仮面ライダーになった   作:ユウタロス

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第一話 外神家の朝

 早朝、目覚まし時計が鳴るよりも一瞬早く目が覚める。毎日のようにベッドに潜り込んで来ている全裸の幼女を起こさないようにそっとベッドから抜け出て、風呂場へ向かう。

 

「起きたか、息子よ」

 

 途中で純白のコックコートに身を包んだ、カイゼル髭を生やした父――外神幸一郎(とがみ こういちろう)と遭遇した。

 

「おはよう親父」

「うむ……シャワーを浴びたら、仕事だぞ」

 

 親父は俺をチラリと一瞥すると、のっしのっしと工房に歩いて行く。俺を見た際に僅かに眉根を寄せていたが……まあ、原因は分かり切っている――俺の全身にタップリと染み付いた、幼女特有の甘ったるいミルクの様な匂いのせいだろう。

 

 食品を扱う以上、衛生面や体臭には気を付けなくてはならないのだ。

 

「さて、シャワーシャワー……」

 

 時間は有限だ、迅速に行動しなくては。急いで風呂に入り、手早く且つ丁寧に全身を洗って風呂を上がる。素早く髪を乾かしてからTシャツに袖を通し、エプロンを身に着け、ハンチング帽を被って工房へ。

 

「おはよう姉さん」

「あ、おはよー、しょーいち。はいコレー」

「ん、了解」

 

 この、のほほんとしたふいんき(何故か変換出来ない)の小柄な女は俺の姉、外神本音(とがみ ほんね)である。今年で21歳になると言うのに、未だにキグルミパジャマを着ているのは如何な物かと思う。

 

 姉さんが差し出したボウルを受け取り、中に入っているパン生地を捏ねていく。全力で捏ねていくと、最初はボソボソだった生地がだんだん粘り気を帯びてくる。ある程度捏ねたら生地を捏ね台に移し、再び捏ねる。何気にコレが大変な作業だったのだが、ギルスに覚醒してからは身体能力が上がった為、かなり楽になった。

 

 暫く捏ね続け、油脂を全体に塗り込んでから再び捏ねる。生地に艶としなやかさが出たら完成だ。生地の温度を確かめてからラップを巻いて発酵するのを待つ。

 

「しょーいち、だっこー……」

「はいはい……」

 

 エプロンと帽子を取り、眠気でグズっている姉を部屋まで抱えて行き、ベッドに放り投げる。ベッドに着地した姉はモソモソと布団の中に潜り込んでいく。キグルミパジャマも相まって、ただの愛玩動物にしか見えない。

 

「しょーいち、一緒に寝よー?」

「いや、俺まだ仕事あるから。お休み姉さん」

「ちぇー。多分102分と33分くらいだよー、お休み〜」

 

 姉をベッドに搬入した後は店の掃除に向かう。水の入ったバケツと雑巾を持って店舗部分の掃除を始める。床の雑巾掛けや商品棚の掃除、

レジ台の掃除等を丁寧にする。埃1つでも残してはならんのだ。子供の頃はこの仕事がイヤでイヤで仕方無かったんだが……まあ、人間慣れるものだ。

 

 掃除終了と同時に再び風呂場へ。体中に付いた埃を落としてから、今度は制服に着替えてからエプロンとハンチング帽を装備。いざ工房へ。

 

 3倍近くまで膨らんだ生地に小麦粉を付けた指を刺してみる。うん、穴が空いたままだな、発酵完了。流石姉さん。

 

 パン生地を取り出してパンマットに叩き付ける。叩いて叩いてひたすら叩く。ガス抜きが完了したので生地を平らにし、三つ折りにしてスケッパーで1個50gになるように20等分にカット×3。カットした生地を丸めてから水で濡らしたタオルを掛け、寝かせる。その隙に冷蔵庫からドライカレーとチョコクリームを取り出しゆっくり解凍していく。

 

 ベンチタイムが終了したので、20個分に粒餡を、20個分にドライカレーを入れ、最後の20個分はひも状にしてコロネ型に巻き付ける。再び濡れタオルを被せて二次発酵待ちだ。

 

 現在時刻はam6:07、これなら間に合うな。発酵待ちの間に台所へ向かう。

 

「あら、おはよう翔一。朝ごはんが出来るわよ〜」

「ん、おはよう、お袋」

 

 おっとりしたふいんき(何故か変換ry)のお袋――外神あずさ(とがみ あずさ)がフライパン片手に言ってきた。このお袋、実は元アイドルなのだが……恐ろしい事に現役時代とまるで見た目が変わっていない。

 

 と言うか、お袋の血族は不老不死なのではないかと思える位にみんな若々しい。お袋の同期のアイドルで従姉妹の安倍奈々(あべ なな)さんは今年で芸歴20年の永遠の17歳だ。見た目も勿論俺達と同年代に見える。姉さんだってぶっちゃけ15歳って言われても余裕で通じる。

 

 お袋の血族は錬金術でも習得しているのだろうか?

 

「……お袋、プリムはまだ寝てるのか?」

「そうみたいね〜。翔一、起こして来てあげてくれないかしら? 多分、翔一のベッドで寝てるんでしょう?」

「……何故分かった?」

「あらあら〜、やっぱりそうだったのね〜」

 

 ……かま掛けかよ。いや、まあ、もはや日常事になってるから否定は出来ないんだが……

 

 うふふ〜と微笑んでいるお袋の視線を背中に受けながら2階の居住部分の自室へ。扉を開けて入って見れば、プリムはやはりベッドの中で丸くなっていた。

 

「プリムー、朝食出来たぞー」

「ん、んぅ……」

 

 掛け布団を捲って声をかけるがプリムはシミ1つ無い美しい肢体をくゆらせて布団の中に潜り込もうとする。普通ならここで身を屈めて肩を揺する等して起こすのだろう。

 

 だが、俺はこの数週間で学んだのだ――コレは、フェイクだ。

 

 プリムは現在狸寝入りをしている。その証拠に、コイツは俺がその場で身を屈めればギリギリ届く程度にしか布団に潜っていない。ここで肩に手を伸ばそうものなら、間違い無く、アッと言う間に組み伏せられて布団の中に引きずり込まれるだろう。

 

 最初の内はもう、大変だった。優しく起こそうとした瞬間にベッドに引きずり込まれ、それはそれは辱められた。命からがら脱出した時には全身ベッチャベチャにされた。あ、一応言っておくが、下半身はしっかり死守している。

 

「……あら、流石にもう引っ掛かってくれないみたいね」

 

 黒歴史を思い返して頭を抱えていた所、むくりと起き上がったプリムが、潤んだ瞳でコチラを見つめて来る。垂れ下がった髪の毛は絶妙な具合に極部を隠しており、大変艶かしい。全身からムワッと漂ってくる強烈なメスの匂いが堪らない。今すぐにでも押し倒してむしゃぶり尽く……

 

「フンッッッ、ぬ、おぉぉぉ……!」

 

 自分の後頭部を殴り付けて正気を保つ。もの凄い痛いが、お陰で冷静になったので良しとしよう。これもこの数週間で学んだ事だ――プリムは洗脳能力が使えるのだ。正確に言うなら魅了(チャーム)と言う奴らしいが。最初の内は下半身の守護で精一杯になっていたのだが、流石に何回もかけられれば抵抗出来る様にもなった。

 

「……馬鹿な事、してないで、飯食うぞ。まだパン焼いてないんだから、早く顔洗え」

「あら失礼ね、私は真剣よ? 私は本気でショウイチに抱かれたいの」

 

 プリムは真剣な表情でそう言って来るのだが、正直勘弁して欲しい。自分はロリコンでは無いのだ、無理矢理性欲を刺激されても罪悪感しか湧いてこない。

 

「……自立もしてない男に、女を抱く資格は無い。あと、俺はロリコンじゃない」

「古風ねぇ……そこがまた良いのだけど」

 

 微笑むプリムを置いて隣の部屋に行き、姉と言う名の愛玩動物を回収する。ねむい〜とか呻いているが関係ない、アレから2時間寝たんだから十分だろう。

 

「はくじょうもの〜」

「弟働かせて寝てるアンタに言われたくない」

 

 背中にひっつき虫の如く張り付いている姉を風呂場に放り込んでキッチンへ向かう。

 

「おはよう、ショウイチ」

「……ああ、おはようプリム」

 

 既に身嗜みを整え終わったプリムが席に付いていた。プリムと別れて2分しか経っていないんだが……魔法って便利だね。

 

 そのままシャワーを浴びて来た姉と父を交えて朝食を食べ始める。意外に思われるかもを知れないが、我が家は朝食は米派だ。父曰く、“一日中パン作ってるんだから朝位米が食べたい”そうだ。俺はどちらでも構わないクチなのだが。

 

 朝のニュースを眺めながら朝食を食べ終え、姉、父と共に工房へ。

 

 さき程寝かせておいたパン達はしっかり膨らんでいた。溶き卵を塗り込み、オーブンへ放り込む。あんパンとチョココロネは姉に任せ、自分はカレーパンの仕上げに入る。

 

 中熱にした油にカレーパンを放り込んで揚げていく。じゅうじゅうと言う音と共にカレーの匂いが漂ってくる。うん、良きかな良きかな。カレーパンにとって一番大切な物は揚げるタイミングだ。焦がすのは論外だし、揚げが足りなくてもいけない。

 

「……今だ!!」

 

 ベストタイミングで引き上げ、油取り紙へ。余分な油を吸わせ終わったら、急いで陳列棚に持って行く。チラリと時計を見れば、現在時刻は6時54分。開店まであと6分しかない。

 

「息子よ、持って行け」

「しょーいち、焼けたよー」

 

 即座に親父達の焼いたパンを受け取って陳列棚に並べていく。毎度の事ながら、開店直前にパンを焼き上げるのはやめて欲しい。お客さんには焼き立てを食べて欲しいのは分かるのだが、何もこんなギリギリに焼き上げなくても良いと思う。

 

 パンの陳列を済ませ、勝手口から店の前に出る。うん、結構並んでるな、40人位か? 基本的に朝一でウチにパンを買いに来るのはみんな同じ顔ぶれ、高校の後輩が殆どだ。

 

「む。おはようございます、外神先輩!」

 

 1番先頭に並んでいた眼鏡を掛けた後輩、元浜が話しかけて来た。コイツは重度のロリコンで、毎朝姉とプリム目当てでパンを買いに来ると言うご贔屓様(ド変態)だ。正直、余り姉に近付けたくは無い。

 

「先輩、今日の“ワケアリパン”は?」

 

 ワケアリパンと言うのは、俺と姉が作ったパンの事だ。昔、気紛れに姉がパンを作ろうとしたのだが、余りにも危なっかしかったので自分も手伝ったら、意外と上手に出来た。それ以来、自分と姉が作ったパンを“ワケアリパン”と称して1個100円で売りに出しているのだ。部活の朝練前の学生さん達には好評である。

 

「あんパンとチョココロネとカレーパン」

『チョココロネキター!!』

 

 ワッ、と歓声があがる。まあ、チョココロネはウチの1番人気の商品だからな。ちなみに、ワケアリじゃない、親父が作った方のチョココロネは1個150円だ。

 

「本音さんのこねたチョココロネ……フヒヒ」

 

 ……どうしよう、やっぱり社会の為にもこの変態は抹殺した方が良いのだろうか?

 

 そんな心配をしながら工房に戻って追加のパンを焼く俺だった。

 

 

 




>外神幸一郎
主人公の父。ビシッと整えられたカイゼル髭とダンディな声が素敵な男。
パン屋『アウターゴッド』の店長。
実は元海上自衛隊の自衛艦隊司令官。要は提督。
キャンペーンガールとしてやって来た現役アイドルだった妻に一目惚れし、口説き落とした。
結婚の際に“いつもアナタと一緒に居たい”と言われ、周囲の反対を押し切って自衛隊を退役。パン屋『アウターゴッド』を開いた。
プリムの事は二人の子供と同じ様に、実の子供の如く可愛がっている。

元ネタは『機動戦艦ナデシコ』の『ミスマルコウイチロウ』。征服王と段ボール蛇とどれにするか非常に悩んだ。

>外神あずさ
主人公の母。どたぷーんとしたナイスバディのおっとりマイペース。
元アイドル。現役時代はロングだったが、結婚を機にショートヘアにした。
現役時代にキャンペーンガールとして訪れた海上自衛隊にて、現ダンナに一目惚れする。
結婚する際に“いつも一緒に居たい”と言ったらその日にダンナが仕事を辞めてきたが動じる事は無かった。
現役アイドルの従姉妹ともども、結婚当時からまるで見た目が変わっていない為、翔一は密かに錬金術師なのではないかと疑っている。
シャレにならない方向音痴の為、一人で出掛けるのは禁止されている。が、目を離すとすぐに居なくなる。
近所の洋菓子店に生き写しの様な年下の友人が居る。
プリムの事は二人の子供と同じ様に実の娘の如く可愛がっている。

元ネタは『THE iDOLM@STER』の『三浦あずさ』。身長168cmで体重48kg、なのにスリーサイズはB91/W59/H86。訳が分からない。

>外神本音
主人公の姉。キグルミパジャマと余った袖が目印でいつものほほんとしている。
大学3年生。合法ロリ。
母に似てのんびり屋。大学ではマスコット扱いされており、『新党のほほん』なるファンクラブも形成されている。
弟離れが出来ておらず、しょっちゅう翔一に甘えている。
最近の不満は翔一がプリムの相手ばっかりしていて素っ気無い事。
プリムの事は実の妹の様に可愛がっているが、周囲の人にはむしろプリムの妹扱いされている。

元ネタは『インフィニット・ストラトス』の『布仏本音』。アニメで萌え殺されたのは作者だけでは無いはず。



はい、と言う訳で第1話でした。
原作との絡みは次回からになります。

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