sideキリト
「へぇ…ユウキも片手剣か。これなら俺と同じだから、だいぶ教えやすいな」
俺たちはあの後、武器を買うために武器屋に行った。
ユウキに好きな武器を選ばせたところ片手剣を選んだので、これなら教えやすい…なんて考えていたこの時の俺は浅はかだった。
その後、ユウキの要望もあって初心者には少しキツめの狩場に来ていた。「ちょっと強めのモンスターと戦いたい」なんて言うから、ゴブリン辺りと少し戦えばまだ早いのがわかるだろう。と思っていたのだが…
キュイーン
「はぁあああ!!」
ズバァァン
パリィィン
今の音は、ユウキが
…そう。1撃でだ。ユウキはソードスキルのモーションに合わせて自分の体を動かしてスピードと威力をブーストし、かつクリティカルになるように弱点を狙った結果1撃で敵を倒す事に成功したのだ。
そんなことβテスターでも一部の人間しかできないと思っていたんだが…しかも今ユウキが見せたソードスキルの速度はかなりのものだった。
正直俺ですらかなうかどうか怪しい。そんな技術、どこで身につけたのだろうか…
「なぁ、ちょっt「おーい!そこの兄ちゃん!」…。まあ後でもいっか」
sideユウキ
流石にちょっとやり過ぎたかな…キリト思いっきり怪しんでるよ…。
まあ、それも仕方ないかな。ボクの要望で少しレベルが高めの狩場に連れてきてもらったけど、この世界の知識はともかく、ソードスキルならボクにはALOでの経験があるから、狩りはだいぶ楽に進んだ。
SAOのALO版アインクラッドとは違う部分に関するレクチャーをキリトにちょくちょくしてもらいつつモンスターを狩ること1時間とちょっと。ボクたちのレベルは5まで上がっていた。
「やっぱやり過ぎたよね…なんて説明すr「おーい!そこの兄ちゃん!」…。ま、後でもいっか!」
面倒なので後回しにする事にした。キリトを呼び止めてくれた誰かさんに感謝。
「おう、お連れの嬢ちゃんにも頼みてぇ事があるんだけどよ?その実力、あんたらβテスト経験者だろ?」
「ボクは違うよ?キリトはβテスターだけどね?」
「うっそマジかよ!ニュービーでもうこんなに強い奴がいんのか。まあそれならそれでも構わねぇんだけどよ。ああ、俺はクライン。よろしくな」
「ボクはユウキ。よろしくね、クライン!…って、クラインってまさか……あれ、この感じなんかデジャビュ…」
「俺はキリトだ。よろしくな。それでクライン、俺達に頼みってのは?」
「あ、ああそうだった。いや、俺実はフルダイブはSAOが初でよ。良ければ戦闘のコツなんかをちょこーっとレクチャーしてくんねーかなと思ってよ?」
そういえば、ALO時代にキリトが言ってた気がする。クラインが雑魚モンスター相手に苦戦していた時レクチャーしてあげたって。
「まあ、別に構わないけど。それにしても、そんなんでよくここまで来れたな。この辺は割とレベルが高めのモンスターが多い筈なんだが」
「あ、そうなのか?道理で苦労すると思ったぜ…。ログインしてからどこに行けばいいのかもわからずさまようこと30分。たまたま襲ってきたモンスターに追いかけ回されてるうちにそれ以上の時間が費やされて、気づいたらここにいるんだからよぉ…」
「あ、あははは。それは災難だったね…」
若干苦笑いのボク。
多分、ボクがキリトを連れ出さなければクラインがそんな目に合うことはなかった筈。始まりの街でキリトを見つけて、ボクが聞いた話のとおりにレクチャーを受けたんだろう。そう考えるとなんだか悪いことをしてしまったみたい。戦闘のコツを教えるくらいのことは無償でしてあげて当然かもしれない。
「じゃあ、クラインのレクチャーしながら狩りを続けようか。ユウキも、それでいいよな?」
「うん。ボクは問題ないよ。ただ、いきなりここでレクチャーしても大丈夫かな?」
ボク達がいるのは森の中で、上級者向けのレベル設定だ。クラインにレクチャーするにはちょっとキツイんじゃないかな?
「確かに、ドラ〇エでもスラ〇ム狩りを怠ったやつから死んでいくからなぁ…」
「俺らがパ〇ス役するから、なんとかなるって」
「じゃあ、ボクはビア〇カかな?」
「…いや、それは強過ぎるだろビ〇ンカ…」
「んじゃ、護衛もいる事だし早速戦闘開始と行こうじゃねーの!」
「おう!」「おー!」
そんな感じでボクたちの狩り兼レクチャーほ進んでいった…。
「ふっ!とぉりゃぁ!」
「「おおー」」
そろそろ日が傾いて来たかなーという頃。ちょっと休憩しよう?と提案すると、クラインが
「見てやがれキリト、ユウキ!」
なんて言い出すから何事かな?と思ったら、クラインもモンスターをソードスキルの1撃だけで倒していた。
レベルが上がっているとはいえ、クラインの上達ぶりには目を見張るものがあるよね。
「凄いな、クライン。もう並のβテスターじゃかなわないんじゃないか?」
「お、そうか?いや、そう言われると照れるぜ」
「まあ、それが確実にできたらね?」
「うぐっ!い、いやそう言われると…」
実はクライン、さっき成功させるまでに2回ほど失敗している。本人曰く、成功率は5分の1とのこと。
「まあ、弱点を狙うのは難しいからねー」
「ソードスキルのブーストの方は反復練習あるのみだな。ソードスキルの素振り1000本くらいやれば少しくらいマシになるんじゃないか?」
「こ、今度考えとくぜ。今度。そ、それより!休憩すんだろ!?」
「あ、逃げた」
「逃げたな」
「とりあえず、クラインの言うとおり休憩しよー」
「ああ…流石に3時間ぶっ続けでの戦闘はキツイもんがあるな…」
「お前ら俺が悪戦苦闘してる間も蜂だのゴブリンだの狩り続けてたもんなぁ。レベルもかなり上がったんじゃねぇか?」
「ボクは今8だね。キリトは?」
「俺も8だな」
「はっえーなぁ…俺なんてまだ4だぜ…」
「最初は苦戦してたしねー」
「ま、とにかく街の周りまで戻ろうか」
そんなこんなで街の周りの草原まで戻ってきたボクたち。綺麗な夕焼けが見えるので、そろそろいい時間のようだ。
近くでクラインがソードスキルの素振りをしているとキリトが語りかけた。
「ハマるだろ?」
「ああ。最高だぜ」
「だよな」
「そういや、スキルって武器作ったりとかいろいろあんだろ?」
「そうみたいだねー。鍛冶だけじゃなくて、料理に釣り、裁縫なんてモノもあるみたいだよ?」
「その代わり、魔法は無いけどな」
「RPGで魔法無しなんざ、大胆な設定だぜ」
「自分で体を動かして戦った方が楽しいだろ?」
「だよね!ボクもそう思う!」
ALOでは魔法はあったけど、あまり使わなかったからね。もしALOで魔法主体で戦っていたら、ボクは
「この世界は、コイツ一本でどこまでも上って行けるんだ」
ボクも自分の剣を腰から抜き放つ。
「仮想空間なのにさ。現実世界よりも、『生きてる』って感じがするんだ…」
「…そうだね。ボクもそんな気がする」
気がすると言うより、前の世界では仮想世界がボクの全てだったと言っても過言じゃなかったくらいだ。今でこそそんなことないけれど、当時は仮想世界じゃないと何も出来なかったからね。
なんてしんみりしていたのだが。
ぐうぅぅ〜
「あっはは、わり、腹減っちまってよ?」
「こっちの飯は空腹感が紛れるだけだからな」
「5時半に熱々のピザを注文済みよ!」
「用意周到だね。クライン」
「ま、食ったらすぐログインするけどな。そうだ、この後他のゲームで知り合った奴等と会う約束してんだ。どうだ?そいつらともフレンド登録しねぇか?」
「い、いや、俺は…」
キリトはいきなりの誘いに戸惑っている。前にキリトは自分の事をコミュ障だ、なんて言ってて、その時のボクは、そんなことない!と思っていたけど…こういうところを見るとSAOでだいぶ改善されたんだなぁ…って思う。
「いや、無理にとは言わねぇよ。都合ってもんがあるしな。それに、いつか紹介する機会もあんだろ」
クライン…こんなにいい人だったんだね…ALOでたくさん蹴っ飛ばしてゴメンよ…
「ユウキはどうする?」
「んー、ボクもまた今度、かな?」
「そうか。わかった」
「悪いな、ありがとう」
「おいおい、そりゃこっちの台詞だぜ。いろいろ教えてくれてありがとな。このお礼は必ずするぜ?精神的にな」
「期待しないで待ってるよ」
「楽しみにしてるね!」
そう言いながら、ボクとキリトはそれぞれクラインと握手をする。
「マジ、サンキューな。これからもよろしく頼むぜ」
「うん!戦闘に関してわからないことがあったらいつでもメッセージ飛ばしてよ?」
「情報に関しては俺に聞いてくれ。βテスターだからな。美味い狩場とかクエストとか、教えるぜ」
「ああ。ガンガン頼らせてもらうぜ!…っと、さて。そろそろピザを食いに行くとするか。…ああ、腹へったぁ…」
「ハハハ。またなクライン」
そうボヤくクライン。だけどクラインの希望は叶わない筈だ。おそらく…
「あ、あれ?ログアウトボタンが無ぇ…」
「よく見てみろよ。メニューの一番下にあるだろ?」
「それがねぇんだよ。ほんとに」
「そんな筈………ホントだ」
やっぱり。ボクも一応確認してみるが、やっぱりログアウトのボタンは消失していた。
無駄になると分かっていてもボクは提案してみる。
「GMコールは試した?」
「いや、さっきから試してんだけどよ?反応ねぇんだよ」
「…おかしいな」
「バグかなんかか?今頃運営は半泣きだろうな」
「いや…これはおかしい。ログアウトボタンが消えるなんて、今後のゲームの信用に関わる。こんなの、一度サーバーの電源を落として強制ログアウトさせればいいのに、アナウンスすら無いなんて…」
「確かにそうだな。でもよ。他にログアウトする方法はねぇのか?」
ボクとキリトは口をそろえて言う。
「「無い」」
「メニューの操作以外のログアウト方法は、存在しないんだ」
「マニュアルにも、緊急切断方法は乗ってなかった」
「じ、じゃあよ?頭からナーヴギアを外しちまえばいいんじゃねえのか?」
クラインがナーヴギアを頭から外そうともがいているが、それも無駄だ。むしろ今ナーヴギアを外してしまうと、ボクたちの命は無いだろう。
「無理だよクライン。脳から体に伝わる信号は、全てナーヴギアがココでカットしている」
「そんなぁ…他に方法はねぇのかよ…」
「現実世界の俺達から誰かがナーヴギアを取り外してくれれば、脱出は可能だが…」
「俺一人暮らしだぜ」
「俺は親と妹がいる。夕飯の時間になれば呼びに来るとは思う「キリト妹さんがいるのか!いくつ?」や、あいつ体育会系だし、ゲーム嫌いだし、俺達みたいな人種と接点無いって…」
妹って事はリーファかな?懐かしいなぁ…リーファに会いに行くためにも、頑張って生き残らないとね。
それにしても、キリトの妹には反応するのに、ボクには何もコメントはないのかな…女としてちょっと負けた気分。
「ボクも親とお姉ちゃんがいるけど、外されることは無いかなぁ」
ここに来る前に、外さないでね?って言っちゃったし。って言うか、外されたら死んじゃうし…
その時、この世界全体に響くような、大きな鐘の音が鳴り響いた。
リンゴーン…リンゴーン…
「うわっ!?」
「キリト!?ってうわっ!?ボクも!?」
「なんだこれ!?」
鐘が鳴ると同時に青い転移光に包まれたボクたち。目を開けると、そこにははじまりの街の風景が広がっていた。
「っつ…ここは…?」
「はじまりの街…みてぇだな」
「みんなここに転移させられてるみたいだね」
「なんだ?ようやくアナウンスでもあんのか?」
「いや、それは違うと思う…」
ボクの予想が正しければ、多分…
「あ!おい!あれを見ろ!」
遠くで誰かの声が上がる。
ボクたち3人も、その声に従って上を見上げると、そこにはWARNING!の文字と赤色…血のような赤で埋め尽くされた空と、そこから現れた巨大なローブ姿のアバターが鎮座していた。
そのアバターは広場のボクたちを…恐らく1万人いるであろうプレイヤーを睥睨すると、そう告げた。
「プレイヤーの諸君、私の世界へようこそ。私の名前は茅場晶彦、今やこの世界をコントロール出来る唯一の人間だ。」
キリトとクラインの会話は、なるべく原作orアニメを思い出しながら書いたのですが、思ったより自分の記憶って当てにならない…