インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~   作:kageto

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連続投稿2話目
更識姉妹編最後。
かんちゃん回。かんちゃんしかない。

視点もかんちゃん。

口調が安定しない。


第22話

 私には姉がいた。優秀で、何でもできる姉。周りの誰からも認められ、慕われる。いたずらが好きで、しょっちゅう周りを困らせるけど、みんな「しかたないなぁ」といった感じで姉を許容した。学生の身ながら家督もついで当主となり、家業もこなしている。ISでは自由国籍をもってロシアの国家代表に上り詰めた。代表候補生ではなく、代表にだ。

 

 

 

 私は姉が嫌いだ。はじめはコンプレックスだった。優秀な姉と駄目な妹。いつもそう言われた。事実だった。姉と比べたら私はあまりにも出来なかった。親戚の口さがない人には「出涸らし」と直接言われもした。

 

 だが待ってほしい。私は本当に出来ない子なのか。出涸らしなのか。私は常に努力してきた。勉強も、運動もだ。中学に入る頃には高校でやる内容に手をつけるくらい先に進んでいた。中学三年間はテストで主席を譲ったことはない。学園に入るまでは毎朝のジョギングを欠かしたことはないし、筋トレも毎日やってた。

 ISが普及してからはISの勉強もして、適性試験も受けて、たくさんの訓練も乗り越えて代表候補生にまでなった。

 

 

 私は本当に出来ない子なのか。そんな疑問を持って代表候補生になった頃、姉に言われた。

 

「あなたは何もしなくていいの。私が守ってあげるんだから」

 

 ダメだった。理解した。ダメだった。納得した。この人と私は価値観が違う。見ているものが違う。住んでいる世界が違う。

 

 

 私はああはなりたくない。ああも自然に他人を見下せるイキモノになりたくはない。

 

 

 私は関わるのをやめた。アレを目標とすることをやめた。そうして初めて答えが出た。

 

 私は出来ない子じゃない。世界にどれだけ三年間学力トップで、運動も出来て、ISの代表候補生になれるオンナノコがいるんだ。私は少数派だ。トップクラスじゃないか。

 

 そう考えて、気が付かされた。アレを追いかけ続けてた私は、努力に逃げ続けてた私は、他人との距離の測り方を知らなかった。友達が、いなかった。これがネットでうわさの『ぼっち』か。悲しくなった。そして、嬉しくなった。

 私は特別なんかじゃない。普通の子達が友達を作って、遊び、友情を深め合い、恋に恋して、失恋もしたりして。そんな時間の全てを努力に逃げてただけ。振り分けるべき比率を間違えて10対0にしてしまっただけの、普通の子だった。

 

 そんな時に見つかったのが織斑一夏。世界でただ一人ISを動かせる男の子。

 IS学園に入学するんだろうなとは思ってた。けど、関わることはないのかとも思ってた。そんな矢先に来た連絡が「織斑一夏が政府に専用機を要求して、政府がこれを許可した。そしてその製作をうちがするようにとの命令が出た。だから君の専用機の開発は一時凍結になった。すまない」だった。

 

 倉持技研第二開発室。いつもは人であふれてたこの部屋が、今は私一人。そして作りかけの弐式。がんばってみようと思った。私一人じゃ無理だとわかってる。いずれは誰かの手も借りないといけないだろう。でも最初のところくらいは私ひとりで出来るだけがんばってみようと思った。そこまでがんばれた私なら、誰かに手を貸してもらう事もがんばれるかもしれないから。

 

 

 

 入学してすぐ、学園に許可をもらって格納庫のスペースを借りて、整備室の使用許可も取って、いざというところで、邪魔が入った。原因はアレだった。

 

 1年早くIS学園に入学した姉は、早々に最強の力を持って生徒会長の座に就いたそうだ。それは去年のうちから知っていた。だけど、いたずらが過ぎたらしい。最強が生徒会長に就くことには異論はないけど、いたずらによって引き起こされるトラブルは許容できないそうだ。私に言うな。そう、私に言うな。2、3年の先輩達が『会長の妹の私に』何とかするように言ってくれと、何人も来た。中には脅すようなセリフをはく人もいた。私は関係ないだろう。家族に言って何とかなるんだったら、世界中の悪徳政治家の家族のところに行って来いっていう話だ。

 

 だがそれ以上に邪魔だったのが姉本人だ。去年一年は姉が寮生活ということもあって平和だったんだが、私も同じ寮に入った今年、姉は過保護をこじらせていた。だが、私が姉に見切りをつけたことを感じ取ってはいたらしく、物陰からチラチラ覗き見るだけ。学園生活のうち3分の1は姉に見られている。ストーカーだ。イライラがつのる。私に関わってないで仕事をしろという話だ。姉のストーキングを不審がる先輩から何とかしてくれといわれた。私に言うな。本当に私に言うな。

 

 たった半月の学園生活でストレスが恐ろしいことになってたときに、織斑一夏に会った。というか、織斑一夏が私の部屋に来た。ちがうかな。私達の部屋に、ルームメイトである本音を訪ねてきた。

 

 私は以前、気になったことがあった。織斑千冬という優れた姉を持つ彼は、ストレスを感じないのだろうか?と。だから弐式のことはとりあえず置いといて聞いてみようと思った。

 まぁその後のことはちょっと黒歴史だ。初対面で愚痴をぶちまけるとか、恥ずかしいにもほどがある。だけど、友達が出来た。初めての友達だ。まぁ、本音がいないわけではないんだけど、あの子はあんな風でも私付の使用人という立場を最後の一線で保っている。だからどれだけ仲がよくても主人と使用人の関係を越えることはないんだと思う。で、一夏だ。私が胸の奥に溜め込んでたものの一部を受け止めてくれた。

 

 救われた気が、した。

 

 私は私のままで良いんだと言われた気がした。

 一夏と友達になってからあっという間に、他の友達が出来た。その全てが他のクラスの子だったけど。そしたらクラスの子とも話すようになった。すごいことだと思う。たった一人友達が出来ただけなのに、あっという間に友達が増えた。クラスの子からも「友達じゃん。なんかあったら手伝うよ」と言ってもらえた。その後の「更識さんはちょっと抜けてて心配だもん」という言葉は納得出来なかったけど。

 

 私は、私が取りこぼした時間を取り戻せはじめたんだと思う。人との距離の測り方をこれから学んでいく。

 

 そのきっかけを作ってくれたのは、一夏だ。最初の友達。私のヒーロー。私の、大事な人。人との距離に疎い私には、この想いが恋なのか憧れなのか、はっきりとはわからない。だけど、だからこそ、大事に育てていきたいと思ってる。

 

 

 

 

 

 そう、だから。私は牢屋格子の向こうに転がされている、『姉だった人』を見下ろした。

 

 

 

 

「無様だね」

 

 吐き捨てた言葉に返事はない。手足は拘束され、口かせもかけられているから当然だ。

 

「ロシアの国家代表資格を剥奪されたんだってね。あわせて国籍もなくなったそうで」

 

 出てくる言葉は自分のものとは思えないくらい冷たい。

 

「更識の家はとりつぶしが決まったよ。私は当主になることを放棄した。私には縁のない世界だと思ってるから」

 

 私は私の選んだ道を生きていこうと思ったから。

 

「どこもかばってはくれなかったんだって。むしろ取り潰しに積極的だったそうだよ。父さん達も」

 

 そう、両親も更識家をつぶすことに積極的に動いてた。責任を更識楯無に押し付ける形にすることで、自身に責任がかぶるのを回避したらしい。

 

「昔はさ。姉さんのこと好きだったよ。何でも出来るすごいおねぇちゃん。憧れだったんだと思う。けど、それが苦痛になっていって。今は嫌い。私の大切な友達を盗聴するだなんて。それも、私を理由にして」

 

 唯一自由な目から、ぼろぼろと涙がこぼれてる。でも、許さない。同情もしない。

 

「なにもかもが私と違うと思ってたけど、人との距離の測り方をわかってないってところだけは、私達そっくりだったんだね」

 

 私は踏み込み方を知らなくて、姉は踏み込み方を間違えてた。

 

「最後の最後でちょっとした発見だったよ」

 

 最後という言葉に反応したのか、目を大きく見開かせた。

 

「父さんと母さんは、姉さんを最後まで世話するためにここに残るそうだけど、私はもう戻ってこない。更識の家には子供は一人しかいなかったってことになるみたい。じゃないと私、代表候補生でいられなくなるから。私が自分でつかんだモノ、手放さないよ」

 

 だからこの後、この家の敷地を出たら、私はこことは関わりのない人間になる。戸籍上は孤独だ。一夏の立場に似た立場になることを嬉しく思うのは、私が歪んだからかな。

 

「だから、さよなら。私の姉だった人」

 

 踵を返して、座敷牢を後にした。

 

 

 

 

 無性にみんなに会いたくなった。鈴がいて、シャルがいて、本音がいて、そして一夏がいる。いつものあの場所が恋しくて仕方ない。

 




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