インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~ 作:kageto
ウインドウの端の時間を見て、簪は顔を上げた。夕食の時間になるはずなのに、誰も来ない。
「ふぅん。きみが“そう”なんだ」
唐突に聞こえた言葉に、簪は跳ねるように振り返った。
隅に置かれたコンテナの上に腰掛けたアリス。うさみみをつけたアリス。簪はその顔を知っていた。
「篠ノ之束博士」
ISの生みの親にして、人類最高の《天災》。
「うんうん。束さんは有名人だからね。君みたいなヤツでも私を知ってて当然だね。私は君の事を知らないけどさ」
束は「ぴょん」と口に出しながらコンテナから飛び降り、「すたっ」と口に出して着地した。
まっすぐ立った束は簪より頭半分以上背が高い。
「君は面白いものを作るね」
一歩、近づいてきた。けれど。
「マルチロックオンシステム。うん。それはいいものだね。この束さんが認めてあげよう。そのシステムは賞賛に値するものだって」
また一歩、近づく。想像以上に。
「けど、残念かな。時間切れだ。待ってあげてもよかったんだけど、束さんはこれ以上待てなかったんだよ」
また、一歩近づく。恐ろしさは感じなかった。
「それに君、別の道を夢見たろ?」
「別の……道」
「そうさ、そしてそれは、尊いものなんだと思うよ。束さんには理解できないものなんだけどさ」
最後の一歩、近づかれた。簪の目の前数センチに束が立っている。簪は見上げて、束は見下ろした。
自身の鎖骨あたりに押し付けられているモノに嫉妬と絶望を感じないでもない簪は、ちょっとだけ悔しそうな顔をした。
「ふふん。束さんのぐらまらすばでーはすごいだろう」
悔しいが、すごかった。
「そんなことはいいんだよ。君は残念胸だけどさ。束さんはお礼を言いに来たんだ」
簪は虚を突かれ、呆然と束を見上げた。そんな簪を束は抱きしめた。
「君の作ろうとしていたものは、私の夢に役立つものだよ。私の夢の叶わない世界で、その存在は、確かに救いだった。だからありがとう」
束はゆっくり簪から離れた。
「たぶん君の夢は、君の作ろうとしたこのコの活躍する世界は、来ない。私が壊すから。だけどこのコは、私の作る世界できっと活躍する。だから、ごめんとありがとう」
ゆっくりと束が下がっていく。
「君はいっくんと幸せに暮らすと良いよ。それが出来るように準備だけはしといてあげるよ」
「じゃあね」とつぶやいて、束の姿が消えた。簪は驚きながらも、ISのステルス機能の応用なんだろうと思う。
束との会話を思い返す。そして顔を真っ赤にして座り込んだ。「い、一夏と幸せに…………」
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