突如として周囲の連中が、まるで時間停止でも喰らったかの様に動きを停めてから数分が経過した。
猿でも分かるレベルの異常事態な為に即座に変身して身構えたのだが、今のところ俺達に怪我人は出ていない。しかし、校庭では停止を免れた青いパワードスーツ『G3-X』が轟音と閃光を撒き散らしているガトリングを横一線に振るい、銃口の延長線上に居た黒いローブを着た連中――魔法使い達を根こそぎ薙ぎ払っている。
あのG3-Xとやら…正直最初は所詮量産型だろうと思っていたのだが、そんな事は無かった。滅茶苦茶強い。
学園一帯が停まってから数秒後に校庭を埋め尽くさんとばかりに無数の魔法使い達が瞬間移動してきたのだが、G3-X達は腕と足に装着されていたマシンガンとナイフを構えたかと思うと、あっという間に周囲の魔法使い達を制圧して即座に一ヶ所に合流。そのまま流れる様な動作で円陣を組んで背中に装着されていたガトリングを掃射し始めた。ここまで僅か40秒の出来事である。
そうして魔法使い達の撃退を開始してからこっち、一人たりとも撃ち漏らしていないのだ。中の人の技量が高いのもあるんだろうけれど、それを差し引いても殲滅力が高過ぎる。なんだあの人型トーチカ、状況によっては俺も完封されかねん。数の暴力ってシャレにならないわぁ……“G3のGはGMが三機分のG”とか考えてすいませんでした。
「どうだ、ショウイチ。G3-Xの性能は大したモンだろう? なにせアレは俺の最高傑作の内の1つだからな!」
窓の外を見ていた俺の側にぬぅっと現れたアザゼルが解説を始める。嬉々とした表情からして語りたくて仕方がないのだろう。まるでオモチャを自慢する子供だな、コイツ本当に“総督”なんて御大層なヤツなのだろうか? 主任研究員とかそっちの方が似合ってる気がする。
「……まあ、G3の方は『停止世界の邪眼』に引っ掛かっちまってるみたいだけどな。量産型だから仕方ねぇとは言え、中々に切ないものだぜ……」
うん、確かに固まったまま敵にも味方にもスルーされている姿を見ていると、なんとも言えない物悲しさが込み上げてくる……まあ、それは置いておいて。
『アザゼル、『停止世界の邪眼』とは何だ? この現状を作った奴の名前か?』
「ああ、“奴”と言うか
え、マジで時間停止なの? それは反則過ぎるだろ、俺も何か1つ神器欲しい……あれ?
『なんで俺達は動けるんだ?』
俺、世界さんとか白金さんとか金栗さんとか持ってないよ?
「そりゃあ、いくら強力な神器でも、本人の力量が低ければ格上の相手は停められんからな。G3-Xやグレモリーの娘が動けている事から鑑みれば、恐らく現状停止させられるのは上級未満レベルまでだろうな。お前さん、確か水のエルを倒したんだろう? それなら少なくとも実力的には上級天使以上、その上イレギュラーな聖魔人だ。むしろ停まる方がおかしい」
いや、まあ、アレは“倒した”と言うより自己再生能力頼みの自爆特攻みたいな物だったんだけどね。正直、自分でも良く生き残れたと思う……両手と下半身吹っ飛んだし……っとと、それは今関係無いな。
成る程、つまり表で一纏めに停められてる奴等は皆上級未満か……自分の所のボスが出て来るのに、その程度の奴等しか護衛に出さないってどうなの?
『……それで、これからどうするんだ?』
「そうだな……取り敢えず、お前をこの場から逃がす。ショウイチ、お前さん確かバイクで来てたよな? この結界はアギトを素通りする様に調整してある。ヴァーリを囮に暴れさせるから、その隙にこの学園を脱出しろ。いけるな、ヴァーリ?」
「フッ、囮になるのは構わんが――別に、全滅させてしまっても構わんのだろう?」
ヴァーリ少年それ死亡フラグ……じゃなくて。
『何で俺が?』
どちらかと言えば、動けずに固まっている生徒会長やグレモリー達の方を逃がすべきなんじゃないだろうか? 自惚れ抜きにして、コカビエルに苦戦してたコイツ等よりも確実に俺の方が強いぞ。
「言っただろう? 人でありながら悪魔と天使の寵児であるお前は、
なんか一番最後のが本音に聞こえるが、そう言われるとなぁ……でも、やっぱり自分より弱い後輩達を見捨てて逃げるのは無理だ。“嫌”じゃない、“無理”だ。戦え無い人の代わりに戦うのが仮面ライダーだから、少なくともこの時間停止状態が解けるまでは逃げない。
「……お前つくづく生まれてくる時代を間違えたな。後二百年早く生まれてたら、英雄に名を連ねてたかもしれないぞ?」
呆れた様にアザゼルはそう言うけど……いやいや、俺は英雄なんて向いてないから。確かに戦え無い人の代わりに戦うけど、場合によっては見捨てるから。優先順位は着けますから。今回は知ってる後輩達が相手だから言ってるだけな訳で。
そうだな……例えば、見知らぬ一億人の命とプリムの命を天秤にかけたとしよう。英雄だったら迷わず一億人を助けるだろうけど、俺は迷わずプリムを助けますから。多分死ぬ程後悔するだろうけど、プリムを選ばなかったら死んだ方がマシな位後悔すると思うから。
勿論、プリムを助けた後にまだ小数点以下何%でも希望があれば全身全霊で一億人も助けにいくけど、それでもプリムを優先するのは変わらない。
俺に世界の平和なんて護れない。俺が護れるのは、俺の手の届く距離の人達の平和だけだから。大切な人と有象無象だったら、大切な人を助けるから。
だから俺は
「……“救う対象の選別”が出来るのか、お前さん。しかも“自分以外の誰かの為に不特定多数を斬り捨てるタイプ”、と。一番敵に回したくないタイプの英雄だなぁ、おい。プリムの奴が入れ込む訳だ」
『いや、普通はそうするだろ?』
「
『そうかなぁ? 何やかんやで最近の若者は冷たいから、見ず知らずの他人の命なんて平気で斬り捨てそうなものだけど?』
親父だって“本当にいざという時は自分の大切な人を護れ”って言ってたしね。元自衛官的にその発言はどうかと思うけど。
「それは命の重さが分かって無い馬鹿共の話だろう? 俺が言ってるのは、お前さんみたいに“人の命の重さを分かってて、それでも誰かの為に斬り捨てる”奴だ。そう言う奴は何してくるか分かんねぇから、マジで洒落にならねぇんだよ。戦う理由が自分の為じゃないから、当人への損得勘定じゃあ絶対にぶれないからな……“神殺し”だの“龍殺し”だのやらかすのは、総じてお前みたいな奴さ」
『それはその人達にも何か退けない理由があっただけじゃ……ッ!?』
突如脳裏に走った煌めく様な感覚――ロードだ。しかも一体だけじゃあない。感知出来た範囲で3体、下手したらもっといるかもしれない。畜生、よりにもよってなんでこのクソ面倒臭いタイミングで仕掛けてきた!?
「おい、どうした?」
『ロードだ!』
「はぁ!? このタイミングでか!?」
ロード共は駒王学園の上空をぐるぐると旋回している。かと思った所で一斉に俺の探知限界ギリギリにまで高度を上昇させ、そのまま真っ直ぐに駒王学園目掛けて突っ込んできた。不味い、アイツ等力尽くで学園を覆っている結界を突破する気だ!!
ロードには“女悪魔の異能を封じる能力”がデフォルトで付いている。下手に攻め込まれたら生徒会長やグレモリー達に被害が及ぶかもしれないし、それより何より、今結界が壊れたら学園周囲の住宅街に被害が出かねない!
『させるか……ッ!!』
「おい、ちょっと待……」
しゃがみこみ、脚に込めた力を一気に解放して跳躍。会議室の天井に風穴を開けてしまったが、一刻を争うので平にご容赦願っておこう。
そうして数十メートルまで跳び上がり結界を突破した直後。駒王学園の結界をぶち破らんとばかりに超高速で頭から突っ込んできた黒い鳥型のロードは、前転を繰り返して遠心力を付けた上で“角”を展開した炎の剣で真っ向から叩き斬って撃破。時間差で突っ込んで来たロードの青竜刀を剣で受け流して背後から斬りつけようとしていた大鎌持ちの鳥型ロードにぶつける。
空中でぶつかりあったからにはバランスの1つでも崩して墜落するかと思ったのだが、ロード共は即座に体勢を立て直して俺目掛けて大きく旋回しながら左右から突っ込んで来る。今気付いたのだが、アイツ等飛んでるのに翼は羽ばたかせていない。“飛行”も能力の1つなのか? だとしたら墜落によるダメージも狙えないのか……
しかし参ったな……最初の一体は跳躍と前転の勢いを利用して斬り棄てられたけど、流石に自由落下状態じゃあ空中の敵なんか斬れない。マンガとかで落下しながら剣劇を繰り広げるシーンとかあるけど、あんなのガセだから。足場も無いのにそんな事出来る訳が無い。はてさてどう捌いたものか……
『――――――!』
等と考えていた所で聞き覚えのあるエンジン音。上半身を捻って振り返ってみれば、そこにはなんと我が相棒マシントルネイダー、縮めてトルネの姿が! 何か前輪と後輪が横倒しになってるし、車体も心なしか薄く長くなっている。え、何があったの?
『――――――!』
『いや、“翔びました!”ってお前……最高だぞ相棒!!』
軽快なエンジン音で告げてくるトルネに感激する。この際理屈なんてどうだって良い。頼れる相棒が更に頼れる能力を得たのだ、力を借りない手は無いだろう。素早くトルネに着地して剣を構え直す。ふむ、形状的にはサーフボード型か? 危惧していたよりも乗り心地は遥かに良いな。
『トルネ!』
『――――――!』
阿吽の呼吸で反転したトルネが、通常形態とは比較にならない猛スピードで大鎌持ちのロード目掛けて飛翔する。風でバランスを崩さないか一瞬心配だったのだが、トルネが透明なエネルギーフィールドの様なモノを張ってくれたお陰で完全無風状態だ。流石相棒、痒い所に手が届くその気遣い、最高です。
『ハアアアアアアッ!!』
『が、ギ、アアアアアアアアッ!!』
“角”を再展開し、炎の剣をすれ違い様に振り抜いて胴体から真っ二つに斬り捨てる。まさかここまでトルネがスピードをだせると思っていなかったであろう大鎌持ちのロードは反応すら出来ずに上半身と下半身を泣き別れさせた。後一体……!
ロードが爆散するよりも速く旋回し、青竜刀を持ったロード目掛けて飛翔する。
青竜刀持ちは一瞬で大鎌持ちを斬り捨てた俺達に恐れをなしたのか急反転して逃げ去ろうとしていたが、新しい能力を手に入れたトルネから逃げるには、いささかばかりに遅過ぎる。一瞬で奴の背後まで追い付き、そのまま追い抜き様に背中から斜めに袈裟斬りにしてやった。
『……よし、コイツで全部だな』
攻め込んできた鳥型ロード三体を仕留め終わったので急いで全身全霊でロードの気配を探ってみたが、少なくとも感知範囲内にロードの気配は無し。良かった、伏兵とかは居ないみたいだな……
『さて、どうするか……』
アザゼルからは逃げろと言われていたが、やはり英雄云々以前に男として逃げる訳にはいかないだろう。流石に人間相手にアギトの力を振るう訳にもいかないし、もう一度会議室に戻って生徒会長達の防衛に回るか。さっき飛び出す時に天井に大穴開けちゃったし、そこから敵に攻め込まれてたら困るしな。
『よし、そうと決まれば早速。トルネ』
『――――――!』
結界上空でホバリングしてもらっていたトルネに頼み、再び結界内に侵入する。どうでもいいけどこの結界、内側から外側は見れるのに外側から内側は見れないんだよなぁ……いや、まあ、当然と言えば当然なんだけどね? 外から丸見えじゃあ意味無いし。
『おい、全員無事……』
「――貴様ッッ! 部長のォォォォォ! 俺の部長のおっぱいを半分の大きさにするつもりかァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!」
……赤い鎧を纏った(恐らく)兵藤が凄まじい怒気を撒き散らしながら、空中に浮かんでいる白い鎧を纏ったヴァーリ少年に啖呵を切っていた。
……えっと……うん……
『 ま た お ま え か 』
Α-Ω
――その後、何故か分からないがドラゴンの力を跳ね上げた兵藤がヴァーリ少年をぶっ飛ばし、闘争心に火が着いたヴァーリ少年が『白龍皇の光翼』に宿っていると言うアルビオンの静止を振り切って『覇龍』とやらを使おうとした所で孫悟空の子孫を名乗る男が襲来。ヴァーリ少年を連れて何処かへと転移していき、同時に魔法使い達も投降を始めたのであった。
俺が結界の外に出ている隙に何があったのか、何故か片腕を無くしているアザゼルに聞いて見たのだが……どうやらヴァーリ少年がテロ組織『
それと、悪魔については先代魔王の子孫達とそいつらを敬い奉る『旧魔王派』と言う連中の殆どが『禍の団』に与する事になったそうだ。
「……酷い話ね。今代の赤龍帝については『愛欲』を司る身としては好ましいけれども、悪魔達は駄目ね、私が冥界に居た頃から何一つ変わっていないわ。血統主義で転生悪魔の事は同じ悪魔と見なさない、上級悪魔達は下級中級の悪魔達を道具扱い……だから悪魔にはうんざりなのよ」
帰宅後に会談での出来事をプリムに伝えた所、忌々しそうに吐き捨てた。うん、まあ、俺は直接会った訳じゃないからなんとも言えないけど、話に聞いた先代レヴィアタンの子孫とやらも相当アレだったらしい。
「……それと、ヴァーリ少年についてなんだが……」
「今代の白龍皇ね、それがどうかしたの?」
どうかしたかと言われれば、うん、どうかしてるんだけど……どうしよう、今更ながらこれは伝えるべきなのだろうか……いや、やっぱり話しておくべきだな。
「……ヴァーリ少年の本名は、ヴァーリ・
「っ……そう」
察したプリムは一瞬目を見開いた。まあ、そうだろう。ルシファーの子孫と言う事は即ち、ヴァーリ少年はプリムの曾孫なのだから。
「……ショウイチは、私を軽蔑しないの?」
え、なんでそうなる?
「だって……私、元既婚者よ? ルシファーが死んでるから未亡人だけど、曾孫が居るのだから、子供も居るわ。つまり、その………………処女じゃ無いわよ?」
プリムはそう言って不安気に俺を見るが……え? それだけ?
「“それだけ”って……私、今かなり伝えるの不安だったのだけど……」
「いや、だってこういう言い方はどうかと思うけど、正直“非処女”なんて全然珍しく無いと言いますか……まあ、中には“初めて”に拘る輩もいるけれど。俺は別に気にしないかな? そもそも、今時そんな事で相手を軽蔑するなんてナンセンスな上に女性蔑視にも程があるだろ」
そもそもプリムに手を出すつもり無いし……おいそこ、“ご冗談をペドイチさん”とか言うんじゃ無い! 無いったら無いの! ……少くとも今は。
「……ふふっ、そうね。アナタはそう言うヒトだったわね、ショウイチ」
にんまりと微笑むプリム。不安が解消された様で何よりだ。
「……じゃあ、そろそろ俺のベッドじゃなくて、自分の部屋のベッドで寝てくれる? それかせめて服着て?」
「例え翼もがれようと、断固として断るわ」
ちくしょう。
>外神翔一
主人公。順調に無意識下でヒロインその1へのデレが進行している模様、覚醒の時は近い。
ちなみに、現在デレ度ぶっちぎりの第一位はヒロインその2であったりする。
度重なる失態によって主人公の中での原作主人公の株が大暴落中。
>マシントルネイダー スライダーモード
ヒロインその2。空中で身動きが取れない翔一を助けるために空を飛んだ健気過ぎるバイク系ヒロイン。
『オルタバリアフィールド』と呼ばれる強力なエネルギーフィールドによって車体と搭乗者を守る為、最高速を出してもコクピット周辺は完全無風状態となり影響を受けない。前後のオルタホイールは「オルタフィールドホバリングジェネレーター」と呼ばれるホバー装置となり、ホイール側面からオルタフォースを発生させ、0から400mを5秒というドラッグマシンばりの加速力と、時速720kmという全ライダーマシン中トップクラスの性能を誇る怪物マシン。
車体をエネルギーフィールドで覆い、持ち前の超スピードで突進する『ドラゴン・ブレス』が必殺技。
>鳥型のロード
原作『仮面ライダーアギト』においてアギトを撃退した事がある中々の強敵。
正式名称はクロウロード:コルウスクロッキオ。時速340kmのスピードで空中を飛行し、上空から獲物に目掛けて兜のように硬い頭部で頭突きを喰らわせるのが得意戦法。
駒王学園を覆う結界を強引に突破しようとした所、原作同様アギトのセイバースラッシュで真っ二つにされた。
>大鎌を持ったロード
原作『仮面ライダーアギト』においてはアギトトリニティフォームにライダーシュートされて爆散した。
正式名称はクロウロード:コルウス・カルウス。影から影へと移動する能力を持っており、獲物に音もなく忍び寄って『骸の鎌』と呼ばれる大鎌で襲い掛かるデスサイズヘルの様な戦法を得意とする。
特徴:ハゲ。コルウス・カルウス(ハゲのカラス)と言う名の通り、頭頂部がつるつるしている。
>青龍刀を持ったロード
原作『仮面ライダーアギト』においては形勢が不利だと悟るや否や逃亡するチキン野郎だったが、アギトトリニティフォームに串刺しにされて爆散した。
正式名称はクロウロード:コルウス・ルスクス。衝撃波を放つ能力を持っており、衝撃波で足留めしながら『屍の刀』と呼ばれる青龍刀で獲物を切り刻む。
特徴:ちょんまげと眼帯。人を殺害する事に歓喜するシリアルキラー。
はい、と言う訳で第十話でした。
更新遅れて申し訳ありません! 許してください、何でもしますから!
それはさておき皆さん、BorNの第一話はもう見ましたか? 作者の家ではAT-Xが見れないので、6日の放送開始が楽しみです。
次回こそ、次回こそ一週間以内に更新を……!!