仮面ライダーになった   作:ユウタロス

8 / 19
第七話 超越感覚の赤

 さて、昨晩は堕天使のボスと遭遇したり天使のリーダーと遭遇したり『ミカエルの加護』を掌握したお陰で新しい力を手に入れたりと2、3時間に詰め込めるだけ詰め込んだとでも言いたげな濃密なスケジュールでクッタクタだったのだが、今日も4時起きでパン生地を捏ねている。町のパン屋にそんな事は関係無いのである。

 

「しょーいちー、焼けたよー」

「はいよ」

 

 本日も開店直前にパンを焼き上げ、速攻で陳列。何時もの如く勝手口から店頭に向かったのだが……なんか、明らかにお客さんの数が多い。普段は大体3~40人位のお客さんが並んでいるのだが、今日は明らかにその3倍は居るのだ。

 

「あ、おはようございます先輩!」

「あ、ああ、元浜か、おはよう…なあ、今日は何かあるのか? 何か、何時もより明らかにお客さんの数が多いんだが…初めて見るお客さんも多いし…」

 

 店のシャッターを上げながら、例の如く行列の先頭を陣取っている元浜(ロリコン)に問い掛けてみる。と言うか、毎朝先頭に居るけどコイツ一体何時から並んでるんだ?

 

「ああ、そりゃあアレ(・・)ですよ」

 

 苦笑しながら行列の中程を指差す元浜。なんだなんだと思いながらそちらに目を向けた途端、思わず固まった。

 そこには外人のお客さんが佇んでいた。相当な美人さんだが、凛々しく引き締まった表情の為か鋭いナイフの様な印象を受ける、長い銀髪を両サイドで2本ずつお下げにして垂らしている人だ。いや、それはまあいい。問題はその服装だ。

 

 黒いワンピースを基調としてその上から純白のエプロンドレスを纏い、履いているのは編み上げブーツ。そうーーメイド服である。何でメイド? と疑問が湧くのだが、とにかくメイド服である。しかも、立ち振舞いからしてかじった程度のコスプレイヤーではなく、どう考えても本職のメイドさんである。

 周囲を見渡せば、だらしない顔をした男共がまるで蛍光灯に引き寄せられる羽虫の様にふらふらと列に並んでいく。この町の男にはスケベしか居ないのだろうか…?

 

「いや~、メッチャクチャ美人っすよね、あのメイドさん!!」

「ああ、うん、まあ、そうだな……」

 

 もう面倒なのでテンションの高い元浜には適当に同意しておく。見てくれはどうであれ、ウチで買い物する分には立派なお客さんなのだ。

 シャッターを完全に開けきってからレジに向かう。どうもご贔屓さん達の間では“俺がレジに着いて初めて開店”、“一度に店内に入るのは8人まで”と言う暗黙のルールがあるそうで、誰も駆け込み入店しようとしないのである。従業員としては有り難い話だ、ドカドカ入店されると埃が舞うのだ。

 

 

 

                       Α-Ω

 

 

 

「――お次のお客様どうぞ」

 

 幼少より培った高速レジ打ちでもってお客さんを捌いていた所で、とうとう問題のメイドさんの番が回ってきた。さっきは気付かなかったが、紅毛で長身長髪の笑顔の爽やかな外人さんも一緒に居る。このメイドさんのご主人様だろうか?

 

「苺ジャムパンが一点、モンブランが一点、ドーナツが一点、アップルパイが一点――」

 

 トレーを受け取り精算を始めたのだが……お買い上げ頂いた商品の尽くが昨日アザゼルが買っていった物と被る。昨日は結局ブラックコーヒー10杯は飲んでいたが、胃は大丈夫なのだろうか?

 

「――以上14点で、お会計2670円になります」

「こちらのお店は、カードは使えますか?」

「あ、はい、ご使用いただけますよ」

 

 意外に思われるかもしれないが、ウチ(アウターゴッド)ではクレジットカードでの精算が可能である。この駒王町は高級住宅街に隣接している為か、ちょくちょくこう言うお客さんも訪れるからだ……それと、親父の元同僚の方々も来るしね。

 

「では、コレで」

 

 ポン、と差し出されたカードを思わず二度見する。

 

「…? 何か問題が…?」

「あ、いえ、失礼しました」

 

 訝しげな顔をしたメイドさんに謝って精算を済まし、手早くパンを袋に詰めて差し出す。

 客商売の身としては失態極まりないが、思わず固まってしまった。なにせ、差し出されたカードがまさかのア○リカン・エ○スプレス・セン○ュリオン・カード――所謂、『ブラックカード』だったのだから。しかもチタン製(ご本人様専用)。一般庶民には絶対縁の無いカードを、言っては何だがこんな若い女性が持っているとは……ちょっと資本主義と言う名の格差社会に絶望しそうになった……しかし、あのメイドさんのご主人様……

 

「どっかで見た覚えがあるんだよなぁ……」

「息子よ、追加のパンが焼けたぞ」

「あ、はいはい」

 

 “焼き立てはお熱い内に”がモットーの親父に呼ばれ、慌てて厨房に向かう。どうにもさっきの人が気にかかるが……まあいい、多分思い過ごしだろう。あんなに目立つ人だ、一度会えば忘れる訳が無い。

 

 

 

                       Α-Ω

 

 

 

「……思い出した」

 

 今日は駒王学園の授業参観日である。この学園は割とフリーダムで、この授業参観も正しくは公開授業とでも呼ぶべきものだ。と言うのはこの行事、生徒の両親は勿論の事、中等部の生徒までもが見学に来るからだ。

 まあ、生憎我が外神家は親父もお袋もプリムも普通にパンを焼いているのだが…それは置いておいて。俺が何を思い出したのかだが…

 

「頑張れリーアたん……!」

「良いぞリアス、その調子だ……!」

 

 我がクラスメイトにしてこの学校を取り仕切っている影の支配者、リアス・グレモリーが現在顔を手で覆って机に突っ伏している。理由は簡単、後ろで彼女を応援している二人――紳士然とした初老の男性と、先日来店したメイトさんのご主人様による熱い応援(公開処刑)の為だ。

 

「お兄様も、お父様も……ッ!」

 

 絞り出すような呻き声からも分かる通り、あの二人は彼女の父兄である。彼女とお兄さんの顔を見比べてみて、漸くあの人がリアス・グレモリーに似ていた事を思い出したのだ。あんな見事な紅髪の持ち主はそうそう居ないだろうに、何故気付かなかったのだろうか?

 

「これだから参観日は嫌なのよ……」

 

 尚も呻くリアス・グレモリー。ああ、君の気持ちは良く分かる、痛い位に良く分かるとも。え? お前の両親は来てないだろ? ああ、確かに来てないさ、両親は(・・・)な。

 

「しょーいちー、カッコいいよー、流石わたしの弟だよー」

 

 嬉々とした表情を浮かべながらビデオカメラで俺を撮影している姉上を横目でチラリと見て溜め息を吐く。ええ、姉上は本日講義が休みなのです。全く、何が楽しくって高校3年生にもなって授業風景を家族に撮影されねばならないのか……

 そんな風に益体も無い事を考えながら担任の山田先生の板書をノートに写していた所で、脳裏に鋭い煌めきが走る。

 

「ッ!!」

 

 勢い良く立ち上がった為か、ガタンッと大きな音と共に椅子が後ろに倒れ、何事かと皆の視線が俺に殺到する。しかし、そんな事を気にしている場合ではない――ロードが来たのだ。

 

「え、ええっと。と、外神君…? どうかしたんですか…?」

「すみません、山田先生。体調が悪いので早退させて頂きます」

 

 いきなり立ち上がった俺にビクビクと怯えながら問い掛けてくる山田先生にそう答え、手早く机の上の荷物を片付けて教室を出る。

 

「行ってらっしゃい、気を付けてね?」

「…うん、行ってきます」

 

 すれ違いざまに姉さんと挨拶を交わし、駐車場まで全速力で駆ける。

 

「ええっ!? ちょ、外神君? 外神くーん!?」

 

 開いた窓から山田先生の悲痛な叫び声が聞こえて来る。姉が高校生の頃からお世話になっているだけに申し訳無さで胸が痛いのだが、一分一秒の遅れが誰かの死に繋がるかも知れないので聞こえなかった事にして相棒のエンジンに火を入れる。流石に駐車場で相棒を走らせる訳にはいかないので、校門を出ると同時に相棒に飛び乗り走り出した。

 

 

                     ΑーΩ

 

 

 相棒に乗って走り出してから数分、頭に響く煌めきが激しくなってきた。恐らくもうすぐロードが居るのだろう。遠距離型や飛行型だったりした場合、そろそろ奇襲を受けてもおかしくはないな……

 周囲を見渡すが、幸いにも人通りは無い。それなら……!

 

「変身ッ!」

 

 下腹部のベルトの両端のスイッチを押し込むと、ベルト中央の赤い石から溢れた光が俺を包み込み、炎の如き赤い鎧と化した。うむ、これぞまさに仮面ライダーだな。前のギルスも格好いいには格好よかったのだが、どうしても禍々しさが抜けなかった。具体的に言うと顔とか色とか触手とか鉤爪とか触手とか触手とか触手とか。助けた子供に“またお化けだぁ”とガチ泣きされたのには傷付いた。

 そんな事を考えながら走っていたのだが、ここでふと衝撃的な事に気が付いた。

 

『あれ!? レイダーお前どうしたッ!?』

 

 なんと、レイダーの車体が水生生物の如きオフロードバイクの様なフォルムから一転して、元々の車種であるファイアーストームを更にスタイリッシュにした、龍を思わせるフォルムに変化していたのである。おまけに濃淡なグリーン色であった車体も俺と同様に黄金と赤色に染まっている。と言うか、どうしてすぐに気付かなかったんだ俺は!?

 

『――――――!』

『いや、“イメチェンです!”ってお前…変わり過ぎだろ。まあ、前よりもカッコ可愛くなったけどな』

『――――――!』

 

 無駄にエンジンを荒ぶらせるレイダー。考えて見れば、元々こいつは俺のギルスの力を受けて変化した姿なのだから、俺がアギトになればレイダーも変化するのは当然か。しかし、そうなるとレイダーって呼び名もアレだよなぁ……よし。

 

『――トルネイダー。お前の名前は今日から『マシントルネイダー』だ!!』

『――――――!』

 

 フフフ、“カッコいいー!”か。気に入ってくれたようで何よりだ。けどな、トルネイダー。いくら嬉しいからって公道走ってる最中にウィンカー点滅させまくるのは止めてくれ。

 

 

 

                     ΑーΩ

 

 

 

 レイダー改めトルネイダーのスタイリッシュイメチェンから数分。目的のロードを見付けたのだが……

 

『……まさか同種で群れを作るとは…』

 

 現在俺が居る地点から凡そ500メートル程離れた小川の中程には十数匹の蟻型のロードが屯していたのである。これは今までに経験した事の無い状況だな…さて、どうするべきか。

 流石にどんな能力を持っているのかも分からない敵の集団に無策で突っ込むのは無謀が過ぎる。ううむ、ギルスの時だったら遠距離から触手でじわじわ削ってから残った相手を屠殺するのだが、生憎今は飛び遠距離攻撃の類は……いや、待てよ…?

 

『トルネイダー、前に駒王学園の結界をぶち抜いた時のバリアは使えるか?』

『――――――!』

 

 よし、出来るのなら話は早い。

 トルネイダーの正面に半透明のバリアが形成されると同時にアクセルを全開にして最高速度まで一気に加速する。やはり変わったのは見た目だけでは無い。スピードも馬力もレイダーだった頃とは段違いだ。

 

『ギギッキキキキッ!』

 

 蟻型のロードの一体が俺達に気付いて叫び声を上げるが、もう遅い。

 

『今だッ!』

 

 ロードの内の一体を上空に跳ね上げると同時にトルネイダーから飛び降りてベルトの右のスイッチを押し込み、ベルト中央の赤い石から生える様に飛び出してきた『加護』が使っていた赤い長剣を取り出し構える。

 乗り手の居なくなったトルネイダーはしかし、俺の指示通りにロード達をポンポン上空に跳ね上げ続けている。やはり蟻型なだけあって空中では自由に身動きが取れないのだろう、打ち上げられたロード達はジタバタと無様に藻掻いている。

 

 さて、ここで1つ問題。俺が仮面ライダーになって一番強化されたモノは何でしょう? パワー? スピード? はたまたスタミナ?

 残念ながらどれも違う。答えは『知覚』だ。

 

『ふぅぅぅぅ……』

 

 目を閉じて深呼吸。呼吸を整え、目をカッと見開いたと同時に世界から音と匂いが消え去り、ロード達はゆっくりゆっくりと宙を舞う。

 

 これだけ見れば時間操作や超加速の類の能力を手に入れたのかと思われるかもしれないが、生憎俺はクロックアップやアクセルフォームになどなっていない。

 ならばなぜ世界がスローモーションになったのかと言うと……まあ、正直感覚でこなしているので詳しい学術的な理論は語れないが……『知覚』が強化された事によって手に入る情報量が増加すれば、必然的にそれを処理する為に脳の処理能力も上がる。これは聴覚と嗅覚の情報を遮断して、その分の上昇した処理能力を視覚に回して動体視力やら何やらを極限まで高めているのである。

 

 とまあ、解説はここまでにして。

 

 精神を研ぎ澄ますと同時に頭の角が6本に、長剣の鍔も同様に6本角に展開され、刀身が灼熱の炎になる。さあ、準備は完了だ。

 

『オオオオオオオオオオッ!!!』

 

 目の前に落下してきたロードを胴体から真っ二つに斬り捨て、一歩踏み込んで別のロードの首を刎ねる。更に踏み込んでまた別のロードの心臓を穿ち貫く。まだだ、まだまだ敵は残っている。

 ベルトのスイッチをもう一度押して2本目の長剣を取りだし、一気に駆ける。

 右の剣を降り下ろし、勢いを利用して左の剣を振り上げる。独楽の様にくるくると回りながら、次々に落ちてくるロードの間を駆け抜ける。

 斬って斬って斬って斬って斬って斬って。ひたすら斬り捨て。

 

 俺が向こう岸にたどり着いたと同時にスローモーションは解除され、空中を舞っていたロード達は一斉に爆散した。

 

『……ハァッ!! ハァ、ハァ、ハァ……』

 

 周辺のロードの全滅を確認した途端、膝からガクリと力が抜け、呼吸が苦しくなる……ハァ、やっぱムリか。アギトになった今なら使えると思ったんだがなぁ……

 この技(と呼んで良いのか疑問だけど…)は以前に戦った、鯨型のロードとの戦いの際に編み出した……と言うか、出来る様になった技で、使った後の疲労感が大きいのだ。

 

『――――――!』

『ああ、大丈夫。ちょっと疲れただけさ』

 

 俺が地面に膝を付いたのを見たトルネイダーが大慌てで近付いて来た。やれやれ、要らん心配をさせちゃったか。

 ……後で山田先生にも謝罪の電話しないとなぁ…ロード共も、何で選りにも選って今日(公開授業)の午前中に攻めて来るんだよ、せめて午後にしろよ…

 

『絶対後で呼び出し食らうよなぁ……』

『――――――!』

 

 トルネイダーの励ましが心に染みる。よし、今日は帰ったら徹底的にメンテナンスしてやろう、エンジンオイルも1リットル3000円の高級エンジンオイルに変えてやろう。そう言った途端に歓喜にうち震えるかの様にウィンカーを明滅させるトルネイダー。はっはっは、全く、愛い奴め。

 

 




>蟻型のロード
原作『劇場番 仮面ライダーアギト PROJECT G4』並びに『仮面ライダーディケイド』に登場した作者のトラウマロードその2。
蟻酸の様な液体を吐きかけ、液体を浴びた生物を陸上で溺死させるというおっかない能力を持つ軍隊蟻。通称『ポーンアントロード』。
得意技は爪や顎を使った切り裂きと、数を活かした集団リンチ。『仮面ライダーディケイド』の世界では小柄なハンマーの様な武器を使っていた。
正式名称はアントロード:フォルミカ・ペデス。軍隊蟻と言った通り、ロードの中では珍しい(と言うか唯一の)“同一種の個体群”であり、上位種のフォルミカ・エクエス(隊長格)、フォルミカ・レギア(女王)を頂点としたコロニーを形成する。
多分ロード怪人の中で一番人間殺してる。エスカレーターのシーンは超シュールだった。


>マシントルネイダー
ヒロインその2。翔一がアギトになった事でスタイリッシュイメチェンを果たした。
高速振動による対象の破壊は出来なくなったが、その分スピードは遥かに上昇した。
“ギルスレイダー”は種族名の様なものだったので、翔一に“マシントルネイダー”と言う名前を貰った事に狂喜乱舞している。

なお、元の車種であるFIRE STORMは原作『仮面ライダーアギト』におけるトルネイダーのモデルであり、何気に翔一のアギト覚醒への伏線だった。


>鯨型のロードとの戦いの際に~
聴覚と嗅覚を遮断する事によってその分の脳の処理領域を視覚に回す“擬似クロックアップ”。使用すると大幅に体力を消耗する。


元ネタは『対魔導学園35試験小隊』の主人公『草薙タケル』の習得している剣術『草薙諸刃流』の禁じ手の1つ『掃魔刀』。実はタケルは翔一のモデルの内の一人。


>山田先生
翔一のクラスの担任であるナイスバディなちょっと天然の入ったおっとりさん。26歳、彼氏募集中。
高校時代の本音の恩師であり、その縁で翔一も世話になっている。ロリ顔、巨乳、眼鏡っ娘、ドジッ娘、優しい、可愛い。
天は人に二物どころか六物を与えた最たる例。
本名は山田摩耶。上から呼んでもやまだまや、下から呼んでもやまだまや。


元ネタは『インフィニット・ストラトス』の『山田摩耶』。作者が原作で一番好きな人。



はい、と言う訳で第七話でした。

ちょっと目を離した隙にお気に入り登録数が4倍以上になっていて、何事かと思ったら日刊ランキングに載っていました。しかも4位。
リアルにビックリして腰が抜けました。ランキング効果って、本当に凄まじいんですね……


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。