仮面ライダーになった   作:ユウタロス

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第六話 戦士の覚醒

 アザゼルの根城である高級マンションのリビングルームには張り詰めた空気が漂っていた。

 今この部屋に居るのは専門用語の類が多過ぎて閉口している俺と、俺の膝上で悠然としながら氷の様に嗜虐的な表情を浮かべているプリム。この部屋の主であるアザゼル。そして、先程やって来た金髪の美青年――リリス(プリム)の生存と俺の中に『プリムの加護』と『四大天使の加護』があると分かった所で、最早『神の子を見張る者(グリゴリ)』だけで対処する訳にはいかないと言うアザゼルの連絡を受けてやって来た『天使長ミカエル』の計4人だ。

 

「……つまり、貴方達はショウイチを態の良い御輿として三大勢力の象徴として担ぎ上げたいと、そう言いたい訳ね?」

「ええ、なにせ翔一君は聖人でありながらアギトであると言うイレギュラーな存在です。我々(三大勢力)の象徴とするのに、彼以上に相応しい者は居ないかと」

 

 ミカエルの提案にプリムは眉根を釣り上げた。凄くおっかない。

 

「ふざけた事を言わないで欲しいわねミカエル。それは貴方達(三大勢力)の都合であって、私達には関係が無いわ。自分達の尻拭いを押し付けないでちょうだい」

「おいおい、関係無いは無いだろう! お前だって最古参の悪魔の1人だろうが」

「その通りですよ、リリス。それは余りにも無責任でしょう?」

「無責任? つまらない冗談は止めなさいミカエル。無責任と言うのはね、私の『加護』を持っていると言うだけで老若男女善悪関係無しに人間を殺し回っているロードを放置している貴方達(天界)の事を言うのよ」

 

 ミカエルとアザゼルがプリムの言葉を咎めようとするが、プリムはそれを鼻で笑って天界がロードに何の対処をしていない事を指摘する。確かにアイツ等(ロード達)は迷惑なんてものじゃ無い。

 俺がギルスになってから今日までの間に戦ったロードは10体じゃ利かない。

 ちっぽけな極東の島国の地方都市だけでこの有り様なのだ、世界中にどれだけのロードが散在しているのかなんて考えたくも無い話である。

 

 痛い所を突かれたのか、ミカエルが苦虫を噛み潰した様な表情で口篭る。流石プリムだなぁ、他人の痛い所を抉るのが上手い上手い。

 

「言っておくけど、貴方も無関係じゃないわよ、アザゼル。自分の部下もマトモに管理できていないクセに、よくそんな偉そうな事が言えたものね? 厚顔無恥とはこの事だわ。それと、今の私の名前は『プリム』よ、間違えないでちょうだい…あ、今思い出したのだけどアザゼル。貴方、天界に居たときに…」

 

 …昔の事までほじくり返し始めたな…そろそろ止めるべきか。流石にプリムが天界に居た時の事まで詰るのは(この場で話すのは)どうかと思うし、いい加減にこの険悪な雰囲気を何とかしたい。聞きたい事もあるしね。

 立て板に水の如くペラペラと嫌味罵倒苦言のオンパレードを垂れ流しているプリムの口をそっと手で塞ぐと、アザゼルとミカエルのは助かったとでも言いたげな表情で俺を見てくる。流石に『ぼくが考えた最強の神器資料集』と『主へ捧げる狂詩曲(ラプソディ)』はキツかったのだろう。聞いてるこっちまで背筋がぞわぞわってしたし。

 モゴモゴと文句を言いながら睨み付けてくるプリムを宥め賺し、表情を引き締めて口を開く。 

 

「1つ、聞きたい事があるんだが」

「ふむ、何でしょう?」

「もしも俺が三勢力の間に加わったとしたら、プリムの事は放っておいてもらえるか?」

「ショウイチ!? 馬鹿な冗談は止めもがっ」

「いいから、プリム、ちょっとだけ黙ってて」

 

 前々から思っていたのだが、やっぱり俺一人だけではプリムを護り切るのは難しいのだ。今の所は何とかなっているけれど、ロード達に物量作戦等を取られでもしたらどうなるか分からない。あんな化け物見たいな外見だが、聖職者からすればロードは崇めるべき対象だし、こんなに魅力的なプリムは抹殺すべき主の仇敵なのだ。

 なら、ロードと悪魔祓い達が徒党を組んで襲って来てもなんら不自然な事は無い。

 俺の探知能力の対象はロードだけで、狂信者は対象外。俺のいない所でロードと組んだ悪魔祓いに襲われたら詰みなのだ。

 

「天界でロード達を抑え切れないなら、せめて天使と悪魔祓い(人間)達だけでもプリムに手を出さないと約束して欲しい。その代わりに、コイツを護る為だったら、俺の身1つで出来る事は何でも引き受けてやる。ある程度なら人体実験とかにも協力してやる。だから、プリムを放って置いてあげてくれ」

 

 どうだ? と問い掛けてみたが、どうも反応が芳しくない。プリムは顔が真っ赤だしアザゼルは表情が虚無になっていて、ミカエルはニヤニヤとプリムを見ている。何だよ、何か言えよ。我ながら結構ローリスクハイリターンな提案だと思うぞ?

 等と思っていたらアザゼルが手元のブラックコーヒー(ホット)を一気飲みした。

 

「ゴハァ!?」

 

 吐き出した。そりゃそうだ。

 そのままフローリングの上をのたうち回りながら、げっほごっほとむせかえるアザゼル。何がしたいんだコイツは?

 

「…えっほ、ごほ…あ~、死ぬかと思った…」

「独り身には辛い光景でしょうねぇ。アザゼル、どんな気持ちですか? ねえ、どんな気持ちですか今?」

「喧嘩売ってんのかテメェ!? ……まあいい。ギルス、元々俺等は停戦協定を結ぶ予定だった訳だからよ、別にそんな約束しなくても手は出さねぇぞ?」

 

 あ、そうなの? それは良かった。必要ならいくらでも捨て身になれるけど、俺だってなにも死にたい訳じゃないからな。

 

「貴女が楽園(エデン)を追放されてから随分と経ちましたが…こんなに大切にされるのは初めてなのではありませんか? 今どんな気持ちですか?」

「…うるさい…ッ!!」

「おやおや、リリ…もといプリム、貴女照れているのですか? 齢(ピー)千歳の癖に、照れているのですか? 教えて下さいよ、今貴女はどんな気持ちなんですか?」

「うるさいと言っているでしょうッ! ショウイチも余計な事は言わないで!」

 

 先程までの鬱憤を晴らすかの様にミカエルは暗黒微笑を湛えて執拗にプリムとアザゼルに“今どんな気持ちですか?”と繰り返し繰り返し問い掛ける。散々痛い所を突かれ続けた後だ、今ミカエルはさぞや楽しいだろう。一方的に弄られ続けているアザゼルのSAN値が少し心配になってきた。

 

 まあ、そんな些事は置いておいて。

 

「俺は余計な事なんて何1つ言っていないぞ、プリム。初めてお前と出逢った『あの日』に言っただろう? 俺はお前を護る為だったら、この命を捨ててもいい......まあ、それ以外に方法が無い場合の話だけどな。死んだらお前や家族にも逢えなくなるし、旅にも出れないからな」

「~~~~~ッ!!」

「ちょ、痛い痛い痛い! 痛いって!」

 

 重くならない様に軽めに言ったのに、顔を真っ赤にしたプリムに首筋、胸、腰、腿に脛、オマケに足の甲を噛まれた。いつぞやのタコの吸盤の様な吸い付きではなく、肉食獣の如き本気噛みで、普通に肉が裂けて血が溢れ出てくる。幸いギルスになった際に身に付いた再生能力のお陰で傷は暫くすれば塞がるが、それにしたって痛いものは痛い。

 

「何すんだよ全く…」

「…うるさいわね、貴方が悪いのよ。自制する側の事も考えなさい」

 

 知らんがな。

 

「はっはっは、俺の部屋で盛ってんじゃねーよ滅びろこのバカップルがッ!!」

「アザゼル、今どんな気持ちですか? ねえ、どんな気持ちですか今?」

「喧しいわッ!!」

 

 だらだらと出血する俺を親の仇でも見るような顔で睨み付けてくるアザゼルと、そんなオヤジを素晴らしい愉悦スマイルで煽るミカエル。コイツ等は本当に天使と堕天使のボスなんだろうか?

 

「…まあいい。俺の要求は1つ、『プリムの存在の秘匿と非干渉』だ。これさえ守るんだったら俺に出来る事は協力する。無論、プリムの安全が最優先だけどな」

「分かってるよ、俺達だっていきなりコイツ(リリス)に表舞台に出てこられても困るんでな。隠居しててくれるんだったらそれが一番だ…ただし、四大魔王達には知らせるぞ?」

「そうですね。これから和平を結ぶ相手(悪魔)に貴女の生存を隠匿する事は後々の火種になりかねません」

「…まあ、それくらいなら構わないわよ」

 

 数瞬思案してからプリムが頷いた。俺としても、プリムに不満が無いなら構わないので黙って頷いておく。全員の同意が得られた所で、アザゼルがやっと話が終わったとでも言いたげに長い溜め息を吐き出す。まあ、この話し合いの内半分以上がプリムの毒舌で埋っていたからしょうがない。

 

「…あ、そうだギルス。お前さん、コカビエルと戦った時に何か妙な感覚がしたって言ったよな?」

「ん? ああ、まあな」

 

 そう言えばそんな事もあったな、プリムの衝撃的なカミングアウトのお陰ですっかり忘れていたけれど、結局アレは何だったんだろうか? こう、胸の内からドクンと圧迫感と一緒に焼ける様な熱が沸き上がってきたんだよなぁ……

 

「それは多分、コカビエルの光力にお前さんの中の『加護』が反応したんだろう。『熱』って事は……」

「ふむ、恐らく私の『加護』でしょうね……どうでしょう翔一君、この際封じられている『加護』を解き放ってみては? 幸いプリムの『加護』と私の『加護』は反発していない様ですし、新たな能力に目覚めるかもしれませんよ?」

 

 ふむ、新たな能力か…それは確かに気になる。実は最近、どうも伸び悩みを感じるのだ。なんと言うか、『今の俺(ギルス)の限界点』に突き当たっている様な、そんな感覚がある。

 あの鯨のロードの様な強力敵がいる以上、少しでも強くなっておきたい。ギルスの力があるとは言え、所詮中身()は喧嘩慣れした高校生なのだから。

 しかし、気になるのは『加護』を解放する事に対するリスクだ。プリムやアザゼルも言っていたが、本来『プリムの加護』と『熾天使の加護』は共存し得ない。幸いにも『ミカエルの加護』とは反発していない様だが、『水』――『ガブリエルの加護』は反発している。プリム曰く『ガブリエルの加護』が邪魔しなければ俺は過去に一回だけ確認された『最強のアギト』とやらになっていたそうだ。

 『加護』を解放した結果弱体化したら元も子も無い。それを考えると、どうしても二の足を踏んでしまうのだ。

 

「…プリム、『加護』の解放にはどんなリスクがある?」

「……ごめんなさい、分からないわ。こんな事は前例が無いの……ただ、これだけは言えるわ。もしも貴方が『熾天使の加護』の力を完全に身に付けられたなら、貴方は恐らく現在・過去・未来を通して最強のアギトになれるわ」

 

 プリムに尋ねてみた所、彼女は申し訳なさそうに俯いて、しかしハッキリと『最強』言い切った。

 ……よし、腹は括った。

 

「ミカエル、『加護』を解放してくれ」

「……よろしいのですか? 提案しておいて何ですが、下手を打てば死んでもおかしくは無いのですよ?」

「構わない。ここで怖じ気付いて解放しなかった結果、今の俺よりも強いロードにプリムが殺されるよりかはマシだ」

 

 ……それに、例え俺が死ぬなり弱体化するなりしても、三勢力に協力してもらえば新しいアギトの候補を見付けられるだろうしな。

 

「……分かりました。では、いきます」

 

 ミカエルが俺に手をかざすと、ドクンと、あの時感じた脈打つ様な圧迫感と焼ける様な熱が沸き上がる。込み上げる圧迫感に軽く吐き気を感じたが、不思議と圧迫感は直ぐに断ち消えて熱だけがどんどん溢れてくる。多分、『ガブリエルの加護』が『ミカエルの加護』を受容したんだろう。

 胸の奥から止めどなく溢れ出る熱はそのままじわりじわりと身体中を血の様に巡り出す。身体の中の何かが燃やされ、燃えた端から不死鳥の様に生まれ変わっていくのを感じる。チラリと目を開けて見てみれば、全身が神聖さを感じさせる炎に包まれていた。文字通り火だるまになっていると言うのに“熱い”以外に別段感じない辺り、どうやら俺は『火』と相性が良いらしい。

 

(……ん?)

 

 何とは無しに沸き上がる熱の中心に意識を傾けた瞬間、天も地も無い真っ黒な空間に俺は居た。

 

 

 

                      ΑーΩ

 

 

「……うん、素晴らしいまでに“ザ・精神世界”だな」

 

 この黒い空間に放り出されてから数秒か数分か、或いは数時間が経った。とりあえず、とその辺をさ迷って見たのだが出口に当たる様な物は一向に見えず、ただただ黒い空間が広がっているばかり。

 はてさて、どうしたものか……

 マンガ等ではこう言う展開の時は総じて“内なる自分”や“秘めた力”なんぞが語りかけて来るものだが、そんな気配は微塵も無い。幾らなんでもノーヒントはあんまりじゃなかろうか。

 

「……何だ?」

 

 不意に、空間の一部がチカッと紫色に輝き、輝きのあった場所を中心にして空間に亀裂が走る。亀裂はそのまま俺一人と同じ位の大きさにまで広がるとパリンッと甲高い音を立てて砕け散り、白い空間が現れた。

 白い空間の中は神聖さが感じられる炎が一面に燃え広がっていて、その炎の中心には赤い人影の様なものが佇んでいた。きっとアレ(・・)こそが『加護』なのだろう。そう判断して意識を集中させて人影を見詰め続けると、ゆらゆらと陽炎の様に揺らめいていた影がハッキリとした輪郭を伴っていく。

 

 深紅の眼。炎の如き赤と光輝く黄金。(ギルス)とは違って水生生物然とした刺々しさや禍々しさなんてまるで感じられず、むしろ高潔さや神々しさに充ちている。成る程、流石に『ミカエルの加護』なだけはあると言う訳か。等と考えていた所で、奴が此方を振り向く。

 眼が逢った。瞬間、奴の姿が掻き消え、今まで感じた中で最大級の悪寒が走る。

 

 考えるより速く上体を反らしたのとほぼ同時に、音を置き去りにした一閃が一瞬前に俺の首があった場所を通り過ぎた。

 

「か……ッ!?」

 

 ブシュッと言う音と共に喉元から血が噴き出す。

 避け切れなかった、ほんの少し遅れれば死んでいた、そんな考えが頭の隅を過る。

 

「変身ッッッ!!!」

 

 無様に転がりながら喉が治ったと同時に変身して体勢を立て直し、『ミカエルの加護』に相対する。奴はいつの間にやら手にしていた細身の長剣を水平に振り抜いた姿勢のままピタリと静止している。まずい、一見無防備に見えるが、まるで隙が無い。下手に踏み込んだら次の瞬間には頭と身体が泣き別れするはめになる。

 

 一先ずバックステップで奴の間合いから外に出よう、そう思った瞬間には既に剣を振り上げた姿勢の奴が目の前に現れる。咄嗟に両腕のかぎ爪をクロスさせて降り下ろされた長剣を迎え撃つ。

 

『ご、がぁッ!?』

 

 しかし奴は長剣の刀身がかぎ爪に触れる直前で降り下ろしを止め、両腕が上がった事でがら空きになった俺の腹に前蹴りを叩き込んできた。直前に腹に力を込めて踏ん張り、何とか吹き飛ぶ事は防いだ。コイツの移動速度だと、間違いなく俺が吹き飛ばされるであろう場所に先回りされるからだ。そうなったが最後、無限ハメ技からの超必殺コンボになる。

 さて、何とか奴の蹴りを受け止めた訳だが、その尋常では無い威力に一瞬呼吸が止まり、身体が硬直する。返す刀で放たれた右下からの降り上げは触手で防いだが、代償として迎撃に使った触手が斬り落とされる。幸いな事に余りに奴の長剣の切れ味が良いのか痛みは感じない。

 

 受けにまわったら終わる。

 

 そう悟った瞬間に残った片方の触手で『加護』を上空目掛けて弾き飛ばし、俺もジャンプして追撃に向かう。如何に切れ味の良い剣と言えど、流石に空中では上手く斬れ無いはず。そんな浅はかな考えは奴が長剣を初めて両手で(・・・)構えた瞬間に彼方へ消え去った。

 

 カシャッと、奴の角が展開し2本角が6本角になり、同時に奴の角と同じ形状の長剣の鍔も6本に展開される。

 

 長剣の刀身がゴウッと音を立てて灼熱の炎に包まれた。

 

 見ただけで分かる。アレはヤバい。まともに喰らえば、俺は恐らく一瞬で蒸発するだろう。しかし、避けようにも俺も奴も居るのは足場の無い空中、俺の身体は慣性の法則に従って真っ直ぐに奴目掛けて宙を駆けている。逃げ場は無い。

 

『……上等だァァァッッ!!!!!!』

 

 この状況で俺が生き残る方法はただ1つ。“アイツが俺を殺すよりも速く俺がアイツを殺す”事だけだ。

 

 残った触手をスプリングの様に右腕に巻き付け、限界まで後ろに引き絞る。無茶苦茶な使い方にミシミシと骨と筋肉が悲鳴を上げる。洩れそうになる悲鳴を気合いと根性で押さえ込む。

 

 数瞬後、俺と奴が同時に間合いに入った。

 

『らああああああああッッッ!!!』

 

 触手の力を抜いた事によって限界まで引き絞られた右腕は音よりも速く打ち出され、一直線に奴の首を刈り取ろうとするが、奴は長剣を構えた姿勢のまま動こうとしない。それを疑問に思うよりも速く右腕のかぎ爪が奴の首に触れた。だがその瞬間、俺の右腕は灰になった。

 

 理由は単純。奴はかぎ爪が首を刈り取るよりも速く、居合い抜きの如き剣撃で右腕を斬り捨てたのだ。俺を殺すよりも先に、自分を殺すかもしれない目の前の攻撃に対処したのだろう。迫り来る脅威に対処した奴は、そのまま返す刀で燃え盛る炎の剣を降り下ろした。

 

 視界いっぱいに、ヒト1人程度容易く焼き付くすであろう炎が迫るが、俺は何も慌てない。何故なら――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――その剣が俺に触れる事は決して無いのだから。

 

『ッ!?!?!?』

 

 俺を焼き捨てんとばかりに迫っていた炎の剣は、猛スピードで伸びた再生の終わった触手(・・・・・・・・・)によって奴の腕ごと弾き飛ばされる。剣を失った事で奴が初めて明確な隙を見せた。恐らく、これが最初で最後の(チャンス)だろう…これを逃せば、もう終わりだ。

 

 放つのは使い慣れた一撃。多少は変則型だが、俺が何よりも信頼している技だ。腰を捻り、脚を開き数回転、遠心力を利用して限界まで威力を引き上げる。踵の鋭い刃によって凶悪なまでの致死性を誇る、俺の必殺技(仮面ライダーの代名詞)

 

『ライダァァァァアァアアア、キィィィイイィィックッ!!!!!!!』

 

 音を置き去りにして放たれた後ろ廻し蹴り(ライダーキック)は、『ミカエルの加護』の首を刈り取った。

 

 

 

                      ΑーΩ

 

 

「――ショウイチッ!!」

 

 プリムの悲鳴の様な叫び声で目が覚めた。良かった、無事に起きれた様だ。

 半泣きで抱き付いてきたプリムをあやしながら立ち上がり身体を動かしてみるが、特に異常な箇所はない。むしろ、身体が羽根の様に軽い。どうやら身体の造り変え(準備)は終わったようだ。

 

「貴方、ミカエルが『加護』を解放した途端に倒れたのよ!? 心配かけさせないで頂戴!!」

 

 ……“倒れた”だけ? 皆にはあの炎が見えなかったのだろうか……いや、まあいい。とりあえずは成果報告だな。

 

「ごめんごめん……でも、やった甲斐はあったよ」

「それを聞いて安心しましたよ。同意の上とは言え、もし貴方が亡くなりでもしていたら間違いなく私とプリムは殺し合いになっていたところです」

「だろうな。“復讐に駆られた女”なんておっそろしいモンの相手をしないで済んで良かったぜ……で、具体的な成果は?」

 

 ミカエルは肩の荷が降りたとでも言いたげにあからさまにホッとした表情を浮かべ、アザゼルは少年の様に目をキラキラさせながら聞いてくる。子供かこのオヤジは……まあいい、とにかく一旦変身してどんな物か確かめてみよう。

 

 プリムに離れてもらい、“変身する”と強く念じる。通常ならばこれで変身が完了するのだが、やはり変化が現れた。俺の身体を包み込むはずの光が俺の下腹部――ギルスに変身した際に赤いベルトが現れる位置で高速回転を始める。そうして集まった光が弾けると、そこには『ミカエルの加護』が身に付けていたのと同じベルトがあった。

 

「なっ!?」

「それは……!!」

 

 アザゼルとミカエルは俺のベルトを見た途端、ガタッと立ち上がり、プリムでさえも目を丸くして驚いている。

 

「……変身ッ!!!」

 

 深呼吸を一回して、今さっき戦ったばかりの『ミカエルの加護』の姿を思い浮かべながらベルトの両端を押して変身する。

 

 ベルトから放たれた光が消えた時、俺は『ミカエルの加護』と同じ姿になっていた。

 

「これはまさか…アギトの超越種か? いや、しかし微妙に姿が……それに何より、このオーラは…」

「ええ、驚きました……まさか、光力を完全に取り込むとは……!」

 

 アザゼルとミカエルが何か騒いでいるが、そんな事はどうでもいい。大事な事はただ1つ――

 

『プリム』

「…へ!? あ、え、ええ、何かしら?」

 

 呆然と俺の姿を眺めていたプリムの前にひざまずいて、彼女の目を見て口を開く。

 

『俺はこれからもずっと、お前を守り続けると誓うよ』

「……そうね。よろしくお願いするわ、私の愛しいアギト(騎士)様」

 

 ――この子を護る為の力がまた1つ手に入ったと言う事だけだ。

 

 

 

 

 




>アギト
今作においては“リリスの寵児”であり、“リリスの剣”。即ち『リリスの加護』を与えられた人間にのみ発現する“リリスを護る為の超常の力”。



>ミラージュアギト
過去に2度だけ現れた『最強のアギト』であり、翔一がアギトとして覚醒するはずだった本来の姿。
初めて変身した『始まりの日』において、プリムの干渉によって急激に活性化した『リリスの加護』が翔一の肉体をアギトに作り替えようとした際に、半活性化状態だった『ガブリエルの加護』が反発した為に『エクシードギルス』になった。


【アギト/ΑGITΩ】
原作における仮面ライダーアギト。

本来ならば決して両立する事は無い『リリスの加護』と『熾天使の加護』を同時に併せ持つ翔一にのみ発現したイレギュラーな存在。

この世界では『アナザーアギト』こそが『アギト』であり、亜種として『ギルス』、極稀に『ミラージュアギト』が発現するのみ。

理由は人間と悪魔には『光の力』=『光力』が無い為。つまり、属性が存在しないので最初からフォームチェンジの機能を排除しているから。
しかし、翔一は史上初の『光力を宿したアギト』、即ち『フォームチェンジが出来るアギト』である。

なお、解放されている『加護』は『ミカエルの加護』だけの為、翔一が現在変身出来るのは『フレイムフォーム』のみである。



はい、と言う訳で第六話でした。

本当なら3000字以内に収まるはずだったのに、海色と吹雪が買えなかった怒りを込めたら8000字を超えた件について。

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