インフィニット・ストラトス ~ダークサマー~ 作:kageto
はめられた。この数ヶ月繰り返し心の中で呟いた言葉をまた呟く。そもそも、受験当日の朝だ。前日に確実にセットしたはずの携帯のアラームがなぜか切れていて、目覚ましの時間がずれていた。バスは不自然な事故(未だに原因不明)による渋滞に巻き込まれ、3分前に滑り込んだ会場には遅刻者に対応するはずの受付の人間が居らず、教室もなぜか奥まった部屋で、普通だとわからないところになっており、探し回って入った部屋にこれまたなぜか、待機状態のISが鎮座していて、またまたなぜか一枚だけ異様に磨かれたタイルに足を滑らせてISに触れてしまったら、さらになぜか男である俺に反応してISが起動したと。そのタイミングで奥から研究員が出てきて俺を確保。手際がよすぎるんだ。クソ。はめられた。
「......くん。......ちかくんっ! ......織斑一夏くんっ!!」
思考の海から呼び戻される。なにやら呼ばれたらしい。スッと視線を上げて目に入ったのは胸。この角度から見て顔より先に胸ってどうよ?だがまぁ、俺も男だ悪い気はしない。それにこの人。山田先生は嫌いではない。むしろ好感が持てる。人間的に。
「あっ、あの、お、大声出しちゃってごめんなさい。お、怒ってる? 怒ってるかな? ゴメンね、ゴメンね! でもね、あのね、自己紹介、『あ』から始まって今『お』の織斑君なんだよね。だからね、ご、ゴメンね? 自己紹介してくれるかな? だ、ダメかな?」
「いえ。すいません。考え事をしていたので順番に気が付きませんでした。自己紹介ですね。わかりました」
立ち上がり、机の横に立ち回れ右。振り返った視界には女子だけ。あぁ欝だ。
「織斑一夏です。よろしく」
ここまで言ったときに教室のドアが開いた音がする。
「今教室に入ってきた、恥知らず常識知らずコンビの片割れにはめられてここに入学することになりました。ISに興味はありません。乗りたくもありません。むしろここにいてすみません」
背後で振りかぶる音がする。タイミングを合わせて振り向く。眼球の1センチ前に出席簿が停止する。
「だれが恥知らず常識知らずコンビだ」
「織斑先生。叩くなら角を使って振り抜いてください。せっかく眼球が直撃するように振り返ったんですから。先生の膂力なら失明して入院。教師による暴力を隠したい学園側に、俺の自主退学を認めさせるための交渉のカードになるんですから。後、恥知らず常識知らずコンビは織斑先生と、そこで我関せずという雰囲気を出している篠ノ之箒の姉である篠ノ之束ですよ。まさか自覚なかったんですか?この家事無能者。女ならせめて部屋の片づけくらい最低限出来るようになれ。この腐海製造機。あと、忘れないうちに伝えておきます。あなたを保護責任者から外すための話し合いの場を弁護士を交え設けます。後日、日時を弁護士を通じて連絡しますので予定を空けてください」
改めてクラスメートに振り返る。
「と、いうわけで。こいつらにはめられてIS学園に入学する破目になりました。織斑一夏です。好きなことは平穏。嫌いなことは厄介ごとと、行き過ぎた女尊男卑。退学するまでの短い間ですがよろしくお願いします」