仮面ライダーになった   作:ユウタロス

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第八話 普通の日常

「よっ! 元気してたかショウイチ?」

 

 ――蟻型ロードの群れを倒した翌日の放課後、俺は皆が帰った後の教室で1人反省文を書いていたのだが、不意に教室の出入口から聞いた覚えのある声がかけられた。振り返ってみれば、なんと其処に居たのは堕天使のボスであるアザゼルだった。

 

「……アザゼル? どうしてお前がここ(駒王学園)に居るんだ?」

 

 以前プリムに説明されたし、何よりもコイツ自身が言っていた筈だ。ここは悪魔(リアス・グレモリー)の領地だ、と。いくら近い内に同盟を結ぶ予定とは言え、敵対組織のボスがひょこひょこと頻繁に訪れて良い場所では無い筈だ。

 見るからに高級そうな浴衣に身を包んだアザゼルは俺の前の席に腰掛け、愉快そうに笑う。

 

「いやいや、ちょいと散歩がてらに新参者の下級悪魔くん達にアドバイスをしてやろうと思ってな! ついでに聖魔人様の様子も見に来たって訳さ」

 

 そんなコンビニに行くようなノリで敵対勢力の領地に来たと言うのか、このオヤジは。と言うか、コイツ今俺の事“聖魔人”って呼んだ?

 

「何だよその“聖魔人”って?」

「魔人にして聖人、縮めて“聖魔人”だ。まったく、本当に皮肉が利いてるよなぁ、お前さん。最初の聖人以来、かつて無い程に神の意思に愛された男が、かつて無い程に悪魔の始祖に愛されてるって言うんだからな。多分お前さん見たいな奴は二度と生まれてこないだろうな。最初で最後、まさにΑGITΩ(アギト)だ」

 

 そう答えてアザゼルはカラカラと笑う。いや、人の事をそんなポケモンみたいに略すな。と言うか、“魔人”って蔑称なんじゃ無かったの? 蔑称と敬うべき聖人を纏めて呼んだら聖職者が怒り狂うと思うのは俺だけ?

 

「だからこそだ。これから天使も悪魔も堕天使も仲良し子よしでやってこうって言ってんだ、そう言う差別意識の芽は早い内に摘み取っておきたいのさ」

「…まあいい、俺はプリムの隠れ蓑だからな」

「おうおう、お熱いこって……ま、そんな心配すんな。曲がりなりにもお前は神の子で悪魔の子(敬われるべき者)だからな。直接的な危害は加えられんよ。少なくとも三大勢力にはな(・・・・・・・・・・・・)

 

 …嫌に含みのある言い方をするじゃないか。つまり、人で天使で悪魔の俺は三大勢力以外にしてみれば格好の的と言う訳か。

 俺が苦い表情になったのを見たアザゼルは急に真面目な表情になったかと思うと、周囲を伺ってから“耳を貸せ”と言ってくる。先程までのおちゃらけた雰囲気は一切鳴りを潜めていて、これから重要な話をしようとしているのがありありと伝わって来る。やだなぁ、聞きたくないなぁ……

 

「……最近、どうもキナ臭い連中がウロチョロしていてな。名前は『禍の団(カオス・ブリゲート)』。存在自体は大分前から確認していたんだが、最近は一段と活動が顕著になってきやがってる。しかも『神滅具(ロンギヌス)』持ちも何人か加わっていやがる……質が悪いテロリスト共だ」

 

 『神滅具』……確か神器の中でもトップクラスに強力な効果を持った13種の事だった筈。え? それが複数テロリストの手に渡ってるの? それヤバくない?

 

「予想以上に最悪の展開だな……それ、和平同盟のせい?」

「多少はそうだろうな。何時の時代も勢力と勢力が和平を結ぼうとすると、それを面白く思わない連中が邪魔するモンさ」

「“邪魔するモンさ”じゃ無くて。存在を知ってるんだったらサッサと対処しろよ」

 

 至極真っ当な意見を言ったつもりだったのだが、アザゼルは苦笑する。

 

「無理だな、相手の勢力がデカ過ぎる。堕天使勢だけじゃあ勝てないし、万が一勝てたとしても今度は悪魔と天使から袋叩きで全滅必須だ」

「いやいや、目の前に脅威が迫ってる時くらい団結して……あぁ、だから和平か」

「そう言うこった……所で、お前さん、さっきから何書いてんだ?」

 

 俺の手元を覗き込んでくるアザゼル。鬱陶しい。

 

「反省文。勝手に授業ブッチして申し訳有りませんでしたってな」

「お? 何だ、真面目に見えて案外……ああ、ロードか。大変だな、お前さんも」

「分かったらサッサと帰れ、俺は忙しいんだ。情報は感謝するけどな」

 

 察したアザゼルが憐憫に満ちた同情の視線を向けて来るが、大きなお世話だ。

 シッシとアザゼルを手で追い払う。俺だって好き好んで授業を放り出した訳じゃ無いし、いい加減に帰りたい。駐車場でトルネイダーが首を長くして待っているのだ。

 

「へいへい、分かった分かった。んじゃ、俺はもう帰らせて貰うぜ」

 

 アザゼルはそう言うと閃光と共に消え失せた。流石に堕天使のボスなだけはあるな、消え方が様になってる。等と考えながらも筆は休まず、そこから15分程で反省文が書き終わる。それにしても、まさかこの年齢になってまで反省文を書く事になるとは思わなかった。……まあいい、後はこれを山田先生に渡して帰るだけだ。

 

 

 

                      ΑーΩ

 

 

 

 ……等と思っていた時期が俺にもありました。

 

「……すみません、外神先輩……お時間を取らせてしまって」

「いや、気にしなくていい」

 

 反省文を山田先生に渡し終え、駐車場に向かった所で、現在俺の前で申し訳なさそうに縮こまっている、先日蜂型のロードに襲われていた後輩のお下げの少女――桐生藍華(きりゅう あいか)に相談があると捕まった。

 正直面倒臭いので適当にあしらって帰ろうかと一瞬考えたのだが、目の下の隈や少し痛み気味の髪からして、割りと深刻そうなのでとりあえず話だけでも聞いてみる事にしたのだ。

 

「……それで、相談とは?」

 

 憔悴した雰囲気の彼女を中庭に設置してあるベンチに腰掛けさせ、自販機で購入してきたイチゴ牛乳を手渡して相談事の内容を聞いてみる……まあ、なんとなく察しは着くんだが。

 

「……最近、嫌な夢を見るんです」

「夢? 内容は?」

「……夢の中で私は町外れの廃教会で、人型の蜂の様な怪物に襲われて、逃げ惑っているんです」

 

 ……予想通りか。まずいな、暗示が解けかかってる(・・・・・・・・・・)

 今更な話になるが、俺はロードに襲われた人、特に未成年の少年少女に対しては“怪物(ロード)に襲われた”という記憶をギルスの能力の一つである催眠術でもって封じている。無論、これが俺の善意の押し付けであると言う自覚はあるが、なにも好き好んで年頃の子供が嫌な経験を覚えておく必要は無いと思うのだ。ロードに襲われたと言う経験から学べる事なんて何一つ無いし。

 

「それで、どうして俺にその話を?」

「逃げてる途中で転んでしまって、もう駄目だと思った時に、その……バイクに乗った先輩が助けに来てくれたんです……」

 

 まずい、記憶が殆ど復活してる。ギリギリで夢だと思っているみたいだけど、これじゃあ何かの拍子に完全に記憶が蘇りかねないぞ……どうするか……肝心の、俺がギルスである事は思い出していないみたいだが……

 

「成る程、だから俺に相談を……」

「夢だって事は分かっているんです。でも、私、その夢を見始める様になった日の放課後、何をしてたのか記憶が無くって……」

 

 え、催眠術、かけた当日に破れ始めたの? ……こうなったら、もう一度催眠術をかけよう。今度は記憶の封印じゃなくて、“あの日の出来事は荒唐無稽な白昼夢である”と言う暗示にして。何回も記憶操作したら精神的に負担がかかるかもしれないし、意識操作ならそこまで負担がかからないはずだしな……

 

「……ありがとうございます、先輩。なんか、先輩に話したら気が楽になってきました。こんな事、私のキャラ的に友達には相談出来なかったから」

「気にしなくていいさ、困っている後輩を助けるのは先輩の義務だ……と言うか、俺はそもそも何もしていないぞ?」

「いえいえ、“誰かに話を聞いてもらう”と言うのは、先輩の想像よりもずっとありがたい事ですから!」

 

 勢いよく立ち上がった桐生は、先程よりも大分すっきりした表情をしている。まあ確かに、腹に溜め込みっぱなしじゃあ録な気分にならないか……よし。

 

「桐生、これを」

「へ? これ……メールアドレス?」

「俺の携帯のだ。嫌な事や困った事があったら、何時でも連絡しろ。愚痴くらいは聞いてやれるぞ」

 

 渡したのは携帯の電話番号とメールアドレスをメモした紙だ。一度記憶操作をした以上、アフターケアはやって然るべきだろう、年長者な訳だし。

 メモを受け取った桐生は数秒目をパチクリさせたかと思うと、急に顔を赤くしてあわあわと狼狽えだした。う~ん、近所のほっぽちゃんみたいだなぁ……

 

「あ、ありがとうございますっ! え、えっと、大切にしま、ふにゃっ!?」

 

 あ……しまった、ほっぽちゃんをあやすのと同じ感じで、極々自然に桐生の頭を撫でてしまった……マズい、気分を悪くさせてしまったか……?

 

「……すまん、つい癖が…」

「い、いえっ! せ、先輩がやりたいんだったら……」

「いや、いやいや、勘弁してくれ。俺は変態呼ばわりされたくない」

 

 ただでさえ近所の奥様方の間じゃあ『外神翔一ロリコン説』が蔓延っているんだ、これ以上不名誉な称号を付けられるなんて堪ったモンじゃない!

 

「ふむ、もう相談は無いようだし、俺はそろそろ行かせてもらうぞ。桐生も早い所家に帰ってぐっすり寝ろ。そんな隈作ってたら、折角の可愛い顔が台無しだからな」

「か、かわ……」

「じゃあな」

 

 再び顔を赤くして狼狽えている桐生に別れを告げ、トルネイダーのエンジンに火を入れる。さて、大分時間喰っちゃったし、急いで帰らないとな……

 

 

 

                      Α-Ω

 

 

 

「――それで、後輩の女子生徒を口説き堕とした、と……」

「いえ、あの、別に口説いたつもりは……アッハイ、何でもございません」

 

 帰宅後、事の顛末を語った所、プリムが凄くご機嫌斜めになった。解せぬ。

 

「……まあいいわ、貴方がお人好しの天然なのは承知の上だもの。ショウイチ、今週末は私に付き合いなさい」

「え、いや、俺ほっぽちゃんに零戦のプラモ作ってあげる約束が「良いわね?」Yes your majesty……」

「よろしい。デート、楽しみにしているわよ?」

 

 そう言うとプリムは再び工房に引っ込んで行った。いや、まあ、別に遊びに行くのは構わないんだが、やはり子供との約束を破るのは男としてどうかと思う。仕方ない、零戦は今日から徹夜で作るか。なんか、今日は踏んだり蹴ったりな1日だったなぁ……

 

 




>イチゴ牛乳
イチゴと牛乳、練乳をミキサーで混ぜ合わせて作るビタミンたっぷりな素敵な飲み物。
どっかの平行世界では二天龍の赤い方が愛飲しているらしい。


>ほっぽちゃん
外神家のご近所さんである深海家の三女。真っ白なワンピースと手袋を愛用している6才児。
深海家の長女と次女が仕事で家を空けがちな為、良く外神家に預けられる。
本名は深海北姫。レシプロ飛行機と菱餅が好きと言う渋い趣味をしている幼女。
なお、船艦はあまり好きではなく、海自の提督をやっていた外神父は嫌われている


元ネタは『艦隊これくしょん』の『北方棲姫』。ぅゎょぅτ゛ょっょぃ。


はい、と言う訳で第八話でした。

え、話が短い? ハハハ、バカ言っちゃいけない、これが本来の仕様です(汗)

無事に引っ越しも完了したので、今後は週一更新で逝きたいと思います。これからも宜しくお願いします!

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