仮面ライダーになった   作:ユウタロス

1 / 19
序章 始まりの日 ―ビギンズデイ―

 ――ゴールデンウィークに、本州一周の旅に出た。

 

 バイクに簡単なキャンプセットやお金、気替えなんかを積み込んで自由気侭な一人旅。色々な場所に行き、色々なモノを見て、色々な物を食べる。街が有ればビジネスホテルに泊まり、無ければ野宿。そんな具合に日本全国津々浦々を巡っていたのだ。

 

 そして旅行8日目。つまり今日の朝。山の中で倒れている少女を夢で見たのだ。

 

 普通は『変な夢だった』で終わるのだろうが、生憎と自分はそうでは無かった。妄想癖があると思われたら困るので先に言っておくが、これは事実だ。家族や親戚だけで無く、親しい友人も知っている。

 

 ――自分は、超能力者だ。もっとも、超能力を自由に使える訳では無いのだが、それは一旦置いておく。

 

 何が出来るのかと言うと“予知能力”が、正確に言えば“予知夢”を見る。自分は幼少の頃からおよそ月に1回は未来の出来事を夢に見ているのだ。

 

 偶然の類だと思われるかも知れないが、まるで映画のワンシーンの様に明確な光景が第三者視点から見え、実際にその通りの出来事が起きるので偶然では無い。勿論、自分が対処出来る距離での出来事は全力でなんとかした。なので、俺と親しい間柄の人間は全員俺の能力を知っている。

 

 それ故、今まで予知夢を外したことが無い自分としては倒れている少女を放っておく事なんて出来る訳も無く、朝から冷たい雨の中バイクを走らせる事6時間。夢で見た山を見付け、泥濘んでいて大変歩き辛い山の中を探索する事3時間。9時間かけて漸く倒れている少女を見付けたのだ。

 

 春になったとは言え、まだまだ早朝の山は肌寒く、件の少女の服装は薄いワンピースのみ。しかも先ほどまで降っていた雨のせいで全身ズブ濡れだ。

 

 慌てて駆け寄って少女を抱き起こした所、呼吸はしていたのでホッとした。一先ず少女を病院に連れて行こうと抱き上げた瞬間、意識を取り戻した少女と瞳が合った。

 

 経緯はどうであれ、目を覚ました直後に見知らぬ男に抱き抱えられていたら、普通はパニックになるであろう。山の中で人目が無いとは言え、叫ばれるのは勘弁願いたい。どうしたものかと考えていた所でくぅ〜……と言う、切なそうな音が少女の腹から響き渡る。

 

 少女は青褪めた顔をほんの少しだけ紅くして、幼い少女特有の甘く澄んだ声で一言。

 

「お腹が、減ったわ……」

 

 思わずズッコケそうになった。目を覚ましたら見知らぬ男に抱き抱えられていたと言うのに、第一声がソレかと。

 

 一旦少女を地面に降ろし、リュックからウィダーイ○ゼリーを取り出して与えた所、ハムスターの様に両手で持ってチューチュー吸い始める少女。雨が降り頻る山で野晒になっていたのだ、そりゃあ空腹にもなろう。

 

 ここで一旦落ち着いて、ウ○ダーを啜る少女を見てみる。

 

 体温が低下している事を差っ引いても、雪の様に白い肌。艶に満ちていて、一本一本がキラキラと輝いている金髪。深い赤紫色の瞳。人形の様に整った顔。どう考えても日本人では無さそうな見た目だと言うのに、先程の流暢な日本語。

 

 厄介事の匂いがプンプン漂ってくる。

 

 あっと言う間にウィ○ーを飲み干した少女が物欲しそうな眼でコチラを見てくる。他に何か有ったかたとリュックを漁ってみるが、残りは皆固形物ばかり。流石に弱った身体では固形物は駄目だろう。と言うか、先ずはこの娘の素性を聞かなくては。ご両親と連絡が取れなかった場合、最悪警察沙汰になりかねない。

 

「……俺は、外神翔一(とがみ しょういち)。高校3年生だ。君は?」

「……プリム・レディ。プリムと呼んで頂戴」

 

 プリム・レディ、か……まあ、偽名だろうな。はてさて、この少女はどうやって扱ったものか……

 

「……では、プリム。君は一体、どうしてこんな山の中で倒れていたんだ?」

「貴方に逢う為……と言ったら、どうするかしら?」

「何……?」

 

 何を言っているんだこの幼女は……? 低体温症で意識が混乱してるのか……? いや、それにしては受け答えがしっかりしてる……

 

「逆に聞かせてもらえるかしら。貴方はどうして、こんな山の中で私を見つけられたの?」

 

 唐突な質問に、思わず固まった。今の自分はさぞ滑稽な表情をしているのだろう。プリムは小さくてふっくらした唇の端を持ち上げると、ペロリと真っ赤な舌で艶めかしく唇を舐めて目を細めた。せいぜい12、3位の年齢(とし)だろうに、何処でそんな仕草を覚えてと言うのか。プリムの家庭環境が心配になる――とまあ、現実逃避はこの位にしておこう。ついでに、流暢過ぎる日本語にも一旦目を瞑ろう。

 

「ねえ、どうして私が此処に居る事が分かったのかしら?」

 

 ニヤニヤと笑みを浮かべながら尋ねてくるプリム。まさかこの少女、俺が予知能力を持ってる事に気付いて……いや、そんな筈は無いな、俺の困ってる顔が見たいだけだろう。性格の悪い少女だ。と言うか、その嫌らしい笑顔は何処で覚えたんだ。

 

「……どうもこうも無い。山を歩いてたら、偶々君が倒れていたのを見付けたんだ」

「何の為にこんな山に入ったのかしら? ここは登山道も無い、名前も無い様な山よ?」

「入りたくなったから入ったんだよ。さあ、お喋りの時間はお終いだ。さっさと病院に……」

 

 いい加減に面倒になったので会話を切り上げようとした所で、プリムの様子がおかしい事に気付いた。先程の嫌な笑顔は鳴りを潜め、険しい表情を浮かべている。

 

「……そうね、もうお喋りの時間は終わったみたい。とうとう、見付かってしまったわ」

「……プリム?」

 

 “見付かった”って、誰に見付かったと……ん?

 

「何だ、あれ……?」

 

 プリムの視線の先を見た時、思わずそんな言葉が漏れた。自分達の居る場所から10m程の地点で、地面がゴボゴボと音を立てながら水没していっているのだ。液状化現象、いや、間欠泉か……? とにかく、此処から離れた方が良さそうだな。

 

「プリム、早く行こ……っ!?」

 

 プリムの手を取り歩き出そうとした瞬間、水没した地面から数本の触手が現れた。触手達はウネウネと蠢いたかと思うと一斉に自分達、いや、プリム目掛けて向かって来た。

 

「っぶねぇ!!」

 

 咄嗟にプリムに覆い被さる様に地面に伏せると、自分達の真上を勢い良く通過する。そのまま

触手達はプリムの後方にあった、プリムの身体と同じ位の太さ木に巻き付くと、その木を根子から引き抜いて水溜りに引きずり込んだ。

 だが触手達は“コレじゃない”とでも言いたげに引きずり込んだ木を放り投げると、再びプリム目掛けて向かって来る。

 

「逃げるぞっ!!」

 

 リュックサックを触手目掛けて放り投げ、プリムを抱えて全力疾走する。お姫様抱っこなんてやっている余裕は無いので普通に正面から抱擁する様に抱き抱えているが、警察に見付かったら豚箱行き間違いなしだ。

 

「……ロード……」

「ハァっ……何、ハァっ……だって……!?」

「あの触手の名前よ。個体名までは知らないけれど」

 

 それだけ言うと、プリムは俺の首に手を回し、両足で胴体を挟み込んで心地良さそうにしがみ付く。この非常事態にこの少女は……!

 

「っとお!?」

 

 前方に水溜りが発生し、そこから飛び出して来た触手を間一髪で躱す。危なかった、後ろから来ないから油断してた。と言うか、どっからでも出てくるのかよアレ。

 

「ハァッ……はぁっ……着いた……っ!!」

 

 走って走って、ひたすら走り続けた所で、漸く停めておいたバイクに辿り着いた。飛び付く様にバイクに跨り、ヘルメットをプリムに被せて急発進する。助かった。正直、もうプリムを抱き抱える腕が限界だったのだ。

 

「……はぁ〜〜〜……っ!」

 

 猛スピードでバイクを走らせ30分、距離にして40㎞程だろうか。そこまで来た所で漸く一息吐けた。バイクを路肩に停め、側にあった自販機で水を買う。極度の緊張状態だった為か、喉がカラカラに渇いていた事に気付いたのは水を一気に飲み干した後だった。

 

「落ち着いたかしら?」

 

 ヘルメットを両手で抱えたプリムがちょこんと俺の側に座って聞いてきた。正直グーで殴り飛ばしたい所だが、もう一本購入した水を頭から被って冷静さを保つ。

 

「……さっきのアレは、何だったんだ?」

「……ロード。私を殺す為に創られたモノよ」

「殺す為……」

 

 冗談だと思いたいが、先程の触手が数百㎏はあるだろう木を容易く地面から引き抜いていたのを思い出す。確かにあれだけの力があれば、少女の一人や二人、容易く引き裂けるだろう。問題は、何故プリムが狙われているのかと言う事だ。

 

「……プリム、どうして君は狙われているんだ?」

「……ごめんなさい」

 

 言えない、か……参った、これでは迂闊に警察にも連れて行けない。

 

 ……仕方が無い。洋服も確保しないといけないし、一度俺の泊まっているビジネスホテルに戻ろう。プリムも俺も、こんなにズブ濡れじゃあ風邪を引いてしまう……ホテルの従業員に通報されるかもしれないが、背に腹は変えられん。

 

 立ち上がり、バイクに向おうとした瞬間、考えるよりも早くプリムを抱えてその場から飛び退いた。恐らく、本能的に“予知”が働いたんだろう。

 

 再び地面が水没し、飛び出して来た触手達がバイクを跳ね飛ばしたのだ。数m程浮かび上がったバイクはグシャリと言う音と共に地面に叩き付けられた。マフラーは歪み、ハンドルは圧し折れ、ガソリンが漏れている。拙い、足を潰された……!

 

 プリムを抱えたまま数百m程走り、田んぼの側溝に身を隠す。周囲を見渡すが、辺り一面田園風景、人っ子一人居やしない。どうする、どうすれば良い……!?

 

「……ここまでね。ショウイチ、貴方は逃げなさい」

「……は? 何言って……」

「さっきも言ったけれど、あいつの狙いは私一人。何もしなければ、貴方が狙われる理由は無いわ」

 

 ……なるほど、プリムの話が本当ならば、確かに何もしなければ俺が狙われる事は無いだろう。元々見ず知らずの他人だ、わざわざ俺が命懸けで助けなくてはならない理由なんて無い。

 

 だが。

 

「……何をしているのショウイチ? さっさと逃げなさ……」

「断る」

「……え?」

 

 こんな幼い少女を囮にして逃げるだと? 巫山戯るな、冗談じゃない。誰がそんな生き恥を晒せるものかよ。

 

「……馬鹿な事を言ってないで逃げなさい。貴方、高々18年ぽっちで人生を終わらせたいの?」

 

 俺だって死にたくは無い。もっと色々なモノを見たい。もっと色々な物を食べたい。もっともっと生きて、世界中を旅して回ってみたい。だが、少女を見殺しにしてまでそんな事をしたくは無い。

 

 確かに、プリムを見捨てれば俺はまだまだ生きられる。色々なモノを見れるし、色々な物を食べられる。世界中を旅して回れる。

 

 だが、何かを見る度に、何かを食べる度に、何処かの国を訪れる度に思うだろう――プリムはこの料理を食べた事はあったのだろうか、この美しい光景を見た事はあったのだろうか――と。その度に、俺は後悔と自責の念に駆られるだろう。

 

 俺は、そんな想いを抱えて生きていたくはない。

 

「……どうして? 何故貴方はそうまでして、見ず知らずの生意気な小娘を助けようとするの?」

 

 そんなの、俺が後悔したく無いからだ。ああ、そうだ。予知夢を見る度に人助けをしていたのだって、結局は“知っていたのに助けなかった自分”が嫌だからだ。助けられる側の事情なんて知った事では無い。つまり――

 

「――俺が君を助けたいから、助けるだけだ」

「――――」

 

 ――ただの、自己満足だ。

 

 俺の答えにプリムは目を丸くして驚いている。まあ、普通はそうだろう。何処の世界に“後悔したく無い”と言うだけの理由で、訳の分からない化物に狙われている少女を助ける男子高生が居ると言うのだろうか。

 

 少なくとも、俺は俺意外にそんなバカは知らない。

 

「……じゃあ、貴方は私の為に命を捨ててくれるのかしら……?」

「ああ……だが、安心しろ。少なくとも、今死ぬつもりは更々無い。あの化物をぶっ殺して、絶対にお前をご両親の所に連れて行ってやる」

 

 俺がそう言うと、プリムは俯いて肩を震わせ始めた。

 

「……フフッ……ウフフフッ……」

 

 あれ、何故だろう、何か笑い声が聴こえてる気がするんだけど……今笑う所あった?

 

「お、おい、プリ……」

「――最ッッッッッッッ高ッ!!」

 

 俺が声を掛けようとした瞬間、プリムがガバッと顔をあげた。何だ、どうしたと言うのか。何故頬が紅潮している、何故熱に浮かされた様な瞳で俺を見る、何故俺の首に手を回……え、ちょ、顔近い近い近い近……!

 

「ん……っ」

「!?!?!?」

 

 擬音的にはズキュウウウンだろうか? ……はい、キスされました。いや、余りにも自然体で抵抗する間も無……え、おい、舌はマズ※/★⑨☆ー∀㍼⊕〆!?

 

「……ちゅる……ずちゅ……チュプっ……」

「♞※◇✘♪☆@&*$」

 

 ♪♢♡…♯☎△※○✗◎!♝⚂仝彡ゞ〆〃……ーゞ⊕∀∅∩∞∴∬₳㍼Å☆……※♡✗◎♞☎♢……⚂〓/>……∴★∞……⑨@……&………

 

「ちゅう……じゅぽっ……っぷはぁ! ウフフッ、

ご馳走さま♡……あら?」

 

 ……………………

 

「うふふっ、初心ねぇ……ほら、目を覚ましてショウイチ。私の事を助けてくれるんでしょう?」

「……ハッ! 何すんだこの幼痴女!! いきなり舌ぶっ込むとか、どういう神経してんだ!?」

 

 後輩の元浜(ロリコン)なら大歓喜だろうが、俺はノーマルなんだぞ!? と言うか、何処でそんな舌使いを覚えた!? 殺されるかと思ったわ!

 

「落ち着きなさい。今、貴方に力を与えたのよ。私を助けられる力をね」

「……何だって……?」

 

 プリムを助けられる力? そんなものがあるなら、どうして自分で使わない……? 俺が付け焼き刃で使うよりも、プリムが自分で使った方が確実な気が……いや、まあ、見捨てたりするつもりは更々無いんだが……

 

「私はロードに対してだけは無力なの。ロードと相対する時は、見た目通りの小娘でしかないのよ」

「……良く分からないが……まあ良い。それで、どうすればいいんだ?」

 

 正直、特に何かが変わった気がしないのだが……

 

「……おかしいわね、確かに今……封印が長過ぎたかしら……? 仕方が無いわ。ショウイチ、ほんの少しばかり痛いわよ?」

「……それしか方法が無いなら、仕方が無い」

「うふふ、良く言ってくれたわね。益々惚れ込みそう」

 

 怪しげな微笑を浮かべると、プリムは手の甲に現れた奇妙な紋章を翳してきたのだが……やっぱり特に異変は……ッ!?

 

「ぐっ、あっ……が、あああああああああッ!?」

 

 なん、コレ、くぅッ、痛、あ、ガアアアアッ!? から、だ、砕け…ッ! ヅァッ、苦、し……ッ! 何か、暴れ…ッ!?

 

「ぐっ、ぎッ、い…ッ! あ、アアアアアアアッッッ!!!?」

 

 ちく、しょッ……いし、き……飛………………………………………

 

「……え……拒絶反応!? そんな筈が……まさか!」

 

 ………………なん…? 声、誰…? ッ! プリム…ッ、助、け…ッ! タエ、ロ…タエろ、タえロたえろ耐えろッ! 意識、繋、げッ!! 力、抑え、付けろッ!!

 

「ぐぅ……ら、あああああアアアアァァァァッッッ!!!!」

 

 気合、入れ、ろッ……外神翔一ィィィィッッッッ!!!

 

「――――変身ッッッッッ!!!」

 

 どうして“変身”と叫んだのかは分からない。でも、その言葉が正しかった事だけは分かった。

 

 身体が緑色の光に包まれ、さっきまでの全身の痛みが無くなる。そうして光が収まった時、俺は“変身”していた。文字通り、俺の身体はまるで別のモノになっていた。

 

 両手脚と胴体が水棲昆虫の表皮の様な緑色のモノに覆われており、頭は角の付いた硬いヘルメットの様なモノで覆われている上に、全身の至る所に鉤爪の様な物が生えている。腰には奇妙な石の付いた血のように赤いベルト。

 

 鉤爪が無ければ、まるで仮面ライダーみたいだ。

 

「やっぱりアギトじゃない……ギルスに……間違いない、『水』のせいで……ッ!」

 

 俺の姿を見たプリムは困惑した表情を浮かべて一人で何かを考察し始めた。“ギルス”と言うのがこの姿の名前なのだろうか? どうも、この姿になったのは予想外のようだけど……まあ、一旦それは置いておこう。まずは――

 

「させるか」

 

 ――足元に出来た水溜りから、プリム目掛けて出て来た触手を纏めて掴み取る。うん、この状況でプリムを助けられる力と言うのは伊達では無いらしい。つい数分前まであれ程恐ろしく思えていた触手達は、もはや気持ち悪く動く紐にしか感じられない。

 

 触手達は俺の手から逃れようとビチビチとのたくり回るが、逃がすつもりは無い。

 

「ダァアアアアアッ!!」

 

 全力で、触手諸共に本体を水中から背負い投げする様に引っ張り出す。

 

「ギグッ…………!?」

 

 現れたのは全身真っ赤なタコをそのまま乗せたかの様な頭の怪物。醜悪なフォルムで、果てし無く気持ち悪い。意味が被ってるかもしれないが、要はそれ位不愉快な形状をしているのだ。コイツが本体か。何か背中に羽っぽいの付いてるし、クトゥルーみたいな奴だ。確か、プリムは“ロード”と呼んでいたな。とてもそんな高貴な見た目をしてはいないが……まあ良い。

 

 ロードの触手を全力で引っ張り、遠心力を付けて大地に叩き付ける。衝撃で田んぼの土が豪快に舞い上がり大穴が開いたが……まだ田植えを始めていないようなのでセーフにしておこう。

 

 散々襲って来た上にバイクまで壊してくれたんだ、絶対に潰す。

 

 再び叩き付けようとハンマー投げの様にロードを振り回していたらブチッと言う音と共に触手が千切れ、ロードが田んぼを豪快に水無し水切りしながら吹き飛んでいく。

 

「……随分弱いな」

 

 何と言うか、うん……正直、拍子抜けしてる自分がいる。さっきまでの俺の苦悩は何だったのかと言いたくなる。力のお陰なのは分かっているんだが、幾ら何でも弱過ぎやしないだろうか?

 

「……まあ良い」

 

 その辺の事は後でプリムに聞くとしよう。先ずは飛んでいったロードにキチンと止めを刺さないと……

 

 そう思って歩き出そうとした瞬間、衝撃の出来事が起きた。効果音的にはズボァッ!! だろうか? 何が起きたのかと言うと――背中から触手が生えた。赤くて太い、それはそれは立派な触手が。2本も。

 

 …………うん。

 

「ぎゃあああああああああああッッ!?!?」

 

 何じゃこりゃあああああああッ!? ヤバい! キモい! まるで自分の手の様に動かせるのが余計にキモい! 何なんだよさっきから!? 今の俺の見た目、明らかにラスボスじゃん!! 小さい子が見たら泣くぞ!?

 

 ……いかん、取り乱した。冷静に考えれば自由に動かせる伸縮自在の腕が2本増えたのだ、これは大きなアドバンテージになり得る。嫌がる理由なんてまるで無いはずじゃないか…………見た目キモいけど……

 

「……行けッ!!」

 

 掛け声と共に触手は物凄い速度でロード目掛けて伸びて行き、その腹と胸を貫い……

 

「……うっ……」

 

 ……この触手もちゃんと俺の身体の一部になっているようだ……正直、心臓を素手で貫く感触など二度と味わいたく無い。

 

「ぎ、が、か、か……」

 

 致命傷を負ったロードは痙攣しながら声を漏らしている。ロードの胴体から触手を引き抜くと「じゅるリ」と粘着質な音が聴こえてくる。全身に鳥肌が走っている、正直今すぐに湖にでも飛び込んで全身を洗いたいが、必死に堪える。何となくだが、ロードが未だ死んでいないのが分かる。無論、もうすぐにでも死にそうだが。

 

 ――返り討ちにしただけとは言え、致命傷を負わせたのは俺だ。死ぬまで見届けるのが筋だろう。

 

 びくびくと痙攣しているロードの頭の上に、光の円盤のような物が現れ、その数瞬後にロードが木っ端微塵に爆発した。死んだら爆発するとは、益々仮面ライダーみたいだ。頭に円盤が現れた時はまだ何かするつもりなのかと警戒したのだが……どうやら杞憂だったようだ。

 

「……終わったようね」

「……ああ。殺した」

 

 背後からプリムの声が聴こえた途端、地面にへたり込んでしまった。情けない話だが、腰が抜けてしまったのだ。そんな自分を見たプリムがクスクスと笑っているが、仕方無いではないか。自分はほんの2時間前まで命懸けの殺し合いなど経験した事が無かったのだ。変身してからは終始圧倒していたとは言え、人型の生物を自分の意思で殺したのだ。腰の1つや2つは抜けて当然、むしろ腰が抜けたのが闘いが終わった後だった事を褒めて欲しい。

 

「はぁ〜……」

 

 しかし、この後はどうしようか。春だとは言え、ここは山間部だ。辺りは既に夕暮れに包まれているし、街まではあと数十㎞はある。バイクもキャンプセットも無いし、何より元の姿への戻り方が分からない。この姿で街にでも行こうモノなら、間違い無く特殊部隊を呼ばれてしまう。

 

「俺だけなら山に行けば良いんだけど……ん?」

 

 こちらにエンジン音が近付いて来た。マズい、この姿を見られたら間違い無く明日の朝刊の一面が『UMA発見か!?』で埋め尽くされてしまう。急いでこの場を離れないと……

 

「安心なさい、ショウイチ。あの子(・・・)なら大丈夫よ」

「あの子? 何を言っ、て……」

 

 そう言ってプリムの指差した先には、緑色のバイクがあった。しかし、アレは普通のバイクでは無い。何故ならば、あのバイクは独りでに(・・・・)動いているのだ。

 

 バイクはゆっくりと自分達の場所にやって来ると、ピタリと停止した。バイクには何の支えも無いのに自立している。

 

「これ、は……」

「『ギルスレイダー』。ギルスに覚醒した者の乗機に、ギルスの力が宿った存在よ。もっとも、バイクの子は初めてだけど」

 

 “ギルスの乗機”と言うか、“バイクの子”……? 

 

「これ、いや、コイツまさか……!」

「ええ、さっきロードに壊されたバイクよ。普通は勝手に動こうとはしないのだけど……ショウイチが心配だったのかしら?」

『――――――――!』

 

 ギルスレイダーはプリムの言葉に同意するかの如く、眼のようになっているウインカーを点滅させてエンジンを唸らせる。

 

「愛されてるじゃない……よっぽど大事に乗ってたのね」

 

 ……ヤバい、今凄い感動してる。何気に自分はコイツのように“自我を持ったロボット”とかに弱いのだ。タチ○マとかアナ○イザーとかゾ○ドとか。よし、早速撫でて……あ、駄目だ、腰抜けてて立てない。クソッ、こうなったら……

 

「……っとと……よし、成功」

 

 触手を使って立ち上がり、ギルスレイダーに近付く。取り敢えず、頭?(ハンドル)の部分を撫でてみる。

 

『―――――!―――――!』

 

 凄く喜んでるようだ。エンジンは荒ぶり、ウインカーはポリ○ンショックしそうな位点滅している。ヤバい、この子超カワイイ。

 

「――――ショウイチ、何時までも遊んでいるのは止めなさい。サッサと帰るわよ」

 

 振り向くと、口を尖らせたプリムが不機嫌そうにそう言ってきた。何を怒っているんだ……嫉妬か?

 

「いや、帰るって言ったって……俺は今こんな(・・・)だぞ?」

「変身を解けば良いじゃない。元の姿をイメージするだけよ」

「なるほど……おお、本当だ」

 

 自分の生身の身体をイメージして“解除”と念じた所、ギルスの姿が陽炎のように揺らいで消失し、自分の姿に戻れた。う~む、見た目がアレじゃなかったら完璧に仮面ライダーだな。

 

「……あれ!? ギルスレイダーが……」

 

 ギルスレイダーはウインカーを数回点滅させたかと思うと、元のバイクに戻った。なるほど、俺が変身を解くとギルスレイダーも元に戻るのか……と言うかバイク直ってるし。再生能力とか付いてるのか、便利だな。

 

 そう思いながらバイクに跨ろうとした瞬間、ぐらりと身体が揺れる。

 

「ヤバいまだ腰抜けてたああァァァ……」

 

 受け身も取れずに、無様に後頭部から地面に落ちた。凄く痛い。

 

「ぬぉおおおお……ッ!」

「フフッ、締まらないわねぇ……」

 

 頭を抑えたいが腕も上がらず。倒れた姿勢のままに悶える自分を、プリムはクスクスと笑いながら微笑ましく見ていた。

 

 

 

 

 ――これが、俺と彼女が出逢った日の出来事。俺の『仮面ライダー(少女の味方)』としての戦いの序章(プロローグ)――始まりの日(ビギンズデイ)だった。

 

 




>外神翔一
主人公。not ロリコン yetな超能力少年。
倒れてた少女を助けたら仮面ライダーにされた。
いきなりエクシードギルスに変身したが、スーツが残って無かったからとかそう言うメタい理由では無い。
実は色々と秘密があるっぽい。

>プリム・レディ
ヒロイン。雨が降り頻る山の中で倒れていた、Sっ気溢れる謎の幼痴女。
翔一君を仮面ライダーにした張本人。
ロード怪人に狙われていたり、色々と秘密があるっぽい。

>ギルスレイダー
ヒロインその2。大事に大事に乗ってくれていた翔一君の事が大好きなバイク系ヒロイン。
元の車種はイタリアンレッドのホンダ・VTR1000F、日本名:FIRE STORM。
作者は付喪神的な存在が大好きです。

>ロード怪人
赤タコ。原作『仮面ライダーアギト』において、我らが北條さんに赤っ恥をかかせた下手人。
幼女を殺すだけの簡単なお仕事に釣られて意気揚々と現場に向かったら、翔一君にハイクを詠む間も無くカイシャクされた。やはりアギトに瞬殺される程度の奴にエクシードギルスの相手は荷が重過ぎた。
正式名称はオクトパスロード:モリぺス・オクティぺスなのだが、どっからどう見ても赤いクトゥルーに見えるのは作者だけだろうか?
多分ロード怪人の中で1番弱いと思う。



はい、と言う訳で懲りずに新作投稿、初めての非転生系オリ主物です。
プロローグは切らない方が良いかなぁ、と思ったら過去最長文に……次回からは3,000文字位でいきます。

感想・評価、待ってます。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。