじゃあ、昨日の会議で決めたことの振り返りをまずしたいと思う」
昨日会議に出ていない俺への配慮なのか――多分ないが――、昨日の振り返りを話し始めるシュミット。
「まず、ラフコフの根城は五十八層のダンジョンのボス部屋だ。当然中に入ったら戦闘になるはずだ。突入は明日、最終ミーティングをした後にする」
あくまで昨日の確認のため、誰も遮ることなく、恙無く会議は進む。誰も理解していない人がいないと確認してから、シュミットはまた口を開いた。
「突入後、交戦を開始し、最終的にはこの縄アイテムで捕縛して黒鉄宮に送る、というのが一連の流れだ。ここにいる三十人ほどのメンバーはパーティーを作り、パーティーリーダーの指示に従って戦ってもらうことになる。……じゃあ、今からパーティーを組んでくれ」
なん、だと……。はちまんしってるよ、これぼっちいじめってやつだよね? なんかデジャヴだよ? 俺リーディングシュタイナーでもあんの?
あの頃と違うのは、アスナは血盟騎士団のメンバーとパーティーを組み、あの頃は攻略組にいなかったクラインがいること。同じなのは、三十二人から六パーティー作って二人の余り物が俺とキリトだったことだ。
「……取り敢えず、パーティー組みますか……」
「そうだね……」
ピッピッと慣れた手つきでパーティー申請をするキリトをボンヤリ眺めながら、横目でクラディールとかいう奴を盗み見る。
血盟騎士団だから当然だと言うべきだが、あいつはアスナとパーティーを組んでいる。
目からチラチラと覗き出るのは狂気。いや、狂愛か。向けられているのは鬼……じゃねぇや、アスナ。
「よし、全員組み終わったな? ――明日の戦闘はボス戦とは違い、個人対個人の戦いになると思う! だから正確な戦力を教えてもらいたい!」
じゃあなんのためにパーティー組んだんだよとか、要は個人情報のレベルを開示しろってことだろなんて言葉が口をついて出そうになったが、指揮系統に支障が出るかもしれないと思い直す。
「なっ……しかし、それはマナー違反では?」
「確かにそうだが、マナーを守って戦力を把握できずに適切に戦闘できなかったら意味がないだろう? 重々承知だと思うが、明日の戦いには命が懸かっているんだ」
それを言われては何も返せないのか、渋い顔をして下がるアスナ。結局、各パーティーのリーダーが代表してメンバーのレベルを教えることになった。
「――よし、最後!」
「あぁ……」
じゃんけんで負けたため名目上のリーダーになったので俺が報告役だ。
「パーティーメンバーは二名、俺とキリト。レベルは俺が九十五、キリトが九十一だ」
「そ、そうか。解った、下がってくれ」
室内が少しどよめき、またすぐに静まり返る。そんななか横を通りすぎるときに投げ掛けられた言葉はよく聞こえた。
「ビーターめ……」
ビーター、か。また随分古い悪名を出してきたもんだ。別にこいつに何かした覚えはないのだが、相当深く恨まれているらしい。
そんなことを考えながら、ボンヤリと残りの会議内容を消化した。