ばいにんっ 咲-Saki-   作:磯 

35 / 45
22.ばいにんテール(十一)

22.ばいにんテール(十一)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:31

 

 

 南三局0本場

 【西家】花田 煌  :16400

     チップ:-5

 【北家】宮永 照  :27300

     チップ:-3

 【東家】須賀 京太郎:32700<割れ目>

     チップ:-6

 【南家】宮永 咲  :23600

     チップ:+14

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

 石戸月子は脱力してソファに腰掛け、天井を黙視する。最前繰り広げられた宮永照と宮永咲の遣り取りに思いをはせる。

 

(あの{一}を、捉えなかったのは――)

 

 結果的に大失点に繋がった照の和了見逃しについて、今度ばかりは何故とは問わなかった。

 

(それが、宮永さんのルールだったから?)

 

 月子は照の人柄についてあまり多くを知らない。けれども仮令血縁だろうと対手に対してあからさまな施しを掛けるような少女だとは思えなかった。手心は感情の所産である。たとえば傲慢や憐憫が照の口を噤ませた可能性もある。しかし卓上の照に、そんな微温的な振る舞いは似つかわしくない。彼女に情動がないというのではない。単純にあまりに方向性が違うというだけである。仮に照に咲から和了る気がなかったのであれば、そもそも立直を掛けることも、和了を重ねることもなかったはずである。

 

 たとえば月子は、自分の自摸筋では和了できない。その宿痾(しゅくあ)について、論理的に懐疑を連ねると腑に落ちない点は山ほどある。牌は機械が、あるいは人の手が積む。積まれた山に意思は介在しないし、時おりしたとしてもそれは絶対ではない。また山が積まれた時点で、賽はまだ振られていない。月子が摘む(トン)も引くべき自摸も定まっていない。そのうえで必ず特定個人の自摸和了が禁じられるというのであれば、月子はある種の理不尽を認知せざるを得ない。

 

(この世の中には、なにかすごいものがいて、それは、誰かや何かを名指しで選んでるっていうのなら)

 

 月子自身は、その恩恵と不遇の双方に浴している。そのことについて明確な意見を、彼女は持っていない。容姿や環境と同様に、最初から具わっていた要素に対して月子が肯定や否定を感じることはない。

 ただし、彼女はやはり生来的な天邪鬼でもある。

 

(その鼻を明かしてやりたいって気持ちは、すごくよくわかる)

 

 月子は京太郎を見る。

 じきに最初の半荘が終わる。

 長丁場を前提にしたこの鉄火場で、かれが純粋に己の運と力量を照に対して問える半荘は、これが最後になることを、月子は知っている。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 配牌

 京太郎:{二四五七九九①②④[⑤]6東南西}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 配牌

 咲:{一二三[五]八⑧⑨⑨15東西中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 配牌

 花田:{六六六七②④37788東南}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 配牌

 照:{四五六七八⑦3456白發中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

 長い南二局が終わり、四家に南三局の配牌が行き渡った。割れ目は親番でもある京太郎だった。くしくも東三局と同じ構図が成立したわけである。

 

 今局、比較的速い脚を与えられたのは宮永照、そして花田煌であった。ふたりを追う形の咲と京太郎については、牌勢がよろしくない。先の照への放銃が祟り、ここに至って一人沈みである花田にとっては、是が非でも打点が欲しい状況である。

 

 ――もっとも周囲三家も、それは十分に心得ている。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 1巡目

 京太郎:{二四五七九九①②④[⑤]6東南西}

 

(きつい状況だけど)

 

 咲による照からの直撃取りによって、かろうじてトップに返り咲いた京太郎にとっては、リスクあるこの局を和了り切ることが最善である。軽い手による点数の横移動によって親を蹴られることが次善である。そして最悪は、放銃か自摸被りによるトップ転落である。

 僥倖に次ぐ僥倖が守らせたかれのトップは、薄氷のうえに成立している。

 

 二位に転落した照と京太郎(トップ)の点差は5400――割れ目により打点が容易く向上するこの半荘戦においては、リードともいえないリードである。

 ――()()()()()

 

(信じられねえラッキーだが――さっきの放銃のせいで、照さんはほとんど死に体だ)

 

 照の打ち筋でもっとも避けるべきは終盤、しかも親番がない状態で点差のある上位者を作らないことであった。彼女は小さく打点を刻む。階段を上るように和了を束ねる。そう()()()()のかそう()()()()()()()()()のかは京太郎の与り知るところではない。単純に、照がこれまでと同じ打ち方を続けるならばもう彼女に勝ちの目は薄いというだけの話である。

 

(まァ、それで終わるようなカワイゲのあるひとじゃ、絶対ねえだろうけどよ)

 

 もちろん、照への警戒を解いていいはずもない。差込など論外だった。照の打ち筋の傾向などしょせん京太郎が仮定に仮定を積み重ねたものでしかない。

 

(1翻と、決めて掛かってぶざまにぶっぱなしてラス転落とかまぬけすぎる)

 

 打:{西}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:33

 

 

(取れた)

 

 咲の中で火が熾きた。

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 1巡目

 咲:{一二三[五]八⑧⑨⑨15東西中} ツモ:{2}

 

(お姉ちゃんから――取れたんだ)

 

 回路が接続されたような心地だった。灯った篝火は見る間に不可視だった領域を照らし出す。対面に座る照の顔が、いまは確りと見えた。

 目線が交わる。

 逸らす必要はない。

 

(まだとおい。けど、でも、もしかしたら、わたし――)

 

 打:{西}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 1巡目

 花田:{六六六七②④37788東南} ツモ:{9}

 

(3着までは7200。2着までは10900――で、1着までは16300。今局は親の須賀くんが割れ目なので、3着への浮上条件は3900以上の直撃か、1300・2600(イチサンニンロク)の自摸和了。2着までなら6400以上の直撃か満貫自摸――ていうか、満ツモなら実質跳ツモなので総マクりかー)

 

 自摸った牌をよそにして、捨て牌を選ぶ素振りで花田は方針を整理する。手成りで牌を編んで浮上できる局面では、すでにない。南三局および南四局(オーラス)を残し、いまの花田に与えられた選択肢は二つである。

 

(踏み込むか、引くか――)

 

 打:{東}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 1巡目

 照:{四五六七八⑦3456白發中} ツモ:{⑥}

 

(南三局。二着。親番はもうない)

 

 失着を経て親番を逃がした。磐石のトップ目を真正面から切り崩された。麻雀に流れを見出すのなら、照の態勢は芳しいとはいえない。

 

京太郎(トップ)との差は5400)

 

 けれども、照の胸中に焦りや悔いは皆無だった。先刻の放銃は彼女が思う摸打を貫いた結果である。一度裏目を引いたからといって、打ち筋を変えるなどという選択肢は浮かばない。裏打ちの有無という深刻な差異があったとしても、その点において照の方針はデジタルと何ら変わりはなかった。

 

(ぎりぎりの場況)

 

 感覚を鋭く細く尖らせて、彼女は河へ牌を切り出す。

 

 打:{中}

 

(負ける気はまるでしない)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 2巡目

 京太郎:{二四五七九九①②④[⑤]6東南} ツモ:{1}

 

(塔子が弱い――)

 

 打:{東}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 2巡目

 咲:{一二三[五]八⑧⑨⑨125東中} ツモ:{北}

 

{北}(ドラ)

 

 打:{東}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 2巡目

 花田:{六六六七②④377889南} ツモ:{9}

 

(ひと役、確定――)

 

 打:{南}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 2巡目

 照:{四五六七八⑥⑦3456白發} ツモ:{四}

 

 打:{發}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 3巡目

 京太郎:{二四五七九九①②④[⑤]16南} ツモ:{9}

 

(――)

 

 打:{9}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 3巡目

 咲:{一二三[五]八⑧⑨⑨125北中} ツモ:{3}

 

 打:{中}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 3巡目

 花田:{六六六七②④3778899} ツモ:{3}

 

(――ん? て、聴牌しちゃったんですけど……)

 

 予想外の自摸の効きに、花田は瞬時動作を滞らせた。

 

(……曲げるのはなし)

 

 打:{七}

 

 当然聴牌は取りつつ、花田は(ダマ)を択んだ。つまりは当面、嵌{③}による和了を放棄した。むろん、平場であれば是非もなく立直の一手である。一局あたりの収支を考慮しても、ここで牌を曲げない選択は愚策に分類される。

 とはいえ、花田には花田なりの思惑があった。

 

(一発はまあともかく、この牌姿――対子形ばっかりだし、ウラ期待はちょと分がワルい。となるとリーチイーペーで2600か、ツモっても1000・2000プラス須賀くんからもう2000――ラス親をちょびっとまくって3着浮上じゃぜんぜん安心できない。1種しかない良形変化期待とか月子さんには確実にディスられちゃうけど、……リーチ打つならせめて{赤⑤}引いて5200以上を確定させたい。――ふぅ)

 

 心を澄ませて、彼女は居住まいを正した。

 

(願わくば、やっぱりリーチしておけばよかったなんてことに、なりませんように!)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 3巡目

 照:{四四五六七八⑥⑦3456白} ツモ:{一}

 

 打:{一}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:34

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 4巡目

 京太郎:{二四五七九九①②④[⑤]16南} ツモ:{③}

 

(急所が入った)

 

 打:{1}

 

(でも、また、遠い)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:35

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 4巡目

 咲:{一二三[五]八⑧⑨⑨1235北} ツモ:{2}

 

(ここで、もいっこアガっておきたい……)

 

 打:{八}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:35

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 4巡目

 花田:{六六六②④33778899} ツモ:{②}

 

(打{六}?――七対への張替えも、ありといえばアリ。何より{北}(ドラ)の受けが嬉しい。ただ、縦の変化もまだあるんだから、ここでのすばらな一打は……聴牌を取りつつ、)

 

 打:{④}

 

(これで!)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:35

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 4巡目

 照:{四四五六七八⑥⑦3456白} ツモ:{2}

 

 照の眼が、山河を見晴らした。

 

「……」

 

 打:{白}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:35

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 5巡目

 京太郎:{二四五七九九①②③④[⑤]6南} ツモ:{南}

 

(一枚切れだけど……重なってくれたか)

 

 打:{二}

 

(これで2向聴――この巡目なら、悪くは……ねえはずだ)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:35

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 5巡目

 咲:{一二三[五]⑧⑨⑨12235北} ツモ:{北}

 

 打:{2}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:35

 

 

(――そう)

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 5巡目

 花田:{六六六②②33778899} ツモ:{9}

 

({赤五赤⑤24赤5北}あたりがいちばん嬉しかったけど、そりゃあ、こういうこともある――)

 

 5巡目、場の誰より早く聴牌を入れた花田の手牌が、大きな岐路を迎えた。

 ここで手の内に{9}を留めるということは、聴牌を崩し受け入れが広いとはいえない1向聴に受けるということである。

 

(打牌候補は{②378}のどれか)

 

 山から牌を引き、河の手前に引くまでの一瞬間のことだった。

 盲牌をした時点で、花田は半ば聴牌を崩すことを心に決めている。

 

(有効牌の残り枚数がすくないっていっても、{78}の並びシャボは見切れない。から、{②3}のどっちか。この牌姿で好形候補とかいっててもしょうがない……ん、で、す、け、どぉ――)

 

 京太郎

 河:{西東91二}

 

 咲

 河:{西東中八2}

 

 花田

 河:{東南七④}

 

 照

 河:{中發一白}

 

 花田は河を注視する。巡目はまだ浅い。山を推し測れるほどの情報は出揃っていない。各人はまだ不要牌整理の半ばにあるように見える。花田は間違いなく馬群から抜けている。ただしそれが真っ直ぐ和了に結びつく保証はない。

 

(でもいくっ)

 

 打:{3}

 

 果断さこそ、いまの花田に求められているものだった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 5巡目

 照:{四四五六七八⑥⑦23456} ツモ:{1}

 

「……」

 

 打:{五}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

「{八}じゃないんだ」聴牌を入れた月子の打牌を見、月子が呟いた。「三色なんかはもう見切ったってことなんでしょうけど、それにしても露骨じゃない?」

「……あれは、たぶん」と、池田がいった。「リー棒の代わりだ」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 6巡目

 京太郎:{四五七九九①②③④[⑤]6南南} ツモ:{三}

 

 上家()の打{五}は、変哲のない河の並びの中で一際目立って京太郎の注意を引いた。もちろんかれの少ない経験則は、これまでと同様に警鐘を鳴り響かせる。ただしかれの手に照の現物は{五}一枚きりだった。そしてここであるかどうかもわからない聴牌を警戒して面子を崩すというのならば、それはこの局をオリ切ることと同義である。

 

(手は間違いなく進んでる。問題は聴牌かどうかだ――そんなのは決まりきったことだ。おれが考えなくちゃいけないのは、その手前のことだ。どうする? オリるか? 進むか?)

 

 放銃したところで、照の打点は恐らく低い。しかしその推測にほんとうの意味での根拠はない。

 

(真っ直ぐ1向聴を取るなら{6}を打って{八九③⑥南}でかまえる。それなら零れる牌は{七九}のどっちか。マタギや裏筋なんか関係ねえ――何があたるかなんかどうせわかんねんだ。けっきょく、大事なのは無筋をふたつ通して聴牌を取る価値がこの局面にあるかどうかだ)

 

 京太郎は、かすかに眉をゆがめた。

 

(遅いんだよ――いまごろそんなこと考えてどうするんだ。なんとなくで手を進めてるんじゃねえんだ。びびって引くなら、安全牌もっと溜めとけって話だろう)

 

 かれの脳裏を掠めるのは、前局の咲の姿だった。

 照の立直に真正面から切り込んだ。あげくに勝ちを得た。勇ましいとはとてもいえない少女が、見せた意気は少しならず京太郎の胸を打った。けれどもあらゆる牌を突っ張ろうと思えるほど、京太郎は感情的にはなれない。かれの頭の中には常に醒めた視点が存在して、安易な没入を許さない。

 

(でも麻雀は、)

 

 京太郎は、そして、

 

(攻めなきゃ、勝てない)

 

 打:{6}

 

 真っ直ぐに打った。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 6巡目

 咲:{一二三[五]⑧⑨⑨1235北北} ツモ:{⑨}

 

({⑧}がこぼれちゃう……のは……)

 

 打:{赤五}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

「――!」

 

 その自摸に、花田は明らかな手ごたえを感じた。

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 6巡目

 花田:{六六六②②37788999} ツモ:{②}

 

(す――ばらァ!)

 

 打:{3}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

「すごい……この巡目で」

 

 月子が花田の牌勢に息を呑んだ。

 {6789}待ち――すでに{9}は枯れているが、仮に{78}を自力で自摸ったならばいうまでもなく役満である。

 

「{78}は……」

「残り四枚全部山に丸生きだ」池田が後を引き取った。「じゅうぶんありえるし……もしも自摸ったなら、完全に決定打になる」

「でも、立直はしてない」

「そうだね。そこはへんだ」池田が首をかしげた。「直前に須賀が処理したド安めの{6}じゃ出和了りできない。自摸ったらどうする気かな」

「そのときはたぶん、打{7}で赤期待の三暗刻確定で立直を打つ気でしょう。二枚使いだけど、まあ悪くはない待ちよ」

「先に{赤5}引いたら?」

「ツモ切りに決まってるわ」

「うーん」苦笑で応じる池田だった。「それはさすがに、欲張りすぎだとおもう」

「でも、そうでもしなければ、勝ち目は薄い」

「たしかに」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

 6巡目――

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 6巡目

 照:{四四六七八⑥⑦123456} ツモ:{北}

 

 引いた生牌の{北}(ドラ)を、

 

 打:{北}

 

 照は躊躇なく叩き切った。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 7巡目

 京太郎:{三四五七九九①②③④[⑤]南南} ツモ:{二}

 

(打{九}の両嵌受け?――は、{南}を引いたときに一手遅れる)

 

 打:{五}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:36

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 7巡目

 咲:{一二三⑧⑨⑨⑨1235北北} ツモ:{4}

 

(テンパイ――{6}は嶺上にある。{⑨}も次の次にひく。けど、{⑧}が、でちゃう、でちゃうよ……)

 

 京太郎

 河:{西東91二6}

   {五}

 

 咲

 河:{西東中八2[五]}

 

 花田

 河:{東南七④33}

 

 照

 河:{中發一白五北}

 

 

「…………っ」

 

 咲:{一二三} ({⑧}){⑨⑨⑨12345北北}

 

 刹那だけ迷いを見せた後、咲は小さく息を吐いた。

 

 打:{北}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

(上家のひとが回った)

 

 花田は目ざとく、咲の迷いを見咎めていた。切り出しに明らかな躊躇があった。そうして摘まれたのは{北}(ドラ)である。

 恐らくは照か花田に対するケアだった。

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 7巡目

 花田:{六六六②②②7788999} ツモ:{發}

 

(出るのか、どうか――)

 

 打:{發}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 7巡目

 照:{四四六七八⑥⑦123456} ツモ:{7}

 

「――」

 

 打:{1}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

({1}手出し? あの位置からして、引いたのも索子か? 打てない牌を抑えたのか、それともたんなる張替え?)

 

 迷いは尽きない。推察は決して完全には機能しない。相当の確度で見込んだ読みが、ものの見事に外れることもある。

 けれども、考えることを止めることはできない。

 

(あぁ、ちくしょう)

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 8巡目

 京太郎:{二三四七九九①②③④[⑤]南南} ツモ:{白}

 

(通れ――)

 

 打:{白}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 8巡目

 咲:{一二三⑧⑨⑨⑨12345北} ツモ:{九}

 

 打:{北}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

(ドラの対子落とし――ふつうなら、オリたと見るところだけど)

 

 上家の動向に、花田も注意を払わざるを得ない。咲が見せた異形の和了は、それほどに鮮烈だった。員数外と見なした次の瞬間に、頭を跨がれ追い抜かれる可能性も十分にある。

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 8巡目

 花田:{六六六②②②7788999} ツモ:{4}

 

(危険牌?)

 

 花田の思考が火花を散らした。

 

(前巡切れてる以上{14}はない。あたるなら{35}か{44}か{56}――でなければ{4}タンキ。その待ちを、ないって言えるだけの材料はないけど……)

 

 願望と読みが、花田の心理でない交ぜになる。確度が低い推量を支持したがるとき、結局心理は押すことを選んでいる。花田もそれはじゅうぶん理解している。だからこそ彼女は『切っても良い理由』を集めている。

 

(いける。気がする)

 

 そして、確信もなく牌を打つ。

 

 打:{4}

 

 ――通る。

 

 それはたんなる幸運であって、技術や統計、感覚の優秀さを示すものではない。

 

 ()()なら。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 8巡目

 照:{四四六七八⑥⑦234567} ツモ:{四}

 

「――」

 

 打:{⑦}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 9巡目

 京太郎:{二三四七九九①②③④[⑤]南南} ツモ:{南}

 

(これ見よがしな{⑦}――)

 

 京太郎は、醒めた目で照が放った牌を見下ろした。

 

 打:{七}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:37

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 9巡目

 咲:{一二三九⑧⑨⑨⑨12345} ツモ:{⑨}

 

(あと……すこしっ)

 

 打:{九}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 9巡目

 花田:{六六六②②②7788999} ツモ:{北}

 

(3巡自摸切り――)

 

 打:{北}

 

(――じょうとぉ!)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 9巡目

 照:{四四四六七八⑥234567} ツモ:{七}

 

「……」

 

 打:{七}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 10巡目

 京太郎:{二三四九九①②③④[⑤]南南南} ツモ:{白}

 

「……」

 

 打:{白}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 10巡目

 咲:{一二三⑧⑨⑨⑨⑨12345} ツモ:{白}

 

 打:{白}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

 そして、そのときがきた。

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 10巡目

 花田:{六六六②②②7788999} ツモ:{⑥}

 

({⑥}――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

 あっと、月子は気の抜けた声を漏らしかけて、慌てて口元を抑えた。傍らの池田は黙して目を細めていた。{⑥}は京太郎と照の中り牌である。頭跳ねアリのこの半荘においては、つまり照の和了となる。前々巡の不可解なタンキへの受け替えは、まさにこのためかと思ってしまうほどに作為的なタイミングだった。

 

(あれは)

 

 と、月子は思った。

 

(とうてい止まらないし、止めるべきでもない。出る――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

()()()()()

 

 と、花田は思う。

 転瞬、彼女は、

 

 打:{9}

 

 と、いった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

「……すごいな」池田が目を瞠った。「あれは、あたしも止まんないなァ」

「まじでえぇえぇ……」月子は語調が崩れるほど驚いた。「んな、あほな。ていうか、だめでしょう、それは。押していい打点でしょう。勝てない麻雀じゃない……」

「でも、つっきーはきらめんに勝ち越せてない」

「うん」

 

 それを言われると、ぐうの音も出ない月子だった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

(通せる理由が、ひとつでもあれば打つ。けど、でも)

 

 役満を崩した花田煌は、ほんの少しの未練を滲ませて、河の{9}に別れを告げた。

 

(この場況――{③⑥}が通る絵が、ぜんぜん見えない。そんな牌を打つのは、すばらくない)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:38

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 10巡目

 照:{四四四六七八⑥234567} ツモ:{發}

 

 打:{發}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 11巡目

 京太郎:{二三四九九①②③④[⑤]南南南} ツモ:{⑦}

 

(カスった)

 

 打:{⑦}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 11巡目

 咲:{一二三⑧⑨⑨⑨⑨12345} ツモ:{三}

 

(いまなら、{⑧}は通るかな? でも……)

 

 打:{三}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 11巡目

 花田:{六六六②②②⑥778899} ツモ:{③}

 

(ですよねえ……)

 

 苦笑と共に、花田は手を壊した。

 

 打:{②}

 

(ただ、諦める気はぜんっぜんありませんけどっ)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 11巡目

 照:{四四四六七八⑥234567} ツモ:{8}

 

 打:{5}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 12巡目

 京太郎:{二三四九九①②③④[⑤]南南南} ツモ:{西}

 

 打:{西}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 12巡目

 咲:{一二三⑧⑨⑨⑨⑨12345} ツモ:{④}

 

({⑧}――{⑧}さえ、つもればっ……)

 

 打:{④}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 12巡目

 花田:{六六六②②③⑥778899} ツモ:{⑥}

 

(おおぉ……集まる集まる)

 

 打:{六}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

「どーして三枚使いで生牌の{六}はアッサリ切れるのかしら……」心底腑に落ちない様子で、月子がいった。

「{三九}がわりと最近通ってるからじゃない? {五}が場に三枚見えてるし{一四六九}あたりも相当危険度高いんだけどねぇ……」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 12巡目

 照:{四四四六七八⑥234678} ツモ:{東}

 

 打:{東}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 13巡目

 京太郎:{二三四九九①②③④[⑤]南南南} ツモ:{九}

 

(……{九})

 

 京太郎

 河:{西東91二6}

   {五白七白⑦西}

 

 咲

 河:{西東中八2[五]}

   {北北九白三④}

 

 花田

 河:{東南七④33}

   {發4北9②六}

 

 照

 河:{中發一白五北}

   {1⑦七發5東}

 

(出そうにない{③⑥}を見切って、{①④}か{②⑤}ノベタンへの受け替えは……あるか? ただそうすると、出て行くのは{①}か{赤⑤}……どっちも生牌だ)

 

 京太郎は答えの出ない問いを投げる。

 河を凝視する。

 

({①④}か{②⑤}か――{③⑥}か――)

 

 そして、かれは、そのどれをも、選ばなかった。

 

「――――」

 

 打:{②}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

(えっ……{②}……?)

 

 上家(京太郎)の打牌に、咲は眉をひそめた。腑に落ちない空気を感じた。

 東三局の終盤にも似た、意識の間隙を縫うような違和感である。

 

({②}――)

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 13巡目

 咲:{一二三⑧⑨⑨⑨⑨12345} ツモ:{⑤}

 

(……)

 

 打:{1}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

(この局面で、長いこと触っていなかった面子から抜き打った手出しの{②})

 

 花田もまた、京太郎の打{②}に言い知れぬ違和感を覚えていた。

 

(牌を打つ前の小考と、河を見晴らした()()()

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 13巡目

 花田:{六六②②③⑥⑥778899} ツモ:{①}

 

(わたしの{②}手出しを受けての合わせ打ちとすれば――須賀くんなら、たとえば)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

(11巡目のあの落とし方――{②}は花田さんの手で暗刻だったはずだ。4巡目に{④}を手出しして、6巡目に入れた牌、つまり{②}を11巡目に打った。手元に{②}がある状態であの浅い巡目に{④}を見切るとしたら、形は{②②④}か{②②②④}からの打{④}だ。{①②③④}ってこともあるにはあるけど、赤の受けを見切るにはまだ早い。だから、)

 

 京太郎は息を潜める。

 

(おれの読みが正しければ、花田さんにだけは、場に出てない{①}がわりと安全であることがわかるはずだ。オリにきゅうきゅうとしてるいまなら、出る――)

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

(この後半まで須賀くんが{②}を持っていたからには、まちがいなく面子に絡んでいたはず。そして聴牌もいまじゃない。あえて{②}を抜いたからには、よっぽど山に生きてるっていう自信があるか、誰かから――たとえばわたしから出ると踏んだんでしょう。ちょっと信じられないけど、わたしの手に{②}がまだ二枚いると見て、わざと壁を作って見せたり、とか。そのためにわざわざ両面やノベタンを崩したり、とか……)

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 13巡目

 花田:{六六①②②③⑥⑥778899}

 

 花田は、己が手牌を見下ろした。

 

(その条件にあう牌は、いましがた引いた{①}(コレ)しかない)

 

 京太郎

 河:{西東91二6}

   {五白七白⑦西}

   {②}

 

 咲

 河:{西東中八2[五]}

   {北北九白三④}

   {1}

 

 花田

 河:{東南七④33}

   {發4北9②六}

 

 照

 河:{中發一白五北}

   {1⑦七發5東}

 

(ナルホド)

 

 と、花田は思う。

 

 河:

       {⑦}

   {②}

 

 河:

        {④}

 

 

 河:   {④}

       {②}

 

 河:

    {⑦}

 

 

(たしかに、筒子の下が()()――)

 

 花田:{六六①②②③⑥⑥778899}

 

(でも、それでわたしが{①}打つっていうのは、ちょっとなめすぎですよ、須賀くん)

 

 彼女は牌を打ち、

 

 打:{③}

 

 そして、曲げた。

 

「立直です」

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 13巡目

 照:{四四四六七八⑥234678} ツモ:{4}

 

「……」

 

 打:{六}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:39

 

 

({③}切っての立直かよ――出るのかよ。くそ、完全に裏目った)

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 14巡目

 京太郎:{二三四九九九①③④[⑤]南南南} ツモ:{赤5}

 

(――)

 

 かれは歯噛みすると、

 

 打:{③}

 

 花田の立直宣言牌に合わせ打った。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:40

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 14巡目

 咲:{一二三⑤⑧⑨⑨⑨⑨2345} ツモ:{6}

 

(――むぐっ)

 

 打:{4}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:40

 

 

「ポン」

 

 と、照が鳴いた。

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 14巡目

 照:{四四四七八⑥23678} ポン:{4横44}

 

 打:{七}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:40

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 15巡目

 京太郎:{二三四九九九①④[⑤]赤5南南南} ツモ:{中}

 

(未練は――ぜったい、禁物だ)

 

 打:{南}

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:40

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 15巡目

 咲:{一二三⑤⑧⑨⑨⑨⑨2356} ツモ:{③}

 

「……ううっ」

 

 咲は若干べそをかきながら、

 

 打:{③}

 

 と、いった。

 

 

 ▽ 12月30日(月曜日) 長野県・駒ヶ根市・トーワマンション701号室/ 08:40

 

 

 南三局0本場 ドラ:{北}(ドラ表示牌:{西})

 14巡目

 花田:{六六①②②⑥⑥778899}

 

 ツモ:{①}

 

「――ツモ」

 

 大きくため息を吐いて、花田は手牌を倒した。

 

「あら。すばら――く、ない。裏は乗らずで、1600・3200です」

 

 

 【西家】花田 煌  :16400→26000(+9600)

     チップ:-5

 【北家】宮永 照  :27300→25700(-1600)

     チップ:-3

 【東家】須賀 京太郎:32700→26300(-6400)<割れ目>

     チップ:-6

 【南家】宮永 咲  :23600→22000(-1600)

     チップ:+14

 

「{①}――待ち、か」

 

 やや呆然と、京太郎が呟いた。

 

「ええ。{①}です」

 

 和了形に目を見開く京太郎へウインクを飛ばして見せてから、花田はほがらかにうたった。

 

「さあ! オーラスですよ!」

 


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