仮面ライダーになった   作:ユウタロス

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第二話 疑惑と襲撃

「外神君、少し良いですか?」

「ん……?」

 

 放課後。部活動の類には入っていないのでサッサと帰ろうとした所で、黒髪ポニーテールの女子――姫島朱乃(ひめしま あけの)に声をかけられた。

 

 この女は同級生のリアス・グレモリーと二人で『2大お姉様』なんぞと呼ばれており、学校内のカーストがかなり高い。クシャトリヤか、下手したらバラモンだ。ヴァイシャの自分とはまるで縁が無いはずなんだが……

 

「何の用?」

「いえ、この後に何かご用事があったりしますか?」

「……いや、特に無いけど」

 

 ……正直、この女は苦手だ。いつもニコニコと胡散臭い笑みを浮かべており、時折コチラを探るような目を向けて来る。腹の底では何を考えているか分かったモンじゃない。

 

「それは良かった。では、今から『オカルト研究会』の部室に来ていただけますね?」

「は?」

 

 この女の苦手な理由その2。『オカルト研究会』とか言う、怪しい事この上無い部活に所属している事。

 『オカルト研究会』は入部希望者に反比例するかの様に極少数、しかも美形の奴等しか入部が許可されていない事で有名な部活だ。一部ではランチキ部なんじゃないかと噂されている位なのだ。

 

 はっきり言うと、絶対行きたくない。と言うか、“来ていただきますね?”って何なの? 何で来て当たり前みたいに考えているのか。

 

「生憎だが、遠慮させてもらう。バイクの整備がしたいんでな」

 

 そう言って通り過ぎようとしたのだが、腕を掴まれて止められた。振り払おうとしたが、姫島はガッツリと俺の左腕をホールドし続けている。

 

「用事は無いのでは?」

「やりたい事はあるんでな」

 

 ……おかしい、なんで振り解けない? たかが女子高生の握力だぞ? やはりコイツはヤバいな、マトモじゃない。関わらないようにしよう。

 

「……腕、離して欲しいんだが?」

「申し訳ないのですが、部長に貴方を連れてくるように言われているのですわ」

 

 “部長”? リアス・グレモリーが? 何でだ? 俺とは碌に話した事が無い筈……本格的に怪しいな、絶対に行かないようにしよう。

 

 ほんの少しだけ腕に込める力を強くして姫島の腕を振り払った所、姫島は俺が腕を振り払った事に目を丸くしている。残念だったな、俺はこれでも仮面ライダーやってるんだ。確かに女子高生としては異常に握力が強いが、それでも“女子高生としては”だ。

 

「……グレモリーに伝えておけ。“用事があるなら自分が来い。俺はお前の下僕じゃ無い”とな。では、失礼する」

「……っ、ちょっと……!」

 

 姫島が何か言ってるが、無視して教室を出る。自分から怪しい連中に近付く馬鹿が何処に居ると言うのか。と言うか、用事があるなら自分が会いに来い。

 

「……ったく、不愉快極まり無い」

 

 駐車場に向かい、ファイアーストームのエンジンにキーを挿して校門の外まで押して行く。この駒王学園において最もありがたい事はバイク通学が許可されている事だな。

 

「外神君、少々よろしいでしょうか?」

「ん……?」

 

 ファイアーストームに跨がって走り出そうとした瞬間、校門の陰から生徒会長の支取蒼那(しとり そうな)が現れた。今日はやけに校内カーストの上位勢に絡まれるな……

 

「何ですか、生徒会長」

「……外神君。最近、貴方の周囲で何か変わった事が起きたりしていませんか?」

「変わった事……?」

 

 思わずドキリとしたが、努めて冷静に聞き返す。いや、普通“仮面ライダーになりました”なんて言う訳が無いだろう。

 

「例えば、その……超能力が使えるようになった……とか……」

「は? 超能力……?」

「……スミマセン、何でもありません。気を付けて帰って下さいね」

 

 “アタマだいじょうぶ?”と言ったニュアンスで聴き返してやったら、生徒会長は顔を真っ赤にして立ち去って行った。良かった、何とか誤魔化せたな。

 

 しかし、これはどう言う事なのだろうか。彼女は確かに“超能力が使えるようになったか?”と聞いてきた……まさか、俺が仮面ライダーになった事に勘付いているのか?

 

 数週間前、俺が初めて“変身”したあの日。プリムは“人は『アギト』になる前後で超能力が使える様になる”と言っていた……まあ、俺は最初から超能力持ちだったんだが、それは置いておいて。

 

 オカルト研究会の部員の姫島にとって、超能力ネタなんて大好物極まり無いだろう。そして生徒会長がそれを知っていると言う事は……どういう事だ?

 

「……駄目だ、分からない」

 

 そもそも本当にバレているのかも不明なのだ、余計な事はしないようにしよう。

 エンジンに火を入れ、走り出す。やっぱりバイクの楽しさは風を切って走る疾走感だな、戸惑いも迷いも捨てて何処までも遠くへ行ける気がしてくる。

 

 それにしても、本当にあの二人は何だったのだろうか。まさか変身する瞬間を見られたのだろうか?

 

「……あり得るな」

 

 今後変身する時は周囲の目に気を付けないと駄目だな。バイクで走りながら“変身ッ!”って叫ぶの楽しかったんだけど、ちょっと控えないとなぁ……

 

 そんな事を考えてる内に、我が家――パン屋『アウターゴッド』が見えて来た。やっぱり、バイクは良い。普通に歩けば30分近くかかる我が家まで、ほんの数分で到着できるのだから。

 

 バイクを裏のガレージに停めて店に入ると、この数週間ですっかり看板娘の地位を築き上げたプリムに出迎えられた。金糸のように美しい髪は三つ編みにして後ろに流されていて、小豆色のエプロンと三角巾が良く似合っている。

 

「ただいま、プリム」

「おかえりなさい、ショウイ……ショウイチ、学校で何かあったのかしら?」

 

 ……よく分かったな。そんなに不機嫌さが顔に出ていただろうか?

 

「貴方と私は繋がっているんだもの、それ位分かるわ」

「お前のそういう、恥ずかしい台詞を臆面もなく言えちゃう所は素直に尊敬するよ」

「事実よ、何も恥ずかしく無いわ」

 

 この(見た目)幼女、堂々と言い切りおった。

 

「さあ、話してみなさいな。これでも貴方よりは人生経験豊富なつもりよ?」

「……それもそうか」

 

 亀の甲より年の功とは良く言うし、一丁相談してみよう……と思った瞬間、脳裏に鋭いきらめきが走る。これは俺がギルスになってから発現した、一定距離内に侵入したロードを感知する能力によるもので、アギトやギルスの標準装備らしい。効果音は勿論例のあの音だ。

 

 弾かれる様に2階の自室に駆け上がり、制服から私服に着替える。姫島と生徒会長の事もあるし、制服で俺だと判断されたら困るのだ。

 

 着替えを済ませてガレージに向かうと、プリムが既に待ってくれていた。

 

「……まあ、そういう訳だから行ってくる」

「行ってらっしゃい。貴方は私のモノなんだから、勝手に死んだら許さないわよ?」

「お前の物になった覚えは無いんだがなぁ」

「すぐにそうなるわ」

 

 小粋なトークを交わして走り出す。今の会話の7割が昨日の夜にやっていた映画の台詞なのはご愛嬌。プリムもすっかり我が家に馴染んでるようだ。

 

「……いくぞ、相棒」

 

 そうして俺はファイアーストームに乗って店を飛び出した。

 

 

         Α−Ω

 

 

 ……さて、どうしたものか……

 

「おのれ、穢れた“悪魔の寵児”め……!!」

「覚悟なさい、魔人!!」

 

 目の前にいるのは、大剣を構えた青髪少女と日本刀を構えた茶髪少女。どちらもまるで親の仇でも見るような憎悪に満ちた目で俺の方を見ている。

 

 ……本当にどうしたものか?

 

 

          Α−Ω

 

 

 事の発端は3分前。

 

 帰宅するなりニュータイプ的探知能力に引っ掛かった蜂型のロード。

 今は使われていない、町外れの廃教会で眼鏡を掛けたお下げの駒王学園の女子生徒を襲っていたコイツを、激しい肉弾戦の末に大外刈りからの空中一回転踵落としで仕留め、帰宅しようとした時に事件は起きた。

 

 いきなり背後から斬りつけられたのだ。

 

 咄嗟に触手でガードしたお陰で傷一つ無かったが、ちょっとでも遅れたら剣士の恥を背負うはめになっていたところだ。

 

 探知に引っかからなかったのでステルス型のロードの襲撃かと振り返ってみれば、そこに居たのは青髪少女と茶髪少女。いきなり何をするんだと言ってみれば、“悪魔の寵児”やら“魔人”やらと訳の分からない事を喚き立てながら二人共何か神々しく光る剣を構えて突っ込んできたのだ。

 

 取り敢えず相手は少女なので怪我させないように触手と鉤爪で剣を弾きながらあしらっていた所、俺が真面目に相手をしない事に激怒。ここで冒頭の所に追いついた。

 

 要するに襲撃者に逆ギレされているのだ。

 

『なあ、こんな見た目してるけど、一応これでも人助け……』

「もらったわ!!」

『聞いてよ』

 

 茶髪少女の剣が触手状に変形して襲い掛かってきたので鉤爪で弾いた所、折れた。それはもう、モノの見事に呆気なく。剣を弾いた衝撃で倒れた茶髪少女は呆然としながら折れた剣の柄を見ている。

 

「折れたぁ!?」

「『擬態の聖剣(エクスカリバー・ミミック)』が!」

 

 折れたね。俺もまさか一発で折れるとは思わなかった。まあでも、細くすれば折れやすくもなるだろう。と言うかそれエクスカリバーだったのか? やっぱりビーム撃てたりするのだろうか?

 

「クッ……逃げろイリナ! コイツは私が食い止める!」

「冗談言わないでよゼノヴィア! 主の仇敵を置いて逃げろと言うの!?」

「落ち着け、私達の本来の任務はエクスカリバーの回収だ!」

 

 青髪少女よ、それは真っ先に襲って来た君が言っていい言葉じゃないぞ? と言うか、退いてくれるんだったら俺も帰るんだけど。俺別にこの子達と戦う理由無いし……よし、逃げるか。

 

「あ、逃げた!?」

「何!? ちょ、おい待て魔人……!」

 

 少女達が言い争っている内に気付かれない様にレイダーを近寄らせ、一気に飛び乗る。そのままエンジン全開で走り出した。

 

 仮面ライダーの仕事は怪人から人を護る事であって、少年少女と戦う事では無いのだ。

 

 少女達は俺に何か言ってきていたが、如何に身体能力が高くても所詮は生身。走ってギルスレイダー(バイク)に追い付ける訳が無く、あっと言う間に引き離した

 

 そのまま5分ほど走った場所で停止して周囲を確認するが人影等は一切無く、更に5分ほど様子を見るが追撃の気配も無し。流石にもう諦めたのだろうと判断して変身を解く。

 

 人間と戦うとか、本当に勘弁して欲しい。仮面ライダーの膂力で殴ったりしたらミンチになってしまうと言うのに。自分と同年代の少女を挽き肉にしたら一生モノのトラウマだ。

 

 それにしても、あの少女達は何だったのだろうか? 持っていた剣も凄く価値の有りそうな物だったし……弁償しろとか言われないよな?

 

 




>蜂型のロード
原作『仮面ライダーアギト』における作者のトラウマロードその一。
無機物と人間を融合させると言う、恐ろし過ぎる能力で数々の愉快なオブジェを作成していた。
ぶっちゃけ、子供が見る作品で流してOKだったのか甚だ疑問。作者は密かに『龍之介ロード』と呼んでいる。
正式名称はビーロード:アピス・ウェスパ。機敏な動きとアナフィラキシーショックを引き起こすと言う殺傷能力高過ぎなレイピア『煉獄の針』がメインウェポン。
原作ではストームフォームのアギトと大立ち回りを繰り広げた末にハルバードスピンで真っ二つにされたが、本作では特に描写されずに散った。

>折れたぁー!?
『仮面ライダー龍騎』における主人公、城戸真司の名台詞。中の人の咄嗟の起点で生まれた。
ちなみに、ライドセイバーが現れた際に虚空を見上げたのも中の人のアドリブ。
ついでに言うと、ライドセイバーがディスパイダーに一撃で折られたのもアドリブ。と言うか事故。下手したらタダのNGシーンになっていたらしい。

余談だが、アドベントカードに記載されているAPは20で1トン相当の威力であり、件の最弱武装ライドセイバーでさえ300AP。つまり15トンの破壊力があり、作中最高APのエターナルカオスにいたっては10000AP、即ち500トンも破壊力がある。
これは全仮面ライダー内で最強のパンチ・キック力を持つクウガライジングアルティメットフォームのおよそ5倍の威力である。強過ぎ。



はい、と言う訳で第二話でした。
今回から原作突入、時期的には月光校庭のエクスカリバー編になります。



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