インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~   作:kageto

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臨海学校編ラストの前にこっちが書きあがった不思議。

もっと心理描写を書くべきだったろうかと悩んだけど、ここで切るのがベターだと判断しました。
残り10話ちょっとかな。


番外編02

 

「まったく。ふざけるのもいい加減にしてくださいね、会長。ただでさえ仕事がたまってるんですから」

 

「ご、ごめんねぇ~。ちょ~っとおふざけが過ぎただけだったのよ。たまってるお仕事ちゃんと消化するから」

 

 虚の言葉に楯無はすまなそうな表情を見せるが、またすぐに悪ふざけに走ることがわかっている為、虚は溜息を吐いて妹に割り振った仕事の進捗を計る。切羽詰った状況一歩手前だということを理解しているからか、本音は普段見せない集中力を持って仕事を消化していた。

 

(思ったより大丈夫そうね)

 

 妹の努力に頬が緩むのを感じながら、虚は自分のノルマを消化し始める。時折お茶を入れたりトイレに立ったりしたものの、三人で黙々と消化していた。

 

 コンコンコン

 

「失礼しますね。布仏さんちょっと良いですか?」

 

「はい?」

「ほえ?」

 

 ノックとともに入ってきた真耶に、姉妹揃って返事を返した。

 

「あ、えっと、お姉さんの方です」

 

 虚は、先刻の楯無に関することだろうと思い、促されるままに生徒会室を出て廊下で真耶と向かい合った。

 

「会長に何か沙汰が下りましたか?」

 

 用件に当たりをつけ先に切り出した。しかし、真耶は首を振って虚の眼をまっすぐと見た。

 

「落ち着いて聞いてください。先程、織斑君の部屋から多数の盗聴器が発見されました」

 

 瞬間、虚は姿の見えない扉の向こうの楯無に振り返った。

 

「そんな、そんな事」

 

 ありえないと続けようとしたのか、そんな事までやっていたのかと続けようとしたのか、虚本人にもわからなかった。ただ、言葉が続かなかった。

 

「事実です。そして仕掛けたのは布仏さんの予想通り更識さんで間違いないようです」

 

 謹慎か、一時的に実家に戻されての停学か。虚の頭の中にいくつかの処分が浮かび、フォローにまわされる自身と妹の苦労を計上し始めていた。

 

「それと」

 

「まだあるんですか?!」

 

 驚き、真耶に半歩詰め寄った虚から、真耶が顔を逸らした。

 

「落ち着いて聞いてください。布仏さんにも関係することです」

 

 虚は自分の顔が引きつったのがわかった。

 

「盗聴器は更識簪さんの部屋からも発見されました。その可聴範囲にはお手洗いと浴室も含まれていたことが確定情報として報告されています」

 

 目の前が真っ赤になるという表現が、比喩ではなく実際に起こることだと虚は頭の片隅で考え、そして意識する前に捨て去った。真耶の制止を振り切り、虚は生徒会室に飛び込んだ。

 

 呆気にとられていた楯無の襟を掴み、勢いに任せて壁に押し付けた。

 

「あなたはっ!」

 

 普段とは違った虚の声の荒げ方に本音も楯無も動くことが出来なかった。

 

「あなたはぁっ!」

 

 怒気に染まった虚に、楯無は察したのか抵抗しようとした力を抜いた。

 

「お、おねぇちゃん?」

 

 横からかけられた声に、虚は頭が冷えた。いや、怒気以上の感情が頭を支配した。

 

 掴んでいた楯無の襟を放し、本音に駆け寄って力の限り、それでいて赤子を抱きしめるかのように優しく抱きしめた。

 

「あぁ、あぁ、本音、本音。大丈夫。大丈夫だから。お姉ちゃんが何とかするから」

 

「お姉ちゃん?何があったの?話してくれないとわからないよぉ」

 

 虚は本音の頭を何度も撫で、放り捨てた楯無を睨み付けた。

 

「許さない。何があろうとも、たとえ私達一族が更識に仕えるモノだとしても、私はあなたを絶対に許さない!」

 

 楯無は虚に放り出されたまま床に座り込んで動く気配がない。

 

「更識。わかっていると思うが、抵抗せずについて来い。学園長から生徒会長権限の凍結と、身柄の拘束の通達が出ている」

 

 いつの間に来たのか、千冬が楯無の前に立っていた。真耶は数人の教員と入り口に立っている。

 

 楯無は何も言わず、のそりと立ち上がると、千冬に促されるままに歩き出した。

 

 状況が理解出来ずにうろたえる本音の頭を撫で続けながら虚は、自身の中に灯った黒い炎を抑えることなく燃やし続けさせていた。

 

 

「大丈夫。お姉ちゃんが何とかするから」

 




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