でもディオ様の受難はまだまだ続くよ！
今回の船旅は薄暗くかび臭い船の底ではなく、ちゃんとした客室にいる。
例の「ベッドルーム」も運び込ませてあるが流石に客室には入れられなかったため荷物扱いだ。
石仮面も手元にある。
諸々の事情により「石仮面は一つではない」事が今回分かったが、これを壊す気にはならなかった。
ジョジョに引きずられ無理矢理席につかされた会食場を出て甲板に出る。
自分がやらずとも、ウインドナイツの事件は起きた。
忌々しいので詳細は思い出さないが、自分以外が世界を手にするなど滑稽すぎて鼻で笑える。
潮風にあたりながら真っ暗でまるで底なしのような海を見る。
おそらくここが、これから長い付き合いになる海だ。
そうこうしている内に中から悲鳴や怒声、何かが倒れる音、ガラスが割れる音が聞こえてきた。
始まったのか。
突然の惨劇。
ゾンビどもから逃げ惑う人間達。
刃向かうゴミくずを払いつつこの先を予想して食事をして船底に来てみれば、血まみれで倒れているジョジョが居た。
その傍らにはエリナが膝をつき、今正にジョジョを抱き締めようとしている。
もう直ぐ息絶えそうなこいつの側まで歩き見下ろす。今度は自分の体の上から。
「何を勝手にやられている、このまぬけ」
「はは…こんな、時まで…手厳しい、な…」
ここにおれとお前が揃っている。
確かに歴史の通りだ。過程は全く違うが。
機械に目をやればスクリューシャフトを止めようとしている体だけがあった。
流石にここまできて何かをしようと足掻く気にはなれんな。
じわじわと死んでいく感覚はおぞましいものだ、最期くらいは楽に逝かせてやろう。
手を構えるとジョジョは頷き、エリナは涙を流しながらもそっと立ち上がりおれの後ろへと下がる。
手を振り上げた瞬間、どこからかビームのような攻撃を受けた。
脳天を打ち抜かれて一度動きが止まる。
攻撃の先を見ると、波紋により溶けかけた男らしき頭が笑っていた。
くそがっ、踏み潰してやりたいがあれではこっちの足がダメージを食らう！
このちょっとした間に船は限界を迎えたらしく、派手な爆発が始まった。
いかな吸血鬼といえども地面に立っている以上、地面が揺れれば己も揺れる。
爆発の衝撃に吹き飛ばされエリナを庇うような形になったがそこは今はどうでもいい。
ジョジョはどうした！？
「え、えーと…か、被っちゃった」
しっかりした動作で体を起こすジョジョの隣には石仮面。
気まずそうに笑うこいつに時間が止まる。
…石仮面。
どんなミラクルが起こった！！？
「ジョジョ、このままでは朝日が昇ります。ディオと二人であの箱へ！わたくしはこの赤ん坊を抱いて脱出します」
「あれはディオの用意していた…。流石ディオ！そこにシビれる！あこがれる！…ごめんエリナ、ちょっとだけ血を貰ってもいいかい？」
「構いません。多少時間がかかろうと、必ず引き揚げてみせます。それまで待っていて下さい」
「ああ、待っているよ。ディオと一緒ならきっと退屈しないさ」
「まぁ、羨ましい！わたくしにもディオを独占させて下さいね？」
馬鹿夫婦が何やら言っているが呆然としている自分の耳には入っていない。
ああそうだ、入っていない！脳が理解していなければ聞いていないと同じ事！
気がつけばベッドルームの中にむさくるしい男が二人。
時間が分からなければうかつに蓋を開ける事が出来ない。狭い！暑苦しい！痩せろこの筋肉だるま！
二人でのんびりしようとかお前正気か！？
…正気じゃないのかもしれん。この素晴らしい頭脳をもってしてもこいつの頭の中は意味不明過ぎる。
確かに、確かに歴史とだいたい一緒だ。
おれの頭(自分の肉体つき)とジョジョの肉体(頭つき)は一緒に箱の中、おまけに両方とも吸血鬼だ。
ああ、一緒だとも。余計なものさえついていなければな！！
他人を頼るなど有り得ないと思っていたが今だけは願わずにいられない。
エリナ、早く引き揚げてくれッ！
ちなみに。数十年経った後、蓋を開けて大量の血をぶちまけ起こしてくれたのはジョセフの老いぼれだった。
正確にはジョセフの老いぼれになる予定の少年、だが。
ジョジョの小さい時よりはマシな面構えだ。
おれ達を抱き締めるエリナを支えながらぼんやりと思う。
どうしてこうなったのか、と。