仮面ライダーになった   作:ユウタロス

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第四話 “白”との邂逅

「ッ!?」

 

 就寝中、今まで見た中で最大級にシャレにならない予知夢を見た。それは、黒い羽の男が何かしらの魔法の様なモノを使ってこの駒王町を消し飛ばそうとする、と言う内容だった。

 

 一瞬、これはあり得ないだろうと思わないでも無かったが、何時も通り自分のベッドに潜り込んでいたプリムがジッと夢に出た災厄の中心地――駒王学園を見つめている事に気が付いた。

 

「……あら、起きたのねショウイチ」

「ああ……なあ、プリム。俺の勘違いかもしれないんだけど…」

「“駒王町が滅ぶかもしれない”……と言いたいのでしょう?」

「やっぱり唯の変な夢じゃないのかよ……クソっ!」

 

 疑惑は確信に変わった。ベッドから降り立ち着替えようとした所でプリムに腕を掴んで引き止められる。なんだ、どうしたんだ?

 

「ショウイチ、あの戦いは貴方とは一切関係無いものよ? わざわざ行く必要はないわ……それに、貴方が行かなくてもケリはつくわ」

「……そうかもしれないけれど、この町が滅ぶかどうかの瀬戸際なんだ」

 

 俺は18年間ずっとこの町で暮らしてきたし、この町には友人や知り合い達も大勢住んでいる。プリムには申し訳無いが、戦えるだけの力があるのに黙って見過ごすなど――そいつ等を見捨てる事なんて、俺にはどうしても出来ない。

 

 無論、俺の力がどういうモノかは理解している。この(ギルス)はプリムを護る為のモノであり、この力を振るって良いのはプリム、或いは俺の身を守る時だけ。今回のように、プリムと自分以外を助ける時に使うべきでは無い。

 

 だからプリムに謝罪する。自分勝手な理由で持ち場を離れる護衛で、済まないと。

 

 プリムから3歩分後ろに下がり、正座をしながら両手を地につける。そうして俺は額を地面に擦りつけんばかりに頭を下げた。

 

 これこそが我が国日本に伝わる最大級の謝罪の意――土下座である。

 旗から見れば、さぞやシュールな事になっているであろう。なんせ、現役高校3年生が見た目12歳程の幼女に土下座をしているのだ。下手したら通報物だ。

 

「……ばか」

 

 むにっと後頭部に柔らかいもの――プリムの足が置かれた。

 

「お人好し、意気地なし、人たらし」

 

プリムはそのまま暫くむにむにと俺の後頭部を踏みつけたかと思うと、足の指で耳や頬、鼻等を摘んでくる。器用なものだ。

 

 抵抗はしない。筋が通ってないのは俺の方だ、甘んじて受け入れよう。

 

「はぁ……ショウイチ、顔を上げなさい」

 

 暫く好き放題にされた所、お許しが出たようなので面を上げると、目の前にプリムの顔があった。呆れているような、しかし微笑ましいモノを見るような目を俺に向けている。

 

「……正直、私以外の人を守る為に貴方が戦うのは腸が煮えくり返りそうだけど、そう言う貴方だからこそ気に入ったのも事実よ……だから」

 

 プリムの顔が近付いて来る。ああ、コレはディープキスパターンかなぁ……なんて思っていたらそのまま顔の横を通り過ぎ、首筋に吸い付かれた。かなりキツ目に吸い付かれており、端的に言うとかなり痛い。

 

 いや、これマジで痛いんだけど。しかもなんかヒリヒリしてきたんだけど。ねえ、コレ絶対血出てるよね?

 

「んッ……ふぅ。コレで勘弁してあげるわ、さっ、行ってきなさい」

「あ、ああ……なあ、今の何だったんだ?」

まじない(・・・・)よ、ショウイチが私の下に帰ってきますように、とね」

「へぇ…悪魔のおまじないか、効きそうだな」

「ええ、絶対に効果があるわよ。絶対に」

 

 よし、心強いおまじないも貰った事だし、パッと行くとしますか。

 

 急いで着替え、物音を立てないようにガレージへ向かう。寝る前に一通りの整備は終えておいたから、相棒の車体はピッカピカだ。心なしか相棒も喜んでいる気がする。

 

「……行くぞ、相棒」

 

 

         Α−Ω

 

 ギルスに変身した状態でレイダーを走らせる事数分、謎のドームに覆われている駒王学園が見えて来た。アレは、結界って奴か…? 面倒だな、さて、どうやって入るか……

 

『――――――!』

『…出来るのか?』

 

 どうやって入ったモノかと頭を捻っていた所で、レイダーからこのまま全速力で突っ込む様に指示された。“結界は私が抜きます!”だそうだ。

 相棒が自信満々にこう言っている事だし、他にあの壁を突破できそうなアイデアも無い。ここは1つ、相棒の言う事に従うとしよう。

 

 アクセルを全開にして一気に最高速度まで加速する。

 普通なら深夜に市街を最高速度で爆走なんてしようものならあっと言う間に事故るだろうが、ギルスに変身したお陰で暗闇でも昼間のように見通せるし、レイダーからも前方方向の情報がダイレクトに頭に送り込まれてくるので、なんら問題無く運転出来る。

 

 つくづくギルスの能力は凄まじいモノだ。身体能力は勿論だが、特に感覚器の強化っぷりが半端じゃない。

 どれ位凄いのかと言うと、まだ直線距離で1キロ程離れている駒王学園の校門前に陣取っている生徒会役員共の顔がハッキリと視認出来る位だ。

 

 ……ふむ、時折駒王の結界の方に手をかざしてゲームとかに出て来る魔法陣みたいなモノを弄ってる所を見ると、どうやら本当に悪魔だったようだ。プリムから話は聞いていたが、まさか本当だったとは……

 

『……まあ、いい。相棒、イケるな?』

『――――――!!』

『ああ、頼もしい限りだ……!』

 

 肯定の唸り声に、仮面の下で笑みを浮かべる。一直線に学園の校門目掛けて突っ込む俺達に気付いた生徒会員達が慌ててこちらの車線を塞ぐように飛び出してくるが、関係無い。

 

『らァあああっッ!!』

 

 生徒会員の男子の手前に背中の触手を突き刺し、棒高跳びのようにレイダー諸共に一気に飛び越える。そのまま結界に接触する直前、レイダーのフロントカウルからバリアの様なモノが展開され、俺達は結界に風穴を開けて駒王学園に突入した。

 

「――部長の乳首を吸うため、やられてもらうぜ、コカビエルああああああッ!?」

 

 突入直後に目の前に大声で叫んでいる変態が居たので思わず蹴り飛ばしてしまったが、まあ、不可抗力だろう。

 

「イッセー!?」

「イッセー君!?」

 

 ゴロンゴロンと転がって行く変態の後を慌てて追いかけて行くのはオカルト研究会のリアス・グレモリーと木場祐斗だ。チラリと周囲を見てみれば、他にもオカルト研究会の部員や、昨日の夕方頃に襲撃してきた青髪の狂信者の少女までいる。皆、突然の乱入者である俺の事を呆然と見詰めている。

 

「……これはこれは……貴様、ギルスだな? しかも超越種とは……フハハハハハハ! 素晴らしい、まさかこんな所でお目にかかれるとは思わなかったぞ!?」

 

 上を見れば、そこには予知夢で見た黒い羽の生えた男が居た。なんかめっちゃ笑ってる。

 

「ぎ、ギルスですって!?」

「お前は……あの時の……」

 

 リアス・グレモリーと青髪少女が驚愕している。いや、青髪少女は困惑か? まあ、何を考えてるのかは何となーく分かる。大方、“何故ここに現れた?”とか、そんな感じであろう。

 

 まあ、そんな事はどうでもいい。

 

 レイダーから降り立ち、黒羽に向かって背中の触手を放つ。

 

「ほう! 面白い、受けて立ってやるぞギルス!!」

 

 馬鹿笑いしていた黒羽は両手に光で出来ている槍を生み出すと、触手を弾き飛ばしてから俺目掛けて手に持つ槍を投げ付けてきた。

 

 なるほど、確かに威力はありそうだが……俺に当てるにはいささかばかりに速度に欠けている。

 飛んでくる槍をギリギリまで引きつけてから両腕の鉤爪で弾き飛ばす。

 

『……ぐっ!?』

 

 鉤爪が光の槍に触れた瞬間、身体の奥で何かがドクンと脈動する。痛みこそ無いけれど、込み上がってくる圧迫感は無視するには大き過ぎる。が、今は死闘の最中だ。気合で抑え込み、油断していた黒羽の両足に触手を巻き付け。

 

「ぬぅ!?」

『らああああああッッ!!』

 

 一本背負いの要領で校舎目掛けて叩き落とした。黒羽は瓦礫や粉塵諸共に校舎に突っ込んだが、感触的にはまるで堪えていないのだろう。

 

 まあ、それは別に構わない。今のは飽くまでも空中に居た黒羽を引きずり降ろす為の行動であって、攻撃では無かったからな。

 

「ハーッハハハハァ!! なるほど大した膂力だ! “魔人”の仇名は伊達では無いと言う事かぁ!?」

 

 ゴバッ、と爆風と共に瓦礫や粉塵が吹き飛び、服だけがボロボロになった黒羽が現れた。

 

 彼我の距離は凡そ20メートル程だが、この程度は大した距離ではない。

 

『ィィィィィィ……ッ!』

「ぐっ…!」

 

 喉を振動させて高周波を放つと同時に額の『目』を激しく発光させて黒羽の視覚と聴覚を奪い取る。

 そのままクラウチングスタートの姿勢で飛び出し、全力で黒羽の腹に飛び蹴りを放つ。ギルスの状態の俺には20メートルなんて1秒もあれば余裕を持って詰められる程度の距離でしか無い。

 

 目と耳を封じられていた黒羽に避ける事など出来る訳もなく、見事に命中。身体をくの字に曲げ、吐瀉物を吐き散らしながら黒羽は吹き飛ぶが、生憎触手はまだアイツの足を離してはいない。

 力任せに黒羽を引き寄せてハイキックで宙に蹴り上げ、俺も跳躍。空中で縦回転しながら勢いを付け、再び地面に向かって叩き付ける。さっきまでとは違って遠心力も利用しているから威力は段違いだ。

 

 黒羽が叩き付けられると、地面が陥没してクレーターが出来る。

 だが、どうも奴さんはそこそこ頑丈な様で、足こそ折れて曲がっているが、原型は綺麗に留めたままだ。

 

 うん、頑丈さこそ目立つけど、そこまで強くは無いな。これなら前に戦った鯨型のロードの方がずっと強かった。

 

 あの時は本当に死にかけたんだよなぁ……何せあの鯨のロードは空間を歪めたり瞬間移動したりサイコキネシスを使ってきたりと、やりたい放題だったのだ。

 何とか倒して満身創痍で帰宅したが、我ながらよくもまあ勝てたモノだと思う。プリムはあのロードに勝ったと聞いたら絶句してたっけ……そう言えば、プリムが俺のベッドに入って来る様になったのもそれからだったな……

 

 ……っと、いかんいかん。まずは黒羽に留めを刺さな……

 

「――悪いが、そこまでにしてもらおうか」

 

 ピクピクと痙攣している黒羽に留めを刺そうとした瞬間、白い鎧が上空の結界を突き破って現れた……なんだ、コイツは?

 

「…ふむ、両足の粉砕骨折に、肋骨は螺旋骨折。それと脊椎の圧迫骨折か。なるほど、死にはしないだろうが、もはや戦えんな」

 

 白い鎧は黒羽の側に寄って状態を確認している。コイツ、あの黒羽の仲間か? 弱ったな…コイツ絶対黒羽より強いぞ。

 

「……『白い龍(バニシング・ドラゴン)』」

 

 背後で誰かの呟きが聞こえる。なるほど、コイツは白い龍って言うのか。確かに言われてみれば龍みたいな鎧だな。

 

 なるべく警戒を緩めないように、何かあったら一瞬で詰められる距離まで下がって警戒していた所で、白い龍がくるりと俺の方を振り向いた。

 

「おっと、挨拶が遅れていたな。俺は今代の“白龍皇”ヴァーリだ」

 

 え、“白龍皇”? おい、今さっき“白い龍”って言ってだろうが。

 

 困惑している俺を他所に、白鎧はペラペラと何か色々と語り始める。曰く、自分はアザゼルとやらの命令でコカビエル(黒羽の名前らしい)を捕らえに来ただの、俺の強さに非常に興味が湧いただの大叔父殿だの……正直、専門用語が多過ぎて半分位しか話が理解出来なかったが、要するに所属する組織のボスに命令されてコカビエルを捕まえに来たらしい。

 

 まあ、コカビエルを連れて帰る分には構わない。俺だって好き好んで人型の生物を殺したくは無いし、ましてやコカビエルは羽が生えてるだけで後は殆んど人間だ。流石にコレに留めは刺したくない。

 

『……さっさと、失せろ』

「ああ、そうさせてもらうよ……もっとも、俺としては是非君と戦ってみたかったんだが……まあ、楽しみはとっておくとしよう」

『――無視か、白いの』

 

 そう言ってコカビエルを担ぎ上げて帰ろうする奴に、まるで駄目なオッサンの様な声がかけられた。

 声のする方に目を向ければ、さっき蹴り飛ばした変態(よく見れば2年の兵藤一誠だった)の左手の籠手がチカチカ光ってる。アレが喋ったのだろうか?

 

『起きていたか、赤いの』

 

 今度は白鎧の全身に付いている…宝玉? の様な物が輝き、巨乳が好きそうな声が聞こえてきた。なんだなんだ、付喪神的な奴らの会話か?

 

 そのまま2人(?)は会話を始めるが、内容は世間話の様なモノで、正直聞く価値はなさそうだ。と言うか、いい加減込み上げてくる圧迫感が鬱陶しくなってきた。帰るか。校庭の魔法陣も消えてるし、もう帰っても大丈夫だろう。

 

「! ちょっ、お待ち下さい!」

 

 リアス・グレモリーに勘付かれたがガン無視してレイダーに飛び乗る。いい加減疲れた、さっさと帰るとしよう。

 

 来た時と同じ様にレイダーにバリアを張ってもらい、結界をブチ抜いて帰路に着いた俺だった。

 




>鯨型のロード
水のエル。原作『仮面ライダーアギト』において四対一のライダーリンチに奮闘した事があると言う、原作屈指の猛者。
メインウェポンは『怨嗟のドゥ・サンガ』と呼ばれる杖。なお、この杖に打たれた相手は『至福の中で死ぬ』らしいが原作では具体的な効果は分からなかった。恐らく精神操作の類だと思われるが……
グレネードをサイコキネシスで敵に投げ返すとか、ライダーキックをワームホールの様なモノで相手にぶつけるとか、割とムチャクチャする。
今作においては『序章』の2週間後に翔一と遭遇、激戦の果てに討伐された。戦いの詳細については今後語っていくが、結果としてはほぼ相討ちの状態であった。
スペック的には熾天使のちょい下ぐらいである。要はこかびーよりも強い。
風のエル? 地のエル? 知らない子ですね。
多分、ロード怪人の中で1番強いと思う。



はい、と言う訳で第四話でした。
こかびーは犠牲になったんや……古くから続く噛ませ犬補正……その犠牲にな……

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